閑話休題「テンチョー密着24時!」⑧
「やぁ、レインちゃん! どうしたの? 慌てて、店番じゃなかったの?」
レインちゃん、よほど慌ててたらしく、ゼイゼイと肩で息してるっす。
一体何があったのやら……。
「そ、それが……サトル様が……。休憩中にお酒飲んでて、グッデグデに泥酔しちゃって……」
「ええっ! 何やってんの! ……だから、注意してって言ってたのに……」
「す、すみません! 普通にアルプス山脈の天然水、美味しそうに飲んでると思ってたら、中身日本酒で……もうグッデグッデでお客さんに絡んだりしてたんで、後ろから踵落とし、エイッ! ってやって眠ってもらいました」
……あの男も、酒好きとか聞いてたけど、仕事中に飲むとかアホなんすか?
レインちゃん見かねて、ぶん殴って制圧……やっぱ恐ろしい子っ!
「あー、うん。そう来たか……彼、酒好きなんだけど、酒に全然強くないからなぁ……だから、程々にって言ってたのに……。そうなると、しょうがないね。テンチョー、ごめん! 店番頼む……」
「うにゃーっ! 任せるにゃー! まったく、サトルのやつ……起きたら、一発ぶん殴るにゃー!」
「お手柔らかにね。レインちゃん、今日のメンツは?」
「ケリーさんと、商人ギルドのワッツさんと、私しかいないんですよ……。サトル様がいるから、大丈夫だと思ってたんですけど……ちょっとイイ感じの入っちゃったんで、しばらく起きないかなーと。でも、ワッツさんも本来はお昼上がりだったのに、無理言って残ってもらってるんですよね……」
「ワッツさん、今日は確か朝イチの開店準備からずっとだから、さすがにもう上がってもらわないと……。テンチョー悪いけど、店番入ってくれないかな? ごめん、本来は僕が埋め合わせするべきなんだろうけど……」
「気にするなだにゃー! テンチョーが入れば、余裕で回るにゃー! 御主人様はゆっくり休むといいにゃー」
「私たちも手伝いますよ。今日はなんだか、人も多いですからね……何があったんでしょう? ここに来るまでも、見慣れない人達があちこちに集まってましたよ」
「ちょっとオルメキア方面で大型魔獣の目撃情報があって、国境ラインの封鎖の上で、警備隊も総出で討伐するって聞いてる……。多分、そのせいで滞留が起きてるんだろうね。うーん、これはちょっとマズイな。なまじサトルくんが優秀だったから、頼り切ってたからなぁ……」
「サトル様も10日くらい休み無しでしたからねぇ。ちょっとお疲れのようではありましたよ」
「うーん、これは僕のミスだねぇ……。ごめんね、テンチョー」
「大丈夫! テンチョーもサボってたから、埋め合わせはするにゃ!」
「某も店の前の掃き掃除くらいなら出来るから、お手伝いするっすよー」
「モンジローくんまで……すまないねぇ……バイト代くらい出すから、頼むよ。皆も、ごめん!」
まぁ、ダンナの頼みなら、誰も断らないっす!
……そんな訳で、テンチョーさん達とコンビニに戻る事になったっす。
「な、なんすか? これ……満員電車みたいになってるっすーっ!」
思わず、驚愕。
外からでも解るくらい、店の中がぎっしり大混雑。
店の入口にもたくさん人が集まってて、大行列が出来てるような有様。
「うにゃーっ! お店、めっちゃ混んでるにゃー! レイン、ミミモモ、行くにゃーっ!」
4人がお店に突撃開始っす。
テンチョーさんがレジに入って、ミミモモが品出し、レインちゃんがお客さんの整理と手際よく進めていってるっす。
某は……まぁ、箒とちりとり持って、お掃除っすね。
中はもう戦場っす。
某もコミケの売り子くらいやったことあるっすから、レジ打ちとかもやろうと思えば出来るんスけどね。
まぁ、こんなド素人が一人入った所で、役には立たねっす。
某のチートも、こう言う時は意味ないっすなぁ……。
「お出かけっすかー! タリラリラーン!」
それにしても、テンチョーさん……伊達に店長さんじゃないっすなぁ。
シュババババッって感じでレジ打ちやって、テキパキと指示出しして……まさに有能オブ有能!
