第五十七話「強制イベント戦は負けフラグ」④
いいヤツか悪いヤツかって事なら、間違いなくいいヤツ。
僕との話し合いも、コレでもかってくらいの譲歩の姿勢を見せてくれた。
仕組まれた感はあるのだけど、あっちこっちで見せるなんとも言えない杜撰さ。
お人好しって感じが物凄くにじみ出てるんだよね……。
チート加護までは要らないけど、こう言うまともな神様が味方になってくれるなら、頼もしいなんてものじゃない。
ラーテルムなんて、皆が駄女神呼ばわりしてるような奴よりも、セレイネースさんの方が余程マシだ。
この先、この世界の安定に尽力するに至って、そう言う強力な後ろ盾や相談相手が出来るというのは、ありがたい話ではあるんだよ。
ロメオは、海運業で一気にその経済力を増したと言う背景がある……言わば、海洋国家の性格を有している国なのだ。
その宰相たる僕が、海の女神セレイネースの後ろ盾を得たと言うのは、帝国と法国という二大国にも十分以上のハッタリが効く。
使徒なんてものにならずに、セレイネースさんとの繋ぎを作る。
そう考えれば、これは悪くない話だった。
「……うーむ。私はあくまで貴様に使徒としての力を与えたいのだが……。確かに、地力を鍛えた上でなければ、使徒としての力も有効活用出来んと言うのも、解らんでもないが……。そんなに借り物の力は嫌なのか?」
「借り物の力なんて、所詮はレンタル品だろ? そんな力を持たされても、どうせ持て余したり、変なふうに増長したりでロクな事にならないと思う……実際、そう言う事例は過去に何度かあったんじゃないかな?」
「そ、そうだな……。我が力を授かったことで増長し、世界の害悪に成り下がった者や悪用しようとした者達は、過去に何人かいたのも確かであるな。貴様はそう言う下賤な輩とは違うと思うのだが……。い、一応貴様のことは、これまでの行いを鑑みて、我が力を授けるに相応しいと、評価はしているのだぞ」
「ああ、高く評価してもらった上でのお誘いと言うのは言われずとも解ってるよ。その点は大変、光栄に思う。でも、僕は、僕なりの自前の力をちゃんと使いこなしたいんだよ……。正直、僕も他力本願とか不本意だから、自分なりに強くなる努力はしてたんだけど、最近伸び悩んでたんだ。体をいくら鍛えても限界がある……けど、この魔力は別だ。まだまだ伸びしろがあると思うんだ」
「そ、そうだな。貴様は見た所、異世界人にも関わらず、その身体は魔猫族のものであるようだからな……。かの種族は本来、魔術を使えぬ獣人でありながら、突然変異的に魔力器官を発現させて、独自魔術を発展させた種族で、その魔術体系はかなり特殊であるからな。実際、過去に我が使徒に魔猫族のものがいたから、良く知っておる。そうだな……彼の者の記憶を元に、貴様に指南することなら出来なくもないな」
マジカヨ。
過去のセレイネースの使徒の一人が魔猫族だったなんて……これは、なんとも言えない縁を感じる話だなぁ。
けど、そう言うことなら、話も早そうだった。
「いいね! それ……その時点で、僕にとってはメリットが十分ある話だよ……。どうかな? それで。その代わり、セレスディアの支援の話も考えなくもないからさ。もちろん、今の僕の立場で出来る範囲でと言う事にはなると思うけど」
「ふむ……セレスディアの助勢か……。それも貴様なりにと言うことか。今の貴様に何が出来る? 具体案があるなら聞いてやろう」
「……そうだね。具体的にはセレスディアとの利害調整を行うべきかな。出来れば共存共栄の道を探りたい。当然、そうなると女王様との話し合いとか、そんな感じになると思うけどね。もっとも、向こうが何をしようとしてるのとか、何が必要なのかとかで、こちらも出来ることは色々変わってくると思うけど。傍観に徹するよりは、前進してると思ってほしい」
まぁ、話を聞く限りだと、セレスディアの女王様は割と話が通じそうな気もする。
海上通商網と言う権益が衝突してるから、仲が悪いのであって、トップ同士の話し合いに持ち込めば、そこら辺はある程度、利害調整と言う事で話し合いの余地は十分ある。
セレスディアの独立の話だって、第三国が仲裁に入ることで平和裏に話をすすめることだって出来る。
