第五十八話「修行の日々……そして迎える決戦の日だぜ!」③
「いやはや、さすがはセレイネース様ですな。ダンナもすっかり見違えてしまって……。某ではもはや、ダンナの相手にはなりますまい」
モンジローくんの声が聞こえる。
扇子片手にアフロヘアで、片膝付いてセレイネース様のご機嫌伺いに余念がない。
ねぇ、君……ラーテルムの使徒じゃなかったけ?
何があったのかはよく知らないけど、いつの間にかセレイネース様とも気心が知れてる感じになってて、この島にも割と早い段階でやってきた。
ちなみに、僕自身は、修行が終わるまでこの島から出てはいけないと言う制約が課せられている。
まぁ、リヴァイアサンにターゲッティングされてると言う理由もあるけど、それは半ば有名無実と言えば、有名無実になってる。
なにせ、セレイネース様が作った超空間ゲートで、本土との直通が可能となっており、ゲートの向こう側は僕のコンビニ村だったりする。
理由は……セレイネース様も僕らが扱うコンビニの商品に大いに興味を示され、すっかりお気に召したから。
物凄く勝手な理由で、そんなもんをさらっと作り上げたセレイネース様も大概なんだけど。
僕的には、これはケジメだと考えている。
なんか、戻ってしまったら絶対ダレて安易な道を選んでしまいそうだったからね。
だからこそ、僕はこの島に留まり、セレイネース様には、ラトリエちゃんの案内で、普通に向こうに行って来て、色々とお買い物やらうまい食事やらを堪能いただき、ロキサスで僕の帰りを待っていた嫁さん連中にも僕の無事と現在の状況を伝えてくれた。
ロメオの皆にも、セレイネース様の弟子になって修業の日々を送っていると言う斜め上な状況になっている事は伝わり、そう言う事ならしょうがないし、目一杯の支援をしようということになったらしい。
当初は、無人島サバイバル待ったなしって思ってたけど。
セレイネース様が用意してくれた元帝国戦艦な我が家もあるし、食料なんかもコンビニ村からお取り寄せ自由。
なので、衣食住はもはや完璧過ぎる感じなのだ。
ロキシウス侯爵なんかも、リヴァイアサンの討伐が終わったら、この島を本格的に整備して、セレイネース様を祀った神殿を作って、中継港を作ろうとかそんな話もしてる。
どちらかと言うと害悪ばっかりで、何の役にも立ってないとの評判高いラーテルムより、なんだかんだで色々な形で人々の手助けをしてくれていたセレイネース様の方が余程マシと言うのは、誰もがなんとなく思ってた事らしく、沿岸部を中心に細々と続いていたセレイネース信仰も今後は盛り立てていこうと言う機運がロキサスのみならず、ロメオの王都サクラバなんかで、盛り上がってるらしい。
もっとも、ラーテルムを崇める聖光教会としては、なんとも微妙な立場らしく、色々と問題になってるらしいのだけど……僕としては、あんまり宗教には関わりたくないというのが本音だし、弟子入りしてしまった以上、セレイネース様推しで行くのはしょうがないと思う。
本物の神のもとで、修行を付けられると言うのは、どうも使徒にも匹敵するステイタスらしく……。
少なくともロメオでは、宰相たる僕がセレイネース様の弟子入りしたと言うのは、むしろ歓迎のムードで、他の国々……セレイネース信仰が盛んな島国などにも、この話が伝わり色々ザワついてる……なんて話も伝わってきていた。
「全く……一時はどうなるかと思ったが、よもやあの海神セレイネース直々に修行を付けられていたとはな。使徒になる代わりに、生身でリヴァイアサンを討つべく修行を付けてもらうとはまた、難儀な契約を結んだものだな……」
アージュさんが呆れたように、呟く。
「まぁ、そう言うな……アージュ卿。私はこの男が個人的に気に入ったのだよ。我が使徒にすると言う望みは叶わなかったが、安易に借り物の力を受け取らないと言う気概もむしろ好ましい。なにより、私の課した地獄の特訓もなんだかんだでこなしてしまったからな……」
「話を聞く限り、こんなデタラメな修行……どう見ても、心を折るためとしか思えんのだがな。セレイネース殿ももとより、そのつもりだったと言うのは勘ぐりすぎかのう」
「はっはっは! 実際、私も感心しているのだ。どうせすぐに音を上げて、使徒にしてくれと頼み込んで来ると思ったのだがな。この男……最後まで弱音も吐かず、逃げ出しもせず、ここまで耐えきったのだ。見ての通り、今のコヤツは人間としては、最強の部類に入るほどの力を手に入れた。精神的にもかつてのような軟弱な雑魚とは程遠いはずだぞ?」
ドヤ顔のセレイネース様。
まぁ、コンビニ感覚でぶっ殺されまくりましたけどね!
