第五十一話「遭難ですか? そうなんですよ!」④
思わず、ラトリエちゃんの頭をナデナデ。
「ど、どうかされましたか? いきなり……こ、子供扱いとか止めてくださいよ……」
「ん? ちょっと撫でたくなった。色々ありがとう……君が一緒で……その、助かったよ」
そう告げると、一瞬ポカーンとしたと思ったら、嬉しそうにしなだれかかってくる。
なんと言うか、傍目にもものすごく機嫌良さそう。
……考えてみたら、思いっきり二人きりなんだよなぁ……。
それに状況としては、思いっきり遭難状態。
うん? こう言うのって、なんかラブコメとかでは定番だよなぁ……。
ヒロインと一気に仲が深まるとか、それまであまり交流無かったような、サブヒロイン的な子と一気に仲良くなったり……。
もちろん、18禁ゲームなんかだと、誰も居ないって事で、野外プレイとかに発展したりとか……うん、そんな感じ。
「とにかく、この場は僕に任せて! 絶対に二人共無事に戻る……これはもう、決定事項だ!」
一瞬想像したエロい妄想を吹き払うように、真剣な顔をしつつ、ラトリエちゃんの手を握ると、そう言って、微笑んでみる。
ラトリエちゃんも感動したような面持ちでじっと見つめ返される。
「いやんっ! もうっ! 旦那様ぁ……素敵すぎですっ! ああ、考えてみたら、わたくし……今夜は旦那様を独り占め……。その上、こんな裸同然の姿……困りましたわ。旦那様に迫られたら、わたくし、きっと断れません! でも、わたくし達は夫婦……である以上、誰はばかることなく愛し合える……ここはわたくしの格上げとお家の為にも、思い切ってわたくしから……」
ぶつぶつと独り言みたいに小声で、言ってるけど、丸聞こえなんですが。
と言うか……気付いちゃったのね! ラトリエちゃん!
でも、この子って基本的に耳年増だから……どうなんだろ?
耳年増の子って割と、本番に弱かったり、身持ち硬いてのが定番なんだけど……。
実際、この子って意外とガード固くて、これまで下着すらも見たこと無い。
水着も皆が着てるのを見て、ようやっと自分も着替えてたくらい。
でも、そう言う子に限って、大胆になる時は大胆になるのだ。
……夜の浜辺。
誰も居ない真っ暗闇。
「旦那様……」
呼ばれて振り返ると、胸と腰の前を手で隠しただけのラトリエちゃんが佇んでいる。
「ラトリエ……ちゃん……」
思わず、一歩前に出て、その両肩を抱きしめて……。
いかん、いかん、いかんよーっ!
こんな遭難してて、無事に戻れるかも解らないのに!
なに、不健全な妄想に浸ってるの? 僕は!
「いやいやいや、ラトリエちゃん! まずは現実をよく見よう! そもそも、ここってどこら辺なの? なんか海図とかも見せてくれてたけど……さすがに、細かくは覚えてないか」
「え、ええっ! そうですわね……。陸がまったく見えない様子からするとかなりの沖合ではないかと……。ご存知かもしれませんが、わたくし達の船はこのように陸が見えないほど沖に出る事はまずありませんからね。この島も知られていない無人島の可能性が高いと思います……実際、人が立ち寄った形跡が全くありませんよね」
言いながら、二人して辺りを見渡す。
良かった……ちょっと揃って、ピンク色の空気になりかけたけど、お互い厳しい現実を見ることで、頭を切り替える事が出来たっぽい!
