第八話「異世界コンビニ大繁盛っ!」①
さてさて……。
それから、それから。
ミミとモモ、キリカさんに仕事を教えながら、テンチョーと僕とでレジを回したり、商品の補充やらで、もうてんてこ舞いの忙しさだった。
客は……夜明けとともに予想以上の団体さんでやって来た!
最初は、通り掛かる旅人も商人も……ちびネコ耳達同様に立ち止まって、遠巻きに見てるだけだったんだけど。
ラドクリフさん達が、弁当買って、店の前で「コンビニ弁当、美味い美味い」……なんて言いながら、食う……そんな小芝居みたいな事を始めてくれて……。
旅人たちもいつも街道警備をしてくれて、よく見知ったラドクリフさん達が喜々として、美味そうなものを買って食ってるってんで、もの珍しさで色々買い物していってくれた。
けれど、その勢いは予想以上……1人が10人、20人……30人と。
あっという間に店の中が手狭になるくらいの人で、最盛期の繁忙期並みの忙しさになった。
累計客数は、100人から先はもう数えるのをやめた。
実質、戦力になるのが、僕とテンチョーだけで、もはや、殺人的な忙しさになるところだったのだけど。
キリカさんが思ったより早く仕事を覚えてくれて、ミミとモモにもガンガン仕事振ってくれて、お昼を回る頃には、レジの行列も店内一周するほどじゃなくなっていた。
なぜ、ここまでの混雑になったかと言うと、通り掛かる旅人が皆、この近くに滞留して、人が人を呼ぶような状態になってしまったからだ。
要するに、この街道を通って、このコンビニまで来た人達がまったく動かなくなってしまったから。
ある種の野次馬渋滞みたいなもんだな……。
午後3時辺りからは、新たにやって来る人も少なくなって、客足も落ち着いてきて、僕とテンチョーもようやっと一息つく余裕ができた。
それにしても、このネコ耳と猫尻尾の獣人の身体……元の人間の身体より、明らかにタフ。
独楽鼠のように駆け回ったり、延々半日近くろくに休憩も取らずに、立ちっぱなのに、全然まだ行けるって感じ。
なんか、10代、20代の頃に戻ったような調子……これはイイッ!
当然のように、テンチョーも他の娘も疲れた様子も見せずに走り回ってた。
さすがに、僕も疲れたので、店の外の草むらでゴロンと横になってる。
昼ごはんを食べる余裕もなかったから、肉まん片手にモゴモゴやってるのはお愛嬌。
こんなジャングル地帯だと……虫とかアリとか気にはなったけど、ラドクリフさん達も、普通に地面に胡座かいてたし……たまに登ってくるけど、手で払えば平気だって言ってた。
ついでに言うと、コンビニの周囲には、すっかり空き地みたいなのが出来ていた。
やたらと人が集まってしまったので、ラドクリフさん達や旅人達が自主的に協力して、店舗の周りの木々や雑草を取っ払ってくれて、空き地を作ってくれたのだ。
まぁ、切り株とか残ってたり、地面はデコボコだけど、一雨降れば落ち着くだろうし、風通しも良くなったから、とってもありがたい。
ちなみに、僕らは、一通り仕事を覚えたキリカさんが気を利かせてくれたのか、テンチョーと一緒に少し休んで来ればと言うので、お言葉に甘えさせてもらった。
テンチョーも隣で同じように、大の字になりながら、唐揚げ棒を食べてる。
どうやら、唐揚げをとても気に入ったらしい。
寝転びながら、食べるとかお行儀が悪いけど……身体を休めながら、食べる……効率的だと思うよ?
