第八話「異世界コンビニ大繁盛っ!」⑤
うーん、和歌子さんも言ってたけど、どうもキナ臭い世界に足を踏み入れたっぽいな。
こりゃ黙ってると、なんか妙なことをさせられるぞ……資源調査とか程度なら良いけど、現地人の捕獲やら、経済的な侵略の片棒を担がされるとか……。
日本のコンビニを異世界に進出させるとか……冷静に考えると、ちょっと便利になる程度じゃなくて、結構なインパクトを与えるような気がしないでもない。
なにぶん、コンビニの商品なんて、食べ物中心だからと言っても、どれだけ影響が出るか解ったもんじゃない。
軽くてお手軽な保存食や飼料……それらが世に出回り、模倣されるだけでも、軍隊の行動範囲の拡大と言った影響が出るだろう。
でも……もう始めてしまったのだから、今更後戻りなんて出来やしない。
……それにこっちの世界の神様も……鹿島さん達と繋がりがありそうな感じだし、絶対、なんか企んでそうなんだけど……そっちも、どうなんだろうな?
結果的に何事もなく終わったという話だけど、割と洒落にならない事をやらかしているのだから、何らかの形で日本政府側と取引があったはずだ。
これ……例えるならアメリカとかが、何かの間違えで核ミサイルを日本に打ち込んだようなもん。
常識的に考えて、そんなもん宣戦布告と取られても文句言えない状況だし、自分達で撃墜したから、チャラに……なんて、簡単に終わるはずもない。
不測の事態だったとしても、再発防止は最低限要求するだろうし、何よりもこの世界の神様も日本側に負い目が出来てしまっただろう……。
その事を盾に、それまで細々とやっていたこの世界への干渉を、大々的に行う同意を取り付けた可能性もある。
恐らく……僕らは、こっちの世界の神様と、日本政府という二人のゲームプレイヤーによって、置かれたコマの一つだ。
双方の目的のために、何かをさせられることになる……。
それは間違いないし、どんな大掛かりな事に巻き込まれるか解ったもんじゃない。
そんな流れに、いつの間にか乗せられる……出来るだけ避けたいんだけど、すでにその流れに乗せられつつある……。
これは肝に銘じておかないといけない……。
今の所、鹿島さんも嘘は言ってないだろうけど、それはあくまで、嘘を言ってないってだけの話。
都合が悪いからって、こっちに伏せてる情報だって間違いなくあるだろうし、どうも肝心なところをボカされてる気がする。
結局、今……解ってる事なんて、そう多くない。
まず、日本の政府機関なのは理解できる。
そして、警察やネット情報を抑えられる程度には、高い権限を持ってることも。
そして、和歌子さんのような異世界間を転移する能力者や転移アイテム所持者を統括して、異世界に転移させられた日本人のフォロー、日本側でのトラブルの後始末などもやっているらしいこと。
こちらの世界の情報提供を求めてこない様子からも、すでにこちらの世界の情報を持っていて、改めて僕らに聞くまでもないってことが伺える。
となると、間違いなく他にも政府が影響力を持つ異世界人が複数いる……そう考えるべきだけど、それらの情報も伏せられている。
要するに、必要だろうと判断したことや、聞かれたことは正直に答えるけど、聞かれてないことや不都合な情報は教えない……そんなスタンスなのだろう。
まぁ、その事自体は不誠実とは思わないし、追求する気もない。
僕ら商売人だって、原価率を正直に公表して商売なんてしないし、今の所僕らにとってのデメリットは皆無に近い。
仕入れ代金とか光熱費まで負担する……なんて言ってるのは、こちらの足元を見た上で恩を売る支援策の一環かもしれないけど……さすがに、これに頼り続けるつもりはない。
それに頼る以上は、僕は日本国から束縛されることになるのだから、出来ればそんな枷は取っ払いたい。
ライフラインについては、得体の知れないシステムや日本側の援助に頼るのではなく、この世界での自前供給体制も考えないといけない。
さすがに、一般家庭の一か月分の消費電力を一日で消費するコンビニの電力を賄うなんて、太陽電池とかいくら並べてもおっつかない。
非常用のディーゼル発電機を持ち込むって、手もあるにはあるけど、問題は燃料。
この世界でも探せば、石油くらいありそうだけど……そんなモン見つけた日には、今度は日本政府とか絶対目の色変える……絶対、そう言うのも目的の一つのはずだ。
地球でも、何気に石油資源って赤道近辺に集中してる傾向があるから、この世界でも多分、このジャングルの地下とか、油田の一つや二つはありそうだ。
