閑話休題「テンチョー密着24時!」③
「で……お前らはなんか、気の利いたお土産くらい持ってないのかにゃ? 初対面で目上の者に会う時は、手土産持参が基本って、ご主人さまも言ってたにゃっ!」
テンチョーさん、もはや直球。
賄賂よこせば無罪放免って、前例作っちゃってるから、二人がこの場を乗り切る道筋なんて、もう馬鹿でも解るっす。
要するに、この二人も素直になんか賄賂でも差し出せば、それで済むんス……読みどおりっすな。
まぁ、仕込みは済ませといたから、この場は皆、笑顔で終わると思うっす!
某、気の利く裏方で構わないっす。
「わ、私は……こんな物しか……」
セルマちゃんがおどおどしながら、ポケットから巨大ミカンを取り出す!
それ、あかーんっ! バッドチョイスだよ……セルマちゃんっ!
君のボディは、某も認めざるを得ないくらいのナイスエロバディだけど、やっぱ残念な子なのね……。
「み、みかん? テンチョーはそれ苦手なんだにゃーっ! お前、猫にミカンあげたら普通逃げるにゃーっ! こんなもん食えるかーッ! どうせ寄越すなら、もっと……猫が好きそうなモノがいいにゃっ!」
……ほら、やっぱり。
差し出された巨大ミカンを床にはたき落とされて、涙目になるセルマちゃんっ!
ああ、もうっ! 焦れったいなぁ……。
ちなみに、叩き落されたミカンは某が拾ったっす……あとで、美味しくいただくっす!
「ご、ごめんなさーいっ! ほ、他に何か……あれ? これってなんだっけ?」
そう言って、ポケットから猫の顔が描かれたアルミパウチの細長い棒みたいなのを取り出すセルマちゃん。
それそれっ! ちゃんと持っててくれた……セフセフ!
「そう言えば、ここに来るときに、ガリッガリで貧相なオジサンが手渡してくれたのよね……。建物の隙間から気配もせずに、いきなり出て来たから、思わず悲鳴あげそうになっちゃったけど……そのうち役に立つと言ってたけど……コレってなんなのかしら……?」
……テンチョーさんの目は、もう二人が持つ「チュルっと」に釘付けっす。
指咥えて、ヨダレ垂らして……めっちゃ物欲しそうなケダモノの顔で見てるっす……。
「え、えっと……。これなんかどうでしょう? 私達は、これが何なのか良く解らないんですが……た、食べ物なんですかね? よ、よろしかったら……」
「あ、私も差し上げます……ちょっと気持ち悪い人からもらったんで、人にあげるのはどうかと思ったんですけど……なんだか、とっても欲しそうな感じですよね? あ、あの……良かったら、どうぞ」
そう言いながら、二人が差し出したのは……。
そう猫まっしぐらのペーストキャットフードのベストセラー「チュルっと」!
それもレア限定品の黄金ささみ味。
某、いつもテンチョーさんのご機嫌伺い用にストックしてたんだけど。
なんか、当たりだったらしく、そんなんが混ざってたのだよ。
そして、こっそりとあの二人に通りがかりに、いずれ役に立つ時が来るとか意味深な事言って、握らせておいたと。
某も悪ですなー。
でも、今……どっちも遠回しに某をディスらなかった?
き、気のせいっすよね……な、泣いてなんて居ないしっ!
「……お前らにも割引券やるにゃー。お前らどっちも無罪放免だにゃっ!」
うん、予想通りの反応ですぞっ!
テンチョーさん、ニコニコ笑顔で「チュルっと」を懐にしまい込むと、テンチョーさんの似顔絵付きの割引チケットを二人に手渡してるっす。
某、思わずガッツポーズ!
「よ、よろしいのですか? 私、自分で言うのもなんですが、明らかに問題だったと自覚しています……同意の上とは言え、宰相閣下を療養院送りにして、許されるとはとても……」
「そ、そうです……誰が悪いってなったら、多分私達全員が悪いと思います……旦那様を死なせかけてしまうなんて……そんなの妻失格ですぅ……」
「罪を憎んで人を憎まずって言うにゃ! お前達全員、見どころがあるにゃー! だから、テンチョーは許すのだにゃー! 何より、そう言う事なら二人共、家族なんだにゃーっ! 家族は……許し合い、施し合うべきなんだにゃー」
テンチョーさんが二人を立たせて、まとめて抱きしめる!
