第五十九話「決戦……死闘の始まり」③
「くっ! 何事か!」
臨時艦長を引き受けてくれたラトリエちゃんのお父さんのロキシウス侯爵が叫ぶように、報告を求めてるっす。
某にも報告お願いしまっす!
「報告っ! マグルフです……大量のマグルフの群れが現在、当艦に向かってきております! 今のは船体舷側部に直撃を受けた模様……! 現在、バリスタ隊が迎撃中……ですが、とても仕留めきれそうもありません!」
「なんだと! こんなタイミングで……それに、セレイネース様の加護があるのに、海の魔物が何故襲いかかってくるのだ!」
侯爵さんも焦りを隠せない様子。
セレイネース様の加護どころか、本人の分体がいるんだから、海の魔物達も近づこうとも思わない……とか、言ってたっすからねぇ。
それ故に、これがただならぬことってのは、某にも解るっす!
「侯爵よっ! 直ちに反撃の準備をするがよい! リスティス! セルマ! お前達は侯爵達が反撃の準備を整えるまでの時間を稼げ! ラトリエもケントゥリ殿にこの状況を伝え、フォローに入れ! セレイネース殿、些かイレギュラーな状況になりつつあると思うのでな。申し訳ないが、我らはケントゥリ殿の支援行動を始めるぞ? と言うか、こんなマグルフ程度なら、貴殿の加護で寄り付かないはずではなかったのか?」
「……これは、おかしいぞ! こいつら、私のコントロールを一切受け付けないだとっ! 馬鹿な……我が神気を受けて、平然としているなど……あり得ん! 何故、この者らは暴走しているのだ!」
……なんとまぁ。
こいつは、ヤクい展開ですなぁ……。
某も、なんとなく嫌な予感がしたから、役立たずになるのを承知の上で、無理を言って付いてきたんスよ。
ちなみに、マグルフとか言ってますが。
要するに鼻が槍みたいになったビッグマグロっす!
けど、たかがマグロとか侮るなかれ。
2mくらいはある上に、水中速度も軽く100km近い速度で突っ走るっす!
船底なんかに当たると、マジで軍艦でも沈められるとかそれくらいには物騒なマグロなんすよ。
余談っすけど、地球のマグロは海中で時速100kmなんて出せません。
よくある誤解なんスけど、実は奴らって、せいぜい20km程度でしか、泳げないんスよ……これ豆っす!
しっかし、セレイネース様と言えば、言わば海の生物の頂点にして、支配者のようなお方。
そんなお方の命令を受け付けないとなるとなるとーっ!
これは、同等レベルの何者か……つまり神レベルの存在による干渉の可能性が高いっす!
根拠はないっすけど、こう言うのってありがちっすからね。
「セレイネース様! 某……状況は理解しております。これは恐らく、セレイネース様と同格、或いはそれ以上の格の何者かの干渉かと。これはダンナの修行の仕上げどころではないと愚考するものなりっす!」
ちらっとテンチョーさんに視線を送ると、無言でコクリと頷かれるっす。
いつもみたいなのほほんとした雰囲気もなく、耳を立てて周囲の様子を探ってるのが解るっす。
どうやら、未知の強敵の気配にテンチョーさんも勘付いてるみたいっすね!
「解っておる! だが、我が加護を打ち消すほどとなると……まさか……古の神々? いや、あれらが今更蘇るはずがない……しかし、これは……」
「セレイネース様! どうやら、考え込んでる余裕は無いみたいっすよ? ひとまず、こっちはこっちでなんとかしないとダンナの支援どころじゃねぇっす! うひょーっ! なんか乗り込んできたっすよ!」
……魚の顔に、鱗だらけの身体に水かき付きの手足。
絵に書いたような半魚人がノソノソと船の上に這い上がって来てるっす!
「うにゃ! にゃんだあれーっ! お魚人間だにゃっ!」
……何処を見てるのか解らない目。
バクバクしてるエラ。
三叉の槍みたいな武器を構えて……今にもテケレリとか言い出しそうな感じっす!
「……あれは「深きものども」……ですかな。どうやら、某も本気を出さねばならないようっすね……」
まさかこっちの世界でクトゥルー勢力とか出てくるとは思わなかったっすな!
そう言う事なら、お話合いだのヌルい事は言わんでよろし。
クイッとメガネを上げて、和歌子さんよろしく、三戦の構えでゴゴゴって擬音が出そうな勢いで立ち上がってみるっす!
おお、なんか半魚人が怯んだのが解るっす! 某、魔力だけはハンパねーっすからな!
……なんか某、かっこいいかもしんねぇっす!
ラーテルム様が某専用とか言って授けてくれたチート武器をついに抜く時が来たようっす。
腰にぶら下げてた20cm程度のペンライトみたいなのを正眼の構えで構えるっす!
魔力をこう……流し込めば……!
光り輝く1mくらいの蛍光灯みたいな棒きれの完成!
こいつは、要するに、ライトセーバーっすな!
これで、切れないものはないとかなんとか言ってたっす!
うーん、ラーテルム様?
こりゃ、さすがにオーバーテクノロジーじゃないっすかね。
ファンタジーってなんでしたっけね。
「うにゃーっ! モンジローがいつになく、マジだにゃーっ!」
「なんじゃ、その光の剣は……っ! まさか、それは宝具なのか?」
「名前はシンプルにひかりの剣だって言ってたっすけど、ビームサーベルって奴っすかね。もっとも、某剣なんぞ振ったこと無いんで、適当に振り回すだけっすけどね!」
悲しいくらいの宝の持ち腐れっ! 残念っ!
これを華麗に振り回すイメージは容易に脳裏に浮かぶんスけど。
実際、某がどこまでイメージ通りに動けるか……!
「はぁああっ! 某、剣の舞……踊っちゃうっすー!」
ドタドタと、適当に走り込んで半魚人に切りつけ!
なんか、余裕って感じでガードされたっす!
けど、ガードとかお構い無しで真っ二つー!
……すっげーっ! 向こうも槍っぽいので、ガードしてたのに、そんなの初めから無かったみたいに、サクッと切れたっす!
袈裟懸けにバッサリいって、そのまま斜めにズレて相手は即死!
「ふふふ……某、始めて人っぽいのを切ったっす! けど、前に出て来たお前らが悪いんス! 某に抜かせたからには、死を持って償うが良いっすー!」
某、とっても主人公チックっすーっ!
これで、腰が引けて、膝がガクブルしてなきゃ、良かったんスけどね!
某の膝はガックガクのブルブルで生まれたての子鹿の如しっすー!
でも、敵が可愛そうで切れなーいなんて、異世界ヒロインみたいな泣き言は言わないっす!
むしろ、始めての戦いに、某のテンション上がりまくりっす!
「切る、斬る、KILL! 某、何人切れるかなぁ? イヤホォオオオッ! モンジローッ! いっきまーっす! デストローイ! ゼム、オール!」
ウヒョヒョヒョヒョッ! 地獄のパーティの始まりっすーっ!
戦いを恐れるなかれ、恐れるのならば、いっそ狂ってしまえば良いんすーッ!
「某……もう、何も怖くないっすー!」
バーサーカーとなった某は、軽々と飛び上がると、半魚人軍団に飛び込んでいくっすー!
まぁ、某……幸運度SSSっすから、なんとかなるっしょ!
でも、マミるんだけは勘弁なっ!
相変わらず、モンジローパートはひどい。