いかんせん、法国は今、バラバラだから、属国への影響力だって本来、ダダ下がりのはずなんだよな。
もっとも、法国は法国で属国の離反をひとつでも許したら、連鎖反応的に離反祭りになりかねない。
だからこそ、独立なんて許さない。
けど、性急な独立なんてやるから、過剰反応されるのであって、まずは様々な条約を骨抜きにしていって、名目上は属国のまま、権限を取り返す……こう言う緩やかなやり方で少しづつ、独立を勝ち取っていく。
平和裏に物事を運ぶってのは、そう言うスローペースなやり方でってのが一番なのだ。
……うん、こう言うのとかも助言してあげたいし、法国との交渉の援護射撃くらいなら、僕の立場でも十分できるな。
まぁ、面倒が増えると言える話だけど。
使徒になって、色々便利使いされるよりは余程マシだと思う。
と言うか……あまりに強大過ぎる力なんて与えられたら、まっとうな人として生きるのが難しくなるような気もする……。
「ふむ、いいだろう。そう言う事ならば、その話……引き受けてやろう。ここで貴様を徹底的に鍛え上げ、リヴァイアサンを討つほどまで成長させれば、貴様も私に恩義を感じるであろうし、ラーテルムにもあの男は私が育てたと自慢できるからな。ただし、私の課す修行は、かなりハードであるぞ? いっそ、使徒になった方が余程、楽かもしれんし、最悪死ぬかもしれんぞ?」
……思ったより、乗り気な返事だった。
死ぬかも知れない修行とか、どんなだよって思わなくもないけど。
それはそれで望むところだった。
死線を越えたその先にあるもの……それこそが今の僕に必要な境地なのだから。
「修行ってのは厳しくなければ、意味がないだろ? そこら辺は覚悟完了してるさ。お師匠様」
そう言って、僕は不敵な笑みを浮かべて、笑い飛ばす。
「いい覚悟だ! ならば、任せるがいい! 貴様を地上最強の魔猫族の戦士として、徹底的に鍛え上げてやろうではないか! ふふふ……師匠か……いい響きではないか。実は、そう言うのも一度やってみたかったのだ!」
なんかもうニコニコでやる気満々って感じだった。
……ん? もしかして、こう言うの大好きだった?
思った以上にノリノリなんですけど……。
使徒じゃなくて、弟子でもオッケ-だったとかそんな感じのような。
それに、地上最強の戦士って……そんなの別になりたくないんだけど。
なんか、僕……選択肢を誤ったような。
ラトリエちゃんはなんとも複雑な顔をしている。
「ねぇ、コレで良かったのかな?」
「今更それをいいます? まぁ、いいんじゃないですか。修行を付けてもらうってことなら……使徒よりは幾分かよろしいのではないかと。幸い向こうは勝手に乗り気になってるみたいですし、悪くない取引なのではないですか?」
横目でチラッとセレイネースさんの様子を見ると、もうニコニコ笑顔で、ブツブツと独り言を呟いている。
「……ふむ、この身体では修行を付けるには、何かと不便であるな。ふむ、本体の同意も得られた事だし、久々に第二形態を取らせてもらうとするか……」
そう言って、セレイネースさんは振り返ると、大きく両手を天に掲げる。
「……だ、第二形態?」
「うむ! では、これより、この代理体のアップグレードを行う。もっとも、それでも我が本来の力の1/10にも満たぬ力しか発揮出来ないのだがな。顕現体としては、より人に近しきものとなる。修行相手としては十分であろう?」
……それだけ言うと、唐突に兎耳の身体がどーんと大きくなって、グラマーな感じのおねーさんみたいになる。
「うぉ、巨乳お姉さん……かよ」
「ふははははっ! 来たぞっ! これぞ、本来の我が神体に近しい姿なのだ!」
更に、くず餅みたいな感じだった身体が肌色になって、あっという間に全裸うさ耳グラマーお姉さんに!
「あー、セレイネース様。せめて、服くらい着ましょうね。そんな人間みたいな姿になるなら……そこら辺は……ですねー」
……思わず、そのバインバインなおっぱいとかガン見してて、ラトリエちゃんが白い目でこっちをチラ見しつつ、おずおずと告げる。
ひ、貧乳も悪くないけど、やっぱり巨乳は……いいな!
圧倒的じゃないかっ!
