第九話「異世界ジャングルの長い夜」③
ともかく……どうやら、たこ焼きの増援が必要なようだ。
実際、イレブンマートのオリジナルたこ焼きって、普通に美味いからなぁ……実は、大好物!
所謂PB商品なんだけど、なんでも、生粋の大阪人がこだわり抜いて開発したとかで、本場の大阪人ですら美味いと太鼓判を押すような代物なんだとか。
新規戦力の投入を急ぐべく、僕は冷凍食品コーナーからたこ焼きのパッケージを持てるだけ取り出すと、新たなお皿にカチカチのたこ焼きを並べレンジイン!
ワンパッケージ6個入りだから、まずは24個! 更に第二陣を投入予定なので、総計48個!
一人頭10個近く食べれる計算なんだが……たこ焼きって、不思議といくらでも入るからな……。
ホントは、売り物を自家消費する場合でも、きっちりレジ通しとかないと、後々データ上では在庫なのに商品だけ行方不明……ロスト状態になったり、在庫がありすぎるからって理由で発注キャンセルとか起きちゃうのよ。
でも、面倒くさいから、あとでストコン上で調整すりゃいいや。
ふふふ、オーナー権限でログインすれば、その程度の事チョチョイのチョイなのだよ!
ちなみに、食事の席はダンボールござ代わりに敷いて、店内の床に料理を並べて、皆直座りしてる……。
どうも、ここらでは……椅子とテーブルに座って、食事するって習慣がないみたいで、都市部の料理屋でも、テーブルの代わりに床に敷物が敷いてあって、靴は脱いで、そのまま敷物の上に座るような感じ。
その上で、ミニテーブルみたいなのに、お皿を並べたり、ちゃぶ台みたいなのを囲むって、そんな感じなんだとか
いわゆるお座敷飯……だよなぁ……話を聞く限りだと。
これが帝国とかになると椅子とテーブルって感じになるし、お隣のオルメキアもそんな感じ。
ロメオ王国って文化的に日本に通じるものがあるような……?
「……イカ・タコってのがどんなのかよぅ解らんけど。このたこ焼きは普通に美味いわー! でも、タコって……どんな生き物なんや? マスターはんとこの世界の生き物なんやろ?」
キリカさん、好奇心旺盛な子。
まぁ、気になるよね。
「……こんな感じ?」
たこ焼きがチンされるのを待ちながら、メモ用紙にさらさらっとイカ・タコの落書きを描く。
こう見えて、僕は意外と絵心あるのだよ……手描き萌えPOPとか割と好評でした。
「お、思い切り、化けもんやな……」
キリカさんがドン引きしたような表情で呟く。
イカはまだしもタコは、海外じゃデビルフィッシュとか呼ばれてるもんな……。
日本人にとっては、おなじみの食材だけど……あの中国人ですら手を出さないし、キリスト教圏では聖書に海の生き物はウロコとヒレのあるもの以外は、食っちゃ駄目って書かれてるせいで、イカ・タコ系は忌み嫌われてるそうな。
イタリアとかフランスあたりだと、タコ足のカルパッチョとかあるけど……限りなく珍味枠。
それはともかく、この世界で実物のタコなんて見せたら、モンスター扱いだろうな。
「僕、これ見たことあるよ! ダンジョンからたまに出てくるんだ……。身体がヌルヌルしてて、触手に捕まると魔力を吸いつくされて、動けなくなっちゃうんだ……」
まさかのミミの発言に耳を疑いたくなった。
いるのかよ! ……てかヌルヌルって、何……その薄い本モンスター。
「まさか、その後……食べられたりするとか……しないよね? ははは……」
「た、食べられたりはしないんですけど……。その……動けない所を色々と……」
……なんか恥ずかしそうな感じで、俯いて目線をそらすモモちゃん。
モモちゃんのこの微妙な反応……ガチで薄い本的な感じにされるとか、そんな感じ?
いろいろ最低だな! タコモンスターっ!
