閑話休題「坂崎紋次郎のユーウツ」③
魔神相手に成す術ないダンナの背中を、指を咥えてみてるしかなかったあの日の屈辱……某も忘れちゃいないっす!
何よりもダンナの敵は某の敵! もう、ロアの奴は某の絶対殺すリストのトップっす!
「おーけー! ダンナ……某、すべて把握! こっちの世界のことは某に任せて、カスマの野郎を討ち取ってきてくだされ! もしも、ロアの野郎が出たら、某が華麗に推参して、野郎のイケメンフェイスを摩り下ろしにして、二度と見れないグロフェイスにしてやるっす!」
まぁ、それくらいのことは高倉のダンナもやってたみたいなんすけどね!
あの温厚なダンナがついカッとなってそこまでやっちまう! ロアってのは、そんな感じの奴みたいっす。
うん、殺ろう……それも徹底的にっ! 不死身って話っすけど、生き返るのが嫌になるくらいには、徹底的に殺ってやるっす!
「う、うんっ! いやぁ、珍しくやる気だね! でも、君がそう言ってくれるなら、僕としては心置きなく戦えるな」
「任せてくださいよ! ダンナ! ジャリテルム様、ロアが動けば気配でわかるって言ってたっすよね? どうっすか、今の時点であれの気配って感じますかな?」
「んぁ……ロアの気……配……? 誰だったかな、そいつ……ふぁああ……ねむたくていかんなぁ」
「ボケてんじゃありませんよ……。おばあちゃん……某、真面目に聞いてんですから、真面目にはよお答えくださいな。某が笑顔でいるうちに……ねっ!」
「……も、モンジロー……圧が強いっ! 解った! 解った……いいか? 今はこの世界の何処にもロアの奴はおらん……そこは断言できる」
「それは消滅したか、休眠中ってことっすか?」
「あれが跡形もなく消えてくれるような可愛げのある存在だったら、我らも苦労はしておらんよ。アレの面倒なところは、人の魂と同化出来ると言うことなのだ。そうなってしまえば魔神特有の魂の気配も解らなくなるし、見つけ出すのは困難を極めるのだ。もっとも、人の魂と同化すると言っても、なかなか条件が難しいようなのだがな……」
「要は、寄生虫みたいなもんなんすかね……。と言うか、寄生されてるヤツの区別くらい出来ないもんすかねぇ……。そんな魔神と魂が同化……なんてなったら、絶対チート化するでしょうし……。大方、ジャリテルム様も半端に顕現した結果、劣化してて解らなくなってるとか、そんなオチじゃないんすか?」
「ば、馬鹿なこと言うでない! この分体の力はともかく、我が力……「全てを知る力」は我の本体の能力であり、我はその端末に過ぎんのだ。その力はこの大陸すべての事象を瞬時に把握する……そう言うものであり、それ故に我が大陸を統べる存在……世界の管理者たる由縁なのだ。実際、今の時点でロアの気配が残っているのは、セレイネース姉様が封印した分体の周辺海域と、過去にアレを葬った土地にかすかに残った瘴気……その程度なのだ。それ以外の気配は……一切、感じられない! これは断言していい! 解ったか!」
まぁ、ここで嘘言ってもしょうが無いから、少なくとも現時点で、感知できないのは事実なんしょな。
しっかし、魔神ロアってのもいったい何回、この世界にちょっかい出してきてたんでしょうなぁ……。
けど、高倉のダンナもロアが出現する前に、謎のガテン系チンピラみたいなのをぶっ殺したとか言ってて、ソイツを殺したら、代わりにロアが出て来たみたいなこと言ってたんスよね。
それって、要するに生贄……みたいなもんだったんじゃないんスかね。
人間の魂に寄生虫みたいに同化してて、ソイツが死ぬと復活トリガーみたいになる。
案外、そんな仕組みなのかも……。
うん、二段、三段階ボスとかありがちだけど、そう言うシステムなら納得。
何よりも、ジャリテルム様より格上のセレイネース様ですら、あの場面でロアが出てくるなんて予想外だったみたいですしなぁ……。
それにジャリテルム様もこの世界では……そう言ったっす。
もしも、向こうに転移した大帝様がロアの宿主だったとしたら?
そう言うことなら、現時点でジャリテルム様の感知にかからないのも納得ですし、大帝が向こうの世界で死ぬのと同時にロア復活! とかなりかねないし、向こうの世界じゃなくてこっちの世界で「ははははははは」とか言って、訳の解らんところで復活! ってなるかも知んないっす。
うん、恐らく状況はジャリテルムの想像はともかくとして、高倉のダンナの予想すらも超えてくる可能性があるっす!
