第五十三話「ここをキャンプ地とするっ!③
「なるほど、ラトリエちゃんも知らない魚もいるんだ」
「さすがにこの辺りにいる魚の全種類ともなると図鑑が必要ですし、未だに時々、新種発見なんて話も聞きますからね。基本的に食べられるものだけを覚えておいて、それ以外は食べないと言うのが、毒に当たらないコツですわ」
……まるで、キノコハンターみたいな話ですこと。
けど、食べられるものだけでも、それなりの量になったことだし……。
地元民のお墨付きが出てる以上、安心して食べられる!
そんな訳で、お料理開始だ!
あ、毒魚や良く解らないのは、穴ほって埋めました。
無益な殺生をしてしまったけど、次は面倒くさがらずに、食べられるのだけ捕るようにします。
まずは、かまどを組んで、焚き火をする。
この辺は、僕が担当……火を付けるのは、ラトリエちゃんにお願いしてあっさり出来た。
ヤシの木もどきの幹の皮って、繊維状になってるから、着火剤代わりになるってことも普通に知ってた。
この子、キャンプの達人ですよっ!
僕がニャンと水鳥剣で、三枚おろしにしたりしつつ、切り身を作っていく。
ラトリエちゃんも、指先に氷のメスみたいなのを作り出す魔法で、器用に捌いていく。
ロージャは、脂身の多い魚らしく、焚き火で石を焼いてその上に切り身を乗せて、石焼にする。
スケスケのクラマリスは、刺し身! 案の定、アニキサス的な寄生虫がいたけど、透明だから丸わかり!
一切れつまみ食いしたけど、ゼリーみたいな見た目なのに味はトロ! やべぇ、ウメェっ!
セムージュは、開きにして、陰干し。
これなら、保存も効くから、明日の朝ごはんにでもしよう。
塩とかあればなーと思ってたら、ヤシの実の殻に海水を汲んで、石を焼いてそれに海水を注いで、結晶化した塩をかき集めると言う方法で抽出。
海水汲んで来てって言われて、波打ち際まで往復はそれなりに大変だったけど、塩が使えるになったのは嬉しい!
うーむ、サバイバルの必需品のひとつだったんだけど、いとも簡単に手に入ってしまった。
考えてみれば、無人島だと周り海だから、塩にはあんまり困らないんだった。
山芋みたいなトルサラ芋は、生でも食べられるから、そのまま小さく切り分けで、塩振って食う!
一応、主食代わりにはなりそうだった。
ラトリエちゃんの話だと、そこら中に生えてる細いつる植物が全部それらしい。
そう言えば、ミミモモも言ってたな……。
なんでも、芋、むかご、種といろんな繁殖手段を持ってる上に、地面を這って勝手に根付いたりもするから、芋を掘って、茎をそのへんに放置してても根付いて復活したりもするらしい。
とにかく、強靭な植物なんだとか……。
繁殖力が半端ないから、ほっとくと凄まじい勢いで増えるんだけど、芋やむかご、葉っぱも食べられるから、貴重な食料でもあるらしい。
茎とか棘生えてるから、そこら辺は要注意らしいんだけどね。
うーむ、地球に持ち込んだら、バイオハザード起こしかねないな……これ。
実際、こんな無人島にまで侵入して、大繁殖してしまっている。
まぁ、僕らとしては助かるんだけど。
栽培とかされてないのは、多分増えすぎて手に負えなくなるからなんだろう。
僕も追加で取りに行ったんだけど、下草の半分くらいがトルサラ。
砂地にも適応してるみたいで、緑になってる部分は大半がコイツ……ライバルも人間もいない環境で、増え放題になってるらしい。
けど、ハマダイコンみたいなのとか、イネっぽいのとか、海浜植物も結構生えてる。
ハマダイコンって確か食べれた気もするんだけど……地球の知識が当てにならないのは、思い知ったので、ラトリエちゃんにでも聞いてみよう。
「さぁて……すっかり日もくれたけど、無人島サバイバル! 今夜の晩御飯の完成だっ!」
「はい、旦那様……お召し上がりください! ロキシス海の幸セットでございますわよー!」
ロージャの切り身の塩焼き。
クラマリスの刺し身盛り合わせと天然焼き塩。
ロゴリアのすまし汁風アラ汁とトルサラ芋をサイコロ大にして、混ぜ込んでみた。
主食は、トルサラ芋の一口サイズ生の塩かけだ。
うん、思ったよりも贅沢な晩ごはんだ。
