第六十六話「和平会議」④
かくして、帝国救済基金より提供された現ナマ砲と言う圧倒的な力を得た帝国経済官僚団は、反対勢力を片っ端から札束でぶん殴って、言うことを聞かすと言う荒業で、尽く黙らせていった。
商人ギルドの交易拠点……ザルインへの進駐なんて話は完全に立ち消えになったし、スライム軍団がもたらした被害についても、多額の詫び金……賠償金がロメオ、オルメキアの両国に支払われることで、合意している。
最初は、両国とも被害額を計算したと称して、ちょっと桁がおかしい天文学的なとんでもない額の賠償金を要求していたのだけど。
そこら辺は、帝国が支払える現実的な額というものがあったので、大倉と腹を割って話し合った上で、帝国に借しを作るという意味もあって、一旦商人ギルドが間に入って立て替えるという事にして、数十年単位の分割支払いにした上で、賠償金の総額も現実的な額にしてもらった。
まぁ、典型的なドア・イン・ザ・フェイスと呼ばれる交渉テクなんだがね。
帝国との賠償金交渉にしても、オルメキアとロメオで個別に行うのではなく、スライム軍団を半ば素通しにしてしまったオルメキアではなく、最終的にスライム軍団を撃破したロメオが代表して行うという事で、交渉の主導権を得ていたので、その辺りの匙加減は僕の思うままだった。
これは一見、賠償金額が減ったことで、損したようにも思えるが、要するに数十年単位での帝国の長期債権を握ったのも同然なのだ。
具体的には商人ギルドに間に入ってもらって、帝国相手に金を貸して、毎年一定額を返済してもらう……そう言う事になっているのだが。
言ってしまえば、リボ払いみたいなもんで、利息ばかり返して、原本はなかなか減っていかない。
年度ごとに支払う額は帝国の予算規模から見たら、問題にはならない程度の額なので、帝国の経済官僚も大倉も含めて、これなら問題ないかな……と納得してくれた。
もっとも万が一、帝国が再び何かやらかしたら、その債権については直ちに商人ギルドを通じて、全額一括で取り立てる……なんてコトも不可能じゃないのだ。
商人ギルドはマジで容赦ないので、そんなアホみたいな額を一括で取り立てられたら、今度こそ、帝国は死ぬ。
そう言う意味では、まさに帝国に対する楔……安全保証と言えるのだ。
なにより、如何に自業自得だとしても、一国相手に自重せず多額の賠償金を課すのは、大いに問題があると、第一次世界大戦後のドイツと言う実例が証明している。
戦争に勝ったからって、調子に乗って相手国の経済力を無視したような多額の賠償金を支払えなんてやっても、相手国がハイパーインフレ化するのが関の山。
そうなったら、賠償金の価値も暴落して二束三文になってしまうし、国際的にも飛び火して、物価レートなどがめちゃくちゃになると言った、ロクでもないしっぺ返しが待ってるだけなのだ。
それに何よりも、そうなると必然的に禍根が残る……そして、何十年か先にリターンマッチを挑まれたりもする……そんなもんなのだよ。
僕も大倉もそこら辺よく解っていたので、なるべく勝者や敗者という言葉を使わずに、どの関係国もあまり損を被らない様に、議論を重ねて調整に調整を重ねたのだ。
もっとも、帝国には、むしろこれだけは最低限、守ってもらわないと安心して商売できないと言うことで、商人保護条約の徹底履行要請と、オルメキアとロメオの両国に対する相互不可侵条約の締結……これらを正式に締結した上で、厳守するように要求しておいた。
特に前者については、商人ギルドがこれを守れないなら、帝国支部諸共、資本を全部まとめて引き上げると脅していたので、軍部にも徹底すると言う事で話がついた。
大帝様の命じるがままに、ザルイン接収とかブチ上げて、商人ギルドを敵に回して、結果的に文字通り火の車になった帝国軍もかつての強気は何処へやら、すっかりビビって、厳守の上で違反者は部隊単位で火炙りにし、連帯責任で上層部にも腹を切らせると誓わせたと官僚側からも言ってきたので了承した。
まぁ、上のモンが連帯責任をかぶると誓ってくれたなら、下っ端への締め付けも本気でやってくれるだろうから、そこらへんは信頼していいだろう。
亜人への弾圧や獣人への嫌がらせについては……原因の根が深い上に、民族感情やら戦争遺族感情ってややこしいものが絡んでいるようで、はっきり言って、対処は非常に難しいというのが現実だった。
なにせ、ヴァランティア殲滅戦では、数多くの獣人も犠牲になったが、帝国軍もその侵攻軍の半数近くを失っているのだ。
