第九話「異世界ジャングルの長い夜」④
「ふぃー、疲れた……」
ため息とともに、自室のベッドに横になる。
……今日一日を振り返る……なんと言うか、濃すぎる一日だった。
物凄く長い一日だったような気もするんだけど……。
考えてみれば、昨日起きたのは、夕方の16時頃。
それからずーっと起きてるから、かれこれ30時間位は起きてる……一日が長く感じられるのも当たり前だろう。
地震で一回気絶してるけど、あれは寝たことになるのかな……?
その割にはそこまで疲れてないのは、色々あって精神が高揚してるから……かな。
でも、この猫耳の身体自体がタフなのもあるだろう……キリカさんだって、二日くらいなら、寝なくても平気って言ってたし……。
回復力もやたら高いようで、こうして横になってるだけで、疲れがどんどん抜けていく。
でも、10代の頃はこんなだった気もする……年を取ると、この回復力ってのが確実に衰えるんだよなぁ……年は取りたくないって思ってたんだけど。
この身体……ひょっとして、若返ってるんじゃないだろうか? だとすれば、嬉しい誤算だよな。
なんか、肌のハリとかツヤも昨日までと全然違うし……髪の毛もこんなサラサラだっけ?
尻尾の毛とかもう、黒光りしててツヤッツヤです。
とにかく……僕は30時間ぶりにベッドの上で休むという贅沢を堪能している。
時刻は、22時くらいで当然日も暮れきっている……でも、この世界の一日が24時間なのかはよく解らない。
一応、22時ってのは部屋の時計の時間なんだけど、これって要するに日本時間……。
なんとなく、日暮れの時間が妙に長かったような気がしたので、案外一日が25-6時間くらいありそうな気がするけど、明日の朝にならないと、その辺はなんとも言えない。
そもそも、こっちでは時計なんかも、誰も使ってない様子が見受けられる。
皆、時間については、すごくアバウトに行動してるように見えた……日の高さとか、腹時計とかそんな感じ?
そうなると、夜なんかはどうするんだろう? 星や月の位置とか、気温の変化……とかで、朝が近いとか判断するのかも。
全開にした窓を見ると、相変わらず大きな月が目に飛び込んでくる。
……昨日より、少し小さいような? まぁ、地球の月だって、地球との距離の変動で大きさ変わって見えるもんだしな。
赤い月は、一日三回くらい登ったり降りたりする妙に忙しい代物という話で、今は見えなくなってる。
どうも、かなり遠い軌道を高速周回する衛星とか、そんな感じらしい。
でも、月が二つもあると。海辺とか行くと、潮の満ち引きがすっごいカオスなことになってそうだ……。
二つ分の月の引力の影響を受けるとなると、かなり激しく満ち引きするだろうし、恐らく沿岸部では河川の逆流現象も起きているだろう。
しかし、夜にベッドの上で寝るなんて贅沢、何年ぶりだろう? と妙に感慨深くもなる。
もう年単位で、昼に寝るのが常になってたから、逆に新しい。
窓が開いてるから、夜になってもムワッと暑苦しい赤道直下、熱帯雨林の湿った風が頬をなでていく。
でも、群馬の夏の熱帯夜より、まだいいかもな。
蒸し暑いのは、蒸し暑いんだけど……なんか、山の中のような、独特の清涼感がある……。
エアコンをつけようとも思ったけど、この森の香が香る外の風が気持ちよくて、敢えて窓全開にしていたんだけど……なかなか、いい感じだ。
ちなみに、女の子たちはさっきまで、お風呂で大騒ぎしてたんだけど、すっかり静かになっていた。
当然ながら、キリカさん達には、お風呂に入るような習慣はなかったんだけど。
テンチョーは猫なのにお風呂も大好きって、変わった猫だったから、お風呂の入り方とかも知ってて、皆に色々説明してた。
まぁ、テンチョーのお風呂と言っても、たらいにお湯入れて、ボジョンと浸かるってのだったけど……。
人間みたいに仰向けになって、肩まで浸かって、とろ~んと気持ちよさそうに入ってたもんだ。
でも、しっかり僕のことを観察して、色々学習していたらしく、シャンプーで髪洗って、リンスしてーなんて、ちゃんと説明してた。
シャンプーとかもコンビニには売ってるんで、ちゃんとしたのをご利用いただいた。
真っ先に猫用シャンプーを持っていこうとしたのは……まぁ、しょうがないっちゃ、しょうがない。
キリカさん達も、リンスとか使ったらしく、皆、髪の毛と尻尾の毛がツヤツヤになったとか言って、すごく喜んでたようだった。
ミミモモとか、髪の毛、妙にくすんでてボサボサしてるとは思ってたんだけど……要するに、手入れが出来てなかっただけの話だったみたい。
他にもお互いの胸の大きさについてとか……そんな会話もしてた。
一応、言っとくけど、僕は……そんな女子の楽園に混ざるなんて、野暮なことはしなかったよ?
会話とかは、うっかり聞こえてきちゃうんだから、しょうがない。
なにせ、猫耳イヤーは地獄耳なんだからね。
なお、テンチョーからは、当たり前のように「お風呂一緒に入ろう!」って誘われたし、キリカさんはもちろん、ミミモモですら、別に嫌な顔はしなかったので、一緒に入っても問題なさそうな雰囲気じゃあったんだけど……。
頑張って、誘惑に逆らって、あえて首を横に振ったさーっ!
テンチョーとは、猫時代の事を考えると一緒にお風呂入ってた仲ではあるから、今更……なんだろうけど。
僕にとっては……ネコ耳娘の姿で一緒にお風呂ってのは……いや、悪くはないんだけどさ! そこはもう超えちゃ駄目な一線を、軽くぶっちぎってると思うんだ!
ついでに、ナイスバディなキリカさん……と、文字通り合法ロリなミミモモ。
なんと言うか、それぞれがそれぞれの魅力ってモノがあると思うんだ。
そんな彼女たちと、狭いお風呂でお肌の触れ合い……とか。
ああ、敢えて言うさっ!
超萌え、憧れのシチェーションですだっ!
まさにハーレム……男の浪漫!
……と言いたいところだけど。
そう言うのは、やっぱ自重すべき……だと……思うんだ。
なんでって……? ちくせう。
大人の事情なんて、爆発すればいいのに。
ちなみに、女の子たちは全員、布団部屋兼物置部屋の北西の六畳間を寝室にすることにしたようだった。
あまり広くはないのだけど、エアコン完備で畳敷きなので、寝っ転がると結構涼しい。
日本の畳ってのは、湿気と暑さ対策の性格が強いんだぜ?
皆に、各自布団を取りに行くように言ったら、いつまで経っても戻ってこなくって、様子見に行ったら、エアコンの風を浴びながら、畳の上でゴロゴロと寛いでたんで、ふすまをそっ閉じした。
時々、楽しそうな話し声やキャーキャーと嬌声が聞こえてくるので、皆仲良くやってるらしい。
ちなみに布団部屋って密かに、テンチョーのお気に入りスポットだったんだよなぁ……。
西日が差す頃になると、いい感じに斜陽の日差しが差し込んで陽だまりを作る。
そんな日には、決まって布団部屋の布団のてっぺんで丸くなってたもんだ。
まぁ、とにかくそんなこんなで、今は僕は一人の時間って訳だ……やっと一人になれたって気もするけど。
一人のけ者にされて、ちょっと寂しいような……複雑な気分だった。
本日分もやっぱり、6000文字近くになってしまったので、
午前午後で、分割アップします。(汗)




