第五十九話「決戦……死闘の始まり」②
「先制攻撃を放ったのは、タカクラのダンナーッ! 腕組みポーズのまま、巨大な氷柱を4つほど作り出し、一斉に放ったーっ! ダンナもこの短期間にここまで巧みに戦闘魔術を使いこなせるようになったんスねー!」
すっげっ! あの一発一発が軽く2m以上はある凶悪な代物。
だがしかしっ! リヴァイアサンも即座に反応……っ!
横滑りするように、軽快に移動して次々と迫る氷柱回避していくっす!
「あの巨体であの機動力! ダンナ! そんな真正面から撃っても当たらねぇっすよ! もっと工夫をしねぇとっス!」
「落ち着かんか……アレは、単なる牽制じゃ。よいか? 戦において相手の動きを制御するのは、基本中の基本じゃぞ? 見てみるが良い、あの氷柱……リヴァイアサンも無視する訳にはいかんようで、必死に避けておるじゃろう? じゃが、その結果……ヤツは、ケントゥリ殿の意のままに動かされておるのだ。まぁ、そろそろ当ててくる頃じゃろう」
なるほど、ダンナも避けられることは計算のうちだったらしいっすな!
最後にタイミングを遅らせて放った氷柱がまともに真正面からリヴァイアサンに突き刺さったっすーっ!
「うひょーっ! ダンナ、お見事っ! やるっすなぁ! 直撃っす! 計算通りって奴っすな!」
「いや、あの程度……挨拶代わりであろうな。リヴァイアサンも正面から敢えて受けることで、意に介していないようじゃな。しかし、あの防御力なかなか厄介であるのう。あの速度であの大きさのアイスランスの直撃を受けて、ノーダメージとはな……」
「うむ、リヴァイアサンの防御の硬さには定評があるからな。もっとも単純に固くて頑丈なだけなら、あの男の手にかかれば、薄紙同然。とは言え、アレ相手に肉薄ともなると、それは相応のリスクを負う事になる。まさに死中に活を求めると言う事に他ならん……まさに、勇気の見せ所であろう」
「……タカクラ卿ならば心配はあるまい。あの男の事だ……口では楽勝などと言っていたが、実際は今も震えながら、リヴァイアサンと向き合っているに違いない……。だが、これまであの男は逃げ出したことだけはなかった。恐怖を知り、恐れながら、それでも立ち向かう……真の勇者とはそう言う者なのだ」
「はっはっは……クロイエ殿、そなたよく解っているな。勇気とは恐怖を知り、その恐怖を乗り越える気概を指す。恐怖を知らぬものなど単なる蛮勇の愚者に過ぎん。私は、あの者に真の勇者の素質を見たのだ。……まったく、クロイエ殿もなかなかに人を見る目があるのだな。ロメオの将来もきっと悪いものではないと思うぞ?」
「そ、そんなっ! いえ……お褒めいただき恐縮です。海神セレイネース様」
クロイエ様の慧眼には、某も感服なのですよ?
これで齢10才とか言ってるんだから、末恐ろしいコ!
真の勇者は怖がりっすか。
確かに的を射ているし、そう言うモノかも知れないっすな。
某も大概ビビりっすけど、そう言う事なら、某も勇者になれるかも知れないっすな。
うん、これはダンナには是非、勝ってもらわないと……ですな!
……して、戦いは静かに続いているっす。
ダンナは、リヴァイアサンから一定の距離を取りつつ、アイスランスを確実に当てていく戦術で戦っている様子。
「なるほど……ダンナの狙いが解ってきましたぞ」
「ふむ、言ってみるが良い。我も薄々解ってはいるが、貴様が役立たずではないと証明する為にも、皆に説明してみろ」
「……ダンナのアイスランス……一見効果がないように見えますが、闇雲に効かない攻撃を繰り返しているのではなく、リヴァイアサンの機動力を削るために牽制攻撃を繰り返しているんスよ。実際、リヴァイアサンの鱗に氷が張り付いて、動きが鈍くなって、命中率が格段に向上してるっす!」
最初はダンナと互角のスピードで動いていたのに、すでにダンナの方が機動力では上を行っている。
海上で100km以上の速度で動けるとかその時点で大概チートなんすけどね。
けど、ダンナはその機動力がリヴァイアサンの最大の強みだと見抜いた上で、それを真っ先に潰すと言う戦術に出てるっす!
機動力を削って、動きが鈍くなるにつれて、距離も詰めていって、確実に当てていっているっす。
そして、その一発一発が着実に機動力を奪い、鱗もガリガリ削っていってるっす!
地味かつ、姑息かも知れねぇっすけど、ワンパンで一発逆転とか軽く決めるような猛獣。
デカキャラ相手に安全策を取るのは、当たり前っす!
カスダメだって、積もりゃ相手は死ぬ……地味っすけどね。
古今東西、アクション系RPGなんかじゃ安地を見切って、削り殺すのが基本っす!
