第五十八話「修行の日々……そして迎える決戦の日だぜ!」①
「ホォアアアア! そこぉおおっ! 我が奥義……穿掌!」
身長3mの大型アイスゴーレムの胸部装甲に、僕の掌底が完璧なタイミングで決まった!
ズグンと、一際大きく心臓の鼓動が高鳴るのを感じる。
水が染み渡るように……イメージ!
「透った!」
すでに微動だにしなくなったゴーレムに背を向けて、腰の横に拳を据える三戦の構えでもって、残心とする。
コォオオオと独特の呼吸音を立てながら、調息に務める。
背後で、ピシピシと何かが割れる物音。
振り返ると、アイスゴーレムがバラバラに砕け散り、雪の山のようになっていくところだった。
両手を合わせて、ペコリと一礼。
無機物のゴーレムとは言え、戦い敗れ去りゆく者への礼儀を忘れてはいけないのだ。
「ふむ! どうやら、浸透勁は完璧に使いこなせるようになったようだな」
「水の魔力と生命波動を混合し、相手に直接浸透させ内部破壊を行う……浸透勁。これほどの威力だとは……凄いですね! あれならば、どんな重装甲の相手でも倒せますね」
どんな技かは、ラトリエちゃんが解説してくれちゃったから、省くぜ?
まぁ、これも僕が新たに手に入れた力の一つだ。
似たような技は気功と呼ばれ、仙道とも称されて地球にもあるらしいのだけど……。
本来は、人生を賭けた苦行の末、身に付けられるようなものだと聞いている。
さすがにそんなもの……一朝一夕に会得できるようなものではない。
けど、この世界には、魔力や魔力を操作する技術……魔法があるのだ。
セレイネース様直伝の魔術調息と呼ばれる独特の呼吸法による魔力波動の循環。
セレイネース様の扱う海神魔術と称する魔術体系の基本だとかで、まず真っ先にこれを叩き込まれた。
凝縮された魔力波動を操り、相手に叩き込む事で強固な装甲を通り抜けて、相手を内部から破壊する浸透勁……そんな恐るべき技なのだが。
これですら、入り口に過ぎないと言う……。
セレイネース様の修行。
もうね、文字通り死ぬほどハードでした。
基礎筋トレと、魔力の枯渇状態での魔術行使の連続やら、水の中で息を止め続ける修行だの。
そんなただの苦行の連続から始まり……。
女神様の作り出す、手加減なしの魔導生物やゴーレムとの命懸けバトル!
そして、セレイネース様本人とのやっぱり手加減無用のガチバトル。
死にかけたのも数えられないどころか、軽く二桁、いや三桁くらい、マジ死にしてるんだから洒落にならん。
ええ、死にましたよ? きっちり、ガッツリと!
けど、そこら辺……相手は、この世界の神様の一柱。
心臓止まったくらいなら、蘇生余裕だとかで、復活余裕。
即死だって、なんとかなるってんだから、半端ねぇよ。
だからって、即死しない程度に手加減とか言って、ガチ殺しに来るのだよ。
殺しにくる相手に殺されないためのサバイバル!
そんな地獄の生死の狭間を行き来するような特訓の日々。
もはや僕は、甘えとか緩さとかそう言った考えもすっかり消えて、タカクラMKⅡといえるアップグレードを果たしていたのだ。
「うん……3m級のゴーレム程度なら、もう余裕だね。そろそろ、数を増やすか、スピード系のゴーレムとかが相手でないと、ワンパンで終わってしまって修行にならないよ」
ちなみに、今のアイスゴーレムとの戦いは、開幕早々マッハで懐に飛び込んで、パンチ避けてカウンター掌底でワンパン撃破。
この浸透勁……何が凄いって、硬く分厚い装甲だろうがお構い無しで、スルッと透過して、内部に直接魔力波動を流し込む事にある。
そして、その波動を操り一点に集中させることで爆発的な破壊力を生み出すのだ。
生き物なら、頭部に一発でも当てれば、ほぼ確実に脳みそシェイクでピヨらせられるし、スライムみたいな半固体半液体の身体であっても、波動の焦点を集中することでコアだけを破壊することが出来る。
弓矢の集中攻撃や魔力弾も全周波動放射で弾き返したりも出来る。
おまけに、身体に魔力波動を循環させることで、超人的なパワーを発揮したり、驚異的な回復力を得ることも出来る。
はっきり言って、チート!
