第五十八話「修行の日々……そして迎える決戦の日だぜ!」②
「見事、見事っ! まったく、始めの頃と見違えたな……あれだけの波状攻撃を凌ぎきり、一撃必殺の魔力波動を注ぎ込み完全に叩き潰しよった。これではさすがにどうにもならんわ」
セレイネース様がご機嫌そのものと言った様子で、手をたたきながら破顔している。
「そりゃ、あれだけ手加減無用でボロボロにやられまくれば、いい加減慣れるよ」
……死亡回数とかかるく三桁は行ってるからなぁ……。
死にすぎかも知れないけど、それ位過酷だったのだよ。
もちろん、この世界では人間、一度死んだらおしまい。
これはもう絶対原則のようなもので、決して覆らないとされている。
人が死ぬと、魂と肉体が分離して、その場で魂が昇華し二度と還らない。
それが死。
絶対にして不可逆のもの。
なのだけど、この島は、すでにセレイネース様の作った巨大結界の中に取り込まれている。
この巨大結界……一言で言えば、セレイネース様のご都合主義空間。
世界の法則だの、物理法則、細かい理屈だのは一切関係なし!
通常人間が死ぬと、即時で魂が抜け……一瞬で離散してしまう。
そうなると、もういくら身体を蘇生しても絶対に生き返ったりしないんだけど。
この空間においては、死んでも魂は身体に留まり、離散する事がない。
そして、例え身体がばらばらになっても、回帰魔法の自動修復がかかり、一瞬で元通りになってしまう。
つまり、死ぬ直前にストップがかかって、問答無用で生き返る。
そう言う仕組みになっているのだ。
世界の法則の限定書き換えとか、デタラメなんだが、そう言うデタラメを実現するのが、この世界の神様と言うやつらなのだ。
要するに、セレイネース様がその気にならない限り、絶対に死ねないと言っても良い。
ちなみに、似たようなものとしては、モンジローくんのミラクルダンジョンがあるから、一応既知ではある。
あれも、モンジローくんの完全なご都合主義空間が展開されるチート空間だったりするんだけど。
このセレイネース時空もそれと似たようなもの。
別に頼んでも居ないのに、修行のためと称してこんなとんでも時空をあっさり作り上げてくれた。
セレイネース様パネェ!
なお、モンジロー空間とは、規模が桁違い……。
相手をする召喚獣についても無尽蔵に湧き出してくる。
魔力枯渇でぶっ倒れても、次の瞬間にはフルチャージ!
とにかく、チート、チート、チート!
何でもありの反則空間。
この空間では、生きるも死ぬもセレイネース様の気分次第なのだ。
手がちぎれようが、胴体に風穴が空こうが、ピロリーンと回復。
薙ぎ払い攻撃を避けそこねて、上半身と下半身で真っ二つにされても、サラリッと回復。
致命傷でも一発回復だから、安心安全?
んなこたぁない。
イチイチ、すんげぇ痛いし、致命傷のままほっとかれて、ビクンビクンしつつ、死亡……なんて事もよくある。
と言うか、一度死亡判定されないと自動蘇生が効かないから、致命傷を負い、半端に生きながらえてしまうと地獄の苦しみを味わう羽目になるのだ。
「こんなあっさり、致命傷を負うとは何事だ。しばらく悶絶して反省するが良い!」
なんて、鬼のようなセリフと共に、生き別れになった下半身を眺めながら、死亡……なんてコトもあった。
と言うか、死なない程度に手加減じゃない……死んでも復活するからって、遠慮なしのフルアタック。
ギリギリどころかぶっちぎりのデスオアダイ。
死んだほうがマシって何度も思ったくらいの地獄の毎日。
死んで蘇る……その繰り返しでの死線を越えた先を目指す過酷過ぎる修行。
それがセレイネース様流の修行と称するなにかだった。
……そんな中、僕も生き残るための必死になった。
死ぬことも許されない中、なんども殺され、生き返ってまた殺される……。
自重しない勢いで次々けしかけられるモンスターやご本人様の手加減無用のフルアタック!
殺されない為の創意工夫、ひらめきの数々。
新たなる力、応用、強化……足りない所を継ぎ足し、etc、etc……。
そんな僕の努力をあざ笑うかのように、一難去ってまた一難……次々レベルアップしていく怪物たちとの死闘、死闘、また死闘。
なんだっけ? これ。
無限地獄とかってこんなんだったなぁと、僕は思いました。
……と、小並感。
もうね……何回後悔したことやら。
変な意地張らないで使徒になりますって何度口にしそうになったことやら。
けど、ガチ死にとかギリギリの生還とか、何度も経験するうちに、僕は文字通り生まれ変わったのだ。
もはや、今の僕には平和ボケも、甘ったるい考えもなく、生き延びるために全力を尽くす……。
殺されないために、相手に容赦なんかしない……まさにガチファイター思考ってもんが嫌でも身についた。
生と死の間の戦い……その繰り返しにより、鍛え抜かれた精神、技、頑強なる肉体!