「ったく、モンジローの奴、うちがあれほど、ダンジョンのモンスター外に出すなって言うとったのに……」
「……誰、それ? モンジローって?」
「前に言うたろ? うちのお客のダンジョンマスターの事や……。ラドクリフも言っとったけど、あのアホ……最近、夜になるとダンジョンのモンスター共を外に出して、自由にさせとるみたいなんや! 一応、ダンジョン外では、人を殺さんって言う制約をかけちゃいるみたいなんやけど……殺さんってだけで、怪我人はちょくちょく出すし……。ミャウ族やら、うちらウォルフ族も特に女は、あいつらに捕まったが最後、皆ひどい目にあわされるんや……こりゃ、一度シメたらなあかんかなぁ……」
モンジロー? 何その日本人っぽい名前……。
なんとなく、ご同類の予感。
ひどい目って……どんな目に合うのかって……気にはなったけど、どんなのか聞かないほうが良さそうだった。
でも、タコ+動けなくなった女性なんて、薄い本展開待ったなし……だよな……。
なんせ、かの北斎ですらやってたような定番ネタだからな。
さすがに、見えている地雷を踏むほど、僕も馬鹿じゃないZE。
「っていうか、そもそもダンジョンってどんな感じなんだい?」
とりあえず、タコからは離れよう。
異世界ダンジョンか……何なら、一回くらい腕試しに挑戦してみても……。
もちろん、剣なり魔法とか、戦力になる程度には何かスキルを身に付けないとタダのお荷物なんだけど。
子供の頃とか、廃墟とか山の中の防空壕の跡を探検したりとか……あのワクワク感に通じるものがあるよなぁ……。
うん、ちょっと一考の余地ありだな。
「せやなぁ……まず入り口で入場料払うと、めっちゃ広い迷宮に転送されるんよ! でもって、モンスター共相手にしながら、制限時間内に突破して、最後に大ボスと戦って勝てば、最初に払った入場料が100倍くらいになって、返ってくる上に、山のようなお宝ゲットってなるんやけどな。陰険な仕掛けやら、凶悪な魔物やらぎょうさんおって、冒険者連中もバタバタ返り討ちにあっとるんや」
……なんか、僕の知ってるダンジョンと違うよ?
入場料払うって……本格的にアトラクションだなぁ……。
でも、それってなんと言うか、命をかけたデスゲームとかそんなんじゃないのか……?
「……ダンジョンで戦いってなると、罠やモンスターで、何人も人死にが出るんじゃないか? そりゃあ、ダンジョン攻略なんて、普通に考えて犠牲は付き物だと思うけど……お金払って、死んじゃってたら元も子もないんじゃ……」
「いんや、今の所アイツのダンジョンで死人は一切出とらんのよ。なんせ、途中で死んでも生き返って、外に出されるようになっとるからな。ただ、そん代わり、持っとった有り金やら装備、一切合切を全部ふんだくられるんや。そもそも、時間制限ってもんがあって、その制限時間を過ぎてもやっぱり、スカンピンにされて、ポイや!」
「お、おう……なにそれ、安全設計のつもりなの? いやいやいや……けど、制限時間まであるなんて……。なにより、攻略できるようになってるの? それ」
「最初に支払う入場料の額に応じて、制限時間も増える……そんな仕組みなんやでー。せやから、最初に多めに払っとけば時間も多くなるし、リターンも増える……せやから、なるべく景気よく払うのがセオリーやな。それに途中でリタイヤした場合、残り時間に応じて、お金も少しは戻ってくるんや。せやから、ほどほどのとこで脱出して、ほどほどの儲けで妥協するのもありなんやでー」
「なるほど、オール・オア・ナッシングって程でもないのか……」
「せやな。なにせ、今んとこ普通にやって、突破できたやつなんて、一人もおらへんからなぁ……実は大掛かりな詐欺やないのかって、話も出とるで」
でも、ダンジョンで死んでも生き返るって……キリカさん、さらっと言ってるけど、どんな理屈なんだ……それ。
もっとも、うちのコンビニも人のこと言えない程度には理不尽の塊だしな……ここも納得しとくとこだな。
「でも、キリカさんは、そいつのとこに、ちょくちょく物売りに行ってたんだよね? どうやって、そのモンジローのところまで行くんだい?」
「実は、裏口みたいなのがあって、モンジローが中から開けてくれれば、まっすぐ何の妨害もなくアイツのとこまで行けるんよ。アイツ、アホやけど、金はうなるほど持っとるから、いつも派手にボッタクっとるんやでー! うちにとってはまさに上客って感じやな」
キリカさんって、ブレないなぁ……ボッタくれるところからは、とことんボッタくる主義らしい。
しかし……そのモンジローってのは、なんとも言えないヤツだなぁ……。
それなりに、利用者の安全も考慮してるっぽいし、いつでも脱出できるって事は欲さえ出さなきゃ、リスクを抑えることだって出来る。
要は賭けの元締めみたいなもんだって、考えれば良いのか。
勝てば一攫千金、負ければスカンピン……まさに、ハイリスク・ハイリターンのギャンブル。
クリア者はまだいないみたいだけど、命までは取られないってなると、次こそはってなるだろうし、挑戦者は後を絶たないだろうな。
確かに、このキャンプ地にも、冒険者だけの一団ってのをチラホラ見かけたし、そのダンジョン目当てに集まってくる人や、その人達相手に商売してる人も少なからずいるだろう……。
それなりに、経済活動に組み込まれてるって言えなくもない……うちも「やくそう」とか「毒消し草」とか扱おうかな?