最初、マジで殺しに来て、容赦なく心臓打ち抜かれて、マジかよ? 終わった……とか思ったけど。
ハイ、リセーット! ってな調子でピョルって復活。
もう、お手軽すぎて笑うしか無かった。
おかげで、ありとあらゆる死に様ってものを経験し……。
生死の境目……死線ってのがどんなものか、身体で理解できましたよ。
そして……その死線を幾度となく超える経験。
それが、この短期間で現代日本人の甘ったるい考えや、軟弱な思考を打ち砕いてくれたのも事実なんだがね。
ちなみに、アージュさん以外にも今日は、僕の嫁ハーレムの全員がこの場に来ていた。
クロイエ様はもちろん、三人娘もいる。
産休隠遁中のランシアさんとキリカさん、それとリーシアさんの三人以外、全員集合!
ちなみに、リーシアさんはコンビニ村のお留守番要員。
なんでも、最近不定期に帝国方面から超遠距離魔術砲撃による嫌がらせが続いているとかで、僕が行方不明の間も警備隊や親衛隊の皆で、正体不明の攻撃に対応してたらしい。
……なんと言うか、不穏な情勢ではある。
一応、帝国サイドとの繋ぎはあるんだけど、どうもやんちゃな奴が勝手働きでもしてるのか。
あるいは帝国を装って、新たな火種を撒こうとしてる輩でもいるのか。
ロメオの外交ラインからも、正式に抗議をいれてるようなのだけど。
帝国の……少なくとも良識派と呼べる連中はこの事態を把握しておらず、帝国軍の仕業だと断定できるだけの証拠もなく、受け身に回らざるを得ない状況らしい。
幸いリーシアさんが作ってくれた一瞬で鋼草によるアイアンドームを形成する超頑丈な防壁のおかげで、被害は一切出てないみたいなんだけど。
相手の顔が見えないって状況で、防戦一方というのが実情らしいんだけど。
リーシアさんの鋼草は、魔法にも物理にも滅法強いチート地味た代物なので、もはやルーチンワーク対応でこなしてるらしく、まともな被害が出たのも最初の一回だけだったらしい。
お、おう……相変わらず、リーシアさん半端ない。
一応、ミャウ族による広域警戒網や、エルフ隊を帝国領ギリギリまで遠征させて、下手人の捜索などもやってるみたいなんだけど、なかなか尻尾を掴ませないらしい。
ゼロワン達日本製戦闘機械群による帝国領への進出の上での予防攻撃の申し出も来てるらしいんだけど、基本的に、日本勢とは慎重に距離を取る方針を伝達してるので、その申し出は却下としている。
なんせ、下手にゴーサイン出しちゃうとあいつら、帝都上空まで進出、勝手に爆撃とかやらかしかねない。
なんか、話を聞く限りだと爆装モジュール装備のゼロワンの子機みたいなのがすでに連中のベースに続々と並べられているらしい。
なお、日本側の言い分としては、戦闘機械群の判断は我々の預かり知るところではないが、帝国と日本国は交戦状態にあるので、法的には問題ないとかしれっと言ってるんだから、タチが悪い。
まぁ、僕としてはそんなのは許したくない。
現状、帝国とは穏健派と渡りをつけて、水面下で交渉中なのだ。
帝国の内情としては、大帝が手駒を失って、事実上の引退状態なのを良いことに、帝国議会と帝国軍上層部が手を組んで、大帝要らないよ体制を地道に構築中なのだ。
そんなまっとうな国となるべく頑張ってる帝国と本格的にやりあうなんてのは、現状は避けるべきなのだ。
早い所、戻って色々仕事しないといけないんだよなぁ……。
けど、セレイネース様の基準だと、まだまだ足りないとかで解放してもらえない……。
ただ、コンビニ村と亜空間ゲートを繋げてもらってるから、書状や人に頼むという形で、一応僕の指示や判断を伝えることは出来てるし、状況は皆も理解しているので、頑張って修行を終わらせろとクロイエ様からも正式に命じられている。
ここに来て、早くも一ヶ月。
今日の戦いの結果次第でリヴァイアサンとの戦いにゴーサインが出ると言う話も聞いている。
リヴァイアサンを倒す……これは、セレイネース様と交わした契約なので、それさえ達成できれば、僕自身晴れて自由の身となれる。
もちろん、セレスディアの件とかもあるし、セレイネース教団から、聖人認定させてとかそんな話も来てるから、セレイネース様との今後のお付き合いとか考えなくちゃいけないんだけどね。
まぁ、セレイネース様は分体と言えどもなんだか、とっても話の解る方。
修行自体はデタラメだけど、無理ゲーってほどでも無い。
心が折れなきゃ、なんとでもなる……なんとでもなるんだよっ!
いずれにせよ、修行の終りが近づいていると言うのはなんとなく解る。
そう言うのもあって今日は、嫁ハーレムのほぼ全員が陣中見舞いと称して集まってくれていた。




