第七話「やって来た来た異世界トラック!」②
「わ、和歌子さん! そっちこそ、何やってんの? 外国へ旅に出るとか言ってたのに……」
まさか、こんな所で和歌子さんと再会するなんてっ!
「あたしも色々あったのよ……色々ねっ! ごめんねぇ……連絡くらいしようと思ってたんだけどね。……それはともかく、オーナーは、なんでこんなとこに?」
「……異世界転移? コンビニもろとも……? 理由なんて解るはずもない。でも、和歌子さんこそ、どうなってるの? なんで、トラックでここまで来れたの?」
「……あたしの場合は、色々あって、この異世界トラック……弁天丸を手に入れてね……。様々な異世界を渡り歩く配送業者みたいなことをやってるのよ。この説明で解る?」
「ぜんぜん、解らんのですが……異世界トラックってなに?」
ちなみに、見た目は五十鈴川自動車のヴァンガード。
日野辺自動車のアーチャーと並ぶ、日本の流通中型4トントラックの定番。
実は、普通免許で運転できたりなんかする……五十鈴川自動車は、小型トラックのエルフィの方が有名だけど。
コンビニ配送のトラックは、4トンから8トンくらいなので、僕にとってはこっちのほうが馴染みがある。
「ごめんね。いくらオーナーの頼みでも、その辺は、細かくは言えないのよね……守秘義務ってやつ? と言うか、あたしって、要するにただの運び屋だからね……あまり細々とした事は聞かないでほしいな。でも、依頼されたブツは、ちゃんと積んできたから、さっさと降ろしちゃってよ! こっちも滞在時間が限られてるし、次の予定もあるからね!」
「そ、そうか……色々、募る話もあるんだけど……。みんな、ちょっと商品運ぶの手伝ってくれ!」
とりあえず、商品の入ったパレットをどんどん店内に運び込んで、代わりにバックヤードに山積みになってた空のパレットをトラックに積み込む。
空のパレットは折り畳めるから、とっても省スペース。
毎回返さないと、うちも邪魔だし、配送センターも困ってしまうから、配送業者に一度預かってもらって、次の配送の時に返してきてもらうようになっている。
ラドクリフさんたちも手伝ってくれて、作業自体はあっという間に終わった。
やっぱ、人数いると楽だな-。
いつも深夜帯って、基本僕一人だからドライバーさんにも手伝ってもらって、ヒーヒー言ってたのに……。
大雑把に見た限りだと、昨日発注した通りの商品がちゃんと入っているようだった。
それにしても、うちのコンビニの商品の配送元は……確か高崎の方にある配送センターで、そこで弁当なんかも作ったりしてて、そこに一度まとめてもらって、配送の回数を少なくするようにしてくれている。
本来は、配送センターって、チルド用、米飯用、雑貨、冷凍食品用とか細かく別れてて、それぞれがバラバラの時間に持ってくるから、多い時は一日10回位、この搬入受け入れの作業が発生する。
流行ってるコンビニだと、必然的に一回一回の搬入量も増えるから、そう言うとこって、一日の殆どを搬入と陳列ばかりやってるようになるんだよなぁ……。
うちは売れ行きが微妙な上に、とにかく人手不足だったから、なるべく一括して送ってもらうようにしてもらってたんだ。
そうなると、和歌子さんが、配送センターに行って商品受け取って、ここまで来てくれたって事なのだろうか?
でも、そもそもあれだけの大地震。
高崎も相応に揺れたはずなんだけどなぁ……それに、異世界ってこんな気軽に来れちゃうもんなの?
