第五十三話「ここをキャンプ地とするっ!」①
長い砂浜を歩いて、島の頂上まで戻ると、森の側に転がってるた大岩の横に、ラトリエちゃんが大きな石を積み重ねてるところだった。
結構重そうなのに、軽々とヒョイッと言った感じで持ち上げてる。
うーむ、あの細腕であのパワー……?
けど、あれか……強化魔法か。
筋力増強とかその辺使えば、女子供でも大の男をワンパンKO出来るとか言ってたしなぁ……。
「やぁ、ただいま!」
僕がそう声をかけると、ラトリエちゃんも手を休めて、こっちに振り向く。
水着姿もすっかり慣れたらしく、堂々たるもんだった。
「旦那様……無事にお戻りですね。良かったです、ここから見ると大分海が広がってきていたので、そろそろ迎えに行こうかと思ってました」
「うん、そこら辺は僕もちゃんと気をつけてたからね。案の定、思った以上の速さで満ちてきて、早めに引き上げて正解だった。ところで、かまどでも作ってたのかい? そう言う力仕事は僕に任せてくれればよかったのに……」
「そ、そうですね……さすがに素ではこんな大きな岩、とても持ち上がらないのですが、腕力強化を使えば、なんとかなると思って、おっしゃる通り、かまどを組んでました。焚き火でもいいんですが、煮炊きにはこちらの方がやりやすいんですよ」
「なるほどね。けど、傍から見ると、こんな細腕の水着の女の子が大きな岩を平然とヒョイヒョイと持ち上げるとか、やっぱシュールだな……」
「あはは、確かにそうですね。けど、腕力強化は身体の強度自体も強化されるので、戦闘の際は必ず使えって言う人もいるくらいですからね。旦那様のあのとっても逞しくなる魔法も強化魔法と同じものなのですよね?」
女の子に逞しいとか言われるのは、何とも気分がいいなぁ。
やっぱ、筋肉最高っ! そう言う事なら、若い頃にでも筋トレとかやっとくんだったな。
「そうそう、あれは身体強化タイプだからね。自前の筋肉が増えて、強化されることで、圧倒的なパワーを出せるんだ……さらに魔力で増強された筋肉には高い再生力まで付与される。魔法への抵抗力もあるし、物理的な防御力も高い。戦闘用には十分だと思ってたんだけどね……」
言いながら、海の方を見るとリヴァイアサンが波に洗われ始めているところだった。
まぁ、ここにいる限りは襲われないだろうけど、海に出たら……絶対、また襲ってくるだろうな。
ただ、この筋肉増強魔法のフルパワーで殴っても、アレはちょっと無理だろうな。
さすがに、ウェイトが違いすぎる……。
「リヴァイアサン……ですか。さすがにあのクラスの魔獣相手となると、少しくらい身体強化したところで意味はありませんね。アレを倒すとなると投射タイプの遠距離攻撃で距離を取って戦わないと、危険すぎますからね。旦那様もそう言った、強敵を打ち倒せる力の必要性を感じていると……」
「うん、多分解ってるかも知れないけど、ここから脱出するには、アイツを倒さないと駄目だと思うんだ。となると、僕達はアレを倒すだけの力をここで付けなければならない……。それにそろそろ、守ってもらう……なんてのからは卒業したいからね」
「……畏まりました。アージュ様も、旦那様は戦意や向上心が足りないと常々おっしゃってましたからね。わたくしでよろしければ、旦那様の新たなる力の為、微力ながらお力添えいたしますわ」
「そんな大袈裟にしなくたっていいよ。皆も僕らを探してるとは思うしね。アージュさんあたりが来てくれたら、あんな化け物だろうが、一発で凍らせて終わりだろうさ」
「お師匠様なら、そうでしょうね。はぁ……わたくしも宝具があれば、良かったのですが。さすがに持ち歩いていませんでしたからね……」
「どのみち、僕の筋肉魔法は、海の上じゃイマイチだったからなぁ。こう言う場所で戦える力は必要だからね。いい修行の機会だと思っておくよ」
