閑話休題「テンチョー密着24時!」⑩
「セルマさんはお優しいのね……。けど、これは明確なテロ……国家秩序への挑戦とも言うべき重犯罪。その罪は死を以って償うほかないのですわ……」
「そんなっ! 可哀想ですっ!」
「セルマ……私達は仮にも軍人だ。お前は陛下を守る戦いでも、そうやって敵兵が可哀想……などと戯言を並べるつもりなのか? 私達は、その時がくれば慈悲の心を捨てて、修羅とならねばならないの……。どのみち、この国の法では、このようなテロリストは情状酌量の余地なく、もれなく死刑なのよ。要するに、アイツの運命は決まっている……死体になるのが遅いか早いか程度の違い。同情の余地なんて無いわ」
「そうね。どうせ死ぬなら、わたくし達の手柄になって死んでいいただく。まさにベスト対応ですわ。嫌なら引っ込んでいていただいてもよろしいかと思いますが、貴女と第一小隊には、肝心な時に役立たずだったと言う残念な評価が残りますわよ?」
「そ、それは嫌です! で、でも……」
「でもも、あさってもありませんわ。見てみないふりをして、この場から背中を向けて逃げて、卑怯者の烙印を押されるか。わたくし達と共に正義の名に於いて、テロリストを断罪するか……このどちらかですわ!」
「ラトリエ……あまりセルマをいじめるな。なら、こうしよう。セルマ達は直接戦闘に参加しなくてもいい……。今回は裏方に回る……それでどう? まず、親衛隊のメンバーをこの場に、かき集めてきてくれ。それくらいなら、出来るでしょ?」
「は、はいっ! やります! 役立たずとか言われるのはイヤです!」
「悪くない返事ですわね。裏方も大事な仕事なのですよ? 今は、とにかく人手が欲しいの。相手は恐らく一人……であれば、まずは建物を完全に包囲し、退路を断った上で、プレッシャーをかける。そのためにはまず頭数が必要……わかりますわね?」
「……ハイっ! 解りました!」
「……皆、巡回してるか、宿舎か、訓練場にいるはずだし、非常呼集に応じて、バラバラとこっちに向かってるはず。非番の冒険者連中も何人かいたはずだから、その人達も動員。セルマの権限なら、それ位可能なはずよ。セルマはまず、第一小隊を招集、次に手分けして、他のメンバーを出迎えに行ってあげて……皆、まだ道も怪しいはずから、迷子になってる子もいるかも……」
「そうですわね……セルマさん、まずアンナさんと合流してください。あの方は有能ですからね。アンナさんと合流したら、余計なことは考えずに、アンナさんの助言に従って行動すること! 解りましたわね? 復唱してくださる?」
「は、はい、解りました! セルマイル……これより、第一小隊副長のアンナと合流、然るべき後、全隊をこちらへ誘導……さすがリスティスさん、それにラトリエさんも、こう言う時はとっても頼もしいですね!」
「私だって、まともな実戦は始めて……あまり期待はしないで……。でも、テンチョー様が人質にとられるなんて……。ここはタカクラ閣下のためにも、一致団結して頑張ってみましょうっ! セルマ、任せたわよ!」
「はいっ! やっちゃいます!」
セルマちゃんがトコトコと広場を離れていくっす。
……割と速攻でアンナさんにとっ捕まって、そのまま、ダッシュ。
けど……こうなると唯一の良心的存在が……。
セルマちゃんって、立場的には公爵令嬢なんて立場だから、親衛隊でもトップクラスの立場。
その発言力は本人が思っている以上なんすよ。
それをなんだかんだで、言いくるめて現場から追いやって、反対意見も言わせない。
……なんと言うか、巧妙っすなぁ……。
「やれやれ、セルマさんも甘ちゃんですわね。嫌いじゃありませんけど……。では、リスティスさんが臨時総隊長と言う事で……。まずは、こう言う時の対処のセオリーをお願いしますわ。軍の対応マニュアルくらいご存知かと」
「……そうね。王国警備隊の規範書では、このような単独犯の立て籠もりに対しては、認識範囲外からボウガン辺りでの狙撃による無力化が最善手と書かれていたわ……要するに、力づくの制圧がセオリー」
「単独での籠城って時点でぶっちゃけ詰んでますからねぇ……。説得交渉などはしないのが、やはり当たり前なんですか?」
「基本的に、テロリストの要求には耳を貸さず、問答無用で皆殺しってのが、見せしめにもなって、最善手とされてるのよ……。その際に発生する犠牲は、ある程度容認すべしとも……この辺は、過去の事例でも徹底されてるし、他国では一族郎党までまとめて塁が及んで……なんて話もあるくらいよ」
まぁ、この辺はあっちの世界でも国際社会の常識とか言ってますからなぁ。
テロリストへは、無慈悲対応。
リスティスちゃんは、ああ見えて軍関係者。
無慈悲なのは当たり前って感じなんでしょうね。
「なかなか、シビアな話なのですね。でも、それが最善って言われる理由は解りますわ。人質取って籠城したら、無茶な要求でも通るとか、そんな前例は作るべきじゃありませんからね。となると、ここは無慈悲に長距離スナイピング一択かしらね……」
