第七十二話「72時間」⑤
「……解った。鹿島さん、日本へ行くメンツなんだけど、僕とテンチョー、リーシアさんと大倉。この4人だけにしよう」
……色々考えた末、この人選とすることにした。
「はぁっ? 我が留守番なのは、解るが……リーシアを連れて行くだと? ケンタロウ……それはないだろう……。何より、日本への援軍がたった4人では、さすがに出し惜しみしすぎだ! そうであろう! 鹿島殿!」
「はい? あの……アージュ様、ちょっといいですか?」
「ほら見たことか、鹿島殿も明らかに失望しているではないか! だいたい、貴様はいつもそうじゃ! 肝心な時に腰がひけおって……」
アージュさんのお説教モードスイッチオン。
なお、お説教モードのアージュさんはとにかく、人の話を聞いてくれない。
「あ、あのさぁ……アージュさんも人の話は最後まで聞こう!」
そう言って、アージュさん口をふさいで強引に黙らせると、鹿島さんも苦笑する。
「そ、そうですね。アージュ様、私はむしろ4人「も」送っていただけるという認識なんですが」
「まぁ、そうじゃろうなぁ……って、何を言っとるのだ! 普通は、たった4人と呆れるはずじゃろ!」
「いえ……むしろ、後はそっちで頑張ってね! と言われてもこちらとしては、別に文句なんてありませんからね。人選についても、元日本人の高倉様と大倉様が助太刀に来るのは解りますし、テンチョーさんも猫だったとは言え、元は日本人……と言えなくもないですから。リーシア様については、私もよく存じ上げませんし、魔術の互換性の問題で魔術の使い手は戦力にならない……と思うのですが、どうなのでしょう?」
確かに、ここでなんでリーシアさんの名前が出てくるのか。
それは、簡単……あの人の使う鋼草って植物が普通にチート植物だから。
あの植物って、異常に固くて柔軟ってその時点で、矛盾してるんだけど、実際そんな感じなんだからしょうがない。
どうも、蛇みたいにものすごく細かいうろこ状の金属組織が折り重なった……そんな表皮みたいなんだが、どうやったらそんな進化を遂げたのかはマジで謎!
実は、宇宙のどっかの過酷すぎる惑星から採取して持ってきたとか言われても、不思議に思わないくらいなんだが。
リーシアさんによると、極普通のツタ植物を様々な過酷な人工環境を用意した上で、数十年単位の時間をかけて数百倍とか無茶な成長促進をかけた上で、気の遠くなる程の世代を跨ぎ、千年どころか一万年なんてとてつもない時間に相当する進化改良をさせまくって作ったらしい……。
うん、リーシアさんヤバい、まじヤバイ。
植物もあれって、確かに動くことは動くんだけど、本来、目で見て動きが解るようなものじゃない。
にも関わらず、この植物はまるで意思を持った動物のように高速でグネグネと動き回るし、その上、瞬時にギュルンって伸び縮みしたり、ブチッと切れてもあっさり再生とかする。
身体に巻きつけるとそれだけで、重装甲パワードスーツみたいになるし、自分だけじゃなくて他人に装着すら出来る。
僕も前に試しに装着してもらったんだけど、ギチギチに身体を覆ってるのに、思ったように自由に動けるどころか、パワーアシストが掛かって、超人的な動きやパワーを発揮して、まさにパワードスーツって感じだった!
なんで思ったように動くのか……リーシアさんの説明だと、体内に根を張って神経に直結することで体の一部のようになるんだとか……なお、装着時にはそんな感触はこれっぽっちもしない。
……ヤバい、その2。
おまけに、あれって周囲のマナを収奪して、無尽蔵に増え続ける……リーシアさんが完璧に制御してるからこそ、バイオハザートみたいな事になってないってだけで、結構なトンデモ超危険植物なんだ。
なお、環境マナの属性とかまるで関係なし。
リーシアさんの話だと、そこにマナがあるなら何でもおかまいなしで吸収して活動エネルギー源にするとかで、要は無属性魔術の一種らしいのだ。
おまけに鋼草の強度は銃弾を軽く跳ね返し、触手のようなツルは分厚い鉄板をスコーンと貫通させる。
攻撃力も防御力もパワーも汎用性も、何もかもがチートオブチートッ!
一見地味でアージュさんほどの派手さはないんだけど。
はっきり言って、物理最強を地で行ってるのがリーシアさんと言う最強魔術師なのだよ。
なんでまぁ、異世界日本でも普通に戦力になるし、鋼草アーマーを全員に装着すれば、生存率が格段に上がる。
そんな風に見込んだんだ。
「リーシアか……確かに、アヤツの魔術はどれも無属性系ではあるからな。それにスライムの触手攻撃相手でも、あの鋼草はむしろ上位互換のようなもの……なるほど、お主の護衛としてはこれ以上無い程の人選であるな」
まぁ、ぶっちゃけあの人ゴーイングマイウェイで、僕以外の誰にも御し得ない人だから、こんな話聞いて、大人しく留守番しててくれるように思えないんだよなぁ。
戦力的には、むしろリーシアさん一人でもなんとかなるんじゃないかって思ってるんだけど、僕の護衛役ってことなら、喜んで付いてくるだろうし、あの人がお供ならランシアもキリカも誰もが納得する。
実際、アージュさんもこの分だと納得してくれたようだ。
「なるほど、無属性操作系魔術師……それもこちらの世界でもトップクラス戦力と言ったところですかね。確かに身体強化とか物体の遠隔操作のような魔術なら、あまり問題なく使えると聞いてますからね」
「ああ、日本のマナ環境がコンビニの近くと同じと仮定するなら問題ないはずだよ」
僕やテンチョーは普通に生活してたし、むしろヨソだと筋肉魔法が強力なような気もしてた!