実際、浜辺でフルパワー筋肉だっ! ってやろうとしたけど、気持ちくらいしかビルドアップしなかったし、セルマちゃんも海辺ではあまり役に立てそうもないとか言ってた。
どうも、この手のパワー強化の魔法って、土のマナを使うのが一番効率いいんだよな。
他の属性だと、効率も良くないし、パワーアップと言っても大したものじゃないんだ。
「なるほどですね。複数属性を使えるなら、やはり得意属性だけでなく、色々使えたほうが便利ですからね。土地ごとのマナバランス次第で、魔法が一切使えない……なんてなると、術士ってのはあっさり無力になりますからね」
「まぁね。実は僕もこう見えて、ほとんどすべての属性のマナを扱えるんだ。水が一番得意なんだけどね」
アージュさんと試した感じだと、光と闇のマナ以外は使えるんじゃないかって結論。
もっとも、水の魔力変換効率が際立ってるから、水を徹底的に鍛えろとは言われてる。
「それは……素晴らしいですね。もっともわたくしも水の術者なので、他はあまり教えられそうもないのが残念ですが……」
「またまた、謙遜しちゃって……君の発想と応用力は大したもんだよ。それに知識も……そこの葉っぱとかは、テントでも作るつもりなんだろ?」
ラトリエちゃんの背後には、ツタ系の植物のツルややたらでっかい葉っぱと太めの木の枝やらが、積み重ねられていた。
それと山芋っぽいのも見えるな……。
ラトリエちゃん、言うまでもなくサバイバルの知識を持ってるっぽい。
どうみても、お嬢様育ちなのに大したもんだ。
むしろ、この材料でどうすんの? ってのが、今の僕だ。
「はい、そうですね。森に入って、色々と集めてまいりました」
「おお、この短時間でもうそんなに色々集めたのか……。こんなのからテントなんて出来るの?」
丸太、ツタ、座布団サイズの葉っぱ多数。でかい岩がゴロンゴロン。
「はい。親衛隊の事前訓練の際に、こう言う無人島や山奥を想定した野営の訓練もしてましたので、手慣れたものですよ。この島は悪くないですよ。ロープ代わりになるツタもあちこちにありますし、トルサラ芋までありました。本来、掘り出すのに苦労するんですが、地面が柔らかいので、力技で引っこ抜けました! これは生でも食べれるので、火が使えないような状況では重宝すると言う話です」
何と言うか、逞しいなぁ……。
と言うか、基礎訓練程度って話だったのに、割とガチな野営訓練とかって……。
いや、考えてみれば、普通に旅するだけで遭難するような世界なのだから、まずは生き延びる手段をって事で軍の人達も頑張ってくれたんだろうな。
ラトリエちゃんも、やけに手慣れてる感じだから、ひょっとしたら自分達だけで山ごもりくらいやってたのかもしれないな。
こりゃ、僕も負けてられないね!
「いいね! こっちは一応、魚を取ってきたよ。取り残されてたのを水たまりごと丸ごと氷漬けにして持ってきた。食べれるかどうかは良く解らないけど、どうかな?」
言いながら、氷の塊をゴトリと下ろす。
中には、お魚が10匹くらい詰まってる……とりあえず、水を掛けて解凍っ!
「なるほど……こうすれば、鮮度も維持できるし、持ち運びも楽だとは思うんですが……。こんな大きな氷、良く持てましたね」
「ふふっ、僕はこう見えてパワー派なんだよ。筋力増強魔法頼みじゃなくて、素でそれなりに鍛えてるからね! これくらい楽勝さ!」
見る間に、氷が溶けていくと、魚が見えてくる。
ラトリエちゃんがしげしげと眺めて、鑑定してくれる。
「あら、いいですね! ロージャにクラマリス、セムージュまで! 他にはロゴリア……ですね。あら……これは……もしかして、ビムラ?」
謎の魚の名前が次々列挙される。
なるほど、解らん!
……まさに、ご当地フィッシュって感じだった。
果たして、これはアタリかハズレか……ドキドキ、鑑定ターイムっ!