あの戦争は、数多くの悲劇と数多くの人々に遺恨ばかりを残して、帝国も結局何ひとつ得るものは無かったのだ。
まぁ、大帝様の支配力の要……スライムの擬態を獣人は簡単に見破ってしまう……要はある意味、天敵だった事で大帝様も獣人が大帝の抱く大望……世界征服の障害になる。
それこそが、帝国のヴァランティア侵攻と、獣人殲滅の大きな理由だったと言う話で……。
本気で、くだらない……世界征服とか、本気で考えていたのだすれば、その時点でド級の阿呆と言える。
その結果、ヴァランティアは崩壊し、仕掛けた帝国も凄まじいほどの被害を負い、残ったものは怨恨だけ。
至るところで、終わりのない戦いが巻き起こり……。
まさに、どうしょうもない程に意味のない戦争だった。
こんな奴がいるから……あの戦争の理由を知った時、思わず怒鳴り散らしたほどには、怒りを覚えたものだ。
結局、大帝のクソくだらない願望が全ての原因……帝国の人々も被害者の様なものだ。
世界に影を落とすガン細胞……直接会ったことはないのだけど、僕は個人的にも大帝と言う存在に心底から、怒りと憎しみを覚えている。
ロアと言い大帝様と言い……この世界には滅んで然るべきヤツらが多過ぎる……。
まぁ、いずれにせよ……僕が敵視しているのはあくまで、大帝サマ御本人であり、帝国臣民を皆殺しにしたいとか、帝国という国そのものを滅ぼすべきだとか、そこまでは思っていない。
そこら辺は、パーラムさんたち商人ギルドと同じではあるんだ。
帝国在住のエルフやドワーフと言った亜人連中についても、大帝の命で迫害対象となってはおり、大帝が静かになった事で、それもすでに有名無実にはなりつつあるんのだが。
どちらも、帝国在住ということで帝国臣民であり、領主によっては保護政策を打ち出していたにも関わらず、大帝の独断でスライム軍団をけしかけられたと言う経緯もあって、もう帝国にいる事自体、御免被りたいと言っており、現在進行系でロメオやオルメキアの山岳地帯への移住を始めているのだ。
帝国には、それらを邪魔したり止めたりせず、黙認するという事で、そこら辺も一応妥協してもらっている。
大倉達経済官僚はドワーフ族の持つ冶金、金属加工技術や機械技術、エルフたちの持つ高度な魔法技術の価値を良く解っていたのだけど。
いかんせん、亜人と獣人は皆殺しとか、馬鹿げた施策を実行に移した大帝がアホすぎる上に、言われるがまま、弾圧を傍観してたのは事実でもあるので、この辺りは何も言えなかったようだった。
また、旧ヴァランティア領の獣人への嫌がらせや迫害については、その多くがヴァランティア各地に拠点を置いて、あちこちに点在するように展開していた帝国遠征駐留軍の仕業であり、これらの拠点や駐留軍についても、全部まとめて撤兵するよう要求しておいた。
もっとも、この件については、帝国遠征駐留軍自身がもはやガタガタで、各拠点も事実上孤立無縁状態になって、畑を作って細々と自給自足生活を送っていたり、中には兵士が全員離散して、もぬけの殻になっていたような拠点すらあって、帝国軍としてもすでに統率も出来ていないような有り様だった。
なにせ、実際に帝国軍の連中も給料も飯も出ないってんで、いい加減食い詰めて、部隊単位で僕らのところまでやってきて「傭兵として雇って下さい! さもないともう盗賊になるしか無いんで、是非お願いします!」……なんて脅してるんだか、泣きついてるんだか解んない感じで、売り込んでくるような有様だったからなぁ……。
この元帝国兵達も、いいかげん結構な人数になってきてるんで、かつて帝国騎士やってたって言う冒険者のリードウェイさんやオッドボール氏に、まとめて押し付けて、再編成し某国自由騎士団とか称して、今日も熱心に街道警備に土木工事やら、頑張ってくれてる。
元々精強な帝国兵だから、統率も取れていて、練度も高いし、力仕事も難なくこなす、なかなかに使える連中なのだ。
僕の抱える私兵集団でも、地味に最大勢力になってるんだから、侮れない。
本人達とも面談の上で、帝国に帰る気あるなら、旅費くらい出すよって聞いたら、「飯も美味いし、給料前より良いし、週休二日で休みもくれるとか、ホワイトすぎて天国なんで、頼むから追い出さないで下さい」って、逆に泣きつかれた。
大倉とも話し合った上で、名目上、派遣兵士みたいな扱いにするから、しばらくそっちで面倒見てやってと頼まれたので引き続き、面倒を見ている。
大倉からは、兵隊の給料くらい帝国側で支払うと言われたのだけど、そこはきっちり断った。