まずは、クラマリス……半透明の刺し身とか斬新だけど、美味いのは解ってる。
軽く塩を付けて食べる。
「くぅううう……美味いっ! 最高級の大トロにも引けを取らないよ!」
「大トロってアレですよね。コンビニにも売ってましたよね。わたくしも賞味させていただきましたけど、赤身の魚に油のようなもので味を付けたって感じでしたね」
「アレって、常温で置いといても傷まないって、怪しげなのだからねぇ……。トロって言ってるけど、マグロの赤身に調味油混ぜてるって話だよ。僕はあんまりお勧めしないし、皆買っていかないから、たまにしか入荷しないんだけど……食べてみたんだ」
「ええ、わたくし達にとっても、コンビニは、珍しい食べ物がたくさんありますからね。一通り堪能させていただいてますが、ロキサス出身の者達は、クラマリスの刺し身が恋しいとか言ってましたね」
「確かに、これは美味しいね。これは湯がいたりしても美味しいかもしれないね!」
「そうですねっ! お茶漬けでしたっけ? あれも良さそうですよね」
「ううっ、またご飯が欲しくなることをっ!」
うーむ、日本酒と白いご飯だなー。
ないと思うと余計に恋しくなる。
「そうですね。クラマリスは単独だとそうなりますね。せっかくなのでこちらも」
そう言いながら、葉っぱに載せた黄色と青のシマシマの皮付きのロージャの切り身を差し出される。
派手な皮と対照的に身は白く、脂が乗ってるのが解る。
香りもいいし、絶対美味いやつだって事は解る。
葉っぱごと受け取って、皮ごと切り分けて一口っ!
「くっそーっ! 脂が乗っててめっちゃ美味いじゃないかっ!」
ロージャの塩焼き。
ただし、カラフルな皮は焼いてもその色は健在。
とは言え、沖縄とか台湾なんかだと、黄色かったり、青かったりする魚も普通に市場に売ってて、普通に食べてるらしいし……。
味として、例えるならタラに近いかな?
要するに、普通に美味いっ!
これは鍋にしてもいいかもな……ああ、日本酒が欲しい。
「ロージャは、大きめでよく捕れるので、安くて食べでがあって美味しいと評判なんですわ」
「確かに、これは美味しいねぇ……これで日本酒があればなぁ……」
「日本酒……お米から作る透明なお酒でしたっけ。和歌子様がお勧めしてましたね」
「日本酒は、やっぱり和食や魚料理と合うんだよなぁ……。帰ったら、一緒に飲むか」
「いいですわね! でも、わたくしを酔わせてどうするので?」
ラトリエちゃんがいたずらっぽい笑みを浮かべて、笑いかけてくる。
「ふふふ、どうして欲しい?」
そう告げながら、ほっぺたに手を伸ばすとむしろ、顔を赤くしてアタフタしてる。
自分でネタ振りしといてコレなんだもんな。
「まぁ、無理はしなくていいんじゃないかなぁ……。それより冷めないうちに食べちゃおうっ! あ、こっちのアラ汁も美味いよっ!」
ちなみに鍋なんて無いから、ヤシの実の殻に海水とアラをブチ込んで、焼いた石を出し入れして、作った。
なお、ほぼ僕の手製。
これもなかなかいい感じで脂と出しが出てて美味いっ!
アゴだしのラーメンとかにも似てるな。
ああ、ラーメンも食いたいなっ!
「あら、意外といい感じじゃないですか。ロゴリアにこんな食べ方があったなんて……これは戻ったら、家族にも食べさせないと……ですね!」
「意外と家族思いなんだね」
「はい、なんだかんだで末っ子なので、皆から愛されてました。きっとロキサスでは皆、心配してるでしょうね……」
ロキシウス侯爵には、悪いことしたなぁ……。
責任感じてたりしなきゃいいけど。
ちなみにロゴリアのアラ汁は、これで正解だったっぽい。
骨がゴツいし、ゼラチン質が多くて、あれだ……アンコウみたいな感じ。
トルサラ芋は……茹でると里芋みたいで悪くない。
ご飯と醤油があればなー。
まぁ、生でも食えるし、そこら中にあるからな。
この調子だと飢える心配は無さそうだった。
やがて、豪華海の幸の食事も済み、後片付けも終わり、簡単な葉っぱテントで横になる。
ラトリエちゃんは熱心に天測を始めてるけど、僕が出る幕じゃ無さそうだった。
その様子を見ながら、いつのまにか僕は眠りの世界に誘われるのだった……。
次回、視点チェンジ!