……もう、訳が解んないよ。
「オーナー、とりあえず受け取り伝票にサイン頼むね。納品数はあってた?」
和歌子さんがくわえタバコで、伝票を持ってくる。
ちなみに、和歌子さん……休みの日はパチンコ屋か競馬場、もしくは飲み屋に入り浸り……。
いつもバイト上がりには、ワンカップ酒と酒のつまみを買っていって、家帰ったら一杯やって、暇さえあればタバコを吹かす……おっさんみたいな女性だ。
まさに、残念美人……でも、有能。
おまけに、腕っぷしもあって、強盗をワンパンで、返り討ちにした武勇伝の持ち主だ。
今、これしか無いんですぅ……と言いながら、釣り銭用の100円玉50枚束二本ほど差し出すと見せかけて、相手の襟首掴んで、銭束握り込んだまま、鼻っ面をぶん殴ると言う恐ろしい真似をやってくれた。
100円玉も50枚束、それが二本なんて、軽く重さ500gもの鈍器になる……そんなもんを握り込んだ鉄拳は、もはや凶器以外の何物でもない。
哀れ強盗さん……鼻の骨粉砕されて、鼻血吹いて一発KO……警察からは、正当防衛だけど、やり過ぎって怒られてた……。
そんな彼女の猛者っぷりが知れ渡っていたおかげで、万引きとか妙にゴネる客も少なくなって……セキュリティ向上に物凄く貢献してもらってたんだよなぁ……。
「えっと、数は問題ないんだけど……向こうは、どうなってるんだい? かなり大きな地震があったはずなんだけど……」
まぁ、数とかそんなもんより、やっぱそっちだろう……。
うちがあんな事になったんだから、少なくとも群馬周辺は、エライことになってるはずだった。
「地震? あたしは聞いてないけど? こっちは依頼されたとおり、高崎の配送センター行って、普通に商品受け取ってきたんだけど……。まぁ、この弁天丸くんは、異世界転移を自由に出来るあたし専用のチートアイテムってとこね」
和歌子さん、昔から説明下手って難点があって……そのへん相変わらずのようだった。
何言ってるか全然解りません。
「でも、ちゃんと緊急地震速報だって鳴ったし……うちだって、めちゃくちゃ揺れて死ぬかと思ったんだけど……」
……まぁ、テンチョーのおかげで命拾いしただけで、アレは普通に死ぬとこだった。
九死に一生スペシャルだったのは間違いない。
「実際、何があったのかは知らないけど、群馬は今日も平常運転っぽかったわよ? とにかく、オーナーも普通にいつもどおりに発注かければ、あたしや同業者がちゃんとここまで運ぶから、そのへんは大丈夫! なんなら、ヘルプデスクとかにも聞いてみれば? 話くらい行ってると思うし」
ヘルプデスクって……什器故障やIT関連機器トラブルの際の緊急連絡先?
発注ミスでひと桁、ふた桁間違えて発注とかすると、これ、なにかの間違いだよね? って感じで確認の連絡くらいはしてくれるんだけど……そんな時の相手の窓口が、そのヘルプデスクって窓口の人達で……割とお馴染み。
あとは、ストコンがフリーズした時とか、プリンタ、マルチステーション端末がトラブった時にもお世話になります。
電話も通じるっぽいから、一度聞いてみるか……本部じゃ、どんな扱いになってるか気になるし……。
あそこ24時間対応の窓口だし、部署違いでも転送や折り返し手配してくれるから、ついつい頼っちゃうんだよな。
「……解った。色々聞きたい事はあるけど、僕は異世界で孤立してる訳じゃないって事なんだね?」
「世の中には、あたしらからは想像も出来ないような、色んな思惑を持ったインチキ臭い連中がいるってことなのよ。まぁ、オーナーもそういう世界に足踏み入れちゃったんだから、もう諦めなさい。また今度、ゆっくり出来そうな時にプライベートで遊びに来るからさ。とにかくお互い、上手くやりましょう。んじゃ、まったねーっ!」
それだけ言い残して、和歌子さんは再びトラックに乗ると、割と無理やりUターンして、颯爽ともと来た道を戻っていった。
しばらく走ると、トラックの後姿が一瞬揺らめいたと思ったら、跡形もなく消えてしまう……どうやら、転移したらしかった。
それにしても……異世界配送トラックか。
新しいな。
和歌子さん……何がどうなって、そんな訳のわからない仕事を始めたんだか。
「……なんだか、良く解らんけど。とりあえず、さっきの弁当……もう一個売ってくれないかな?」
隣のラドクリフさんがやけにいい笑顔で肩をポンと叩く。
「……やっぱ、あれじゃ足りなかった?」
ですよねー。
体の大きさだって、軽く2m近くあるし……。
「いや、カレーってやつ? あれやたら美味くてな! ラーメンってやつも! ちょっと他のもガッツリ食いたくなったんだ。見た感じ、あんま残ってなかったから、お代わりは自重しようかって、皆言ってたんだが。今の奴で、たくさん運び込んだの見てたからな、そう言う事なら、もう遠慮しなくていいよな?」
犬耳ダンディーさんが愛嬌のある笑顔でウィンクする。
思わず頷くと、喜々として他の犬耳さん達を引き連れて、店内へと再突撃して行く。
搬入手伝ってくれたから、少しは安くしないとなー。
そんな風に思いながら、僕も愛すべき我らがイレブンマートと言う名の戦場へ突撃するのだった!
ちなみに、私はかつて某コンビニチェーンのIT機器ヘルプデスクでオペレーターなんてやってました。
当然、色々な内部資料とかに触れる機会があったし、コンビニの裏事情とかも熟知してるんで、この作品にも反映されてます。(笑)
ちなみに、100円玉の50枚束なんて、普通の人はまずお目にかからないでしょうけど。
銀行行って、100枚単位で硬貨の両替頼むと、そんなので出てきます。
商売やってる人とか、コミケの売り子経験ある人なら、多分知ってると思います。
これ持ってる時に、強盗にあったら、顔目掛けて投げつけろ! なんて、うちの親父様は言ってましたね……。
ちなみに、そんなもんでも時速30kmも出せれば、22LR弾並みの破壊力になります。
ましてや、握り込んで殴るとか……カチカチに凍ったペットボトルで殴りかかるようなもんですね。




