第五十九話「決戦……死闘の始まり」①
――かくして、僕は戦場へ向かう。
出陣に際しては、ドンダンドンダンって感じのBGMに、両腕を組んで雄々しく仁王立ちってのが定番だと思う。
腕組みポーズのまま、足元に水船のコンパクト版を生成し、スケートで滑るように海上を進む。
さぁ、脳内BGMもクライマックス! 盛り上がってまいりましたーっ!
……少し離れたところで、皆を乗せたケントゥリ号がゆっくりと着いて来ている。
なんでも、リヴァイアサンとの戦いを想定して、未完成状態で出港させたらしい。
もっとも、僕の無事と決戦の話を聞いて、せめて見守らせて欲しいと言う事で、皆を乗せて来てくれた。
もちろん、セレイネース様も一緒だ。
けど、助け舟とかは最初から頭から排除している。
戦いとは、一期一会……次のことや負けた時の事を考えているようでは、勝ちなど到底望めないのだ。
「……旦那様。前方5km地点にて、リヴァイアサンと思わしき水面下の影を確認。警戒を」
ラトリエちゃんから警戒を促す声。
どうやら、近いらしい。
「索敵ありがとう。さすがに海面からだと索敵もなかなか難しいから、助かるよ。けど、手助けもここまででいいよ。ラトリエちゃんも皆と後ろで観戦してればいいよ」
「……ですが、やはりお一人と言うのは危険ではないでしょうか?」
「案ずるまでもないよ。これは僕の戦いなんだ。僕一人の力でこの戦いを乗り越える。そうでなくては、セレイネース様からはとても認めてもらえないよ」
「……解りました。差し出がましい事を申し上げました。それでは、ご武運を……」
「ああ、心配しないでくれ。僕も負けるつもりはない……! それは間近で僕の修行を見ていた君が一番わかってると思う」
「そうですね。旦那様ならきっと……いえ、絶対に勝てると信じています」
「ああ、勝つよ」
それ以上の言葉はいらない。
なんつーか、ヒロインの励まし、そして勝利宣言。
これぞ、勝利フラグって感じだよな。
ちょっと負ける気がしない。
……やがて、遠くから白波が近づいてくる。
リヴァイアサン……!
「行くぞ! 今度は絶対に勝つっ!」
――戦闘開始っ!
※※※※※※※※※※※※
やぁやぁ、皆さん。
お元気ですか?
みんな大好きモンジローっす!
そんな訳で、ダンナの世紀の一戦……リヴァイアサン戦が始まってしまったっす!
解説は、某と説明役なら任せろのアージュ先生っす!
「貴様は、何をブツブツ言っておるのじゃ? そもそも、誰に向かって話しておるのだ?」
「はっはっは、耳聡いですなぁ……アージュさん。何となく黙って見てるだけってのももどかしいじゃないですか。せっかくなので、某の解説でも入れてみようかと……これもお約束って奴っすよ!」
こう言うバトル展開は第三者視点を交えて、かつ解説役と説明役が状況説明をするってのが、バトル漫画のお約束なんスよ。
と言うか、漫画ってのは第三者視点……神の視点で物語を進めるってのが基本っすからね。
ここは、無駄な博識を持ち、状況描写もお手の物……の某が解説と描写役を担わせていただくのが、一番だと思うっす!
ダンナも思った以上にパワーアップしてるし、マジで深刻な空気って某、苦手っすからね!
なにぶん某、絶賛使えない子状態なので、それくらいはせねば出番無しで、モブキャラ格下げになるっす!
