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異世界コンビニ、ネコ耳おっさん繁盛記! ハードモードな異世界で、目指せっ! コンビニパワーで、皆でハッピーもふもふスローライフ?  作者: MITT
第六章「ロメオ王国漫遊記」

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第五十七話「強制イベント戦は負けフラグ」②

 そんな訳で、軽く朝ごはんを食べてから、海辺まで進出。


 風景自体はとても平和に見える。

 

 青い空、そして白い雲と砂浜。

 昨日は、お気楽に皆と遊んでたんだけどなぁ……。

 

 潮時としては、引き潮に向かってるみたいなんだけど、昨日ほど、ド派手に引いてない感じ。

 多分、二つの月の位置関係から、潮汐差は日や場所によってかなり違うんじゃないかって気がする。


 今日は……辺りが干潟になるほどは引かなさそう。

 波も穏やかで、地球で言う所の小潮に近いのかもしれない。


 まぁ、小手調べの戦いを挑むには悪くないか。


「ひとまず、ラトリエちゃんは陸の上で待機しててくれ。セレイネースさんの話だと、僕だけが狙われるみたいだからね。僕が囮役として、浜辺近くまで誘導するから、色々な攻撃魔法を試してみてくれ。僕は全力で逃げ回るとするよ」


「……そうですわね。二人とも海に出てしまうと長期戦は厳しいですからね。陸の上から攻撃に徹した方が戦いやすいですわ。とにかく、接近しないで10m以上の間合いを取るのを最優先にして、危なくなったらすぐに陸に上がる……。絶対に、無理だけはしないでくださいね」


「確かに……あいつも昨日みたいな失敗はしないだろうし、深追いはしないだろうけど……。僕だって、こんな小手調べの戦いで無理はしないよ。まだまだ、そこまで追い詰められちゃいない……じゃあ、軽く始めようか」


 昨日同様に、海に入って水船を作り出す。

 今回は、機動力と速力を重視して、細長い形状にする。


 これももうちょっと洗練の余地がありそうだけど、そこら辺は追々やっていこう。


「さぁ、行くぞっ!」


 最初は、何も起きない。

 静かな海を島が見える程度の距離を保ちつつ、無意味にウロウロしてみる。

 

 ……やがて、10分も進まないうちに、背後から大きな気配を感じる。


「旦那様! 後方200mほど後ろに来ています! 増速を!」


 陸のラトリエちゃんの「風のささやき」と呼ばれる魔術による遠話が聞こえてくる。

 要するに無線や携帯みたいなもの。

 

 陸から支援ともなると、相互のコミュニケーションが重要だから、なにかいい方法はないかって聞いたら、そんな魔術があるということで、すぐさま用意してくれた。


 距離は見えてる範囲程度にしか届かないらしいんだけど、これって地味に相当便利だと思うんだけど。

 実際は、遠話水晶なんてもっと便利なものがあるので、あまり使われてないらしい。

 

 さらに、そこら辺を飛んでた水鳥を使い魔にして、ドローンのように俯瞰視点による索敵までしてくれている。


 おかげで、奇襲を受けるようなことはなかった。 

 うーむ、なんだかんだで本職魔術師だけに、多彩な魔術を使えるみたいで、それだけで相当な戦力なんだよな……。

 さすがに……やるね!


「了解……増速する」


 加速しつつ振り返ると、背後の水が盛り上がり、昨日のデカいトカゲ面が顔を出す。


 けど、こっちが動き始める方が早かった。

 向こうとしては、こっそり忍び寄って奇襲ってやりたかったんだろうけど、そうは問屋が卸さない!


 やはり、空の視点があるってのはかなり有利だな。


「いよぉ! リターンマッチと洒落込もうぜっ!」


 言いながら、昨日と同じく一瞬尻尾を水船から抜いて、熱湯放射!

 水圧を高めることで射程を伸ばしてみたんだけど、相手も学習してるらしく、素早く口を閉じて、水中に潜る。


 うーむ、しっかり脅威を学習してるのか……。

 厄介な相手だな。

 

「ラトリエちゃん、今だ! 支援射撃!」


 1kmくらい離れた浜辺から、1mくらいの巨大な氷塊がいくつも放物線の軌道を描いて飛んでくる。


 それは最終段階でググッと不自然な軌道を描きつつ、リヴァイアサンの高速移動で盛り上がった水の上にドカドカと落ちる!