「もちろん、それはあくまで理想って話だけどね……実際は、妥協した例もいくらかはある。ただ、狙撃と言っても、今回のような自爆覚悟の相手となると、確実に一撃で即死させる必要があるわ……。そうなると私達程度の技量では少々厳しい……ラトリエは出来る? 私は正直自信がない……最低100m離れた的のど真ん中を射抜く程度の技量は必要だと思う」
「確かに、厳しいですわねぇ……。そもそも、親衛隊でまともに戦力になるのは。わたくしとリスティスさん、それと各隊の副長格くらいです。ボウガンであれば、わたくしでも扱えますけど、その条件だと100発10中くらいですわね……お恥ずかしい話ながら。いっそ、宝具でも使います?」
「私も似たようなものよ……弓ってのは、基本、専門職の仕事なのよ。エルフの狙撃手辺りがいればよかったけど……。あいにく、エルフの特戦隊って、タカクラ閣下の配下でも最高レベルの精鋭だから、魔獣討伐に出払ってしまっている。無い物ねだりって訳ね……。宝具は……やめとこう。あれを使ったら、店ごと吹き飛ばしそうだし、周囲の被害も出るだろう。お父様にも今後、滅多なことでは使うなと念押しされてしまったよ。何より、使うだけでAクラスの魔石をまとめて使い潰す羽目になるから、経済的な観点からもあまり使いたくない……文字通り、最後の手段ね」
「わたくしも似たようなものですわ……。重力魔法なら、あの店を一撃でペシャンコにするくらいなら、わけないんですけど……」
「ペシャンコにしたら、駄目なんじゃないの? なんにせよ、人質と建物、全て無傷で解決してこそ、満点……そう考えるべきね。まさに、これは試練……望むところよ! ところで、ラトリエ……犯人が持ってる爆薬ってなに? 私の知識にはないから、詳細を教えて欲しい」
「自分の知らないことを知ったかしないで、素直に聞ける……嫌いじゃありませんわよ、その姿勢。わたくしも書物で聞きかじった程度ですが、ドワーフの秘匿技術の一つらしいですわ。鉱山の採掘や古い大きな建物を破壊するときなどに使うそうです。一般的に知られているもので、近しいものでは火属性魔法、それも上級魔術『爆炎』の魔術が近いですわね。威力としては同レベルだと言う話ですが、密閉空間ではそれ以上の威力があるそうです。自爆されたら、人質は全滅すると思っておくべきでしょう」
「上級魔法以上の破壊力を持つドワーフの秘密兵器か……。そんな恐ろしい物を持ち込まれた上で、相手は自爆も辞さずとは、なんとも厄介な状況ね……。となると一斉突入による制圧はこちらの練度の低さもあって、制圧部隊諸共、全滅の可能性がある……と言うことか?」
「ですわねぇ……。そもそも、我々がそんなタイミングを合わせて、一斉突入とかそんな器用な真似出来るわけがありません。人間、基本的に訓練したことしか出来ないですからね。今の我々に出来ることとと言えば、ずらりと並んで威嚇する……カカシ役程度ですわね」
「やれやれ、これが終わったら、近衛流の特別訓練でもしないといけないね。しかしまぁ、味方がカカシ程度では、あまり戦術選択の余地はないな……。いっそ、テンチョー殿が自力で犯人を取り押さえてくれたりしないかな……。あの方は、相当な使い手だと聞いているから、こちらが犯人の気を引いてチャンスを作れば或いは……」
「希望的観測で、作戦を立てるべきではありませんわ。そもそも、あの方は、お優しい方ですから……。恐らく何とか犯人を説得できないか……そうお考えでしょう。こちらで出来るのは、その助勢……現状、相手にプレッシャーを与え、逃げ場がないと知らしめることが最善策ですわ。とにかく、使えるものは何でも使って、相手の思惑に乗らないように……わたくしの出来る助言としてはこの程度ですわ」
「解った! ラトリエありがとうっ! 君は参謀としても優秀だな……」
「ふふ、光栄ですわ。貴女もこんな未経験の非常事態でも、いたって冷静でいられる……それだけでも、貴女が指揮官として優秀だと言う証明になりますわ」
「お前がそう言う殊勝な事を言うと、また何か悪巧みでもしてるんじゃないかって思うよ。だが、今は信用しておくよ」
「わたくしは、いつも冷静に計算の上で行動してますのよ。今は、リスティスさんのサポートが最善と判断したまでですわ。もちろん、わたくしの配下にもすでに指示出してしてますからね。わたくしの黒薔薇隊もリスティスさんの青百合隊と並んで使える子達なんですわよ?」
なんともカッコいいっすなぁ……この二人。
彼女達の話でわかった事は、クロイエ様とアージュさんは不在。
タイミングが悪いっすけど、公務が入ったんじゃ、そっち優先っすなぁ。
呼び出されるとなると、色々ここぞとばかりに仕事振られて、簡単に戻ってこないってのが通例だから、戻ってくるのは最速で、夕方くらいっすなぁ。
二人共、ダンナに知らせる気は毛頭なしのようで……まぁ、そこら辺は同意できますな。
とりあえず、強行突入とかはやらずに、周りを囲んでプレッシャーを与える……と。
……なかなか、良い判断力してるっすね!




