第五十五話「海の女神様」⑤
「……あの、思い直してもらうことって出来ないっすか? それに使徒にしてやらせたいことって何なんスか? 海の上で好き勝手やってる海賊やら、怪物を始末したいってのなら、某達が期間限定で、セレイネースさんの使徒ってことになって、狩ったっていいっすよ?」
「そ、そうだにゃ! テンチョー達で代わりが務まるような事ならテンチョー達がやるにゃっ!」
「気持ちは嬉しいんだけど、海賊とか怪異とかは、その気になれば私の眷属達で片付くから、それには及ばないわよ。そんなラーテルムのお気に入りの使徒の力なんて借りたら、あいつへの借りになっちゃうじゃない! そんなの御免こうむるわ」
……まぁ、そうなりますわなー。
某達が貸しと思わなくても、ラーテルムさんから見たら、思いっきり貸しになるっすからねぇ。
あの性悪女神のことだから、調子に乗って無茶振りとか絶対やりそう。
はぁ……何と言うか、嘆かわしいっすなぁ。
けど、セレイネースさんの使徒になるってのは、もっと無理。
某は、ラーテルムさんのお気に入りだし、テンチョーさんは使徒の中でも最強戦力。
絶対に手放すはずが無いっす……。
そう言う意味では、確かにタカクラのダンナは、ラーテルムの目線から見たら、いらない子だから、むしろ持っていけば? って感じなんすよね……。
と言うか、そもそもダンナは使徒でもなんでも無いんだから、勝手に決めるなって話なんすよねー。
「ま、まぁ……確かにそうっすね。けど、そうなると海の世界は、むしろ平和って事なんスよね。なら、使徒が欲しいってのは、よく解らねぇっす。使徒ってのは女神の意思の代行者ってとこっすよね。まさか、海の女神の配下を使って、大陸勢に喧嘩売って大侵略とか、そんな事考えてないっすよね? そうなるとむしろ、某達は……セレイネースさんの敵に回りかねないっすよ? 某達もさすがにそんな侵略行為には断固として歯向かいますよ?」
話としちゃありがちなんすけどねー。
地底とか海底からの地上侵略とか。
住んでる世界が違うんだから、本来争いなんて起きようがないのに、あの手合は何故か地上を侵略するんするよねー。
「何いってんの? 別に大陸侵略とかは考えてないわよ。大陸の内陸部に関しては、ラーテルムの領域。海と沿岸部、大陸の外の孤島郡、それに河川の下流域くらいまでは、この私の領域……。これは、古来より双方不可侵、不干渉って協定があるの。これは絶対不可侵のルール……さすがにそれは私でも厳守するわよ」
「じゃあ、要らない干渉とかしないでくださいよ。タカクラのダンナは、この大陸の将来を握る重要人物なんすから。そりゃ、ラーテルムさんからは嫌われてますけどね。だからと言って、本人や周囲が望まないのに勝手に神の意志で追放とかしちゃいけないと思うっす。そこら辺はラーテルムにも、文句言って某が取り下げさせるっす!」
「……君の立場でそんな事出来るの? 出来るなら、それはそれで見ものなんだけど……」
「…………」
ここは敢えて、無言。
どうとでも取れるように、敢えて語らずが最善。
まぁ、某の描いた漫画の主人公「沈黙のサムライ転生」の主人公「斬慈治」ってのが、そう言うやつなんスけどね。
基本、なんも喋らないんだけど、仲間や敵が勝手に何を言いたいのか解釈して、コイツすげーって持ち上げていくって寸法なんス。
なお、少年誌連載でおっさん主人公だったのに、意外とヒットしたっす。
「……なるほど、否定も肯定もしない。沈黙は時として、百の言葉に勝る……やっぱ、アンタ侮れないわ。もっとも、どのみち、この私が貰い受けるって言ってる以上、ラーテルムが今更、出し惜しんだって手遅れなんだけどね。一度、約束を交わした以上、ラーテルムの意志で覆すことは出来ないのよ」
まぁ、どっちみち、ダンナはラーテルムとは関係ないポジションっすからね。
この辺は、勝手に深読みどうぞって感じっす!