もう干潟の部分は通り過ぎて、乾いた砂浜地帯に上陸していた。
それなりの傾斜があって、砂もかなり深いところまで乾ききっているのが解る。
この様子だと、ここまで波がかぶることはあまりなさそうではあった。
ただ、草木がまばらにしか生えていない様子から、ここも場合によっては、海に沈むこともあるようだった。
けど、今の状況……あまり予断を許せる状況じゃなさそうだった。
この世界の航海術って、基本的に沿岸に沿って行く沿岸航法がメインだからなぁ。
必然的に近くを船が通り掛かるとかそんな可能性は皆無に近いし、助けだって来るかどうか解らない。
もちろん、陸では今頃、皆必死で捜索を始めてるとは思うんだけど……沖に出るとなると、二次遭難の可能性が高くなる以上、慎重にならざるを得ないから、あまり期待は出来そうもないと言うのが実情だった。
要するに、この世界の海は地球の海以上に危険なのだ。
だからこそ、ラトリエちゃんからも、陸が見える範囲より沖には行くなって、注意されてたんだけど……。
まさかのリヴァイアサンに追いかけられて、それどころじゃなかったからな。
地元民のラトリエちゃんが知らない無人島となると……こりゃ、ちょっとよろしくないな。
「そうか……せめて、どの方向が陸地なのか解れば、水船があるから、なんとでもなりそうだけど……。現在地が解らないんじゃ、迂闊に動けないね。闇雲に逃げ回ってたのは、やっぱり失敗だったな……。いや、そもそも調子に乗って、砂浜から離れたのがそもそもの失敗だった……ごめん」
「こちらこそ、すみません。本来、わたくしがお止めする立場でしたのに……つい、二人きりになれたからと、はしゃいでしまって。けど、あんな所でリヴァイアサンに遭遇して逃げ切れたと言うだけでも、十分幸運だったと言えるでしょう。あの怪物に捕捉されたら、船に乗っていても、余程の大型船でもない限り、軽く沈められてしまいますからね……。けど、本来リヴァイアサンに遭遇する確率なんて、極めて低いんです……」
「……なるほど、遭遇確率極低のレアモンスターって感じか。生き延びれただけで、十分運が良かった……そう言うことか」
まぁ、この世界のモンスターとか、こっちのレベルに合わせてくれるはずがないしね。
陸であそこまでデカい生き物ってさすがに滅多にいないみたいだけど、海の生き物ってクジラなんかの例を挙げるまでもなく、割と際限なくデカくなるからなぁ……。
ちなみに、20mの大きさってのは現代日本の身近な物だと、電車一両分って例えると解りやすいと思う。
……観光バスやらダンプカーとかよりもデカいウミヘビってどんなだよ。
今日日の山手線はゴジラだって倒せるくらいだからな。
そんなもんに勝てるわけねーだろ。
「そう思いますわ……。今はとにかく、ここでなんとか、生き延びる事が優先ですわね……。現状、わたくし達は遭難している……そう言わざるを得ない状況ですが、色々と幸運にも恵まれています。きっと……大丈夫。無事に……戻れますわ」
……冷静な様子で、言い聞かせるように告げるラトリエちゃん。
さすがに、頭が下がる思いだった。
彼女は、僕の半分の時間も生きてないような10代の女の子なのだ。
気丈に振る舞ってるようだけど、内心は心細いんじゃないかって思う。
だからこそ、ここは僕がしっかりしないと駄目だろう!
うん、僕だって男なんだからね! ここは頼もしいって思ってもらえるように振る舞わないと。
そっと肩に腕を回すと、微かに震えているのが解った。
緊張しているのか、それとも怖がっているのか……何にせよ、ここは僕の男気ってもんを見せるところだろ。
「ごめん、言うまでもなかったみたいだね。とりあえず、ここは地面に雑草なんかもチラホラ生えてるし、砂も草木も濡れてない。これなら潮が満ちても大丈夫みたいだし、この島もそこそこ広いみたいだ。食べ物とかもカニとか魚とか潮が引いてる間ならいくらでも取れそうだし、木の実なんかもあるみたいだし、僕の魔術で水も作り放題だから、ひとまず生き延びるのは、当面なんとでもなるよ。とりあえず、この辺で少し休もう」
言いながら、ひとまず地面に座り込む。
さっきまでは、パサパサの砂だったけど、そろそろ草とかも生えてて、地面も固くなってて、歩きやすそうだった。
ラトリエちゃんも隣で体育座りでちょこんと座りこむ。
「ふぅ……。海から結構歩きましたね……」
「そうだね……。あ、ちょっと水浴びするけど、いいかな?」
そう言って、立ち上がって尻尾から水をダバダバ吹き出させる。
水流放射と名付けているけど、要するに何処でも水撒きだ。
「どうぞ……! あの……よろしければ、わたくしにもお願いしていいですか?」
「うん、いくらでもいいよ! ちょっとまってね。先に僕の方を済ませちゃうから!」
髪の毛が塩でバサ付いて、気持ち悪いし、身体も塩だらけで痒くなってきた……。
海で遊ぶと、大抵こうなるから、着替える前にシャワーなり温泉ってのが定番じゃあるのだよ。
ぬるま湯を尻尾から出して無造作に頭からかぶる。
うーん、身体に付いた塩っ気があっという間に取れてさっぱりだ!