ただ、夜になってモンスター放し飼いにするってのは、どう考えても問題だよなぁ……。
いくら人を殺したりまではしないからって、殺さないってだけで割とやりたい放題みたいだし……。
でも、タコモンスターとかに女の子を襲わさせて、いったい何が楽しいんだ?
あ、もしかして、モンジローって自分でモンスターを操作したり、監視カメラみたいなので、鑑賞して楽しんでるとか?
あー、なんかありそうだわ……それ。
わかる……思い切り、二次ヲタの発想だけど、何となく解る。
実際、そんな18禁な同人ゲームとかもあるからなぁ……。
でも、そんな調子だと、絶対うちの方にも流れてきそうだ……。
挙げ句、テンチョーやキリカさん、ミミモモがそんなタコモンスターに襲われて、薄い本展開される……。
展開……される……。
「……おのれっ! 許すまじっ! この外道がっ!」
……ついカッとなった。
思ってたことが口をついて出てしまった。
「な、なんや! マスターはん、いきなり怒り出して……どうしたんや! しっかりせいっ!」
目の前のキリカさんが慌てたようにそう言って、肩を揺さぶられる。
いやいや……勝手に卑猥な想像を繰り広げた挙げ句、ブチ切れるとか……傍から見てたら、普通に危ない人だ。
今のが、NTRな気分ってやつか……?
「いや、なんでもないっ! キリカさんがタコモンスターに襲われるとこを想像したりなんかしてないから!」
順当に墓穴を掘っていくスタイルッ! 我ながら、度し難い……。
「……な、なんやねんそれは……」
さすがのキリカさんも、胸ガードの体勢になって、ドン引きと言った様子。
うぇ……やっちゃったなぁ……そりゃ、引くよ。
「で、でも、そんな風に、うちを思って怒ってくれるなんて、ちっとは脈アリなんかなー?」
両手を広げて、むしろカモンと言ったポーズで、ニコッと笑うキリカさん。
ええ子や、ほんまええ子やで……。
今のは、ちょっとグラっと来たよ? 危うく壁ドンくらいやっちまうところだったぜ!
けど……そうならない為にも、そのダンジョンマスターと交渉して、相互協定くらい結べないか、話し合っても良いような気もする。
うちの従業員にはちょっかい出さない代わりに、色んな日本の食べ物とかエロ漫画とか売ってやるって言ったら、食いついてきそうな気がする。
なんせ、名前もモンジローなんて、まんま日本人だし、やってる事はゲーム感覚のどっかヌルいダンジョン経営。
案外、転移された日本人がダンジョンマスター生活に勤しんでるって話なのかも知れない。
実際やってることは賭けの元締めみたいなもんで、討伐するとかそこまでの問題とは思えないしな。
となれば、まずは話し合い前提! 駄目ニートとか二次ヲタとかって、深夜帯の常連だから、その辺とのコミュニケーションはお手の物だ。
もっとも、その前にこっちを軌道に乗せないといけないよなー。
……これは、課題かな……やりたい事リストIN。
かくして……。
結局……皆の晩御飯は、たこ焼き三昧と言う、まるで大阪人の食卓みたいになった。(偏見)
なお、猫耳は割とタコが好き……なんか、どうでもいい新事実だな。これ。
冷凍食品については、今日の実績と状況から、もう不良在庫確定! くらいの勢いだったので、他のストックも消費したかったんだけど、結局たこ焼きだけごっそりなくなる結果に終わった……。
とりあえず、今日のシメとして、ストコンを立ち上げて、明日の朝イチ分に緊急でたこ焼き100パックほど追加オーダー。
ついでに、ミミモモ用のコンパクトサイズの制服も発注……小学生向け職業体験イベント用に、わざわざ専用のミニサイズ制服を作ったって聞いてるからな。
在庫があるか解らないけど、ちょっと回してもらおう……サイズはどっちも120っと……。
なんせ、意外とミミモモは客寄せになるのが解ったからな! データで見ても、選手交代後ホットスナックの売上はまさに爆上げ状態っ!
ついでに、子供エプロンと三角巾の可愛いのもアマゾニアに発注! 発送先は、高崎の配送センターでいいか……。
エンターァアアアッ! ターァンッ!
なんか、ミミモモの扱いがセットになりつつあるよ。
そのうち、「ピッ! けーれいっ!」とかやりそう。
さて、謎のゲーム風タイムアタックダンジョン。
果たして、本編に絡んでくるのやら。
まぁ、ゆるーくお付き合いくださいませ。