となると……どちらに転んでも良いように、備える必要があるっすな。
そして、某にはそれが可能……なるほど、某の果たすべき役割も見えてきたっすね!
「おーけー! 解ったっす! 某はダンナのピンチにいつでも駆けつける……そう言う役どころでいるっす!」
「そう言えば、君は転移魔法も使えるんだっけ……。もしかして、異世界転移も出来たりするのかな? そう言えば、そこは聞いてなかったね」
ふふん、なにせ高倉のダンナ達に、亜空間経由での空間跳躍ゲート魔法のヒントを与えたのは、某ですからな!
実際、試したことはないけど、異世界転移も……うん、理論上は不可能じゃないっすな! 亜空間を生身で動ける時点で、某一人ならコンビニ感覚で往復くらい出来そうっすな……。
その気になれば戻れるなら、なぜ試さん? そう思われるでしょうがね。
某ってば、この世界をとても気に入ってるし、日本に戻っても某、国家権力に追われるお尋ね者って事には変わり無いんスよ。
なにせ、警察に捕まる直前に某のもとに届いた脅迫状みたいな電子メール。
「お前は闇に深入りしすぎた。かくなる上は闇の底へと沈むが良い」……そんな一言だったんすけど。
実際、その次の日には刑事さんが団体でピンポン連打!
どうも、某……やり過ぎちまったみたいなんすね……。
表の世界でヒットメーカー、キングオブコミックアーティストとして、有名になりつつあったんで、消すだの逮捕だの派手な真似は出来っこないとタカを括ってたんすけど。
結果は容赦なく不当逮捕……なんだかんだで、罪状積まれて、編集の人達もネットや飲み友達も……誰も助けに来てくれない。
某……あの時、世界に絶望したんすよ。
あまりの某の無力さと……孤独さに……。
警察の会議室と称する拘禁部屋の窓をぶち抜いてダイブしたのは、こんなのやってられっかーっ! と言う某の怒りと……日本と言う国への絶望。
そりゃ、鹿島さんとかと司法取引でもすれば、ムザーイなり、別の戸籍を用意するとかしてもらって、シレッと舞い戻りも出来るかも知れねぇっす。
と言うか、出来ちゃう……そこは鹿島さんもダンナにしれっと言ってたらしいんで、可能と見て間違いないっす。
けどね……。
某が欲してやまなかったのは、誰からも奪われない表現の自由なんすよっ!
日本には、すでにそれが失われてたんスよ……残念ながらね。
特にここ十年くらいは、差別的表現がどうのだの、ジェンダーレスだのあーだーこーだ! 触れちゃいけないことだのなんだ、クッソうるさいのなんの!
90年代の頃の先人達のように、もう面白けりゃ何でもありって風潮が羨ましく思えるくらいには、ギッチギチの有名無形の規制三昧ッ!
なぁにが、非実在青少年規制だったつのーっ!
この世界のどこにも存在しない存在を表現する事に規制をかけるって、日本語でOKレベルの意味不明な話なんすけど、それを真面目に条例化するとか、むしろ頭おかしいっすっ!
所詮、絵……! 所詮は二次元っ! 所詮は妄想っ! それを形にして何が悪いっ!
某のエロ絵で誰かに迷惑かけたんすか? いいえ、かけてませんねーっ!
むしろ、神絵と崇めて額縁に飾る人だって居たくらいの芸術作品っ!
挙げ句に模倣犯が出たからって、警察にしょっぴかれるとかどうなってんのよっ! もうっ! もう馬鹿すぎて死ぬわっ!
もうねーっ! 某……好き勝手に漫画描いて、それなりの読者がいるって実感できりゃ、それでいいんすよ!
この世界には、その全てがある……希望もロマンも……自由もっ!
そして、某が欲してやまなかった心からの盟友だっているし、いつもお背中流してくれるケモロリっ子達だっているんすっ!
できれば、旦那みたいに嫁さんがいっぱいーとか……とか思ったりもしなくもないんすけど、某の嫁なんて、某の脳内世界にそれこそ100人単位でいるから、別にいいんすよ!
