閑話休題「坂崎紋次郎のユーウツ」①
「……風が……変わりましたな」
その時、だだっ広い荒野のど真ん中で、じっと焚き火を見つめていたその男は……意味深に呟いた。
うーん、決まったっすなぁっ!
ここで唐突に某、坂崎紋次郎登場っす!
某ファンの皆様、こんばんわ! 某は……絶好調っす!
今日も、自慢のボンバヘッドもキマってるし、某もすっかりたくましく成長を遂げていたんス!
あれから、某も日課のように筋トレや走り込みに励んで、励んで励みまくって、なんと腹筋が割れたっす!
うはっ! みwなwぎwっwてwきwたwww まったく……簡……単だっ!
何と言う、日に日に逞しくなっていく我がボディっ!
リーシアのアネサンに調合してもらったムキムキドラッグの恐るべき効果。
貧弱なもやしだった某もわずか数ヶ月で筋肉美をゲット!
いやぁ、何か知らんねぇんすけど、副作用としてめちゃくちゃお腹空きやすくなっちまったんすけど。
まさかの某、成長期……位の勢いでウェイトも増えて、骨格すらもパワーアップ!
実を言うと、今も日課の腹筋トレーニングの真っ最中だったのでござるよ!
え? 焚き火とにらめっこしてたんじゃなかったのかって?
ノンノンノン! んな、いきなり腹筋トレーニングのシーンから入るとか、様式美ってもんをガン無視やないすか。
憂い顔で、焚き火を見つめる青年……意味深でカッチョええやないですか。
まずは、形から入るって重要じゃないっすかねぇ……。
「ほ、ほぇっ! なんだ、モンジロー! 突然、そんな真面目な顔をして……ね、熱でも出たのか?」
焚き火の前で船を漕いでたジャリテルム様が、気持ち悪いものを見るような目で某を見つめてるっす。
何と言うか、そりゃねぇっすよ!
「ノリ悪いっすねぇ……そこは「ええ、この風……少し泣いています」とでも返してくんなきゃ! と言うか、こんなあからさまな異変にも気付かないとか、さすがに嘘っすよね?」
「ふ、ふむ……言われてみれば……マナの流れが変わっておるな……。なるほど、確かにこれが風が泣くと言うことか! 文学的で実に良いな! ああ、風の嘆き悲しむ声が聞こえるな……」
そう言って、ニヤリと笑うジャリテルム様。
そうっす! この流れこそ、様式美!
ジャリテルム様も解ってきた! 日々の教育の甲斐はあったっすなぁ!
ちなみに、ここは帝国とオルメキアの国境線のほど近く。
ジャリテルム様の巡礼の旅の次の目的地……帝国の城塞都市オストラまで数日くらいの距離っす。
なんでも、つい最近……都市を治めてた大帝信奉者のなんとかって公爵様が、駐留軍と民衆の反乱祭りにあって、無惨に処刑されたばかりで、聖光教会とお役所が荒ぶる民衆達を宥めて、新体制を構築しつつあるとかで、そこでラーテルム様降臨ってブチ上げてーとか言うことで、お呼びがかかったんす。
まぁ、現状……タダの幼女状態のジャリテルム様にとっては、そんなイベント……信仰心を集めるチャンスって事で、次の目的地にしたんすよね。
けど、ここに来てなんだか、膨大なマナが帝国……それも帝城の方に向かって、流れていったんす。
それを某なりに「風が変わった」と表現してみたんす。
これは……何かが起こる予感……ッ!
「……申し訳ないっすけど、巡礼の旅は一旦中断っす!」
「うむ! いい加減、毎日、毎日埃まみれになって、歩き詰めの生活にもうんざりしていたからな! して、何処へ飛ぶ? ……さしずめ、風の集まる場所と言ったところだな!」
状況的には、多分帝国でなんかあったっすな……。
帝国も大帝様絶賛引き籠もりだけにとどまらず、大帝様の帝国支配の要だった雑魚スライムの大量死とか、どえらい事になっとりまして、大帝様の築き上げた全てが絶賛崩壊中なんすよ。
なので、そろそろ最後の逆襲とかあるんじゃないかって、某も思ってたっす!
「んにゃ、ここは高倉のダンナに素直に聞けばいいっす! 絶対、なんか起きてるっすからね! では早速……夜分遅くすんませんけど、高倉のダンナをおねやっす!」
ダンナとの連絡用の遠話宝珠を起動して、お気楽に呼びかけるっす。
「……あれ、モンジロー君? ああ、ちょうど良かった……実はかくかくしかじか……でね!」
メタいんすけど、同じ話の繰り返しとか読者様もうんざりっすからね!
かくかくしかじかで、話も通じる……中略ってヤツっす!
だが、何と言うか、現実はっ!