生身の人間相手に使うにはちょっとばかり凶悪過ぎるけど、重鎧を着込んだ騎士だの、デカくて頑丈なオークなんかはもちろん、多分これ……戦車相手でも乗員だけを気絶させることで無力化出来ると思う。
やべぇ! うっかり、人間兵器レベルのとんでも技をゲットしてしまった!
ちなみに、これは女神様の分体相手の組手の最中に、僕自身が食らって、食らって、食らって、食らいまくってるうちに、盗み覚えたようなもの。
ああ……まるで秘孔を突かれたみたいに、腹がパンパンに膨れて「ひでぶ」とか、デコピン一発で頭がちゅどーん「あべ死」とか。
そんなエゲツない最期を何度も経験した。
この女神様、超不親切な上に鬼! 悪魔かよってくらい。
チート技を身に着けたければ、まず身体で覚えるがいい! とか言ってて、マジ容赦なかった。
おかげで今では、この魔力波動を食らっても、逆にそれを操作して地面に流し込んで回避とか出来るようになった。
なんせ、最初は、指先がかすっただけで死ぬくらいの勢いだったからなぁ……。
リアル北斗神拳とか、まさにそんな感じ……殺傷力高スギィ!
「ふむ、言うようになったな。では、次はこの大物とやりあってみるが良いぞ」
そう言って、セレイネース様が手をふると、空中に巨大な亜空間ゲートが出現。
少しばかり、距離を取りながら、三戦の構えで構える。
この構え……なにげに和歌子さん直伝だったりする。
背後以外死角なしの鉄壁の構え。
いや、僕の場合、猫尻尾での気配察知や牽制攻撃も出来るから、360度全周対応が可能だった。
そして、身体の方もむやみに筋肉増強はしない方が得策だと、悟った。
被弾面積が広くなる上に、はっきり言って重量バランスが悪い上に鈍重化するので、話にならないのだ。
なので、今の僕はムキムキマッスルではなく、スリムな細マッチョ体型。
当然、腹はシックスパックでメタボ腹とは縁遠い。
その上で、魔力波動循環による筋力効率を上げることに専念したのだ。
まさに凝縮されたパワー! 今の僕の拳はもはやマグナム弾並の威力だ!
3m級のゴーレムのナックルを受け止めて、軽く一撃必殺ワンパンキル!
昨日までの弱々しかった僕はもう居ない!
じっと待っていると、亜空間ゲートから、デカイ水まんじゅうのような塊が落ちてくる。
「……巨大スライム? またエゲツないのが相手だな!」
大きさは軽く10m級……帝国との戦いで見かけたやつの倍くらいある。
その大きさは軽くダンプカー並! ……以前だったら、死を覚悟するレベルの相手だ。
着地するなり、触手を伸ばしてバンバン飛ばしてくる。
その数、16本!!
「くそっ! 相変わらず、帝国のスライムよりキッツいな!」
何がキツイって射程が帝国製より、長いのね!
おまけに触手のコースがひねくれてるし、時間差とかかけまくり!
前回コイツに挑んだ時は、音速の触手アタックにいいようにやられて、モズのはやにえみたいになって死にまくったけど……。
だがしかしっ!
いい加減、攻撃パターンなんぞ見切ってる!
ギリギリまで引きつけて、軽やかにバックステップ回避!
これで一気に半分くらいを回避。
ここまでは問題ない。
けど、この初撃の斜め前からの連撃は、フェイク!
時間差を付けて、あとから来るのが本命!
むしろこっからが本番!
「甘いっ! マトリーックスッ!」
膝を曲げて、後ろに倒れ込むことで真正面からの触手の連撃を回避!
真正面からの高速弾なんてはっきり言って見きれない。
だからこそ、来ると張った上でのマトリクス回避。
予想通り……スローモーションの世界の中、目の前を触手が二本交差していく。
更に地面スレスレを左右両横から二本!
避けた先に向けて、置き弾とかエゲツねぇ!