頼もしすぎる人っすなぁ。
おまけに、戦わせたら、封印魔獣も一蹴するほどの無敵っぷり!
某は……こう言う時は、無能オブ無能……悲しい。
そんな感じで、ぼんやりしてると、遠くからパパパーとクラクション鳴らしながら、人混みかき分けて、真っ赤な配送トラックが登場したっす。
ミミモモちゃん達が店の外に出てきて、交通整理を始めるっす。
いつもの事なので、通りがかりの人も協力してくれたりして、トラックお店の前に到着。
某、邪魔にならないように隅っこぐらし状態。
「うにゃーっ! 今日は和歌子だったのかにゃーっ! いつも配送ご苦労さまだにゃーっ! ミミモモ、レジ打ちはレインに任せて、まずは搬入するにゃー!」
「うっす! テンチョーちゃん、元気だね! あたしも手伝おうか?」
「テンチョー達でなんとかなるにゃー! 和歌子はその辺でのんびりしてればいいにゃー!」
「そうかい? なら……一服してるから、ゆっくりやるといいよ。どうせ今日はこれで上がりだしね……せっかくだから、車も置かせてもらって、一杯やっていくつもりだったのよ。そいや、タカクラオーナー、病院送りになったんだっけ? あの馬鹿、何やってるんだかねぇ……」
和歌子姐さん……巨乳姐さんって感じの人っす。
某、こう言う姐さん女房系も大好きっすー!
年の頃は二十代後半……まさに女盛り! スリーサイズは、B90W60H85! ナイスバディッ!
この人、某が目の前で脱ぎイラスト描いても、殴らないで笑って許してくれるような人なんスよね。
「まぁ、色々あったんすよ。和歌子姐さん……こんちゃーっす!」
「あら、珍しいのがいる。確か、モンジロー君だっけ? え? なに、君までお店手伝ってるの?」
「そうなんすよ。ダンナが入院してる上に、大忙し……義を見てせざるは勇なきなりって言うじゃないっすか……けど、某、あんまり役に立ってないんすよね……」
「あはは、その心意気だけでも十分じゃないの? そいや、アンタ……向こうじゃ警察のお尋ね者らしいじゃない。何やらかしたっての?」
「ちょっとばかり、表現の限界にチャレンジして、サツに目をつけられたんスよ。おまけに某の漫画の読者が、ガチで模倣犯やらかしたもんで、しょっぴかれて、ついカッとなって刑事さん殴っちまったんすよ」
正確には、その模倣犯、この場に連れてこい! 某の怒りを思い知らせてやるとか騒いでたら、何故か抵抗するのかーとか言われて、羽交い締めにされたから、振りほどいたら、公務執行妨害でタイーホっすからね。
「なんだか良く解んないけど、ロックな人生歩んでるんだねぇ……嫌いじゃないよ、そう言うの……? あたしも大概ロックだからねぇ……。つか、今日はいつもみたいにエロい絵描かないの? あたしで良ければモデルになってあげるわよ? なんなら、そこら辺の物陰でも行く? 君みたいな如何にもシャイボーイって感じの子も悪くないし……」
そう言って、シャツの襟ぐり引っ張って、胸の谷間を強調する和歌子さん。
なんと言うか……エロい人っすねぇ……素敵だわ、この人。
「はっはっは! 女子の生ヌードなんて見たら、某、ぶっ倒れるっす! 某、おっしゃるとおりシャイなんスよ。それにアレやると女子に嫌われるって、いい加減学習したっす!」
「ふーん、あたしは別に気にしないけどね。でも、タカクラオーナー、いつも紋次郎くんは凄い人だって、言ってるわよ。実際、タダもんじゃない……まったく、貧相なもやしに見えて、とんでもないね……」
「う、うん。某は……漫画描く以外に取り柄なんて無いっす! 女子にもじぇんじぇんモテましぇん!」
