第六十四話「戦いの後には」③
まぁ、それはさておき。
モンジローくん、努力する筋肉を目指す……か。
やべぇな……ただでさえ天才なのにそれが努力する事を覚えたとか。
努力する凡人な僕なんかあっさり追い越されそうだ。
考えてみれば、僕もメタボもやしで貧弱な男そのものだったからな。
それが今では、こんな立派な筋肉に! この喜びをモンジローくんにも是非味わって欲しい!
結論:反対なんかする訳がないよっ!
「そうか。前々からモンジローくんも、むしろ身体鍛えようぜって思ってたんだ。そう言う事なら、大丈夫、僕も付き合うよ……共にいい汗流そう! トレーニング後に、ビールがぶ飲みとか最高だぜ?」
「さすがダンナっすな! 某もがんばるっす! それに、聞きましたわ……あのロアって野郎。なんでも使徒から女神の力を奪う能力を持ってるそうで……。ダンナが無事だったのも自前の力を徹底的に鍛え上げたから……だったみたいっすね。そう言う話聞いちゃったら、某もチート頼みじゃヤバいって思いますわ。何より今回、女神チートなしだとどうなるか肌で解りましたからなぁ……。これからは、チートなしじゃ使えない男は卒業して、素でバリバリ使える男を目指すっすよ!」
……マジか。
そういや、あの野郎……自分の力が通じないとか騒いでたな。
アイツからしてみれば、女神チート没収で僕を無力化出来たって思ってたんだろう。
最初、圧倒できたのもそう言うのがあったんだな。
どうも、僕自身のこだわり……自前の力にこだわるってのは、結果的に正解だったみたいだ。
それに実際問題……一応目に見えるダメージは与えてたし、アイツ自身もびっくりしてた感じだったからな。
もしも、あのクラスの魔神の分体と再戦する機会があったら、同じ分体をぶつけるなんて、非効率的な方法じゃなくて、なにか別の対抗手段がないかどうか……色々試してみるのもいいかも知れない。
アージュさん辺りにも相談してもいいかもな。
セレイネース様もやけにすんなり使徒にする事を諦めたんだけど、こう言う可能性も考慮してたのかも知れないな。
「……そんなだったんだ。これは誰にとっても計算外ってことか……。案外、使徒の力や神々の力とか抜きのほうが魔神には、対抗できるのかも知れないな」
「そうね……君とロアの戦いの序盤なんて、完全に圧倒してたからね。いくら、ロアが本気じゃなかったとは言え、あそこまで何度も完全に殺せたってのは、健闘どころの騒ぎじゃなかったわ。言っとくけど、分体とは言え、魔神を素手で撲殺したなんて……前代未聞よ。魔神戦争時代の生き残りが聞いたら、理不尽すぎて軽くブチ切れるかもね」
そこまでのことだったのか。
確かに、ロアもめっちゃキレてたしな。
序盤は完全なワンサイドゲームだったけど、あれでも反撃しようとしてたのかもしれない。
けど、あれを完全に倒すとなると……やはり、もう一段上の力が必要なんだよな。
「神様の力を借りずに、魔神を圧倒できる可能性……か。こいつは、ちょっと追求する価値はあるかもしれないな」
「ですな! いやはや、某もイケメン魔神をフルボッコとかやってみたいっすよ! そして、見る影もなく変形したそのイケメンフェイスを我が右腕で未来永劫残り続ける記録として、克明に描き写し晒しモノにするっす! いやぁ、きっと最高にメシウマっしょな!」
ああ、それいいな。
僕もあのクソ魔神のボコ面を写真にでも撮っとけばよかったな。
なんだかんだで、僕にボコられて、死にまくったの随分根に持ってたみたいだし。
となると……まぁ、完全にアレに目をつけられたと思って良さそうだ。
「だな! まぁ、間違いなく再戦の機会はありそうだから、その時はまたフルボッコにしてやるよ!」