「好きにせい……まったく。しかし、貴様もまるで心配していないようじゃな。ケントゥリ殿は自信満々じゃったが、我は心配でならん。リヴァイアサンなど本来、戦ってはいけない……出くわしたら、どうやって無事に逃げ延びるかを考えるべき魔獣だと思うのだがな。そもそも、何故リヴァイアサンはあそこまでケントゥリ殿を敵視するのか……。あれは、獣そのものだと聞いている。だが、こんな何もないところに長々と留まって、執拗に待ち伏せしていたなど……些か常軌を逸しておる。どうにも腑に落ちん」
「ふむ、アージュ殿ともあろうものが知らぬと言うのは意外であるが、あの手の魔獣共は異世界人を敵視しているのだよ。あれらは神獣とも言って、はるか太古に我ら神族が滅ぼした古の神々の眷属でもあるのだ。奴らにとっては、この世界の異物である異世界人を滅するのは半ば本能のようなもの……奴らにとっては、異世界人を滅することで世界を守っているつもりなのだ」
「ふむ、神獣か……人々にとっては、害悪にしかならぬ化け物共だが。あれらが人類に敵対的なのは、そう言う理由もあったのか。しかし、しょせんケダモノであるな。今はもう消え失せて久しい古き神々の与えた使命などに固執するとは……」
「それは同感であるな。だが、アージュ殿も古代種族の末裔であるだろう? ならば、その手の話も伝わっていると思っていたのだがな……だから、意外と言ったのだよ」
「……我は古き神去りし後の生まれであるからな。古エルフの一族でも我は若輩者なのじゃよ。数千年も前に滅んだ古の神々の事など、さすがに詳しくはない。それこそ、それはセレイネース殿達、神々の領分であろう」
「そうだな……我々は、あれらを討滅した当事者であるからな。だが、あれは滅びて然るべき者達だった……潔く道を譲るべきだったにも関わらず、滅び去るを良しとせず、無意味な悪あがきを繰り返し……かつての人類はそのとばっちりで一度滅びているのだよ」
「大崩壊か……それは我も聞いたことがあるな。その救済として降り立ったのが、今の神々だと言われてはいるな」
「いかにも。だが、あれらが残した遺産は、未だにこの世界を脅かす影として、至る所に残っているのが実情だ。それに魔神共も消え失せたわけではないからな。いつも舞い戻ってくるか定かではない」
「黒の月の魔神か……魔神大戦には我も参戦していたから、解るぞ。まったく、この大陸に平和が訪れるのはいつになるやら……であるのう」
「そうだな。だからこそ、異世界人には女神の使徒として、神獣や魔神族にすら対抗できる強力な力を与える……これは、我らの責務のようなものなのだ。もっとも、ラーテルムは異世界人に力を与える意味や力を持つ責任を理解させようとせずに、闇雲に力のみを与えるのみだったからな。それでは勘違いする愚か者も出る……。あやつも異世界人を呼び込む理由も意味もわかっていると思いたいのだがな……」
……某達が世界の異物? 世界の敵?
そうなると、あのリヴァイアサンとかって人間でいうところの抗体とか、免疫細胞みたいなもんなんすかね。
けど、問答無用で襲われるって割には、某……そんなの見たことないっす。
「……そ、そうなんスか? 某、そんなのに襲われた事なんて無いんスけど……」
アージュさんとセレイネースさん。
どっちも格で言えば、別格なんすけど……おずおずと会話に割り込むっす!
多分、この話はとっても重大な話だと思うっす!
「それは貴様が大陸の奥地で引き篭もっていたからであろうな。それに貴様はラーテルムのお気に入りのようであるからな。余程のことがない限り、神獣との戦いの場になど動員されぬだろう。だが、テンチョー……貴様は、何度かあの手合と戦っているはずだぞ? ラーテルムも貴様は切り札などと嘯いていたからな」
「うーにゃ……? もしかして、いつぞやかの目玉お化けとかかにゃ……」
「ほほぅ、それは、おそらくソルティアナシェルの事だな。法国の愚か者がアレの封印を解いてしまって、危うく大惨事になるところだったと聞いている。ラーテルムのヤツも相当マズいと思ったらしく、珍しく私に助力を要請してきたほどだったのだよ。だが、テンチョー……貴様がアレを倒したのか……。普通に戦えば、如何に使徒と言えど相当苦戦する相手だと思うのだが、そなたもなかなかやるではないか」
まぁ、見られただけで即死とか、大概チートっすからなぁ。
テンチョーさんが楽勝だったのは、殺気を消しきった上で正々堂々背後からオーバーキルアタックを仕掛けたらからっす。
どんなすげぇ奴でも認識外からのオーバーキルアタックとかどうにもならんスからね。
テンチョーさんの強みがガッツリハマったってとこっすな。




