第五十三話「ここをキャンプ地とするっ!」②
「……良く解らないけど、食べれるのはどれかな?」
「そうですね。海の魚は食用になるものも多いですし、ロキサスに住んでいると自然と魚の見分けも出来るようになりますからね。まずロージャ……このカラフルな魚はこの辺りの海では良く見かける種類ですが、大きめの白身魚なので切り身をフライにしたり、そのまま焼いたりするのが一般的な食べ方ですね。バターとも合うのですが、さすがにそこまでは難しいですね」
「この半透明な変なのは? さすがにこれは食べられそうもないんだけど……」
「いえいえ、このクラマリスは生のまま切り身を食べるのがお勧めです……結構、美味しいんですよ?」
「刺し身? 寄生虫とか大丈夫なの?」
「よくご存知ですね……生で魚を食べる際は、虫が付いてることがあるので、それが一番厄介なんですが。クラマリスは見ての通り、身が透明なので虫がいればひと目で解りますからね。焼いたり煮たりすると身が崩れてしまうので、鮮度が良いうちに生で食べる……ロキサスでしか食べられない珍味なんですよ」
なるほど、確かにこんなスケスケだと虫がいたら一目瞭然。
実際、サバとかアニキサスがいっぱいだったりするからね。
生で食うとか、まさに無謀。
「確かに、こんなの他所の土地では食べられないよなぁ……。こっちの刺々しいのは?」
「セムージュは……開きにして、乾燥させて食べる事が多いですね。乾燥すると棘ももろくなるので、包丁で削るなりそのまま焼けば、燃えてしまうので、気にならなくなりますよ。テンチョーさんが随分と気に入ったみたいで、アジとそっくりの味って言ってましたね。あと、こちらのバロラは毒があるので、絶対食べちゃ駄目ですよ……」
……さすが、ジモッティー。
ひと目で食べ方まで解るなんて、素晴らしいな。
セムージュってのは、アジの一種なのか。
……全身棘だらけで、やたらと刺々しいんだけど……。
確かに、尻尾のあたりにも逆トゲがついてる……確か「ぜんご」だったかな。
心持ちデカイのと、刺々しい以外は、確かにアジって感じ……これは多分当たりだな。
バロラってのは、一番普通っぽくて、手のひらサイズで大きさも程よいって感じだったんだけど……有毒種だったのか……こりゃ、解らんわ。
最初ラトリエちゃんは、ビムラって言ってたけど……食用種で似たのがあるって事か。
「うーん、ひと目で名前や料理方法まで解るなんてさすがだよ。このバロラってすごく普通っぽい魚なんだけど、毒があるんだ……最初違う魚の名前言ってたけど、間違えやすい魚なのかい?」
「はい、これと非常によく似た魚でビムラって種類の魚がいて、そっちは希少な上、大変な美味で有名なんですけど、このバロラを間違えて食べて、お亡くなりになる方が毎年何人もいるんですよ」
……なんだか毒キノコだか、毒草みたいだな。
大自然の罠?
「な、なるほど、まぁ……区別が付きにくいなら、手は出さないほうが無難だね」
「えっと、判別方法はですね! ここに白い鱗がありますよね? これがある方がバロラ……ビムラは、黒なので一応見分けは着くんですよ。ただ、輸送中に鱗が剥がれたりするともう見分けなんて付きません。厄介なことに味もよく似ていて同じくらい美味な上に、後から毒が回るので、食べ終わってから中毒になるんですよ……」
……ちなみに、白い鱗とやらはエラの近くに一枚だけある奴っぽい。
微妙すぎる! こんなん解るかっての!
多分、近縁種なんだろうな……。
デンジャラスなんだけど、美味いとなると手を出す奴もいると。
似たような話は、地球でも聞くけど、美味いものを食うために命を懸けるってのは、異世界でも一緒なんだな。
「この出目金みたいな目が飛び出してるのがロゴリアって奴か。ハゼ系?」
「出目金がどう言う魚なのか、解りませんが。海の底を歩くとも言われている魚ですね。食べれなくは無いみたいですが、骨が固くて捌くのに苦労します。そもそも滅多に採れないので、市場にはあまり出回りませんね。食べ方としては……茹でて、身を掻き出しながら食べるって感じですかね」
なるほど、ムツゴロウとかそんな感じっぽいな。
ただし、デカイ……30cmくらいある……。
まぁ、確かに骨ばってるし、いいとこぶつ切りにしてアラ汁にするくらいだな。
ちなみに、こう見えて僕は、魚にはそれなりに詳しい。
なにせ、大学時代のお友達……例の珍獣ランド園長とは、若い頃よく海釣りとか行ってたからな。
もっとも、僕が好き好んで行ってた訳じゃなく、半ば強制。
土曜の深夜とか、ダチで唯一車持ってた園長がドライブ行くぞーとやって来て、問答無用で拉致。
目が覚めると、熱海とか下田にいるってパターン。
それで、一通り食える魚、食えない魚とか、危険な魚と一通り教えてもらったんだがね。
現地で食う釣りたての魚の刺身とか、アラ汁だの男の手料理……懐かしいね。
もちろん、揃って何も釣れないボウズって日もあったけど、そう言う時は、もうひとりの友人、大倉って奴が美味いもん食っていこうぜとか言い出して、温泉寄ったり、飯奢ってくれたりもしたもんだ。
そう言う楽しみもあったから、そんなに嫌でもなかったな。
もっとも、地球の魚の知識なんて、異世界ではまるで役に立たんと思い知った!
ラトリエちゃんが、ひょいひょいと食べられない&有毒系を跳ねていく。
どうみてもカワハギみたいなのも撤去された。
ありゃりゃ、キモが抜群に美味いんだがなー。
「その馬面の魚もヤバいの?」
「このフォラスは、毒性は強くないんですけど、当たると痺れて一晩ほど動けなくなりますね。やはり、美味な魚なのですが、皮と内臓に毒があるので、余程うまく捌かないと確実に当たりますね。これもお勧めはしません」
一晩痺れて動けなくなるって……危険過ぎる……。
要するにフグみたいなもんか。
フグも身には毒がない上に高級魚だからって、釣り人が釣って、自分で捌いて食ってたりするんだけど。
やっぱり、たまに毒にあたって、死んだりする。
園長もフグは危ないつって、いつもリリースしてた。
なんせ、フグ調理師免許なんて代物があるくらいだからな。
フグの内蔵とか皮の取り扱いも鍵のかかる専用のボックスに入れるほど。
まるっきり危険物扱い。
素人がフグに手を出すと、最悪あの世行きになりかねない。
よくよく見ると、このフォラスって、キタマクラにも似てるなぁ。
ちなみに、キタマクラはフグの一種で毒魚……名前の通り、食べたら北枕……要するに死人の仲間入りとなると古来から言われている……そんな魚だ。
カワハギに似てるので、たまにカワハギと間違えて、食って当たる人がいるんだけど、基本的に美味しくないので、釣れても海にお帰りいただく系。
ただ、こっちのコイツは、より一層カワハギに似てる……ザラザラした皮とか、ほんとそのまんま。
僕だけだったら、嬉々として捌いて、当たってたな。
「うん、食べられるのはこれくらいですね。残りは、食べない方が無難、もしくは良く解らない魚ですわね」
ラトリエちゃんの選別結果に、思わず唖然。
むしろ、ド派手だったり、ブサイクだったり、半透明だったりと……如何にも食べられそうもない方が当たりで、地味で普通っぽいのがハズレって……。
うーむ、こりゃ下手な知識がある分、僕が選別してたらここでアウトだったな。
ソロ遭難とかなってなくて、良かった……。