たぶん、世界間でライフラインを繋げた仕組みとかだって、ああは言いながら、躍起になって研究するだろう……ライフラインが通せるってことは、パイプラインとか大量輸送経路が確立出来るって事だからな……。
うちの運転資金の全額負担したって、余裕でお釣りが来るとか絶対考えてると思うぞ。
それに、本部だって……まだ直接ちゃんと話せてないんだけど、どうでてくるやら……。
自分たちの商品が異世界で売れると解れば、千載一遇の好機と考えるだろう。
でも、いつまでも、向こうのイエスマンでいるようなつもりはサラサラ無い。
こうなったら、使えるものは何でも使って、とにかくイニシアチブを取り戻さないとな。
非合法の闇金も……ここはコネをフル活用して、なんとかしたいところだし、この世界の現金や貴重品を向こうの世界で換金する術も考えなくてはいけない。
それにしても、運び屋の一人が和歌子さんだったのは、僥倖だった。
彼女って何気に、元ヤンレディースで、ヤクザ屋さんのようなアングラな世界にも顔が利くんだよなぁ。
何かと破天荒な人ではあるんだけど、長年僕の右腕のような存在で、お袋や親父もお気に入りで、嫁にもらっとけ! なんて言われてた……まぁ、嫁には要らないけど。
……そう言う意味では信頼はできる人材ではある。
和歌子さんは、あの様子だと向こうとこっちを自在に行き来できる。
その上、義理と人情に篤く裏社会にも通じてるような人だから、僕の代理人として、向こうの世界で動いてもらうとなれば、彼女以上の人物はいない。
いずれにせよそうなると、和歌子さんの協力が不可欠なのだけど……。
ここはもう全部打ち明けて、協力者になってもらおう……彼女とは、色々お互い貸し借りある仲だし、近い内にプライベートで少し話をしようと……彼女は暗にそう言っていた。
付き合い長いから、それくらい解る……。
たぶん、そのうちなんだかんだ理由をつけて、フラッと一杯やりにでもくるだろう……そうなったら、悪だくみタイムってとこだな。
正直言って、この世界の神様もなんだが、鹿島さん達日本政府も、個人的には全く信用出来ない……僕はそう考えている。
だからこそ、まずはこちらの世界で、独自のコネや仲間をどんどん増やしていく……こっちは、恐らくこれから善人、悪人、権力者……色んな奴が接触してくるから、ほっといてもそうなるだろう。
そして……出来るだけ、皆が得するような選択を重ねる……悪人も善人も区別しない。
経験上、根っからの善人ってのも、性根の腐りきった悪人なんてのは、あんまりいない。
ヤーさんだって、義理と人情ってもんをわきまえてる。
信頼と実績、信用ってのは、そうやって清濁併せ呑みながら、築いていくんだ。
向こうでも、そうやってそこそこ上手くやってたんだ。
こっちでも、それをちょっとスケールデカくしてやっていけばいい。
なんか、物語なんかじゃ、異世界転生者が救世主になったり、世界を動かす大きな力になったり……なんてのもあるけどさ。
その影で、犠牲になったり、不幸になる人達って大勢いるはずなんだよなぁ……デカいことすりゃ、当然そうなるよ。
神様とか日本政府とか……誰の思惑にも乗らず、とにかく、関わった皆を、幸せにして回る……そんな異世界転移者が一人くらいいたっていいんじゃないか?
僕は、巷に溢れる異世界冒険譚を読みながら、そんな事を考えてしまった読者でもある。
例えば、ケモコミの女子高生みたいな主人公。
あの話は、結局誰ひとりとして不幸にならない……ライバルも敵役も……皆が笑いあって最終回を迎えるんだ。
まぁ、残念ながら、僕は猫耳おっさんって誰得な姿なんだけど……そんな主人公になら、なってみたいもんだ。
余談ながら……最後に、鹿島さんから、親父達にもすでに連絡が行っていると告げられた。
まぁ、どんな話をされたのか良く知らないけど……あとで、元気にやってるから、心配するなとメールでも送っておこうかな。
そういや、お袋あたりはうちにも何度か来てるから、テンチョーのことも知ってるんだよな。
猫ってやつは、女性やお年寄りを好む動物だから、割とソッコーで懐かれて、お袋もめっちゃ気に入って、マンションがペット可だったら、迷わずうちの子にするのに……とか言ってた。
そのテンチョーがこんな美少女になりましたって、写真送ったらどんな反応するだろうかな。
また嫁にもらえ……とか、孫見せろ……とか言われたりして。
鹿島さんからのやり取りが終わり……夕焼け色に染まる空を見上げながら。
僕は、そんな事を考えるのだった。