 

 リヴァイアサンの進行方向手前に盛大な水柱が立つと、一拍置いて、鈍い音が響いた。


「よし、直撃してる……上から見てどうだい?」


「はい! 当たってます……! 続いて、効力射……行きます!」


 今のは試射だったらしい。

 

 更に続けざまに、いくつもの氷塊が降り注ぐ……けど、水柱が盛大に立つだけで、リヴァイアサンに当たる音がしなくなった。


 この様子だと直撃は、最初の一撃だけだったらしい。


 おそらく、深く潜ることで攻撃を回避したんだろう。

 うーむ、水の中に潜られると一気に対抗手段が減るなぁ……水の壁ってのはここまで硬いものなのか。


 それに氷塊の着弾点が思った以上にバラ付いている。

 

「ラトリエちゃん、駄目だ……。どうやら潜ってるときはほとんど効果ないみたいだ。最初の一発は当たったみたいだけど、今は潜ったみたいで、全然効いてる感じがしない」


「……やはり、長距離で動く相手を狙うのは難しいですね。それとやはり弾道が安定しません。これでは、当たるものも当たりません……。それに潜られると勢いが削がれて、届かないようです……」


 うーむ、氷の砲弾みたいなもので、普通に当たればその大質量で相当な威力があるみたいなんだけど。

 水中にいる相手だと、浮力と水自体が障害になって、ほとんど効果はないらしい。


 それに弾道もかなり不安定。

 近距離なら、問題ないみたいだけどやはり長距離戦ともなると、その欠点が露呈するらしかった。


「やっぱり、厳しいみたいだね。氷の塊を直接打ち出してるみたいだけど、それだと弾体としてバランスが悪いんだと思う。氷塊の形状を細長くしたり、筒状のものから回転をかけて撃ち出すようにすると、コースも安定するんじゃないかな。なるほど、やっぱり実際に戦うことで解ることも多いんだね」


 まぁ、僕だと氷柱を作るとかは出来るんだけど、それを弾体として飛ばす射出魔法ともなると、ほとんど意味がない。

 1mくらいの氷の槍とか人間相手ならまだしも、こんな巨大生物には全く意味がない。


「意外と冷静に観察されてますね。確かにその通りのようですね。これは改良の余地ありです。あっ! リヴァイアサンが加速、一気に接近してます! そろそろ浮かび上がってくるかと! 注意してください! あの……そろそろ、引き際かと思われます」


 ラトリエちゃんからの警告。


 遠回しに撤退を促されてるんだけど、もうちょっと戦ってみたい。

 機動力とか何処までのものか、まだなんとも言えない。

 

 海面が盛り上がって、リヴァイアサンも一気に加速し始めたらしく、ぐんぐん距離が詰まってくる!


 と言うか、昨日より水船自体早くなってるはずなのに、容易く追いつかれてるし……。


 機動力については、どうやら相当なもの。

 時速100kmオーバーとかで泳げるんじゃないかな? なんかこれがリヴァイアサンの最大の武器って気がしてきたな。


 すでに距離も10mを切る……これは……来るぞっ!


 でも、こっちもそれは想定済み!

 ……姿勢を低くしつつ、波を捉えて、こちらもフルブースト!


「ムーンサルト・スクランブル360! こいつはおまけだ! とっときな!」


 波を乗り越えるんじゃなくて、波に乗って空中へ高くジャンプ!


 水圧によるブーストを掛けたから10m以上の高さまで一気に舞い上がる!


 リヴァイアサンを飛び越えつつ、宙返りしながらの熱湯攻撃!

 

 技名はなんとなくだけど、割とカッコいいぜ!


 けど、リヴァイアサンが海面に出て来たタイミングで扇状に薙ぎ払った熱湯がリヴァイアサンの両目を掠める!


「よっしゃ! 直撃っ! 読みどおりっ!」


 ……事前に思い描いていた通りの動き! 完璧な攻撃タイミング!


 なんだ、僕も結構やるじゃないか。


 さすがにこれは効いたらしい。

 大きく頭をもたげたように反り返ると、盛大に姿勢を崩して、めちゃくちゃに暴れまわってる。


 その隙に僕自身はリヴァイアサンとすれ違う形で一気に後方に回って、距離を取る!

 半円を描くように、背後から距離を詰めていくと、僕の攻撃が予想以上に効いているのが解った。


 どうも目玉自体は透明なレンズみたいなので覆われてるみたいなんだけど。

 そこはそれ……所詮は生物、言ってみれば透明な卵の殻みたいなものだったらしい。


 熱湯なんて浴びたら当然、タンパク質変性ってもんが起こる。

 レンズの半分以上が真っ白になってて、ほぼ視界を奪ったらしい。


 これは……思った以上の戦果! やったぜ!


