第五十二話「無人島ライフ始まる」①
「あの……水着の中の砂を落としたいので、尻尾を握らせてもらっていいですか? それとほんのちょっとだけ……後ろ向いて、目を瞑ってていただけないでしょうか?」
言いにくそうにそんな事を告げながら、立ち上がると腰の周りを覆ってたパレオを外すラトリエちゃん。
要するに下の方を洗いたいらしい。
確かに、干潟に寝っ転がらせたり、砂の上に座ったりしたから、水着の中まで砂入ってても、おかしくない。
実際、僕も結構海パンの中が砂だらけだったし。
そこら辺の事情は女子も一緒で、そのままにしとくと、砂で擦れて肌が擦りむいたようになったり、微妙な所に砂が入ったりするって話も聞くので、これは大人しく言うことを聞いといたほうが無難だろう。
当然ながら、こっそり覗き見とか要らんこともしちゃ駄目だっつの!
「ああ、後ろ向いてるから、自由に使ってくれよ」
背中を向けて、ぬるま湯を放ち続ける尻尾をラトリエちゃんに預ける。
けど、尻尾だって僕の身体の一部なのだ。
優しく握ってもらいながら、尻尾が時々、ラトリエちゃんの肌に触れているのが解る。
今は背中かな? 高さとか位置的にそんなだ。
距離も当然ながらめっちゃ近くなる。
もしかしてと思って、ちらっと横目で後ろを見ると、下の水着を少しズラして、僕に背中を向けたまま、お尻を丁寧に洗ってるようだった。
……お、おぅ、15歳の女の子のナマなお尻かよ。
この子、綺麗なヒップラインしてるなって思ってたけど、生で見るとすっげぇイイ!
さ、触ってみたい……。
思わず、ガン見しそうになってたけど……頭を振って、強い意志を以って、ガッツリ腕組みをして、前を向く!
ダメダメ! ラトリエちゃんがこんな無防備な姿を見せてくれてるのも、ひとえに僕を信頼してくれてるからに他ならない。
いくら、慎ましい子だからって、それだけに見られたなんて知ったら、ショックだと思うし!
ホントは、むしろ見てくださいって、フリかもしれないけどねー。
それはそれで、向こうの思惑通りって感じだから、よろしくないっ!
しっかし、やっぱりこの水魔法ってのは、素晴らしい!
一番最初に覚えた魔法だけど、ここまで使えるとは思わなかったな。
つか、ファンタジー主人公も大仰なチート魔法よりも、水をいくらでも作れる魔法を真っ先に覚えるべきだと思うな。
これがあるだけで、過酷なファンタジー異世界で、生き延びれる確率が格段に上がると思う。
おまけに、恩恵を与えられるのは自分だけじゃないしね。
逆にコレなかったら……まぁ、今回みたいな状況じゃ死亡確定だったろうし、人里離れた所からスタート……みたいになったら、やっぱり高確率で死ぬと思う。
人間ってのは、水を飲まずに生きられるのは、せいぜい三日くらいが限界。
逆を言うと、水なしではたった三日しか生きられないのだ。
である以上、水というものは生きるに当たって、どんなものより必要な必需品とも言える。
日本に住んでると、あまりピンと来ないけど、清潔な水ってのは海外なんかでも結構な貴重品なんだぞ?
それにいくらでも水が出せると、こんな風に女の子の携帯シャワーみたいにもなれる。
シャワーと言えば、相手は当然裸にならざるを得ないしね。
まったく、必然的にけしからん事になってしまうではないかー。
一粒で三度、四度とメリット多数! チート魔法ってのはこう言うのを言うんだっつのー!
「旦那様! おかげさまですっきりしましたわ。ありがとうございました! うふふ、素敵な尻尾ですね……あっ!」
ひとしきり砂と塩を洗い流したラトリエちゃんが振り返りながら、僕の尻尾を握りながら、何かに気付いたように言葉を止める。
……そんな尻尾上に持ち上げられた状態で、後ろから見られたらどうなってるか。
尻尾穴のスリット、割と深めに開けてたからそりゃ、ケツくらいガッツリ見えるわなぁ。
でも……ここはおアイコっ! 僕だって、しっかり色々見てるしな!
「どう? さっぱりしたでしょう?」
当然ながら、見ちゃった事やケツ見られた事なんて、微塵にも触れないのだ!
両腕を組んだ紳士のポーズのまま、これっぽっちも動揺も見せず振り返る。
ここはあくまで紳士的に……要らないこと言ったら最後、もはやR18待ったなし!
