第六十四話「戦いの後には」②
「ええっ……本気で怒ってるって思ったんだけど。さすがだよ……けど、 モンジローくんはヘタレ陰キャラなんかじゃないよ。僕にとっては、憧れのヒーローみたいなもんなんだ。それにまだお礼も言ってなかったよね……あの物凄い光魔法? 凄かったね……あれだけいた敵が一掃されちゃうんだもん」
「ふっふっふー! 某の勇姿……ダンナにも見せたかったっすよ! ダンナを慕う仲間達の思いと力を結集して、勝利を託す! まさに王道! もう、こうなったら、ダンナを主人公に一作描いちゃいますかねー!」
「よ、よしてくれよ! 自分が主人公の漫画とか……と、当然R18展開もありなのかな?」
「あったりまえっすよ! 某を誰だと思ってるので? まぁ、一般公開用は全年齢版、R18仕様はダンナのお楽しみ専用ってことで! どうっすかね? なんだったら、ダンナの理想のコとかもデザインしちゃうっすよ?」
「なんと言うか……相変わらず、君は解ってるねぇ……僕の返事は、喜んで! この一言だね」
ちょっと複雑なんだけど、憧れの作家に自分を主人公にした作品を描いてもらえるとか。
それは、愛読者冥利に尽きるって話だよ! しかも、理想の女の子それも悶々崎先生デザイン!
歴代マンガのあの子とか、あのゲームに使われてた悶々崎先生デザインのあの子もいいなぁ。
もしくはいっそ、注文付けまくりのオリキャラヒロインとかも! も、妄想が捗るなぁ……。
「さすが、ダンナっすなぁ……その様子では、今頃、どの子にしようか悩みまくリングっすな? ええですよぉ……なんでもリクエスト言ったってください。現実では絶対に無理なコと夢のようなシチェーションで……とか、某の創作世界ならば自由自在っ!」
「……ふっ、さすがモンジローくん! ちょ、ちょっとそこら辺は、じっくり考えて、色々と相談させてもらえないかな? ちょっとばかり、ワガママ言っちゃうかもだけど……」
「ええですおー。某っては、ダンナのポン友にして理解者でもあるっすからね!」
「そんな訳で……ひとまず、この話は後回しにしよう。理由は解るね?」
そう言ってセレイネース様にちらっと目線を送ると目が合う。
なんだか、すっかりモンジローくんと内輪話で盛り上がってしまってるんだけど。
こんないかがわしい話で盛り上がってるのってどうかと思う。
アージュさん辺りなら汚らわしいっ! の怒声と共に鉄拳制裁だぜ!
でも、意外なことに、解ってるから気にするなと言わんばかりにニッコリと微笑まれる。
「……大丈夫っす! セレイネース殿は、懐の広いお方っすから。某達が何の話をしてるか、解った上で……ですよね?」
「あはは、私は蚊帳の外でも気にしないから。君たちの話、全然解んないって事にしとくわ。君たちが仲いいってのは、言われずとも解るわ。悪くないわね……竹馬の友、盟友って奴よね?」
「はっはっは! ひょっとして、某とダンナに男の友情ってモンを垣間見て、お腹いっぱいっすかね?」
「ふふん、解ってるじゃない? モンジロー先生、あ……例の本、今度私にも回しといてね! ラーテルムばっかりに貢ぐのって良くないと思うわよ」
「ははっ! お任せあれですぞーっ!」
なんと言うか……女神に愛されし男の二つ名は伊達じゃないね!
