第五十一話「遭難ですか? そうなんですよ!」②
「閣下はとにかく前を見ててください! 今は、水船の制御とバランス取りに専念してっ! ここはこのわたくしにお任せをっ! 吹きすさめ、千の嵐! サウザンド・アイス・ニードル!」
ラトリエちゃんが手をかざすと、大量の小さな氷の針がリヴァイアサンの横っ面めがけて飛んでいって、着弾した所が次々に凍りついていく。
一見地味だけど、これはかなり強力な魔術だ!
一発一発はただの氷の針。
リヴァイアサンの鱗を貫通できるはずもなく、プスプスと突き刺さる程度なのだけど。
刺さった直後に、針は大きな氷の塊になる。
硬そうな鱗も中からバキバキ割れていってるし、これは要するに大量の重りを貼り付けるようなものだ……。
こうやって、高速で海の上を走ってると重量バランスが極めて大事なのはよく解る。
当然ながら、頭の横に一面に氷の塊なんてものが大量にへばり付いてしまったら、まっすぐ進めるはずもなく、リヴァイアサンがバランスを崩して、ヨタヨタとこっちに向かってくる!
「南無三っ! ラトリエちゃん! しっかり掴まってて!」
ラトリエちゃんが強く抱きしめてくるのを確認した上で、姿勢を低くして、一気に加速!
……ラトリエちゃんの魔術増強のおかげで、先程までは60kmくらいが限界だったのだけど、更にその上、時速80kmくらいまで加速される!
一気にリヴァイアサンの前に出た!
……ちょっと風圧とか強烈だけど、そこら辺は足腰だって鍛えてるから、余裕で踏ん張れる!
やっぱ、身体鍛えてて正解! まったく、異世界転生して真っ先にやるべきは、ビルドアップかもしれんね!
最後に物を言い、一番頼りになるのは、自前の筋肉なのだっ!
「旦那様! 大技を撃ちますから! 反動来ますよ! もう少し左……右舷に荷重! そのまま踏ん張ってください!」
言いながら、後ろに向かって、バカでかい氷の槍を作り出す。
その上で、射出方向に幾重の魔法陣が展開されていく……。
うーんと? 加速、加速、加速……三段階もの加速魔法の重ねがけで、ぶちかますのか!
すっげーっ! 魔法自体に強化魔法とか、そんな事までやってのけるのか!
ダブルのその上、クアッド……その倍だから、オクトアクセル? 8倍速の弾速で撃ち出す氷槍なのか!
「強撃氷槍……オクトアクセル・ブーステッドッ! 超速の魔槍よ! 我が敵を刺し穿てっ!」
ドカンと言う轟音とともに、氷の槍がとんでもない速度でリヴァイアサンに突き刺さる!
長い胴体の真ん中あたりがクレーターみたいに陥没して、その体がくの字に曲がって、盛大にひっくり返る!
「……やったか!」
同時に結構な反動が来るんだけど、タイミングが解ってたから、その反動も容易く打ち消せる。
と言うか、初期加速はほどほどで、多段式で加速するとかそんな感じだったから、反動と言っても思ったほどじゃなかった。
右後ろからの反動なのだけど、ラトリエちゃんも身体を動かすことで上手く重心を調整してくれてたから、いい感じにバランス取れている。
右へ左へと調整しつつ、左へと重心が偏る……そのタイミングに合わせて、一瞬減速をかけて、荷重移動の上でボードの向きを一気に左に寄せて、再度フルスロットル!
カックンって感じの鋭角ターンが決まった!
反動も殺しきって、完璧なまでのターン!
滅茶苦茶にこんがらがるようになりながら、リヴァイアサンが先程まで僕等がいたあたりを盛大な水しぶきをあげて、通り過ぎていくのが横目で見えた。
うーむ、魔術への知識もあるから、今の魔術の高度さはよく解るな。
少なくとも4つの多重術式制御を軽くこなしてた……。
加速魔法にしても、自分自身を加速するってのは、ランシアさんとかが使ってるから、そう言うものだと思ってたけど、あんな風に射出魔法の弾速を挙げるように使うってのは、応用としては素晴らしい!
もっとも、リヴァイアサンは……と言うと、大ダメージは与えたみたいだけど、致命傷には至らずってところか。
「……旦那様、今のうちに一気に距離を稼ぎましょう! ひとまず、面舵いっぱーいっ! ですわ!」
ラトリエちゃんの指示で、今度は面舵……左から右へ修正。
一応、太陽を背にしてる向き……確かに砂浜にいた時、太陽は正面に見えていた。
なるほど、ちゃんと陸の方へ誘導してくれているようだった。
振り返って、リヴァイアサンの様子を見ると、横っ腹を穿たれたのに、ゆっくりとだけどこっちを追おうとしていた。
「うぇ、まだ来るのか……」
リヴァイアサンもバカじゃなかったらしい。
身体の力を抜いて、身体の柔軟性を生かして衝撃を殺すことでダメージを最小限に抑えたらしい。
斜め前からの一撃って感じだったけど、ちょっと角度が浅くなった事で、氷槍が滑ったのかもしれない。
もっとも、あんな強烈なスピードの氷槍の直撃食らって、タダで済むわけがなく、横っ腹に大穴開けられて、血もドバドバ出てるみたいなんだが……。
まぁ、この程度で死ぬようなヤワな生き物じゃなさそうだな……。
何なの? この執念深さとしぶとさは……こんなになったら、普通の野生動物とかでも逃げにかかるぞ?