「ふむ……良い読みをしておるな。どうやらすでに、機動力では圧倒できるようであるな。さては、そろそろピンポイントで狙っていくつもりだな! 良いぞ! 今じゃ!」
アージュさんも静かにエキサイト中。
なんだかんだ言って、アージュさんも旦那のこと好き好きっすからね。
アージュさんの言葉に答えるように、リヴァイアサンの左目に狙い済ませたアイスランスが突き刺さる!
しかしながら、急所と言える目玉に直撃をもらいながら、リヴァイアサンは痛痒にすら感じてない様子。
うーむ、目の表面に透明なガラスシールドみたいなのがあるみたいっすね。
一体何で出来てるのか知らねぇっすけど、まるでどっかの王蟲みたいっすね。
でも、貫通させなかっただけで、相応のダメージは行ったみたいで、怯んだ様子。
そらまぁ、目ン玉に氷柱直撃とか普通は怯むっしょ。
それに、目玉のシールドにも氷が張り付いて、確実に視界を奪ってるっす!
当然、その隙を逃さずダンナも距離を一気に詰めて、大量のアイスランスを生成!
その数、16連ッ! 正面から突っ込むと見せかけて、死角になった左側を一気に抜けて、横っ腹に回り込んで、それらを一気に解き放つ!
「うひょーっ! 派手っすなぁっ! つか、そんな特盛アタックが出来るなんて……戦闘中に腹芸とかさすが、ダンナっす!」
避けるのも外すのも難しい距離での一斉攻撃……ほぼ全弾命中! もうもうたる白煙!
リヴァイアサンの周囲は、たちまちアイスランスの破片や一気に空気が冷えたことで発生した霧に包まれてるっす!
「む? ちと浅かったようだな……焦って早撃ちしたのか? 発射のタイミングが揃っていなかった上に着弾点もエラくバラけよった? あれでは、有効打にならん……ここで下手を打つとは、まだまだじゃのう。じゃが、今のケントゥリ殿……何かに気付いて、躊躇ったようにも見えたな。何があったのか?」
「……アージュ様。どうも、予想外の反撃にあったようです! 閣下負傷の様子っ!」
ラトリエちゃんが血相を変えて、報告してくる。
むむむ? 某の千里眼で見てしんぜよう!
船の上からでは、小さな点だったダンナも某のスーパーズームアイで、目の前にいるような距離までズームアップ!
むむっ、肩から血を流して、その表情にも焦燥の色は隠せない。
見ると、リヴァイアサンの身体のあちこちから、レーザーみたいな水の線が乱射されている様子。
その水線をたどっていくと、触手の生えた軟体動物っぽいのから次々打ち出されてるのが解るっす。
なんと言うか……まるで戦艦みたいっす!
「……あれは、海中の捕食生物を寄生させているのか? 馬鹿な……リヴァイアサン程度の知性で、そのような真似を出来るはずが……」
やっぱり、千里眼で見てるっぽいアージュさんが信じられないと言った様子で解説してくれるっす。
……捕食生物? うにょうにょと触手がいっぱい生えてるキモいのがくっついてるっすな。
一言でいうとイソギンチャクのデカイヤツ?
見てると、水鉄砲の要領で高圧水をレーザーのように撃ってる感じ、ダンナの水魔法と似たようなモノではあるっすな。
ただ、シールド越しに直撃を受けたダンナが派手に姿勢を崩してる様子から、当たれば普通に鉄板に穴が開くとか、そんな威力はあるみたいっすな。
水とかいくらでもあるし、高圧水とか射程は短いと思うっすけど、水ってのは圧力がかかっても体積が変わらない重質量体でもあるから、高圧、高速で打ち出せば、その運動エネルギーだけで十分な破壊力があるんスよ……。
実際、某の描いたSF作品では、近未来では水撃銃って言う水鉄砲の強化版が歩兵の主力武器って設定にしてたっすからね。
低コスト、省エネの未来兵器っす!
けど、それをあんな対空砲火よろしく、乱射されると……接近戦なんて自殺行為っす!
「ありゃもう、戦艦相手に素手で戦うようなもんすよ! ちょっと雲行き怪しいんじゃないっすかね」
「確かにな……。これはケントゥリ殿一人では厳しいのではないか? セレイネース……これも貴殿の想定の範囲なのか?」
「……馬鹿な。自らの身体に海洋魔獣を貼り付けて、守りを担わせるだと? リヴァイアサンがそのような周到な真似をするなど、ありえんぞ? どう言うことだ……それにあの再生力はなんなのじゃ? 撃たれた部位の再生が早すぎる……一体、どうなっているのだ?」
セレイネース様も想定外って感じっすな。
けれど、ズン……と言う重たい音が響いて、ケントゥリ号の甲板が傾き、激しい揺れが襲いかかってくるっす!