「あ、ぼ、僕は気にしないヨー?」
思わず上ずった声になる。
セレイネースさんも僕とラトリエちゃんを交互に見て、青いビキニに羽衣を纏ったような姿になる。
……なんか、ムチムチで超エロいんですけど。
「これでいいかのう? 貴様の衣装を真似てみたのだが……。ちなみに、今の私はさしずめセレイネース7%と言ったところだな」
7%でこれなの? はっきり言って、感じる魔力だけで桁違いなんだけど。
身体の周囲に、薄い半透明な羽衣みたいなのが纏わり付いてるんだけど、魔力の塊みたいな感じで、この時点で半端ない……多分、大抵の攻撃魔法はこれだけで打ち消せるんだろう。
ハンパねーな……これ。
ちなみに、セレイネースさんの着てる水着は、見様見真似で作ってみましたみたいな感じで、割と雑なんだけど……。
身体のボリュームは、ラトリエちゃんよりも圧倒的にセレイネースさんが上のせいか、文字通り大人と子供って感じだった。
「お、同じデザインなのに、この格差はどう言うこと? ぐぎぎ……」
ラトリエちゃんが怖いです。
なんだか、黒いオーラが見えるっ!
(ひぃいいいいっ! お、お助けーっ!)
「それでは、早速……この男を鍛え上げるとするか。ラトリエよ……貴様の意見も聞こう。最初は何から鍛えるのが良いかのう? この男は精神的にひ弱すぎるようだからな。心身両面を鍛え、それから魔力を鍛え抜くのはどうかな?」
「そうですね。閣下は体力は相応にあるようなので、まずは無茶な筋トレで限界突破とかどうでしょう? 今の時点の閣下の心身の限界を見定めた上で、ギリギリのラインを維持しつつ徹底的に鍛え上げる……そんなところでしょうかね」
「なるほど、限界に挑戦する……基本だな! ……ふむ、ラトリエ。貴様、意外と解っておるな……どうだ? 貴様も修行に協力するが良いぞ」
「……はい、わたくしも、旦那様にはもっと強くなって欲しいと思っていましたからね。加護を与えられる以上は、絶対服従とされてしまいますが、修行を付けていただけるなら、そこまででも無いですよね?」
「そうだな……。使徒として我が力を得るのであれば、我が命は絶対だが、弟子と言うことで間接的に我が力を真似るのであれば、この男の気分の問題に過ぎん。もとより、この男……誰かの命など大人しく聞くような者ではあるまい」
「……ご理解いただきありがとう。お師匠様」
「ふむ、やはり師匠という響きは実にいいな。どのみち、私も貴様を不承不承従わせる気はなかったからな。修行を通して良い関係を築き上げられるのであれば、それはそれで悪くはない。なるほど、考えよったな?」
「セレイネース様は聡明な女神と言う話でしたが、噂に違わぬ様子。このわたくしも、旦那様の修行、協力させていただきますわ! けど、この島……本当になにもないので、少々不便なのですが……そこら辺は融通ききませんか?」
「そうだな。まぁ、少なくとも暮らすのに不便がない程度の物は揃えてやろう……。とりあえず、これでどうだ?」
セレイネースさんが手を掲げると、黒い穴が空中に広がって、でっかい帝国の紋章つきの船が出て来る。
「……なにこれ?」
「以前、沖合を彷徨っておった帝国の船だったかな。乗員を帝国に送り届けてやる代わりに、代償を寄越せと言ったら、船を丸ごと置いていきよった。ひとまず、それを生活の拠点としつつ、修業の日々を送るのだ。ああ、もちろん私も生活を共にしてやろうではないか。人に近しい身体を得るのは久方ぶりなのでな。師匠と仰ぐからには相応にもてなしてもらおうではないか」
「それは当然ですね。旦那様、接待頑張ってください! わたくしもお手伝いしますけど、やはり弟子が頑張るのがスジではないかと思いますので、手出しは最低限にしますね。あ、良かったらわたくしもおもてなしをしてくださいませんか? わたくし、めっちゃ頑張りましたよね?」
「そうだな。コヤツは我が弟子となったのだからな。貴様は我が加護を受けたものである以上、コヤツよりは立場は上だ。実は、色々と女子トークなどもしてみたかったのだ」
……なんだか、とっても俗っぽいな……セレイネースさん。
「はい! セレイネース様、一緒にお風呂とかもどうですか? 旦那様の本拠地には露天風呂というものがありましてね……」
「ほぅ! それは実に興味が湧くな! よし! 早速用意するがいいぞ!」
でも、なんか僕がもてなすって話になってるんだけど。
いつのまに? しかも、露天風呂作れとか何言ってんの?
ああ、でも……やるしかないか。
そんな訳で……ドM修行編……パート2に突入なんだぜ?