……某の想像を軽く上回ってたっすーっ!
日本に帝城が転移して、米軍の核ミサイルがロックオン! 猶予はたったの72時間!
これって、どんなB級パニック映画? 思わず、顔が虚無りかけたくらいの一大事っすよーっ!
「……うーん、参ったっすなぁ……。事実は小説より奇なりを地で行ってますなぁ……ああ、ジャリテルム様も眼の前におりますよ。クロイエ様にお迎えに来てもらえれば、某共々即推参するっすよ!」
うん、某も遠く離れた異世界にいても、日本の皆のことを忘れたことなんて無かったすよ?
「ファイア☆メン」として描いたミリオン作品「ドラゴン・シューター」……その完結編を読者さん達にお届けできなかったことは、某も無念でしたし、作家というものは読者あっての存在なんすよ!
まぁ、日本のために死ねとか言われたら、さすがに引くっすけど、日本のために何かしろと言われたら、ハイ、喜んでーッ!
それが某なんでやんす。
「……即答だね。さすがモンジロー君だ……なら、朝になり次第アージュさんとクロイエ様が迎えに行くから、そのつもりで居て!」
「ダンナ! 何を悠長な事をっ! 某ならば空くらい飛べますから、ジャリテルム様を抱えてシュバーンと推参しまっせ! そして、異世界日本へ舞い戻り……悪しきクズ野郎……大帝カズマイヤーを鍛えに鍛えた我が拳で殴って殴って、殴り殺すっ! まさに王道展開ってヤツっすよ!」
実をいうと、某も高倉のダンナ同様の『鋼の如く我が剛腕』を使いこなせるようになってるんすよ。
パクったんじゃないっすよ? 某なりに魔法エディットで開発したオリジナルゥ・マァジック!
まぁ、あの魔法ってある程度筋肉鍛えないと、微妙なんすけど……今の某はまさに細マッチョ!
話の流れ的に、高倉のダンナもラスダン突入組! となれば、盟友たる某も当然ラスダンパーティに参戦するっす!
そして、二人がかりのダブル筋肉で大帝を殴って殴って、殴りまくるッ!
「君がッ! 死ぬまでッ! 僕は殴ることを止めなーいッ!」
そう、やっぱり某によるヒット作『ミケ・ランジェロの素晴らしき冒険』の名台詞を再現するっすよ!
これは、主人公のミケ・ランジェロが、それまで散々ミケ・ランジェロを虐げてきたライバルキャラ「ダニー・ダースター」をフルボッコにする時のセリフっす。
まぁ、主人公の名前がイタリアのフルチンおじさんの彫刻で有名な昔の芸術家と似てるせいで、イタリアンな人達からブーイング食らったりしましたがね。
実のところ、ミケロッティ・ランジェルス・ランジェロフと舌噛みそうな名前なんで、初登場直後に絡んできたモブ雑魚キャラに、お前の名前呼ぶの面倒くさいからミケ・ランジェロって呼んでやるぜ! ヒャハッ! とか言われて以来、その呼び名が定着したんスよね。
ちなみに、ミケ・ランジェロにフルボッコされた事でイケメンで調子こいてたダニーは、顔面が変形して無惨な事になって、人生に絶望して身投げするんすけどね! けど、それがきっかけで吸血鬼の眷属になり闇落ちして真の悪党になっていって、最終的にやっぱりミケ・ランジェロにぶち殺されるんスけどね。
つまり、ダニー・ダースターのように、クズのカスマは二度死ぬ。
これはもう、確定事項っすー!
「いや、実のところ……あっちでの戦いはただ前座になる……僕はそう予想してるんだ。恐らく、この戦いは魔神ロアの分体あたりが黒幕……そして、間違いなく、僕らが居なくなった隙に何らかの行動を起こす……そうなったら、セレイネース様やラーテルム様が頼みだ。モンジローくんならどちらとも話が出来るから、こっちに居て欲しいんだ。何よりも君なら安心して後を託せる……駄目かい?」
某の脳内で繰り広げられていた大帝処刑シーンに思いっきり水を差すその一言で、某思わず唖然っ!
「んな……ま、魔神ロアの仕込み……っすか! あのクソイケメン神……まだ生きてたとか、マジ許せねぇっすな。」
「まぁ、あくまで可能性なんだけどね……。ぶっちゃけラスボスにしちゃ、あの大帝カズマイヤーってのは、あまりに小物で雑魚いんだよ。なぁ、モンジロー君のストーリーテラーとしての意見を聞きたいんだけど、アイツの正体はどうも、一時ネットで有名になった「クズのカスマ」らしいんだ。これを聞いてどう思う?」
……「クズのカスマ」?
ああ、聞いたことあるどころか、よく知ってる名前っすよ!