三次元女性は苦手とかいいながらも、この世界にも悶々崎先生の女性ファンは結構いて、最近は街を歩いてて、サインをせがまれたりとかしてるのをよく見る。
最新作「七騎士英雄物語」とか言う野郎しか出てこない暑苦しい少年漫画チックのが、こっちの世界で大ヒット……してて、その影響なんだとか。
僕も読んだけど、むっちゃくちゃ面白かった。
モンジロー先生は、熱血マンガ描かせても、超一流だからね。
「ファイヤー☆メン」名義で描いてた「ドラゴンシューター」とかアニメ化されて、めちゃくちゃ売れてたからなぁ……。
もっとも、この「ドラゴンシューター」だけでなく、いくつもの名作がモンジローくんの失踪で、ごっそり打ち切り。
続きが読めなくなって、ガッカリしたのは僕だけじゃなかったからなぁ。
どの作品もそれなりに有名な作家が代筆したり、アシスタントが連載引き継いだり、出版社側も頑張ってたけど、絵柄も違うし、クオリティも露骨にダウン。
展開も無理やりつなげようとした結果、クソ展開になってキャラの性格も微妙に違うわで大不評。
まぁ……所詮、有象無象の凡才が天才の後を継ぐとか無理な話だったのだよ。
結局、ほとんどの作品が「俺達の戦いはこれからだエンド」で打ち切り……やるせない話だった。
「……やっぱり、君は尊敬に値する男だね……さすが、モンジローくん! セレイネース様、まずは入門編として、こっちの世界で爆発的ヒット中「七騎士英雄物語」辺りがお薦めですよ」
「あ、それ知ってるわ。ラーテルムから見せてもらった。イチオシって言ってたけど、もう超面白くてさぁ……! もしかして、続き今すぐ読めるとかしない?」
「ふふ、来週の貢タイムを楽しみにしてるっすよ。そこら辺は女神様と言えど妥協はしないっす!」
「うんうん、そうやって、時間ギリギリまで使って、出来る限りクオリティを上げる。それが悶々崎クオリティなんだよね! さすが天才だ! さすがモンジローくん!」
「それほどでもないっすよー。ダンナも褒め過ぎは良くないっすよ……照れるっすよ」
「いやいや、モンジローくんの多才っぷり。尊敬以外の何を思えというのかって感じだよ」
「いやいや、某こそ、旦那のことは超尊敬してるんすよ? 努力だけでそこまで強くなっちゃうし、さっきの演説とか立派だったじゃないですか。まるで王様って感じで超かっこよかったっすよ。まさに成長する主人公! かっこよすぎっすよ!」
「そ、そうかな? モンジローくんに褒められると、なんと言うか恐縮だね……」
うーん、さっきは役目を果たさないとと言う一心で、かっこよく演説とかしてたけど。
モンジローくんから、立派だったって聞くと照れるな。
と言うか、めちゃくちゃ嬉しい!
天才に認められて褒められるとか、これにまさる栄誉ってなかなか無いと思う。
「まぁまぁ、そこは素直に胸を張って下さいな。あ、そうそう! 実を言うと、今度から某もチートキャラは卒業して、努力系キャラを目指すつもりなんす! 今日からさっそくお休み前の筋トレとか始めるっすよ! 努力系のダンナにも色々聞きたかったんっすけど、最初は腕立て、腹筋、スクワット各100回を目標……これくらいがいいっすかね?」
うん? むしろそれ……準備体操じゃないの?
いや、このモヤシボディで腕立て、腹筋、スクワットの100回セット……多分キツイぞ?
僕だって最初は腕立て20回くらいでヘバッてたからなぁ……。
けど、その心意気やよしっ! そう言うことなら、僕なりのアドバイスくらいしないとな。
「いいんじゃないかな? あくまで目標……最初は十回、二十回でヘバッちゃうかも知れないけど。無理はしないこと。例え、十回が限界だったとしても、次の日は十一回……その次は十二回……とにかく、少しでも回数を伸ばそうとする……。毎日の努力ってのは、日々精進……常に昨日の自分を超える……そうイメージする事が大事なんだ。かくいう僕も最初は5kmのランニング程度でヘバッててね。ラドクリフさんに、その程度でヘバッてるようじゃ、戦場に出たら、そのままそこで死んでしまうぞ? なんて怒鳴られてたものだよ」
「うーむ、百回くらい楽勝とか思ってましたが……そんなもんかもしれないっすな。日々精進、昨日の自分を超える……深い言葉っすなぁ。でも、確かに素で5kmランはキッツいっすなぁ……某、三十階建てのタワマン住まいだったんすけど、健康のために階段使ってーとかたまにやってたんすけど、いつも三階くらいギブアップっしたからな」
素のモンジローくんひ弱っ! 階段三階でギブって年寄だってもうちょっと頑張れるぞ。
でもまぁ、漫画家とか身体使う仕事じゃないしなぁ……。
ちなみに、モンジローくんは多摩川の川っぺりに建つ豪華タワマン住まいだったと言う話。
コンビニ行くのにもヘイ・タクシーとかそんな感じで、まさに現代の貴族、セレブってヤツだね!