「女の子にモテたいなら、もうちょっと自分磨きをしないとねー。と言うか、あれでしょ? アンタ、オーナーが大ファンって言ってた悶々崎先生なんでしょ? オーナーの部屋にいっぱい並んでたからあたしも知ってるよ? と言うかあの突然打ち切りになった大人気マンガ「ドラゴンシューター」までアンタの作品だとか、知らなかったわよ……」
ダンナのコレクション。
某も見たんスけど、某が別のペンネームで描いてた一般向け作品とか……。
世の中に1000部も出てないレア本や、絶版本やら、某でも驚くくらいのラインナップ揃ってて、驚いたっす。
少年誌向けの「ファイヤー☆メン」「轟大文字」「うっちゃれ友瓦」名義作品はもちろん、女性誌向けの「ジュリアンナ・茶里」なんてのまで……。
絵柄とかも変えてたのに、ちゃんと把握しててコレクションに加える。
まさにファンの鑑っすよ。
ちなみに「ドラゴンシューター」は「ファイヤー☆メン」名義で描いてた作品っすね。
アニメ化まで決まってたのに、某がこっちに来ちゃったから、自動的に打ち切りになったそうっす。
そのうち、続き描いてもいいかも知れないっすね。
「はっはっは、ダンナは某のファン……それも第一人者だったらしいですからなぁ。まぁ、某は……三次元の女子にはあんまり興味ないんスよ……」
「はぁ? あんだけ濃いエロ漫画描いてるくせに、何言ってんだかねぇ……全く女の子に興味ないって事ないんでしょ? どう? なんなら、アンタを男にしてやってもいいわよー?」
……そ、某タジタジっす! こ、これがガチモンの肉食系女子っ!
「そ、某は二次元に生きる……それでいいんスよ!」
「ふーん、女神の使徒って話も聞いてるけど、その割には結構、可愛いとこあるのね。聞いた話だと、月に落書きとか無茶苦茶やったらしいけど」
「あれは……ついカッとなりましてなぁ……」
「あらあら、ついカッとしちゃうんだ。意外とワイルドなとこもあるのね……」
「いやぁ、まんざらでも……ってどうかしたんすか?」
店の横の喫煙所で話ししてたんスけど、和歌子さんが急に険しい顔になって、某を物陰に引っ張り込んだっす……。
「な、なんすか……突然……」
和歌子さんのバインバインを背中に感じて、某の血圧急上昇中っ!
「静かに……今、コンビニに妙なモン持った奴が入っていった……」
「……なんすかね。この匂い……」
ふわっと風にのって、異臭が漂ってきたっす。
嗅ぎ覚えはあるんすけど……なんとも香ばしい感じの匂い。
うん、なんだか懐かしい気もする匂いっすね。
「こりゃ、火薬の匂いだね。なんでここでそんな匂いが……? と言うか、いつもの犬耳連中はどうしたの? いつもだったら、あたしのトラックが来ると、連中が交通整理やって誘導してくれるのに、可愛らしい女の子達がアワアワしてるだけで、ここまで来るの大変だったんだけど」
「なんか大型魔獣が出たとかで、ラドクリフさん達、今、まとめて出払ってるんスよ……。今、街の警備を担当してるのは、素人同然の親衛隊の子達だけなんすよ……」
タカクラの旦那も言ってたけど、親衛隊の子達って一応、武器持って魔法使えたりもするんだけど。
戦闘訓練もほとんどしてなくって、戦力的にはお飾り程度だって言ってたんスよね。
実際、動きとか見ても、軍人とか戦闘員と言うよりも、コスプレ女子高生とかそんな感じだし……。
このタイミングで、爆弾持ったボンバーマンとかヤバいんじゃ。
「ああ、そう言う事かぁ……となると、今ってここのセキュリティ、かなり杜撰なんじゃない? オーナーも入院してるって話だし……」
確かに、なんとなく嫌な予感がするっす……。
「ちょっと、某……中の様子に見てみるっすね……」
テンチョーさんが居るから、よほどのことがない限り大丈夫……と思いつつも、某の目に飛び込んできたものはーっ!