帝国から給料が支払われるとなると、連中は名実ともに帝国からの派遣兵士となるのだけど、僕のポケットマネーで給料を支払うならば、それは僕の私兵以外の何者でもない。
安全保障と言う意味でも、忠誠心という意味でも、連中の給料の出どころは僕であるべきなのだ……そこら辺は、後輩だからって譲ってなんかやらないって言ったら、ちょっと涙目になってた。
なにせ、兵隊まとめて分捕られたようなもんだしなぁ……ちょっと悪いことした。
なお、反省はしてない……。
諸悪の根源にして、オルメキア侵攻の言い出しっぺの大帝様は、絶賛引き篭もってのガクブル状態で、まるで話にならないので、もはや居ないものとして扱われてて、帝室予算すらごっそり削られて、その熱烈な信奉者や側近なども風向きが変わった事を察して、一人また一人と夜逃げするように居なくなったり、バタバタと不審死を遂げたりして、もはや息していないも同然らしかった。
本来は国の代表として、今回の和平交渉でも立場的には、顔くらい出して、謝罪のひとつくらいすべきなのだけど。
まぁ、そう言う事情もあるし、別にわざわざ会いたいとも思ってないので、そこらへんは一切要求しなかった。
ぶっちゃけ、ロアの次くらいにブッ殺したいヤツなんでな……。
何より、国家指導者の最大の役目と言っていい国外交渉で、クソの役にも立たないとか、その時点であり得ない。
スライム大好きな外道大帝なんて、居なかった! それでいいじゃん。
それに、大帝サマがすでに居ないモノ扱いされて、長年築き上げた何もかもが、急速に失われつつあるのに、この期に及んで大帝は何もしないままなのだ。
まぁ、月に萌え絵描いちゃうような宇宙レベルのチートがいるってのが、知れちゃったから、恐怖のあまり精神的にお亡くなりになったのかも知れないけどな。
実際、サトルくんなんて頭おかしいバーサーカーだったのが、モンジローくんと言う圧倒的な力を目にした事で、すっかり浄化されて、ただの気の良い若者に生まれ変わったくらいだしね。
ちなみに、月の模様が萌え絵になった月・アート事件は、あったりまえのように世界中の人々に知れ渡り、女神様のトンチキな奇跡なんじゃないかなーくらいの認識で、受け止められることになったらしい。
まぁ……それなりの弊害も出てるっぽいけど、そこは……まぁ、それだ。
そして、法国の方では、女神ラーテルムとは別口の架空の創世神、厳ついヒゲの神様、法神ゼファードとか言うのが、もたらした奇跡とか言いたかったようなのだけど、猫耳萌え絵とではどう見てもイメージが違う。
色々悩んだ末に、いたずら好きなお茶目な女神「ラーテルム」って新キャラを追加して、そいつがやったことにして、創世神話もちょっと改変するとか、斜め上の事をやってるって聞いた。
ラーテルム様? 他所んちの神話にサラッと割り込むなよ……さすがコンビニの守護神だぜ。
法国って、頭のおかしい宗教国家だったはずなんだけど、着実におもしろワールドに取り込まれてるような気がする。
ついでに、帝国の首都が聖地って設定も変えてくれよ……多分、それだけで世の中平和になるから。
帝国もいっそ、帝都の一角でも法国へ巡礼用に割譲したっていいんじゃないかなぁ……とそんな提案もしてみたりしたんだけど、前向きに検討するとか大倉も言ってた。
帝国も帝都が聖地扱いと言ういい迷惑な状況に、いい加減困ってたのも事実だったからねー。
ひとまず、帝都の一角を建物一軒分とかでいいから、一方的に持ってけドロボーって割譲してやれば、法国としても聖地を奪還したという事で、一応顔が立つし、建物一軒分だって、聖地の一部には変わりない。
全部よこせとか、そんな虫のいい話が通じるわけもないし、飛び地だろうが聖地には違いないんだから、そこら辺で妥協しろって話だよな。
それに、法国の人達が飛び地の聖地巡礼旅行とか行くようになったら、通り道となる帝国のあちこちの土地にお金も落としていってくれるし、一石二鳥……なかなか悪くない話だと思うぞ。
それに、そうやって両国同士で交流が出来れば、そのうちお互いなぁなぁな雰囲気になって、聖地を巡って未来永劫敵同士なんて、ギスギスした関係からも卒業出来るかも知れないからな。
私の活動報告で、最新のAI生成による猫コンビニの登場キャラのリデザイン案を公開してますんで、
ご興味ありましたら、是非御覧ください。
これじゃないとか、このキャラビジュアル化して! とか。
読者の方からのご意見、リクエストなどもお待ちしております!
作品のキャライラパートもそのうち、差し替えの予定です。