なんだかんだで、怪物売れっ子漫画家だったからなぁ……モンジローくんって。
モンジローくんの異世界転移による失踪。
その結果、日本の漫画業界はとてつもない大打撃を被ることになったのだよ。
各マンガ誌の人気作品が作者失踪で一斉打ち切り……。
それは、半ば必然的に発生した。
ファンの間では半ば公然の秘密だったのだけど、モンジロー先生は、およそ二桁にも及ぶペンネームを使い分け、エロ漫画のみならず、ありとあらゆるジャンルに進出してヒットを飛ばしまくっていたのだよ。
彼の失踪に伴い、それら人気作品の一斉休載と言う大問題が発生し、半ば必然的にその驚愕の事実が世に明るみとなった。
そして、その偉大なる才能が失われたことに、数多くの漫画ファンが怒り、涙した。
なお、鹿島さんから教えてもらった日本での公式記録では「坂崎紋次郎(28) 川崎警察署にて、婦女暴行傷害事件の参考人として事情聴取中、担当刑事に対する暴行と公務執行妨害容疑により、長期に渡る不当拘禁が行われる。拘禁10日目の深夜、坂崎容疑者は取り調べ室の窓を破壊し脱走を企て、地上6階から飛び降り、そのまま行方不明となる」となっている。
鹿島さん達は、こちらの世界に転移したということは把握していたのだけど、警察側の視点では、どう考えても死んでしまったとしか思えない状況にも関わらず死体も発見されず、その後の足取りすら一切掴めず終い。
鹿島さん達は、警察よりも立場が上で、要らない口出しはしないと決め込んでいたので、この事態を傍観。
警察側に残されていた記録として、敷地内の監視カメラには発光しながら落ちてきた人影が地上すれすれで消えると言う衝撃映像が記録されており、当直の署員の目撃証言などもあったらしいのだけど、その監視カメラの映像や証言については、鹿島さん達の圧力で非公開……無かったことになった。
警察側としては、必然的に説明できる範囲での説明……警察署の建物内で行方不明になったと言う扱いにせざるを得ず、警察の発表も要領を得ない微妙な発表となってしまい、マスコミやら有志による大々的な追求が始まったのだ……。
まぁ、当たり前といえば当たり前。
元々何処ぞのバカがモンジローくんの作品を模倣して本当に犯罪をやらかして、その参考人と言うことで招致したはずなのに、密室の取調室での担当刑事への暴行容疑による不当逮捕に不当拘禁。
それだけでも大問題なのに、挙げ句にその容疑者が警察署で行方不明になったなんて、そんなアホな話が通じるわけがない。
おまけに、モンジローくんは大規模休載騒ぎですっかり時の人状態。
モンジローくんと警察の確執は、本人がインタビューとか、あとがきなんかでしれっと漏らしてたことで、割と有名な話だったので、うっかり獄中死させてしまって隠蔽しただの、人知れずどこかに移送して抹殺したなど、そんな憶測が飛び交うなか、当事者の警察もしどろもどろの回答を繰り返すばかり。
警察のやり過ぎだとか、人権侵害だの……隠蔽工作だの……案の定、大炎上。
社会的な大問題に発展し、担当刑事や警察署長など大勢の警察関係者のクビが飛んだだけに留まらず、警察の大ボス警視総監のクビまで飛ぶと言う前代未聞の騒ぎに発展した。
彼を犯罪者に仕立て上げた担当刑事については、詳細なプロフィールがネット上に公開され、家族は離散、その自宅も何者かに焼き討ちにあい、愛車のベンツは盗難された挙げ句、徹底的に破壊され炎上した状態で発見。
再就職先の大手警備会社にも連日の電凸攻勢が行われ、あっさり解雇が決定。
その後も引越し先まで晒され続けて、もう日本に安住の地はなく、命の危険すらあり得ると悟ったらしく、南米だかなんだかに高跳び。
その後……現地マフィアの抗争に巻き込まれ、お亡くなりになったらしい。
あまりにも悲惨と言えば悲惨。
明らかに、やりすぎだとは思うのだけど、この刑事は正義の名において、それまでも多くの人々を不当逮捕して犯罪者に仕立て上げたり、ヤクザともつながりがあって、賄賂やらで懐を肥やしていたクソッタレ野郎だったことも判明している。
南米でもマフィアに匿ってもらって、幹部として悪事の限りを尽くしていたようで、抗争に巻き込まれたと言うよりも、悪目立ちしてたから、半ば見せしめに殺された……と言うのが真相らしい。
要するに、相応の外道だった訳で……因果応報って言葉がしっくり来る。
この事件がきっかけになって、マンガ業界は微妙な作品だらけで冬の時代を迎え、二次元規制についても警察側が関わると皆、不幸になるとばかりにすっかり及び腰になって、割とユッルユルになっていったってのは、なんとも皮肉な話だった。
これが世にいう「悶々崎事件」
……Wikipediaに載っちゃうくらいの大事件のあらましだ。