自分で水浴びする場合、尻尾の長さがネックになるけど、水量だって自在に調整出来るから、頭から水浴びだって出来る。
何気に、海パンに入ってた砂も尻尾から出る水でさっぱり洗い流せた。
少し水の温度を下げると、冷たくて気持ちいい!
喉も乾いてたから、口に向かって水を出して、ガバガバ飲むっ!
うん! 生き返るねーっ!
「……こう言う状況では、それ……すごく便利ですね」
確かにこう言う時は、ものすごく使えるな。
こんな風に体を洗うのだって、飲水だって、全然困らない。
熱湯ですら作れるから、海産物を生で食べてお腹を壊す心配も要らないし、変な水飲んで、腹下したりとかそう言う心配はいらない。
こんな川もないような小さな無人島で遭難なんてなったら、絶対飲み水に困るんだけど、僕がいればそんな心配はいらないって事なのだ。
はっきり言って、サバイバルの基本……飲水の調達に労力を取られないってのは、非常に大きなアドバンテージだろう。
「そう言うこと……さぁ、ラトリエちゃんもっ! 最初はぬるま湯で行くよ!」
「……はいっ! お願いします!」
尻尾から吹き出すぬるま湯を、座ったままのラトリエちゃんの頭から背中へとかけて、全身を洗い流してあげる。
僕同様、塩水で少しゴワついてた髪の毛も、お湯で流すことですっかりキレイになっていく。
「ああ、旦那さまの所でお風呂とか使わせてもらってますが、やっぱりこれは、良いですね! 温かい水を浴びれるって、最高ですわ!」
普段、後ろで縛ってまとめてる髪の毛も解いて、普通にロングヘアみたいな感じにして、念入りに髪を洗ってる……おお、ラトリエちゃん髪解くとこんななんだ。
「シャンプーとか使わせてあげたいところだけど、さすがに無いからなぁ……ムクロジとかシャボンソウみたいな石鹸代わりになるような植物とか生えてないかな?」
「そうですね……。けど、シャンプーとか使い始めたのって、旦那様のところに来てからですからね。それまでは水で洗って、香油を付けるとかそれくらいでしたからね。これでも十分ですよ。あ、ちょっと失礼して……」
ラトリエちゃん……後ろにいる僕から見えないように胸元を手で隠しながら、水着の中に手を入れて、砂を洗ってるみたいだけど……。
チラッとその中身が見えちゃったのを、僕は見逃さなかったよ!
セルマちゃんみたいに立派とは言い難いけど、控えめな桜色の頂点もバッチリ見えた。
全体的に、小ぶりだったけど……Aカップくらいかな?
……ランシアさんと同じくらい。
普段からそんなに目立たない方だったけど、生で見たのは始めてだった!
感想は……貧乳もいいよね? の一言に尽きるっ!
何より、普段ガード硬い子だから、レアリティってもんが違う。
エエもん見れたなぁ……。
何だかすごく得した気分だった。
オーナー、ラッキースケベ。(笑)
今回の話は主にオーナーとラトリエちゃんが無人島でイチャコラする話です。
ちなみに、ラトリエちゃんはこう見えて、結構シャイな子ですし、そんな二人切りとか長く続く訳無いですよ。(笑)