かつての僕がなんと甘かったのか。
どれだけ、軟弱かつ貧弱だったのか。
守られ系でいいじゃんとか、馬鹿言ってんじゃねーよ!
死の瀬戸際では、誰も助けてくれないし、誰にも頼れない……生き残るための全力を尽くすのみ。
なんと言うか、嫌が応にでも自分自身に己の弱さを知らしめることになったのだよ。
セレイネース様も、僕にこの世界を変革させる可能性を見出しながらも、その弱さに志半ばで倒れる未来しか見えなかったからこそ、使徒として、大幅なパワーアップさせる機会を望んでいたらしい。
まぁ、結果的に簡単に死なない程度の強さを身に着けるか、過酷さに音を上げて、安易な道を選ぶようなら、それでいいやって感じで、この修行に付き合ってくれたらしいのだけど。
その甲斐あって、僕は鬼のようにレベルアップした。
基礎的な魔力や体力自体は、こんな短期間では気持ち程度しか向上してないと思うのだけど。
限界を超えた先、死線を何度もくぐり抜けたことで、文字通りの全力を尽くす事を覚えた。
持てるものをすべて使って、とっさの機転、応用……。
まさに、死物狂いの心意気……。
相手を侮ったり、一瞬の油断が死に直結すると言うことも、嫌ってほど思い知らされた。
だから、もはや僕は敵には容赦しない。
情けや躊躇が自分や仲間の命を危険に晒す……その事も自然に理解できた。
敵が可哀想だの、敵にも生きる理由やそれなりの背景があるとか……。
以前は、そんな風に考えていたのだけど。
……自分や仲間が死んでしまったら、取り返しが付かないのだ。
だから、見も知らぬ敵に情けや容赦など無用。
敵対する以上は、確実に殲滅する。
そんな戦場の当たり前。
セレイネース様の召喚した、安心安全とかなにそれ? みたいなモンスター群。
そんなのを相手に、毎日のように理不尽に殺されて、殺されて……。
だまし討や死なばもろともなんてやられるような、無様な死に様も晒した。
そう言うのを繰り返すうちに、ヌルい考えとかもう何処かへ行ってしまった。
野蛮だの非道だの……。
そんなのは、平和ボケの世界の住人が口にする寝言のようなものだ。
戦いにおいて、最後まで生き残った者こそ勝者であり、死した者は敗者なのだ。
勝者はすべてを得て、敗者は全てを失う。
そんな当たり前の理屈を僕は心から理解するに至った。
セレイネース様もどうも、この僕の現代人特有の甘さが一番の問題だと見抜いてたみたいな感じなんだよな。
そう言うのもあって、実に様々な敵との戦闘も経験させてくれた。
空を飛ぶ敵、地を這う敵。
ウンカの群れのような大量の敵、超でかい魔物との死闘。
海のモンスターとも、一通り戦わせられたよ。
半魚人ライクなのとか、凶悪なイルカみたいなのとか、タコ、イカ系と言った触手系。
角つきのマグロみたいなのもいたなぁ……。
ひたすら突っ込んでくるだけなんだけど、数百キロとか無茶なスピードで来るから、真正面から受けるとバラバラにされて死ぬ。
マグロこええっ!
ともかく、これまで全く未経験の領域、海上、海中戦ではあったのだけど。
そこはそれ、セレイネース様は、海の女神様だけに、海上、海中戦についてもスペシャリストだった。
当たり前のように水中での行動スキルや、特異魔術も会得させられたから、30分くらいなら呼吸を止めて、水中に潜っていられるようになったし、水の上を地面同様に文字通り走り回ることも出来る。
足からジェット水流を吹き出す事で水中を高速移動する「ハイドロジェット」なんて、魔術も会得したから、水中を時速100km近い速度で魚雷のようにすっ飛ぶことだって出来る!
なんと言うか、水中、水上適応SS!
水船とかもう使う必要すらなくなっている。
海の魔物達との戦いも、最初はバンバン死んだけど。
最近は、むしろ余裕撃破。
目的としては、リヴァイアサンを倒せるくらいに強くなる……だったけど、多分、それくらい余裕達成出来るくらいにはなっていると思う。
この高倉健太郎……慢心はしないが、卑下するほどか弱い存在じゃなくってるんだぜ?