誰も見てない以上、誰も止めてくれない……これはそう言う状況なのだ。
歯止めになってるのは、僕自身の自制心と、ラトリエちゃんの恥じらいの心。
水着全部脱いで、一緒に全裸水浴びーとかせずに、後ろ向いててくださいとか、僕の視線を気にしてる辺り、ラトリエちゃんはちゃんと慎みってもんを持ってる。
さっきだって、水着もちょっとズラして半分見える程度に留めてたし、相当ウブな子なのは間違いない。
うん、これはむしろ、何気にポイント高いね!
「そ、そうですね! 本来、こんな状況……こんな真水を派手に使ってなんて、論外なんですけど……」
「だねぇ……実は、僕がまっさきに覚えたのが、この魔法でね! こんな風に色々と応用が効いて、便利使いしてるんだよ」
「魔力を水に変換する……結構、高等な魔術なんですけどね。見た所、魔力の消耗もほとんどしないようですね」
「そうなんだよね……。割と普段から掃除とか水撒きとか、ジャンジャン使いまくってるんだけど、おかげで魔力の消費も微々たるものになっちゃっててね。だから、使いすぎで水が無くなるなんて心配もまずいらないよ」
ちなみに、一つの魔術を使いまくってると、消費魔力が減少……要するに効率が良くなるのだよ。
馬鹿の一つ覚えで、この水撒きはなにかと多用してたから、効率はもはや最高効率くらいにまで行ってるのは間違いなかった。
なお、今の僕の残り魔力は、水船とか使いまくってたのに、まだまだ半分くらいは残ってると思う。
この辺、別に視界に数字が出たりとかする訳じゃないけど、魔力器官を鍛えるとなると魔力が枯渇するまで魔術をガンガン使いまくるって感じだから、普通に感覚的に魔力残量とか把握出来るようになるのだよ。
この辺は、実戦派のランシアさんがきっちり叩き込んでくれたから、バッチリ!
と言うか、なんだか魔力の回復が早いって感じなんだよね。
ここってマナが濃いような気がする。
「そう言う事なら、私達が生き延びれる確率もグンと上がると思いますよ! 交易船の遭難でも大抵、真っ先に真水がなくなって皆、干からびるってのが定番らしいですからね。わたくしも当初はそれを一番懸念してましたが……そうなると、焦って無理をせずともいいって事ですね」
まぁ、そんなもんだよな。
海の上って、その気になれば水鳥や魚とか食べる物はそれなりにあるけど、海の水だけは絶対に飲んじゃ駄目だからね。
海の上で漂流したりとかして……真水が尽きて喉がカラカラに乾いて、やむを得ず、海の水で喉を潤してってやると……もれなく悲惨な事になる。
塩分濃度の関係で、むしろ血液から急激に水分が失われる事になり、重度の脱水症状を起こす……もしくは、腎機能障害を起こして、いずれにせよ……ほぼ確実に死に至る。
海の水は、何があっても絶対に飲んではいけない……これは、半ば常識のように語られてて、誰でも知ってるような話でもあるのだけど。
大抵の人が極限状態に陥ると、死ぬと解ってても海の水を飲んでしまい、結果的に死期を早めてしまう。
遭難ってのは、そんなもんなのだ。
そう考えると、やっぱ僕の水魔法って地味にチートだな。
「僕にはこの魔法があるからね。見た所、この島には水源らしきものはなさそうだけど、少なくとも飲み水の心配はしなくてもいいんじゃないかな。けど、夜の冷え込みとか大丈夫かな……? お互いこんな格好だからね。せめて羽織るものとかあればなぁ……」
うん、思わぬことでラトリエちゃんが美乳持ちだって、知ってしまったからなぁ。
それに、この二人きりって環境で、さっきから色々と刺激の強いイベントが……。
ぶっちゃけこの場でいきなり押し倒しても、大丈夫……な気もするんだがー。
するんだがー! その展開はよろしくないぞ!
無人島での遭難帰りで、もうひとりご懐妊とかなったら……。
ナニしてたとかもうバレバレだし、そうなったら、それはそれで、新たな問題が起きるような……。
とにかく! 僕がケダモノ化しない為にも、もうちょっと露出は押さえてほしいもんだ。
ううっ! なんで、僕はラトリエちゃんの水着をもうちょっと大人しいのにしなかったんだ!
申し訳程度ながら、腰回りや太ももを隠してたパレオ取っちゃったから、ふとももが……ふとももが眩しいっ!
「そうですね……。今の時期だと、この辺りは夜でもそこまで冷え込まないですからね。こんな姿だと少し肌寒いかも知れませんが、火でも起こせば問題ないでしょう。あ、一応基礎的な元素魔術は全系統使えますので、火を起こすとかなら、簡単に出来ますよ」
僕の内心の葛藤を他所にラトリエちゃんは冷静だった。
……って言うかマジ? 全系統って地水火風全部かよ。