「某のパワーは無限大! 世界の壁だってヒョイーンと乗り越えてみせまっせ! いっそ、この世界の女神の使徒を全員集合させて、女神様も同伴の上で最終決戦の舞台へ突貫! ってのも出来るかも知れねぇっす!」
「あー、モンジローよ。流石にそれは無理であるぞ。女神たる我が向こう側に行くのは、神々同士の協定に抵触するので、それだけは出来ん。まぁ、万が一ロアのやつが向こう側に顕現したとしても、その時は向こう側の神々が対応するだけの話だろう。要するに、そんなに慌てる時間でもないということだな」
「なるほど……要するに、如何に魔神様でも、異世界への干渉は確実に向こう側の神様に感づかれて、ゴッド大戦みたいになるから、さすがに手が出せない……そう言う事なんすかね」
と言うか、そんなゴッド大戦みたいなのが向こうの世界で勃発の時点で、十分にヤバかないですかね?
そもそも、他所の世界にまでちょっかい出してんじゃないよ! あのクソイケメン!
「ああ、そう思って良いぞ。だから、出立は明日、夜が明けてからでよいだろう。どのみち、クロイエも今頃、夢の中だ……今は、お互い力を温存して、大人しくしておるべきだな」
くっ! この駄女神……やっぱり、駄目っす。
なんだか、それっぽいコト言ってるけど、要するに、夜も更けてきて眠たいから明日にしましょう……そう言うことっす!
明日から頑張る! まさにニートの発想ッ!
とはいえ、魔神ロアもアイツも相当根性ネジ曲がってるっすからねぇ……。
……一番肝心な局面で、何らかの嫌がらせアタックを仕掛けてくる……ダンナはそう読んでるってコトっすね。
「どう? 一応、確認するけど、ジャリテルム様はこの件について、なんか言ってる?」
「有意義な事はひとっことも……。なんか明日から頑張るとかニートみたいなこと言って、早々と寝に入ってますよ。ホント、使えないったらありゃしないっす!」
「まぁ……そこはジャリテルム様だから、仕方がないよ。すまないけど、君に背中を任せる。僕にとっての最後の切り札……それがモンジロー君の役どころになる。けど、くれぐれも油断はしないでくれよ。こっちの世界でロアが動くってのは、もはや確定事項だと思っていい」
『君に背中を任せる!』
『切り札は……君だ!』
ふぉおおおおおっ! どっちも言われてみたかったセリフナンバーワンっす!
某……思わず、感涙っ!
「うはぁ……それが某の役目なら、もう本望っす。主人公の背中を守る……なかなか美味しい役割じゃないっすか。けど、お見送りくらいさせてくださらんですかね? せめて、それくらいは……」
「と言うか、すでにもう日本へ発つ直前なんだ。すまないけど、モンジローくんには朝になってからでいいから、いつでも動けるようにコンビニ村に戻って待機してて欲しい! じゃあ、またっ! それと最後に一言だけ……いざって時は、頼んだよ!」
……某、置いてけぼり確定。
残念ながら、そんな感じらしいっす! ばよえーんっ!
ジャリテルム様を見ると、寝袋に収まって、早くもグースカいびきかいてる始末。
もう、今すぐ動くとか全力で拒否! そんな感じっす!
何と言うか……何と言う感じ? このっ! このっ! フンヌラバァアアアッ!
まぁ、夜が明けたらお迎え来るみたいだし、某も……寝るっす!
今は、英気を養う時……あ、こんな時になんか降りてきたっす!
目の前には、ロリガキ化したファッキン女神……!
ドュフフフフ……描くしか……ありませんなっ!
シュビドゥバ! シュビドゥバーッ! ズギャアアアンッ!
あ、何描いてるかは描写できねぇっす。
こりゃもう、発禁確実くらいの18禁画っすから。
ってなことをやりながらも、某の頭脳はフル回転。
やっぱり、エロ絵を描くと頭が冴えるっすなぁ!
んんんっ! 未来が……見えたっすーッ!
ダンナの最後の言葉。
『いざって時は、頼む』
YES、YES、YES! そう言う事っすか!
どうやら……某の本気。
見せる時が来つつあるようっすな!
「どうやら、例の準備を進めておくべきですな……はぁ、裏方もなかなか大変っすね!」
そんな意味深な言葉と共に、某も筆を置くと焚き火とのにらめっこを再開しようとするのだけど。
不意に何者かの気配に気づいて、顔を上げる。
「どうやら……待ち人来たる……のようですな!」
とまぁ、かっこよく決めたところで中継は現場へリターン! 思わせぶりアデューッ!