えがったえがった……尊いなぁ……ホントに、尊い。
某の視界も滲んで、前が見えないでござるよ……。
テンチョーさんが許したなら、もう大丈夫っすね。
ソレくらいには、テンチョーさんには、多大なる権限があるんスよ。
実は、タカクラの旦那を病院送りにしちゃったってのは、ダンナの立場上、割と大問題だったみたいで、アージュさんが何らかの罰を与えるべしって言い出して、クロイエ様も押さえられなくて困ってたみたいなんですわ。
最終判定は、テンチョーさんが三人を許すかどうかに、かかってたんですがね。
そこはそれ……某の一計で丸く収まった。
いやぁ、某グッドジョブ。
「解りました……セルマ。納得は行かないけど、第二夫人様からお許しが出たのであれば、それは受け入れようっ! ありがとうございます……このリスティス・マルステラ! 閣下もですが、第二夫人テンチョー様にも、騎士としての永劫の忠節を捧げることをここに誓いますっ!」
「か、寛大な措置をありがとうございます! テンチョーお姉様っ! 良かったぁ……もう、ドキドキしちゃいましたっ! あ、リスティスさんも一緒にコンビニでお買い物しましょうよっ! 私も実は楽しみだったんですよっ!」
「わ、馬鹿っ! 引っ張るなっ! あ、あの……私は今回の件、自戒とすべく、この後……宿舎の反省房にて、反省したいと思います……」
「良いから、もう気にするなだにゃー! とりあえず、コンビニで楽しくお買い物でもするにゃーっ!」
そう言って、テンチョーさんが手を振るとリスティスちゃんがビシッと堂に入った敬礼をして行く。
なんとも律儀かつ、真面目っ子なんだけど……そのうち、染まって、緩くなるんじゃないかなぁ?
どのみち、これにて一件落着っすー!
セルマちゃんがリスティスちゃんの腕をとって、コンビニへ突撃していくっす。
まぁ、めでたしめでたしっすね。
「……まったく、お主が許してしまったのであれば、我も許さねばならんではないか……」
「ふふっ、アージュ……お前の負けだ。まったく、どこの誰か知らんが粋な計らいをしてくれたものだな。テンチョー殿、寛大な措置……ありがたく思うぞ」
バックヤードに積んであった大きめのダンボールの中から、アージュさんとクロイエ様、登場。
まぁ、知ってたけどね。
某視点からは入る所から、丸見えでしたぞ?
「なんだ、二人ともいたのかにゃ。そんなところで、何やってたんだにゃ?」
「まぁ、そうだな。お前さんがどんな風に奴らにけじめを付けさせるのか……興味があったのでな。覗き見などして悪かったな。それにしてもあっさり買収されるとは、お前さんも案外、俗物よのぉ……」
「そう言うな……アージュ。テンチョー殿、すまぬな。本来、ケンタロウの件は、私が公正に法の名のもとに処分すべきだったのだが、あやつらは立場上、気軽に処分する訳には行かない者たちでな……。しかしながら、私の一存でヌルい処分に留める訳にもいかず、上位三人の妻による多数決……つまり、テンチョー殿の采配に従おうと言う事になっていたのだ。まぁ、あの三人も、十分反省してくれているようではあるから、ひとまず、これで良しとしよう」
「べ、別にテンチョーは買収された訳じゃないのだにゃっ! 美味しいものをもらったら、許すのが当然だにゃ! 黄金ささみ味は、通常ささみの1/20の確率で入ってるレアアイテムだから、テンチョーでもつまみ食いは許されないのだにゃっ! 黄金ささみはプライスレス……なんだにゃーっ!」
……この辺は、某も理解不能なんすわー。
某も食べてみたけど「チュルっと」って生臭くて、生肉ペーストって感じの味で、塩振ればかろうじてって、そんな感じなのよね。
けど、テンチョーさんには、袖の下として効果抜群な大好物。
彼女、店の商品には、基本的に手を付けないって自分ルールを課してるみたいで、誰も買わない絶賛不人気商品なのに、自分でツケで買ったりとか絶対しないんですよねー。
ちなみに、ミミモモちゃんも、美味しくないって言ってたっす。
某、ジャンクフード舌だけど、むしろ正常っぽいっすよ?
「まったく、お主には敵わんな……。それと……モンジローッ! 貴様、さっきから、何を覗き見しとるのじゃ? 近くに居るのは解っとるぞ……大人しく出てくるが良いっ!」
うひょっ! さすがアージュさん。
某の視線に感づかれたっすっ!
某がいるのは、通常空間の裏側の隙間みたいな空間。
いわゆる亜空間ダイバー状態で、覗き見してたんだけど……まさか、見つかってしまうとは……。
「……バレちゃいましたか。テヘペロっ!」
壁の中からにょろーんと某、登場っ!
クロイエ様……ささっとアージュさんの背中に隠れる。
むぅ……心外でござるな!
某、ロリっ子は大好きだけど、ロメオの皆のアイドルにして女王陛下、クロイエ様に何かしようなんて、これっぽっちも思ってません!
むしろ、助けを求められたら、40秒で支度して、推参っ! ってやっちゃうくらいには、密かに忠義誓ってますぞーっ!
「……モンジロー! なんだ、お前……見てたのかにゃっ! テンチョーにも解らなかったにゃっ!」
「コヤツ、非常識にも亜空間の中に潜り込んでおったからな……。まったく、相変わらず何でもありのようじゃが……その力、悪用なぞしとらんだろうな?」
「某、基本的に誰にとっても無害な紳士を目指してるっす! 悪用するなんてとんでもないっす!」
「まったく……あやつらが都合よく、テンチョー殿の大好物を持っていた辺り、どこぞの誰かが仕込んだとしか思えなかったのじゃがな……貴様、何か知らんか?」
「そ、某、な、何のことやら……ですぞ?」
……ううっ。
アージュさんの某を見る目が怖いっす!
思わず、脂汗がダラダラ出るっす……。
この人、伊達に1200年も生きてないっす……某も苦手。
密かにロリババァって呼んでるけど、本人の前じゃ絶対、言えないっすな!