「ドリル・シールド!」
腕を交差させつつ、掌に円錐状のシールドを形成。
シールドで受け止めるのではなく、触手を滑らせる……そう言う発想の元に完成させた防御技!
さすがに、この音速近い速度の触手。
対物ライフル並みの威力ともなれば、真正面から受けるとシールドなんてあっさり割れる。
だからこそ、この円錐状のシールド!
手がドリルみたいになってるけど、傾斜角とか形成効率を考慮した結果この形が最適だったのだ!
更にシールドに高速回転をかけることで、この手の射出系攻撃に対して、受けるのではなく滑らせることで鉄壁のディフェンスを実現!
防御重要、とっても重要。
正面から受けるとか駄目、絶対!
シールドぶち抜かれて、腹に風穴空けられるとか、もう懲り懲りですから!
ちなみに、当然ながらこれは攻撃にも転用できるのだ!
技名は「穿・螺旋」!!
やっぱり、ドリルはロマンだろ!
「ほう、シールドを傾斜化し、回転を付けたのか……。それに本命が来ると見切るとはなかなかどうしてやるな。どうやら大分、解ってきたようだな。だが、まだ終わりではないぞ? これを凌いでみせるが良い!」
更に正面から低めで二本! 波状攻撃かよっ!
シールドで弾いた直後だから、体勢も崩れきってる。
このままだと、串刺死待ったなし!
「ホァッチャアアア!」
完全に倒れ込みながら、直前に両手を地面に付いて、片足を振り上げ、触手の一本を蹴り飛ばす!
いわゆるサマーソルトキック! 半ばやけくそみたいな一撃だったが、クリーンヒット!
触手のコースが大きく上へ向かい回避成功!
そして、そのまま、一回転して着地すると、時間差を置いて迫りつつあった最後の触手をバックジャンプしつつ、両手のドリルシールドで挟んで受け止める!
シールドと触手の間で激しく火花のようなものが飛び散りながら、目の前ギリギリで触手が停止する!
「う、受けきったぞ! ここっ! ……喰らえ! 波動勁! フンヌらばッ!」
完全に勢いを殺され伸び切った触手をシールドを解除し、そのまま掴み取ると、即座に魔力波動を触手に浸透させる。
ボコボコと沸騰したようになりながら、触手を伝って魔力波動が浸透し、本体に到達する!
直後、スライムの身体が一瞬ビクンと震えたと思ったら、あっという間に白っぽくなって、あちこちがボコボコと膨れだす。
「ヒィイイイイト! エンドゥウウ!」
水を沸騰させる魔術の応用。
触れたものに、波動と魔力を送り込み、膨大な熱量に変換させる。
ランシアさん開発のレンジオーラの強化版みたいなものかな。
あれ、ランシアさんが電子レンジの原理を理解した上で開発したオリジナル魔法なんだけど。
実は、この魔力波動を水に通すと、水温が上がるみたいなのだよ。
そう、あのレンジオーラって電磁波による水分子の振動による発熱ではなく、魔力波動により水分子を振動させて発熱させると言う電子レンジとは似て非なるものだったのだ。
ランシアさん、科学技術とか解ってるようで解ってなかったけど、結果的に似たようなものを作り上げてたのだよ。
まぁ、とにかく……その魔力波動による水分子の振動励起発熱の原理を応用し、魔力波動の熱変換を実現し、効率を追求したのがコレ。
スライムみたいに身体組成のほとんどが水分なんて相手には、恐ろしくよく効く。
直後、ボフンと言う間抜けな音を立てて、巨大スライムの身体が文字通り爆ぜた。
「うん、こんなものかな」
再び三戦の構えに戻り、スライムの残骸をじっと見つめる。
たちまち、スライムの残骸は、グズグズに崩れながら、ただの水たまりと化していく。
前回、これの小型版と戦った時は、この状態からドブシュッと触手が飛んできて、ワンキルってなったけど、今回はオーバーキルレベルで魔力を突っ込んだから、さすがに完全に仕留めたようだった。
多少デカくても、やることは大差ない。
スライムと言えども、このサイズとまともに戦えば、かなりヤバいけど。
攻略法が解ってれば、どうということのない相手なのだ。




