第七話「やって来た来た異世界トラック!」①
「で……なんや? 訝しげな感じやけど……妙ちくりんな銀貨でもまざっとったか? ラドクリのおっちゃん、その辺全然気にせんからなぁ……」
なるほど、僕が訝しげにしてたから、気を使って、追い出してくれたのかな。
「いや、もらったお金は問題ないんだけど……。確か、レジに釣り銭がはいってたはずなのに、消えてるんだよなぁ……どうしたのかなって」
「あ、それだったら、マナポイントに変換しちゃったんだって! ヘルプさんがそう言ってるよ!」
テンチョーが得意満面と言った感じで、割って入ってくる。
「へ? なにそれ……」
例のウィンドウを見せてくれるのだけど、マナポイントの残高が1045320Pに増えていた。
日付が変わる直前に、ATMに本日分の売上を口座に入金してたので、レジには釣り銭として合計45320円分の小銭と紙幣が入っていた。
なお、もう一台は、深夜は絶対に使わないので空っぽにしてる。
なぜなら、深夜はほぼワンオペだったからな!
ちなみに、内訳は5千円札と500円玉が4枚、その他は20枚。
深夜帯の釣り銭としては多めではあるのだけど、なんせワンオペだと、トイレ行くのだって苦労するくらいだからな……。
これはなにか? マナポイントとやらを増やすには、1円=1ポイントのレートで交換されるということか。
でも、勝手にって……ちょっとそれはないんじゃないかなー?
でも、それを考えると500万円で、店内を元通りに補修してくれたのは、格安だな……。
そんな事も考える。
うん、コストを常に意識する……商売の鉄則だよ?
「マナポイントは、店内の商品の仕入れ、店舗拡張、各種設備の設置などにも使えます……。また従業員の能力値ブースト、スキル所得の際にも消費されます。計画的なご利用を……だってさ」
まじですか?
でも、仕入れとかどうやって……それに日本円なんて、事務所の金庫にある釣り銭と、僕の財布の現金かき集めても10万くらいしか無いぞ?
「なぁ、テンチョー……マナポイントを増やすには、日本円しか使えないのか? それだともう減っていく一方になると思うんだけど……あと、ヘルプさんってだれ?」
「……多分、私にしか聞こえてないっぽいんだけど、私が質問すると色々教えてくれるんだよ……。あ、現地通貨でも入金すれば、適切な為替レートってので、マナポイントに変換してくれるんだって!」
……もう、あれこれ考えるだけ無駄って気がしてきたな。
適切な為替レートってなんなんだよっ! むこうとこっちで交易でもしてるならともかく、なんでそんなもんがあるんだよっ!
「な、なるほど……なら、早速さっきもらった銀貨で試してみよう……って、どうすればいいんだ?」
「んっとね……レジの引き出しに、お金を入れた状態で入金ってキーを押すんだって」
よく見れば、このレジ……いつものじゃない。
ガワだけは似たような感じで、液晶モニターも付いてるんだけど、テンキーに紛れていくつか、見慣れないキーが増えてる……。
確かに入金ってキーがあった。
試しに銀貨を一枚ドロワーに入れて、入金っと……。
なんか、チャリーンって感じの音がした……良かった、アオンとか言わなくて……。
「あ、マナポイントが310P分増えたよ!」
「おおっ! ホントだ!」
……どうやら、小銀貨の価値は、僕の予想通りだったようだ。
なんか10Pとか半端が付いてるけど、冶金技術が低いだけに、純度や重量にバラツキはありそうだから、そんなところなんだろ。
にしても、為替レート……小銀貨一枚310Pかぁ……。
こっちのレートで換算すると一万円相当が300円ぽっちって……なんかすっごい損した気分。
こうやってお金を儲けて、マナポイントを増やして行けと言うことなんだろうけど……。
これ……微妙過ぎる。
逆にマナポイントをお金に交換って出来ないのかな? この世界で物を取引するのに、こっちの現金は必要だから、それが出来ないと、ちょっと困る。
それが出来るなら、むしろ向こうで貯金やらかき集めて、こっちに持ち込めば……差益凄いことになりそうだな。
でも、消えた貨幣の行方とかどうなるんだろ……。
貨幣や紙幣が市場に出回らずに、ガンガン消えていくと、経済的に色々問題になったりする……。
実際幕末なんかでも、海外に日本の大判、小判が大量に流出して、経済的な混乱が起こったからな。
具体的には、自国通貨が大量に流出すると、相対的に自国通貨の価値が下がっていくんだよな……つまり、日本の場合だと円安になる。
まぁ、円安自体は輸入品が安くなるから、悪いことばかりじゃないんだけど……コントローラブルな通貨価値変動なんて、ろくな事にならないからな。
……まぁ、どうせ考えるだけ無駄か。
その辺、適当にどっかで帳尻合わせたりするんじゃなかろうか?
現代社会でもお金ってものは、実体がない概念的なものになりつつあるし、消えた貨幣は鉱脈に戻るとか、ダンジョンの宝箱に収まるとか、そんな感じで世の中に還元されるのかもね。
ああ、そうだよ……深く考えても仕方がない……。
でも、仕入れが可能だとすれば、どこから来て、どうやるのか気になるなーっ!
それに配送も……そういや、今日の朝分の配送って、どうなったんだろ?