「ですが、むしろ配下の腕に覚えのある方々を全員連れて行くくらいのことを提案されると思っていたのですが、最小限の戦力派遣に留めると。もしや、高倉様はこちらの世界で更に何かが大きな問題が起きることを想定している。そう言うことですか?」
鹿島さんがそう告げると、誰もが僕を見返してくる。
「ああ、そう言うことだよ。派手な騒ぎを起こして、こちらの耳目を引き付けた上で、がら空きになったところで本命が行動を起こす。僕はそう言う陰険な奴を知っているし、ソイツは間違いなく僕を敵視してるだろうし、帝国が生まれ変わってこの世界に平和が訪れる……そんな展開を誰よりも嫌ってるはずだからね。間違いなく、ソイツは最悪のタイミングで最悪の行動を起こすと見てる」
まぁ、魔神ロア……アイツはそう言うやつだし、人間の身で都合30回くらい撲殺した僕を心底許せない……そんな調子だったからな。
「なるほどな。となると、我はこの場に一人でも多くの戦力を集め、イザという時に備える……そう言うことか。だが、そう急いで出立せずとも、セレイネース様やモンジロー辺りと合流してからでも遅くはないだろう?」
「いや、実際の所……今すぐ動かないとすべて終わる。僕はそんな風に認識してるんだ。出来る限り早く、大帝の始末を付ける。72時間の猶予とか言ってるけど、実際は50時間くらいしか時間がない……そうだろう? 鹿島さん」
「……そうですね。まぁ、実際はそこまで逼迫はしてないんですけどね。いずれにせよ、時間が経てば経つほど、米国との軋轢が激しくなるので、短期決戦で早急に事態を収束するのに越したことはありません」
……意外と余裕といった様子に、大倉も僕も思わず目を見合わせてしまう。
「ははぁん……さては、イザとなればICBMを撃ち落とす。その程度の準備はしてるってことか。俺はここ数年の日本の軍事関係知識はさっぱりなんだが、ドローンや無人戦闘車両やらが突然変異でも起こしたかのように大幅に進化してるみたいだからな。案外、完全無人制御の対地レーザー狙撃衛星くらい極秘配備してるんじゃないか? そんなものがあるのだとすれば、大陸間弾道ミサイルだって宇宙に出る前に破壊することで無力化出来るだろうさ」
「申し訳ございませんが、そこは軍事機密ですので、私は否定も肯定もしません。ですが、万が一打ち込んだICBMを片っ端から迎撃なんてされたら、アメリカも面目丸つぶれですからね。そして、核を打ち込まれた時点で、同盟関係も自動破棄となるので、日米開戦に発展する可能性もあると……なので、やはり早急に脅威の消滅と言う形で、事態の収束を図るのが最善ではありますね」
……ICBMを完全迎撃する手段があるか、ないかなら……まぁ、余裕であるな、これ。
さすがにその手段は解らないけど、大倉の言うような完全無人制御の対地レーザー攻撃衛星についても、心当たりはある。
実際、ゼロワンがそんな超兵器の実験をやってたのを僕は知ってる。
要は、誰にも情報が漏れないのを良いことに、こっちでいくつもの超兵器を開発してた……そう言う事だ。
けど、そうなるとゼロワン達のオーバーテクノロジーと言っていいほどの先進技術の源泉って何なのかが気になるな。
実際、僕も色々調べてみたんだけど、ゼロワン達がたまに吐き出してる排ガスの正体は恐らくヘリウムガスだ。
水を燃料にそんなものを排ガスとして放出するとなると、恐らく常温核融合……それしか考えられない。
実現したら、世界が変わるとも言われている夢の技術のひとつなんだけど、それをすでに兵器レベルで実装してるとか、10年どころか100年は先のテクノロジーだ。
何よりも、ゼロワン達のAIだって、今の最新技術を遥かに超越してる。
そんなものを、なんで今の日本が持っているのか……そこからして、色々おかしいんだよな。
鹿島さんは絶対に教えてくれなさそうだけど、今の日本には相当ヤバい黒幕みたいなのがいる。
それは恐らく間違いない。
もっとも、ICBMを完全迎撃出来るからと言って、それをやってしまったら、アメリカさんもむしろ本気になる。
なにせ、戦略核を使えば相手の国は確実に焦土になる……そして、それがお互い様。
……それが、今の世界の大前提なのだ。
つまり、相互確証破壊と言う暗黙の了解で、どの国も無茶をやろうとしても、そうはいかないって事で、かろうじて危ういバランスのもとに成り立っている。
それこそが、今の世界の平和の実情でもあるのだ。
そんな相互確証破壊の要たるICBMを容易く迎撃し無力化する手段を日本が持っている……もう、それが世界中に知れ渡った時点で戦争だ。
確かに、今の日本には政治家連中の思惑すら飛び越えたところにいる得体のしれない何か……黒幕がいるのは、確実なんだが。
それの持つ力が公になってしまったら、確実に不味いことになる。
やっぱり、ここは僕らがなんとかする必要があるな。