「くっくっく! もしかして、クリティカルヒットってヤツゥ? ラトリエちゃん、今だ! ここは一気に畳み掛けるんだ!」


 すかさずラトリエちゃんの巨大氷柱が海面ギリギリを滑るように飛んでくる。


「……動きさえ止まれば、こっちのものですわ! さっさとお死になさいっ!」


 なかなかいいコースだった。 

 チャンスと見て、即座に最大攻撃を放つ辺り、戦闘のセンスってもんがあるんだろう。


「……ラトリエちゃん、何処狙い? 割と良いコースっぽいけど」

 

 リヴァイアサンは、完全にこちらを見失ったらしい。

 バタバタと暴れつつ、僕のこともラトリエちゃんの必殺の一撃も気付いていないらしい。


「はい。多分、この調子だと直撃は確実、それも頭の後ろ……人間で言う所の首の部分に当たりますわ。上空から見ても、骨格や可動域の関係でそこは鱗も薄い様子。一撃で仕留められなくてもかなりのダメージが行くはずですわ!」


 ……なんともえげつないピンポイント狙いの狙撃。 

 リヴァイアサンもほぼ完全に停止して、バタバタともがくばかりで、ほぼ無防備。


「よしっ! いっけーっ!」


 これはもしかして、もしかすると!

 思わず、ぐっと拳を握りしめて、固唾を呑んで様子を見守る。


 ……小手調べで挑んで、ミもフタもなく、一撃必殺?


 けど、これが戦闘ってもんだ。

 どんなに凄い相手でも、ラッキーパンチ一発で沈むときは沈む。


 けれど、直撃の寸前……リヴァイアサンは首をもたげると氷柱に真っ向から顔を向ける。


 ガキンと言う音と共に氷柱が砕け散るっ!


「な、なんですって! まさか、受け止めた?!」


 リヴァイアサンも衝撃で一瞬、仰け反るようになるんだけど、すぐに立ち直り、ダメージもほとんど受けていない様子だった。


「なっ! 見えてないはずなのに……敢えて頭で受けた?! なんてやつだ!」


 大抵の生物で一番頑丈なのは、頭部……それも額のあたりが骨も一番分厚い。

 あのリヴァイアサンは、避けられないと悟って、敢えてそこで受け止めるという選択をした!


 おまけに、見えてないのに、勘だけで飛来するアイスランスのコースを予測……!

 信じられないっ! それにあの巨大な氷柱の直撃で全くのノーダメージなんて!


 ……そこからは、まるでスローモーションのようだった。


 目が見えてないだろうからと、タカをくくって、じっくり観察しようと、距離を近づけていたのが失敗だった。


 リヴァイアサンがアイスランスを受け止めるなり、首の向きを変えると大きな口を開けて、真後ろに方向転換すると急激に突っ込んでくる!


 嘘だ……なんで、僕の位置が解ったんだ?

 あの状態から、まっすぐ突っ込んで来る……思いっきり想定外!

 

 てっきり、視覚がメインだと思ったのに、目を潰されても平然と対応するなんて!

 

「し、しまった! 回避……!」


 慌てて、水船を加速するのだけど、向こうの方が速力では上……。


 油断して、速力を限りなく停止状態近くまでしていたのが完全に仇になっていた。

 

 見る間に、視界いっぱいにリヴァイアサンが迫り、大きく開いた口の中に鋭い牙がいくつも並んでいるのが見える。


(あ、駄目だ……これ)


 我ながら、ひどく冷静に状況判断していた。


 こんなの回避も防御も意味がない。

 いくつもの選択肢が浮かぶのだけど、どれも間に合わないと悟ってしまった。

 

 と言うか、身体が固まって動かない……まさか、この僕がビビって動けない?


 動こうと念じるんだけど、身体の方はその思いとは裏腹に、ヘロヘロと腰が抜けたように水船の上に座り込むのがやっと。


 土壇場で腰が抜けて、動けなくなる……。

 

 ……こうなった時点で、僕の運命は決していた。

 

 アレに噛みつかれたら、痛いじゃ済まないな……そんな事を考える。


 多分、一瞬で咀嚼されてバラバラにされる。

 生き残ることは……出来まい。

 

 ……ああ、僕は何処で失敗したんだろう?

 

 こんな巨大な魔獣に丸腰で立ち向かって勝てると思ったのは、おこがましかったのかもしれない。

 

 慢心……油断、思い込み。

 勝てると勝手に思い込んで、楽勝観戦気分で近づいて……思わぬ反撃で……。


 戦いで死ぬときは、こんなものなんだ……ほんの小さな判断ミスで、呆気なく。

 

 僕だって、それは例外じゃなかった……。

 

 そんな諦観を抱きつつ、迫りくるリヴァイアサンの顎をぼんやりと見ていると、唐突に視界が真っ暗になって浮遊感に包まれる……。

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