第六十八話「古き良き友」⑤
「僕もそう思うよ……。それとこれは確認なんだけど、帝国宰相フランネル……ヤツも帝城にいるって話だが。ヤツの動向とか解ってるのか?」
「いや、さっぱりだな……。まぁ、少なくとも帝城から出ていった様子はない。解ってるのはそれだけだな」
「そうか、あの宰相フランネルってのも何考えてんだか、さっぱり解んないヤツだったけど。大帝と行動を共にしてるってのが、どうにも引っかかる。くれぐれもお前も用心してくれよ……ぶっちゃけ帝国の高官としてのお前が、僕にとってはかなり重要なパイプなんだからな。お前が居なきゃ、帝国との話し合いだって厳しいってのが実情だからな」
「そりゃお互い様だぜ……俺もロメオの宰相と腹を割って話せるって事で、重用されてるようなものだからな。まぁ、俺も女神の使徒だから、別に心配なんてしなくてもいいぜ。実は、個人レベルの戦闘力なら、相当なもんなんだぞ? ちょっとその片鱗でも見せてやるよ」
そう言うと、大倉の髪の毛が逆だって、金色に輝き出す。
あれだ……超なんとか人みたいな感じだった。
「うぇっ! なんだそれ……戦闘力1万……1万5千……まだまだ上がるだと!」
指で輪っかを作って、お約束のセリフを言ってみる。
真面目な話、魔力視で見た感じでもとんでもない魔力量になってる!
これはアレか……外部式の無限魔力増槽の恩恵でとにかく、力任せで魔力による身体強化をかけてる。
たぶん、そんな感じだな……。
系統としては、シンプルな強化系なんだろうが、シンプルが故に間違いなく強い。
なにせ、強化系魔術の使い手ってのは、体に巡らせた魔力がシールドの役目を果たすから、投射系魔術にも強いし、当然のように接近戦にも強い。
その上、この大倉は実は格闘技に関しては、結構な猛者。
体格にも恵まれてるし、そのヘビー級の重量を有効活用した八極拳なんて本格的な武術の使い手でもある。
まぁ、いざ実戦となると足がすくんで震え上がるようなチキンハートの持ち主でもあったんだが。
手加減しないと相手が死ぬんで、それを想像したら、なにも出来なくなるってのは本人の弁。
実際、僕が全力で蹴っ飛ばしてもちょっと揺れる程度だったクソ重たいサンドバッグを、床を滑るような動きと共に放ったショルダータックル一発で、直角になるほどにフッ飛ばしたほどの威力で、こりゃ確かに食らったら、最悪死ぬなって実感した。
こっちの世界で、身体強化付き……なんて言ったら、冗談抜きで生身でオーガ辺りと殴り合えるんじゃなかろうか。
いずれにせよ、こっちの世界は、相手の命なんて気遣って生き残れるほど甘くない。
だからこそ、大倉もこの身体強化魔術と持ち前の格闘術で修羅場を何度も乗り切ってきた……恐らくそんなところなんだろう。
……まぁ、僕だって、それくらい解る。
今の僕だって、この超XX人状態の大倉とやり合って、無事に済むような気がしない。
「はははっ! 先輩、さすがノリノリっすね。まぁ、ご覧の通り女神チートの加護もあるし、若い頃に鍛えた八極拳の修行だって怠っちゃいない。こっちで修羅場だって、何度もくぐってるから、簡単には殺られませんわ。まぁ、嫁さんたちにもイザって時の身の振り方も言ってありますからな。そこら辺は心配いらんですよ」
「なるほどね。さすがこの世界に転移して5年だか6年だか過ごしてるだけに、自分の身を守るすべくらいは身につけてるって訳か。ちなみに、僕もこの程度の芸当は出来るぞ」
『鋼のごとく我が豪腕』
……発動っ! ピンポイント式で、腕だけゴリゴリのマッチョになったのを見て、大倉も目を剥く。
「うぇっ! なんだそりゃあ……一瞬で腕だけマッチョになった! そ、それは魔術の一種なのか?」
「ふふふ、僕の筋肉への憧れが生んだオリジナルマジック『鋼のごとく我が豪腕』と命名した。素手でミックスジュースを作れるくらいのパワーはあるぞ? それに僕の尻尾は水を自在に湧き出させ、操ることが出来る!」
そう言って、センスを取り出して、チャーっと噴水芸を見せてやる。
その上で、吹き出した水をロープのような形で固定して、ブンブンと振り回して見せる……ランシアさん直伝の「水繰りの術」だ!
