第五十二話「無人島ライフ始まる」②
確かにラトリエちゃん、レアな闇魔法と水以外にも風魔法なんかも使いこなしてたもんな。
リスティスちゃんのダブルも人族だとそれなりに希少なのに……。
「ええっ! 全系統ってどうなってるのそれ? 普通、ひとつかふたつじゃないの?」
「一応、わたくし無色のマナを扱えますので……。もっとも無色のマナは自然環境下ではあまり存在しないので、必然的に集められる量はしれています。要するに基礎的な術が扱える程度なんですよ。ちなみに、エクスターナ起動時には、魔族化するので、闇のマナも使えるようになるんですよ」
……無色のマナとか、地味にチートだな。
アージュさんの魔術講座でそんな話してた。
無色のマナ……自然界に少しずつ存在するワイルドカード的な万能マナと言うのがその性質の説明となる。
ただし、ラトリエちゃんの言うように、そもそもの量が少ないので派手な大魔法とかを使うのは厳しいのだけど、反面ホントにどこにでもあると言う利点がある。
四大元素のマナと言うのは、基本的にどこもそれなりにアンバランスで、元素魔術の使い手は、その土地によって、得手不得手と言うのが出来てくるのだ。
例えば、火山地域なんかだと、火と土のマナだけで九割とかすんごい偏ってるらしいんで、そう言う環境で、例えば僕なんかだと、放水ーってやっても、チョロロロくらいのショッボイのになった挙げ句、魔力もゴリゴリ消耗するのだ……。
「そういや、この島のマナバランスってどんなだろうね?」
「そうですね……。水と風が強いのは確実ですね。海辺というのは得てして、そういうものですから。わたくしも基本、水の術者なのでその点ではかなり有利だと思います」
「ふむ……。魔眼発動っと……おーおー! めっちゃ青いっ! こりゃ水が半分くらいじゃないかな?」
魔眼で見ると、なんと言うか……辺り一面、青い。
土の黄色も結構多くて、ジャングルの方から湧き出すように流れてきてるのが解る。
まぁ、風のマナは割とどこでもあるから、この三つが混ざり合ってるような感じ。
けど、よく見ると白くて半透明なのも結構多い……これは無色のマナだろうな。
「そう言えば、魔眼なんてものまで使えるんでしたっけ。実際、海辺ってどこもそんな感じですね。おかげで、ロキサスの術者は水の元素魔術師が多いんですよ。もっとも、帆船の運行には風の術者が必須なので、風の術者は引っ張りだこだったりするんですね。あ、マナバランスの数値はなにかと有用なので、出来れば割合の数値化とか出来ませんか?」
「ここらは水が四割、風が二割、土が三割、残り一割は無色……こんな感じのマナ組成だな。火がほとんどないって事は近くに海底火山があるとか、実は火山島だとか、そう言う訳じゃないんだな……。ジャングルの中だともうちょっと土が強そうだな」
「あら、意外と無色のマナが豊富なんですね。コンビニの近くも無色のマナが濃い土地柄でしたけど。ただ、火のマナが少ないとなると、夜は冷え込みそうですね」
……コンビニ村って、あそこ意外とマナのバランスが良くて、無色のマナを含めて、全属性がほぼ二割で拮抗してて、土がちょっと強いとかそんな感じだったりする。
ちなみに、光とか闇のマナはそもそもの発生源が光と闇なので、土地柄一切関係なかったりする。
もっとも、無色のマナについては……そもそも、扱えるような術者も希少で、使えても微妙。
基礎の小魔法を使うとか、複合魔術を使うとかそれくらい。
もっとも、それだって使う人が使えば十分チートかもしれないのだけど、扱えない僕としては何とも言えない。
一般的に、無色のマナが濃い場所と言うのは、使い物にならないマナが多いと言う意味でもあるので、それはそれで難儀な場所なのだよ。
「こうやって見てみると、土のマナが豊富なのは意外だね……」
「土のマナって、火山以外の普通の山などでは、豊富ですからね……。要するに、ここは海の中に出来た山ってことではないでしょうか」
「おお、さすがだね! その見解で多分あってるよ! 実は地面ってのはプレートと呼ばれる板状になってて、ものすごくゆっくりとだけど、常に移動しているんだ。そして、プレートも一枚じゃないから、当然ながらあちこちでぶつかっている……。そうなるとどちらかが下に、どちらかが上になるよね?」
そう言って、手を水平にして両方から押していく。
やがて左手が滑るように持ち上がり、右手はそのまま真っすぐ進んでいく。
「なるほど……こちらの手は下に潜り込まれた事で持ち上がってしまって、その部分が山になる……そう言うことですか。確かに世界地図を見ていても、ロキサスの東は海岸線からすぐ山……みたいな地形になってましたね」
プレート・テクトニクス理論って奴なんだけど、さすがラトリエちゃん、この大雑把な説明で、すぐに理解できたようだった。
ちなみに、日本列島はこの理論に基づくと、四つものプレートがひしめき合ってて、その関係で日本列島も出来上がったとされているのだけど……。