「なるほど、要はセレイネースさん次第なんすね? けど、考えておくんなさい。今のロメオは、ダンナの存在が不可欠なんス。居なくなったら、せっかく出来てたいい流れが崩れちゃうんスよ。セレイネースさんも、大陸の情勢に要らない影響とか与えるのは不本意っしょ?」
「ふーん、そこまでの影響力があるんだ。タカクラさんって思った以上の重要人物なのね。取るに足らない小物ってラーテルムは言ってたけど、私はその評価を不当と思ったのよ。だからこそ、私の使徒に相応しいと思ったんだけどね」
……むぅ、逆効果だったっすかね。
美味しい物件だって、思われれば、なんとしても貰い受けるってなっちゃうっすよね……。
「……そっちが欲しいって思うのは勝手っすけど。ダンナを連れ去られちゃうと、困る人や悲しむ人達が大勢いるんスよ。そこら辺は汲んで欲しいっす! 仮にも女神様なんすから、空気くらい読んでくださいよ」
「確かにその辺の事情は解るんだけどね……。この大陸にもいくつか、この私を信仰する海洋国家ってのがあるのよ。このラキソムもロメオと合併する前は、そんな海洋都市国家のひとつだったし、法国の属国のひとつにも私を崇める島国があってね。その国セレスディアでは、海神セレイネース信仰が復活しつつあるの。そして、法国の混乱に乗じて、属国という立場を捨てて、完全独立を果たそうとしているの。けど、セレスディアはまだ年若い女王が即位したばかりで、老練な指導者が欠けているの。……まさに、海神の名に於いて、人々を導くセレイネースの使徒を必要としているの……」
な、なんか……どっかで聞いたような話っすね。
「……某は、よく知らんのですが。要するに、セレイネースさんの信者から助けを求められている……そう言うことなんスか? と言うか、法国も形は違えど、根底はラーテルム信仰の国なんで、そんな属国とは言え、独立運動とかされると、あまりよろしくないと思うんスけど」
「セレスディアは、元々セレイネース信仰の国で、大陸からも離れた島国なのよ。元々こっち側の国だったのよ。でも、大国でもある法国の圧力に屈して、属国の地位に貶められた。けど、地理的に離れてるのが幸いして、法国の混乱や帝国の戦乱とも距離を置いて、海洋貿易に力を入れて、相応の経済力を付けて、急成長中なのよ……。そこにセレイネースの使徒にして、異世界からやってきた経済エリートとかやって来たら、諸手を挙げて大歓迎になるに決まってるじゃない! もうね、知れば知るほどタカクラって、私的には超欲しい人材なのよねーっ!」
……おう、要するに海洋版のロメオってとこっすか。
思いっきり、ロメオのライバル国候補じゃないっすか……。
しかも、確かロメオの海上貿易力って、帝国の嫌がらせでただ下がり状態だったらしいっすからね。
その間隙を突くように、伸し上がって来たとなると……ロメオと激突するのも時間の問題っすよねぇ……。
「セレスディアっすか。島国で海洋商業国とか某達の故郷、日本に通じるものがあるっすねぇ……。なるほど、セレイネースさんにも、ダンナを必要とする理由があるってことっすか。そこは某も納得したっす」
まぁ、セレスディアもクレイジー宗教国の法国に振り回されたりで、苦難の歴史ってもんを歩んできたんでしょうなぁ……。
もし、ダンナがロメオの帰らずの森じゃなくて、セレスディアに転移してたら、違う歴史があったかもしれないっすな……。
「うんうん、解ってくれて嬉しいわぁ……。なにせ、セレスディアは私を崇める国だし、割と最近、代替わりして若き女王様が即位したばかりなのよ。その娘も若いなりに一生懸命頑張っててね! けど、女性君主とかやっぱり、舐められて、外交でもまともに相手されないし、部下にも振り回されたりで、すっごい苦労してるのよ! けど、そんな境遇にもへこたれずに、日々、私への祈りは欠かさずに、民の幸せを祈る。その上……その祈りの力はこの私にすら影響を与えるほど。これをほっとくほど私も冷たい神じゃないからね。何らかの形で助勢を与えたいのよ」
「まぁ……確かにほっとけない系の子っすね。某がセレイネースさんの立場だったら、確かに何らかの形で手助けくらいしてあげたくなりますわ」
確かに、少年漫画のヒロインとか張れそうなくらいの子っすよね。
けど、それ言ったら、クロイエ様とかも同じっす!
後出しライバルヒロイン爆誕とか、勘弁して欲しいっす!
空気読むっすよーっ!
「沈黙のサムライ転生」
主人公の「斬慈治」は「ざんじ おさむ」と読みます。
「ざんじばる」とも読めますがたまたまっすよー。
必殺技は「目賀粒子斬」、ついでに軽く大気圏突入も出来ますよ?(嘘)
ちなみに、舞台はファンタジー、敵はSF勢……。
第三話くらいで、宇宙空間で宇宙戦艦を真っ二つにします。
リクあったら、新連載考えてみるっすー。