ちなみに、時刻は間もなく夕方。
発注は昨日の夜のうちに済ませていたから、お昼便もしっかり来た。
お昼担当は、和歌子さんじゃなくて、見知らぬ若い男性ドライバーだったけど。
やっぱり、細かいことは言いっこなし……とか言って、やたら爽やかな笑みと共に去っていった。
ちなみに、配送のスケジュールは一日三回。
朝の6時と、お昼すぎの14時、夜の22時くらいに来るようになっている。
もっとも、発注数は元の店舗でのフォーキャストだったので、もうグダグダ。
とりあえず、売れるものはめちゃくちゃ売れたけど、売れないものはとことん売れないって感じで、有り余ってる。
具体的には、弁当、パン、おにぎり、ホットスナック系はじゃんじゃか売れた。
あとは、アルコール系やタバコも大人気。
飲み物系、カップラーメン類やお菓子、スイーツ系などはあんまり売れてない。
まぁ、この辺はこっちの世界には無いものばかりで、良くわからないものには手を出さない……単純な理由らしかった。
この辺は、商品説明やってる余裕がなくて、お客さん同士の情報交換で評判になったのが、集中して売れるって感じになったからってのもあるだろうね。
昼過ぎ辺りからは、酒に味をしめた連中がこぞって大人買いしていったので、なんかそこら辺で酒盛りが始まってたりする。
どうもこの人達、ここで夜を明かすつもりらしい。
もっとも、長旅ともなると朝早くに動き始めて、昼過ぎにはその日の行程を終え、野営の準備を初めて、暗くなったら飯食って、交代で見張りを立てながら、寝るってのが基本らしい。
徒歩の旅では、実際に歩く時間なんて、せいぜい5-6時間程度……残りの時間は、野営地で食事を作ったり、食っちゃ寝して過ごす。
そんな訳で、一日の行程は20km程度に留まる……のんきな話だけど。
丸一日ノンストップの強行軍なんて、軍隊で戦時中でも無い限りやらない……その軍隊ですら、夜間行軍なんて論外。
出来なくもないけれど、兵隊の半分くらいが怪我や迷子になったり、力尽きて脱落するんだとか……。
なにせ、徒歩の旅……自分の足で歩くのだから、無理をして、怪我したり、病気になったら命に関わる。
馬車や荷馬を使う場合でも、相手は生き物だから、無理はさせられない……だから、のんびり余裕を持って旅をする……そう言うことなんだそうな。
途中で美味いものが出て、ゆっくり屋根の下で休める街とか村があれば、そこでしばらく留まったりなんかもするそうで……まさにスローライフ。
酒盛りしてるおじさん達も他のグループと合流して、物々交換を始めたり、うちの商品についても、アレが美味かったとか、オススメは何々だ……なんて調子で、色々情報交換しているらしかった。
商売人なんかも多いみたいだし、あとで酒瓶片手にお邪魔して、アンケートとったり、アドバイスとか聞いてみても良いかもしれない。
ちなみに、客層は意外と普通の人が多かった。
なんでも、この近くに光の女神ラーテルムとか言う女神様を祀る神殿があるようなのだけど。
その女神様からのお告げがあったとかなんとかで、数日前からその信者が団体さんで巡礼に来ていたらしい。
で、ちょうどその団体さんが帰るところで、このコンビニを発見して、その人達がこぞって、お客さんになってくれた……そんな構図らしかった。
女子供も連れた過酷な巡礼の旅の末だったからか、誰もが喜々として買い漁っていって、もう今夜はここで野営していく構えらしかった。
ついでに言うと、そんな団体さんが旅をすると、いろいろ物入りなので、随伴するような感じで行商人がついて行ってたり、団体と一緒に行動したほうが安全と言う理由で、便乗する旅人がいたりと……そんな理由で、200人位の団体さんになっていた。
そのせいで、普段より人が集まってしまったらしい。
おかげでもはや、うちのコンビニの周囲はハイシーズンのキャンプ村か、エベレストのアタックベースキャンプのようになっていた。
にしても、なんか出来過ぎって気もするんだけど……ねぇ?