反面、火山が至るところにあって、世界有数レベルで地震が多発し、太平洋の防波堤みたいな位置関係だから、台風なんかもバンバン直撃する世界有数の災害大国となってしまっている。
そんな過酷な環境でも、めげずに一億人以上が平然と住んでるんだから、日本ってのは凄い国だよな。
「なるほどね。ロキサスの東側って確かにそんな感じのいきなり山って感じだったよね」
「そうですね……まともな道もないので、何がどうなってるのかあまり知られてませんけど」
「そうなるとこの島ももっと大きくなって、そのうち大陸と地続きになるかも知れないね……まぁ、途方もなく長い時間がかかると思うけど。ちなみにこれは僕のいた世界の地球科学と呼ばれる学問の理論なんだけどね。こっちの世界では知られていない話かもしれないけど、火星みたいな他の惑星でもプレート運動は確認されてるから、この世界のこの惑星も同じだと思うよ」
「興味深いですねー。旦那様の居たという地球……そんな異世界と、こちらの世界で共通項があると言うのも、面白い話ですわ。よろしかったら、これからも色々そう言う話、教えていただけないですか? わたくし、そう言う学問には興味もありますし、学院でも座学はトップクラスだったんですよ。異世界の文明についても、旦那様のお側にいると否が応にでも触れることになりましたからね。実はとっても興味あるんです」
「そのうち、君も僕のいた世界に行く機会があるかも知れないよ。今後、アージュさんやクロイエ様とで、異世界転移の研究を行う事になってるんだ。君は魔術師としても研究者としても有望だって、アージュさんも言ってたから、そのうち色々手伝ってもらうことになるかもしれないね」
「それは……ええっ! 喜んでっ!」
……ちなみに、三人娘で一番頭が良くて、理数系の適性があるのがこのラトリエちゃんだったりする。
僕の配下と言える人達って、割と脳筋系ばっかりで、こう言う論理思考が出来る人って、アージュさんくらいなので、同じく理数系でもある僕とは、似通ってる部分があるのだ。
それに今の話だって……僕なんかは、長年の義務教育を通してそれなりの下地があった上で、プレート・テクトニクス理論を理解しているのに、それら下地があるのかどうかすら怪しい状態で、ちょっとした実演と簡単な説明だけで、基礎概念を理解してしまったのだと思う。
おまけに、彼女はあのアージュさんが感心するほどの卓越した魔術応用力を持ち、数々の支援魔法すらも使いこなすような一流の魔術師でもある……。
多分、あの宝具だって、彼女の真骨頂でもなんでもないんだろう。
ラトリエちゃんの武器は、数々の恐ろしく大量のカードを持ってるとかそんな感じな気がする。
なんと言うか、頼もしい嫁だよな。
「そうなると、何が何でも帰らないとだね。ひとまず、水はある。食料も探せばなんとかなる。火を起こすのもさほど難しくないみたいだから、夜の冷え込みもなんとかなりそうだ。もしも寝る時とか寒かったら、僕の側にくっつくと良いかも知れない。猫獣人ってのは基本的に人間より体温が高いんだよね」
と言うか、この猫耳の身体ってすんごいタフだからねぇ……。
おまけに、体温も平熱で37度とか38度くらいあるから、ちょっと寒いくらいじゃ、へこたれそうもない。
ネコ科の体温が高いって特徴は、暑さにも強いし、病気なんかにも強いって事でもある。
イエネコとかって、何気に核戦争が起きても生き延びる可能性が高い……なんて言われてるくらいだからな。
「そ、そんなベッタリとか、仲良し夫婦みたいで……。あ、わたくしと旦那様って夫婦なんですよね。あははは……想像しただけで、ドキドキしちゃいますわ」
そう言って、すっと頬を染めて、目線を逸らすラトリエちゃん。
けど、目線をそらしながら、すすすっと手を伸ばして、僕の手を握っては放して、ぐーぱーしてたりして、何とも落ち着きない。
そして、ちらっとこっちを見ると、目が合って思わず二人して、見つめ合ってしまう。
おおう! この無人島で女の子と二人きりとか言うシチェーション!
これ……思ったより、理性吹っ飛びそうになるな!
相手は、水着の女の子。
普段は見えない太ももとかお腹とか……細い鎖骨もなかなかポイント高いし!
思わず、ペロペロとかしたくなる……。
さっきも、お尻とか胸とか生で見ちゃったし……なるべく、意識しないようにすることで、アレがナニするとかはないんだけど。
何より、誰も邪魔なんてしないし、誰も見てない……。
おまけに、僕の奥さんの一人なんだから、ここで手出ししたって誰からも文句言われない!
思わず、肩をガッと掴んで、抱きしめてチューくらいしたくなる。
うん、本人も次はキスをって言ってたじゃないか。
けどいかんよ! それは!
もう、チューどころじゃなくなるのは目に見えてる!
こう言う時は素数ターイム! 悟りを開いて、賢者になるんだ!
「1、2、3、5、7……11……13……17……19……23……29……」
目を閉じて、声に出して素数を数える!