「リヴァイアサンは、一度目をつけた獲物はどこまでも執念深く追いかけてきますからね。ああも手酷くやられたからには、尚更でしょうね……。ああ見えて、それなりの知性もあるんですよね……」
ラトリエちゃんが僕の考えを読んだかのように、僕の疑問に答えてくれる。
うーむ、意外な事にアレって知性ってもんがあるのか。
まぁ、犬猫でもいじめた相手の事を覚えてたりするから、そんなものか。
「今の氷槍……対人用とかそんなんじゃないよね……」
僕も氷槍は使えるんだけど、精々50cmと短めなんだけど、ラトリエちゃんのは、2mくらいともう大きさからして段違いだった。
多分、大型魔獣用とかそんな感じの物騒な奴だ。
下手すれば、戦車の装甲だってぶち抜くんじゃないか? あれ。
「そうですね。わたくしオリジナルの対大型魔獣用の術式です。地上なら、大熊辺りでも一撃なんですけどね。さすがにあのクラスの巨大海洋魔獣ともなると、威力不足は否めません。人間相手なら、掠っただけでバラバラになるんですけど……あれで仕留めきれないとなると、ちょっと今のわたくしでは、厳しい相手ですね」
「……いやいや、あんなの一人で何とか出来るような相手じゃないよ。それを撃退するなんて、さっすがラトリエちゃん!」
と言うか、相手は怪獣だもんなぁ……。
あんなもん、人間一人で何とか出来るような相手じゃないっての。
「いえいえ、旦那様も素晴らしかったです! 位置取りとか回避もドンピシャのタイミングでしたし、わたくしを抱きかかえたまま、ちゃんと反動だっていなしてくれたじゃないですか。なんと言うか、以心伝心、完璧なコンビネーション! 旦那様っ……もうっ! 最高っ! ですわーっ!」
ラトリエちゃんが僕を潤んだ目で見つめながら、強く抱きついて僕の胸に顔をうずめてくる。
なんと言うか……いやぁ、照れるね!
しっかし、問答無用で抱っこしてーって感じで飛びついてきたけど、そうか。
二人乗りだとこんな風にピッタリくっついてる方がいいんだよな。
その辺は、バイクの二人乗りと一緒。
あれも運転手にピッタリくっついて、運転手の荷重移動に合わせないとコーナーとか曲がるのに苦労するって言うからな。
だから、今、この瞬間現在進行系な太ももタッチとかも別に許されるよね?
「ふふ、なかなかいい感じの戦いだったね! このまま、逃げ切れるかな?」
「なにせ、あの大きさですからね……完全に仕留めるとなるとさすがに……。ですが、今ので、かなり時間は稼げたと思いますわ。少なくとも身体から氷が剥がれきるまでは、まっすぐ泳ぐのもままならないでしょうし、大分鱗も剥がれたので、スピードも出せないでしょうね。あ、向こうに島が見えてきてます! とりあえず、ひとまずあそこに上陸しましょう! 陸に上がれば、リヴァイアサンは何もできませんからね!」
見た所、リヴァイアサンの攻撃手段はその巨体を生かした体当たりと噛み付き攻撃くらい。
飛び道具とか持ってたら、とっくに使ってきてただろうから、要するに力技しか能がないんだろう。
僕たちを餌だと思って、追いかけてきてたって感じだから、ここはラトリエちゃんの提案に乗るのが良さそうだった。
なにせ、いくら僕の魔力許容量が高いからと言って、二人分の重量を支える程の水船を維持するとなると、いつまでも持つとは思えない。
海の上を逃げ回りながら、消耗戦になるよりも、一度上陸するというのが最善だろう。
「じゃあ、このまま……あの島を目指そう! しっかり掴まっててくれよ!」
「はい! 旦那様っ!」
ラトリエちゃんが嬉しそうに腕を首に回してくる。
必然的に胸にラトリエちゃんの慎ましい胸が押し付けられる……。
なんか小さな声で「アンッ」とか色っぽい声出して、ビクビクしてるんだけど、大丈夫かな?
その表情は僕からはよく見えないけど、ぎゅっと腕に力を込められるのが解った。
何気にゼロ距離で密着中……お互い水着だから裸同然ではあるのだよね。
お姫様抱っこ状態だから、太ももの生肌の感触もダイレクツッ!
セルマちゃんもだったけど、ラトリエちゃんも十代だけにお肌のスベスベさが半端じゃない。
うーむ、これは……たまらんっ!
も、もうちょっと上……うーむ、太ももってやつはいいな。
上に行くほど、ヤワヤワだ……ふひひ、サーセン! 役得ってやつだね!