実際、巡礼団の人達の中には、女神様のお告げとやらを聞いた人もいたみたいなのだけど。
なんでも、昨夜もお告げがあって、凄いお店が出来たから、明日は帰りに寄っていくと良いよ……なんて言われたらしい。
うーむ……状況的に、そのラーテルムって、女神様がテンチョーの言ってた白いの……なのかも。
僕らにいったい何をさせるつもりなのか、良く解らないけど……宣伝までしてくれるとは、お詫びの一環なのかな?
ちなみに、値付けとかめんどくさくなってきたから、試しにレジのバーコードリーダーを使ったら、現地価格が表示されたので、その値段で売る事にした。
もっとも、たまにこの値段は安すぎるよとか、同じ商売人の人とかキリカさんが忠告してくれて、そこら辺は調整もしてる。
なんか、ポテチとか銅貨5枚とかそんなんでも、珍しいしソレくらいの価値はあるとか言って、気にしてないみたいなんだよね。
ビールなんかも銅貨十枚とかそんなんが適正価格だとか言われちゃったし……。
ラドクリフさんとかは、お弁当めっちゃボッタクられてたことに気づいたようだったけど、キリカさんとは馴染みなだけに、苦笑するに留めてくれた……ダンディーな上に紳士。
男の中の男……何このイケ犬耳さん。
ちなみに、ラドクリフさん達は、なんだかもうお祭り騒ぎみたいになってしまったので、店舗への入場制限とかもやってくれた上に、近くで野営するグループが大量発生してしまったので、治安維持の為、しばらくここに留まって、警備してくれると言う話になった。
もっとも、キリカさんはこれ幸いとばかりに、品出しとか、馬車の誘導とかこき使ってたような感じだったけど。
「ふにゃーっ! ご主人様……大変だったねぇ。さすがにテンチョーも疲れちゃったよ」
テンチョーが起き上がって、ニッコリと微笑む。
唐揚げのかけらがほっぺについてたので、取ってあげると、もう一回にぱーっといい笑顔。
可愛い子だねぇ……ホント。
「そうだね……いやぁ、さすがテンチョー! 僕が何も教えなくても、ちゃんと仕事解ってて、すごく助かったよ」
僕もとりあえず、起き上がって大きく伸びをする……ちょっと寝転んだだけなのに、もうすっかり疲れも取れている。
チート無しとか嘆いてみたけど、この頑健な身体になった時点で十分チートじゃないかな?
いやはや、ネコ耳バンザイ!
ちなみに、テンチョーは歴戦のベテランバイト並みに、何も言わずとも、率先して動いてくれる即戦力級の人材だった。
その働きぶりは、往年のバイトリーダー和歌子さんや、本部直属の上級派遣戦士並みだった! 素晴らしいっ!
「にゃははーっ! テンチョーは、いつもご主人様達のお仕事を見てたのにゃ! いつかお手伝いしたいにゃーって思ってたのにゃ……」
そう言って、僕の肩に頭をゴッツン……じゃらん。
猫の愛情表現……謎のヘッドバッド。
この辺もやっぱり猫なんだなぁと実感。
なんなら、いつもみたいに、ペロペロだってしてくれていいんだよ?
ちなみに、徒歩での旅で一日5-6時間しか動かないってのは、割とホントの話です。
江戸時代とかの旅行は概ねそんなだったし、登山とかで縦走とかやる人はそんな感じだったりします。
長丁場の徒歩旅行なんて、無理しちゃ駄目だからねー。
一日分歩いて、まだ全然歩けるぞーくらいで丁度いい。
ちなみに、ローマ帝国あたりとか、ナポレオン辺りだと徒歩で一日100km踏破したような話もありますが……それらはかなり特殊な例で……。
実際は、一日6km以上進めるようなら、組織としては上々とかそんな調子なんだとか。
20kmとか30kmなんて距離を踏破出来るようなら、もう最高精鋭とかそんなレベルです。