更に、この水を凍らせて、剣みたいにだって出来る。
以前は、あっさりポッキリ逝ってたけど、最近は中身ごとガッチガチに凍らせることも出来るから、前みたいにあっさり折れたりもしない。
「身体強化系魔術か……俺の能力はシンプルに防御力強化と、筋力パワーアップの強化系だから、俺と似たようなもんか。それに一緒に歩いてて気付いたんだが、先輩もこっちで何か武術か何かを修練してたようだな。体幹のバランスや身のこなしも昔と比較にならないし、何と言ってもその拳ダコ……並大抵の修行じゃそうはならんよ」
「ほほぅ、さすが……武術マニアでもあるだけに、解るんだな。まぁ、女神様直々に修行付けてもらって、三桁くらい死亡体験もしたからな。ただ今のお前と真剣勝負……とかなったら、ちょっと分が悪いな。というか、あんな通信講座でちょっと修行しただけで、鉄山靠とか使いこなせるようになったお前も大概おかしいぞ」
要するに、コイツは動けるデブ。
サモ・ハン・キンポーとかとおんなじ。
なんでも、八極拳ってのは重心移動がキモで、体重があるから不利とかそんなことはなく、むしろ体重をスピードに変換できる事で、素早いデブと言う理不尽な事になるんだとか。
実際、こいつの本気の動きは、もはやワープしてるような感じだしな。
僕も瞬間移動のような瞬歩とか使えるけど、あれは一時的に体重を軽減して、高速移動するって奴だから、八極拳の荷重移動の踏み込みとはまるで次元が違うんだよなぁ……。
「またまた、謙遜を……その剛腕に加えて、水系魔術の上位互換で難易度ベリハって言われてる氷結魔法まで使いこなせるとなると……並の術者と比べても、相当ハイレベルって事だぜ。戦力的には結構なハイレベルって事か……さすが先輩だねぇ……。まぁ、間違いなく猛者って呼んでいいだろうな……そこは俺も保証するぜ」
さすがに、そうまで言われて、悪い気はしない。
しっかし、さすが大倉だな……ただ一緒に歩いて、僕の身のこなしと、軽い魔術のデモストレーションを見せただけで、僕の強さのレベルを見切るなんて……。
なんか、改めてこいつに言われると自信が湧いてきたな……。
なにせ、僕だってセレイネース様の地獄の特訓を乗り切ってるんだからな。
何より、リヴァイアサン殺しで、一端の武人どころか英雄認定されているんだ。
あれは正真正銘、ヤバい戦いだった。
一瞬の判断ミスで死ぬ……あの時培った死の気配を避ける術。
今後もあんな風に命懸けの死闘に巻き込まれることだってあり得るけど……。
僕はもう逃げない!
けど、本物の剛の者でもある大倉に猛者呼ばわりされて太鼓判を押されると……なんかもう、嬉しくってしょうが無いな!
「ああ、僕のこの身体……どうも、魔猫族と言う古代種族の獣人の身体に女神に改造されたみたいでね。元々、チートって程じゃないけど、並の人間よりもハイスペックなんだ。けど、その上で文字通り死ぬ気になって、修行した……。まぁ、長年のダチにして、武術の達人だったお前に認められると悪い気はしないな」
「魔猫族か……確か勇者の一族とも言われるような伝説の獣人族のひとつだったな。それもその若返りの理由って事か。なんだ、体一つって言ってたけど、女神の特典としちゃ悪くねぇじゃないか……。しっかしとなると……どちらかと言うと、先輩自身より、周囲の嫁さん達の身の安全を……警戒すべきだな。そこら辺はどうなんだ?」
「……まぁ、僕の嫁さん達は多分みんな、僕より強いからねぇ……そこはあまり心配してない。ちなみに正式に嫁にしたのはまだ二人だけなんだが、婚約者も入れれば9人だな……。なお、まだまだ増えるよ! 状態なんだよなぁ……」
僕より弱い嫁さんって……まぁ、クロイエ様くらいじゃないかな?
三人娘だって、全員宝具持ちだから、直接戦闘力じゃ僕よりも上だし……。
「……何度も言って申し訳ないが、やはり正気の沙汰とは思えんなぁ……。だが、先輩は仮にもロメオの宰相……最高権力者と言っても過言じゃない。そうなると、政略結婚狙いも相当あるだろうから、嫁さんがソレくらいにはなっても不思議じゃないのか……。まったく、モテモテですなぁ! 昔一緒にナンパ行って、揃いも揃って全戦全敗だったのが嘘みたいだな」
そ、それは……僕らの黒歴史だな。
渋谷まで出向いて、道すがら女の子たちに片っ端から声かけて、片っ端からお断りされて……。
終いにゃ山姥みたいなメイクした化け物にまで声かけたのに、キモッ! とか言われて、逃げられた。
ううっ! あ、頭が……っ!
「せ、先輩? どうしたんですか? 頭抱えて……」
「いや、あの日のトラウマが……な。僕ら、なんであんな化け物にまで手を出そうとしたんだろうな……」
その一言で大倉も例の山姥に声をかけた件を思い出したようで、似たような感じで頭を抱える。
「先輩っ! こ、この話はもう止めにしましょう。お互い黒歴史という事で!」
「だな! だがまぁ、あの日飲んだシャンパンは美味かったし、キャバクラのお姉ちゃんにも慰めてもらったから、チャラだよな」
……結局、打ちのめされた上に、何もせず帰るのもなんだったんで、きれいなお姉さんの呼び込みのお誘いに乗せられるがままに、キャバクラへ突入ってなったんだ。
散々飲んで騒いで、お姉ちゃんたちにクダ巻いて……までは良かったんだがね。