いつもなら、夜明け6時頃に定期便が来るんだけど……。
大雪が降ろうが、道が崖崩れで通行止めになろうが、ヘリで空輸してでも商品を店まで配送する……それが日本のコンビニ流通だからな……。
僕ら的には、限度ってもんがあるから、災害時の拠点とか言われても、そこまで期待するなって思ってるんだけど。
災害が起きると、店の従業員だって被災者になる。
そんなの当たり前なんだけど、そんな時こそ社会の役に立つべきだとか、無茶振りするからな……本部も。
いつぞやかの山梨の記録的な積雪の時、そんな感じでヘリ空輸しながら、営業を続けたコンビニの話をニュースでやってたけど……。
あれ、同業者としては、心底同情したよ。
でも、さすがに異世界にまで商品配送は、無理だと思うのだけど……。
これまで、数々の無茶を実現しているのも確かだし……ひょっとするとひょっとするかも?
「テンチョー質問っ! 本日の朝便の配送ってどうなってるか、そのヘルプさんに聞いてみて!」
「うん、私もそこが一番気になってたんだよね……ちょっと聞いてみるね!」
そう言って、テンチョーは目をつぶって、ブツブツと呟き始める。
なんか、聞いたこともない言葉で会話してるような感じなんだけど……。
「えっと……担当者が違うので、担当者から折り返し電話します……だって?」
衝撃の回答が帰ってきた。
はい? 電話って……通じるの? スマホにかな? それとも店電かな?
そんなことを考えていると、スマホがコール音を立てだす。
な・ん・でっ! 電・話・が・つ・な・が・る・の?
ねぇ、流石にこれはおかしいでしょ。
異世界に携帯の電波塔でも建ってるっていうの?
ああ、もういい……深く考えたら負けだ!
「はい、こちらイレブンマート、オーナー高倉です!」
とりあえず、やけっぱち気分でスマホに出て、返事をする。
ホントは支店名も名乗るんだけど、ここ何支店になるんだろ?
「ああ、もしもし? イレブンマートさん?」
「そうだけど……そちらは? なんか担当者から、連絡するって言ってたみたいだけどさ……君がその担当者?」
「担当者かどうか知らないけど、あたしは配送屋ってとこよ。依頼されたブツは、きっちり配送センターで受け取ったから、今からそっちに届けるからご安心を! でも、指定時間の六時には間に合いそうもないのよね。……大体10分遅れで店着の見込みなんで、ちょっと待っててね! じゃあ、運転中なんで切るよっ!」
一方的にそう告げられて、電話が切れてしまう。
……なんか聞き覚えのある声だったなぁ……というか、マジでここまで配送来るのか?
イレブンマート……半端ねぇな……って、待て待て待て。
なんぼなんでも、異世界まで配送するとか、意味わかんないし!
スマホの時計を見ると、すでに六時を過ぎたところだった。
外もかなり明るくなってきている。
ちなみに、アンテナはバリ3……そういや、屋上に携帯のアンテナ立ててもらってたんだっけ。
なるほど……だから、スマホも繋がるんだ。
この分だと、ネットも使えそうだな……。
で・も! 携帯のアンテナの先は、どこに繋がってるわけ-?
……だが、すでに何度も冗談のような事が起きているのだ。
配送も……この流れだと、ほんとにやってくる!
ドタドタと外に出ると、獣道に毛が生えた程度の街道の遥か遠くの方から、プシューと言うエアブレーキの音が鳴り響いて、二つの眩いばかりの白い光が並んで近づいてくるのが見えた。
配送トラック……来ちゃったよっ! まじで?
店の外で、ワイワイと弁当を食べていた犬耳おじさん達も何事かと立ち上がり、各々武器を取る。
剣やら斧……槍。
皆、身体も大きいから、なかなか威圧感あるんだけど……。
ガチャガチャと人壁を作って、僕をガードする構えの様子だった。
「す、すまない……ラドクリフさんだっけ? 多分、あれ……うちの関係者だと思うから、手出しは無用で……」
「そ、そうなのか……なんなんだあれは! ものすごく足が速い上に、なんて大きいんだ……まさか、怪物を召喚したってのか?」
……召喚とは違うけど、そんなもんか。
「そうだね……召喚みたいなもんかな。確かに」
「……こりゃまた、ゴッツいなぁ……。あんなの体当たりされただけで、うちらでも軽く死んでしまうわ……」
キリカさんも隣に来て、呆然と呟く。
まぁ、トラックに勝てる人間なんてめったにいないさ。
伊達に数多くの異世界転移者を作ってきた実績を誇っちゃいない。
そうこうしているうちに、朱色に塗られて、流れ星のマークの入ったド派手な4トントラックが店の前に停まり、そのドアが開くと、ワークキャップを被ったツナギの作業服姿の女性が飛び降りてくる……。
「あれー? 誰かと思ったら、高倉オーナー? って、なんでネコ耳なんて付けてるの? おっかしーっ!」
そう言って、ケラケラと笑う女性ドライバーは、割と見知った顔だった。
……去年まで、うちのバイトリーダーだった時羽和歌子さんだった。
前の方に、名前だけ出てたバイトリーダーの和歌子さんです。
実は、準レギュラー枠。(笑)