根拠はないけど、再戦の機会があったら、今度は圧勝出来る気がする。
多分、あれが最強形態だったんだろうけど、最強装備とかも含めて封印されたようだから、次は多分弱くなってる。
出てくる度にダウングレードするボスキャラ。
なんか、笑えるな。
「やる気があるのはいいことね。あなた達なら、魔神を完全に打倒出来るかも知れないわね。でも、モンジローくん達ラーテルムの使徒は、もうちょっとなんとかなると思うわよ。さすがに、ロアなんての大物が出てきて、本来の大陸の守護神……ラーテルムが引き篭もってるとか、そりゃ無いって事でラーテルムの限定分体を降ろす事になったのよ。ロアの分体はなんとか封印したけど、アレが何の仕込みも無くノコノコ姿を現すとは思えないのよ……つまり、これで終わりなんて思っちゃ駄目。多分、アレが出てきたのは、アレの悪巧みの最終段階だったとかそんなだと思う……」
「そうですなぁ……。良く解らんっすけど、根性ひねくれてネジ曲がったクソッタレ野郎だってのは何となく解るっす。絶対、色々置き土産やら他の分体やらを残していってると思いますぜ? そうなるとやっぱり、某やテンチョー殿や他の使徒連中じゃ手が足りなくなるかも知れねぇし、使徒の力のボッシュートとか食らったら、ヤバいっすよ。そうなるとラーテルム様なら、アンチクショウにも対抗できると?」
「まぁね……。ああ見えて、ラーテルムは天空神の直系だからね。魔神相手ともなると相性的な問題で天敵と言っていいくらいには強いはずなのよ……本来は」
本来はって事は、今は微妙って事っぽい。
「うーむ、あの御方の分体とかホントに役に立つんスかね。某は不安ですぞ?」
「そこは私も同感なんだけどね。幸い聖光教会になかなかの巫女がいたみたいで、仮想分体を降ろして、同調させる方式が使えそうなの。それなら、多少ラーテルムが無能でも巫女側で補えるから、随分マシなはずよ。多分、上手く行ってると思うから、タカクラくんも会ってあげて欲しいな」
「ラ、ラーテルムの地上降臨? ……それって以前、僕がこっちに来た原因になったってヤツですよね? なんかどえらい事になりかけたって聞いてますけど……あの、やめといた方が……」
具体的には、異世界と日本が繋がって、首都圏大地震発生で日本終了のお知らせになりかけた上に、僕と僕のコンビニはその後始末とやらで、思いっきり巻き込まれた。
まぁ、すべての始まりと言ってもいい。
それをまたやるのか? 鹿島さんとか聞いたら、普通にちょっと待てって制止されると思うし、僕も絶対反対したい。
「……あれは、彼女が自身のフルスペック降臨……なんて無茶をやろうとしたからよ……。そんな事、試すまでもなく失敗するって解ってたんだけど……あの子、向こう見ずな所があるからねぇ……。あ、一応言っとくけど、あっちの世界への余波をギリギリで食い止めたのはこの私だったのよ。もっとも、あれでせっかく溜め込んでた力を使い切っちゃった上に、思いっきり君を巻き込んじゃったからね……。一応、責任とってアフターケアくらいはやっとけって、ラーテルムに諸々押し付けちゃったんだけど、正直、失敗だったみたいね……ごめんね」
……今知った驚愕の事実。
てっきり、ラーテルムが頑張ってなんとかしてくれたと思ってたんだけど。
セレイネース様のおかげで、最悪の結果にならずに済んだんだ……。
やっぱり、真の女神の称号は、セレイネース様にこそふさわしいですよ。
妙に、僕の肩を持ってくれてる気もしてたんだけど。
本人なりに負い目を感じてたのかも知れないな……。
ああ、僕はこれまで神様なんて居ない……と言うのが持論だったんだけど。
神はいた……セレイネース様、万歳っ!




