第四十九話「高倉オーナー華麗に散るッ!」②
な、なんとなく解ってきた。
今まで僕が戦ってきたキリカさんやラドクリフさん辺りは、まさに脳筋って感じの力押しオンリーの戦い方なんだけど。
この子は純粋に剣技を愚直に磨き上げて、鍛錬を続けるうちに、達人の領域まで昇華させた……そう言う子なんだ。
単純な力押しとかそんなのとは、明らかに別次元……まさに超一級の剣士!
この子……ロメオでも十指に入るくらいの達人とかそんなじゃないの?
冗談抜きで、ドラゴンスレイヤーさんとか、剣豪爺さんとか、あの辺に匹敵するような……。
あの人達も油断してた上に、相手が悪かっただけで、普通に戦ってれば、とんでもなく強かったはず……。
いずれにせよ、素人に毛が生えた程度の戦闘スキルしかない僕が勝てるような相手じゃないよっ!
ひとまず、こう言う時は間合いを離す!
接近戦は無謀……バックジャンプを繰り返して、20mくらいまで離れる。
「……さ、さすがに、同じ技は通じない……そう言うことか。け、けど、この僕相手に、手加減なんて余裕だね。今のは、本来なら胴体から真っ二つ……だったんだよね? 峰打ちだったから、あんな程度で済んだ……」
「……ですね。先も言ったように、これは命のやり取りをするほどの戦いではありません。うん、さすがタカクラ閣下……あの一撃を浴びて、平然と立ち上がるとは……。ちょっとやりすぎてしまったと思ったのですが、杞憂だったようですね」
……いや、思いっきりやり過ぎだと思うの。
馬鹿みたいに、まっすぐ突っ込んでった僕も悪いけど、手加減無用で峰打ちゴシャアッ! って……普通、ワンパンKOでしょ。
「ふっふっふ、僕を侮っていたようだね……。僕を仕留めるなら、一撃必殺でないとね。なぁに、ちょっと軽く肋が逝った程度。実戦じゃよくあることさ」
……おうふっ! なんか、本心と違うこと言ってない? 僕。
また始まった……けど、ここで弱音なんか吐いたら、間違いなく軽蔑される……。
ここは、無茶でもなんでも見栄を張る時なのだっ!
「そ、そうなんですか? 確かに私は実戦経験はないですからね……。武人たるもの肋が砕けようが、手足が折れようが、戦い続けなければ、その場で死ぬのみ……お父様からもそんな風に言われながら、鍛えられたものです。さすが、閣下は実戦経験者と聞いていますが……立派な心がけです」
い、一応実戦経験者って事にはなるのかな?
実際、スライムの群れを相手にして生き延びるなんて、相当な武勲ってなってるらしく、ミミモモやサントスさんですら、軍人や冒険者なんかから、一目置かれてるみたいなんだよな。
「はっはっは! まぁ、大したことじゃないよ……」
「ですが、本来、今みたいな大技を放つ時が一番危ないんです……先手必勝と言う言葉もありますが、後の先を狙う……剣術での戦いと言うのは、そう言う一面があります。何より先の一撃……移動してから、攻撃モーションに入るなんて、せっかく間合いを瞬時に詰めても、相手に対処する時間を与えてしまっては、意味がありません。私なら、相手の死角に入った上でとか、通常の踏み込みと混ぜ込むとか、わざと手前で止まって、時間差をつけるとか……より確実な奇襲を狙います。もっとも、私を試したのだと思いますけど」
う、うん? 素人なのが見抜かれてる?
……まぁ、さっきもそう言ったし、ちょっと戦えば力量差なんて解るしなぁ。
おまけに『瞬歩』の効果的な運用方法まで……確かに、構え、溜め、瞬歩、即座にパーンチってやればよかったんだよな。
止まってる状態から、移動して、振りかぶってのテレフォンパンチとか、思いっきり素人丸出しじゃないか……。
ううっ、明日から木の幹にでも、ひたすら正拳突きとかやって、修行しよう……。
どっちみち、剣術とか木刀持って素振りやってるだけで、全然強くなった気がしないし……。
キリカさんも、接近戦の指南とか言ってもダァーとやって、ガーンとやれとか、そんな調子で、全然意味がわからないんだよなぁ……。
ラドクリフさんに至っては、基礎体力向上の筋トレ、筋トレ、筋トレ、そして、身体が動作を覚えるまでひたすら、素振りあるのみ……なんて、根性論みたいな調子だし。
案外、格闘技とかそっちの方が僕には向いてるのかも知れない。
せっかく、筋肉増強魔法とか使えるんだし、そっちの方が向いてそうだよ。
「そ、そうだね……確かにそのとおりだ! ちょっと試したつもりだったんだけど、思った以上のしっぺ返しが帰ってきてしまったよ。ふふっ、君もなかなかやるじゃないか……侮ってすまなかった。もっとも、さすがの僕もまだまだ瞬歩は使い慣れてなくてね……ちょっと油断してしまったし、今のはデモンストレーション……そう、手加減して、わざと見切りやすくしたんだ。僕は本来、女の子に暴力は振るわない主義だしねっ!」
……なんで、上から目線なんだろ? 何、偉そうな事、言ってるんだ僕は?
リスティスちゃんが本気になったら、僕程度一刀両断だよ?
まぁ、女の子に暴力振るわないとか言ってるけど、ランシアさんとかキリカさんとかとは、割とガチでやりあってたんだけどね。
さすがに、どっちも身重だから、当分そう言うのはなさそうだけど。
「解りましたっ! どうやら、私が間違っていたようです……。本気ではないと思っていましたが。やっぱり、そうでしたか……。ですが、私とて武人の端くれ……女だからと侮ってもらっては困ります。やはりここは、私の本気の一撃をお見せし、閣下の本気を引き出させていただきます! どうか……一本お願いしますっ!」
あー、うん……今度は、リスティスちゃんのターンって訳か。
イイだろう、ここは腕組みフルガードで雄々しく耐えるのだっ!
けど、大丈夫かな?
いくらリジェネ効いてるからって、半分コになったら死ぬんじゃないかな?
「ふふふふふっ! イイだろうっ! 僕も男だ! 君の全力の一撃、雄々しく受け止め、耐えてみせようじゃないか! どっからでもかかってくるがいいっ!」
そんな事を言いながら、片手でちょいちょいと、かかってこいのジェスチャーまでキメてる僕!
だーかーらーっ! なんで、僕はごめんなさい、寸止めで手加減してって言えないの?
今日は日が悪いなぁとか、膝の古傷が……とか言って、逃げれば良いんだよっ!
真っ二つは……いやぁあああああっ!
「……ありがとうございますっ! この「エーテリオン」を見て逃げ出さず、そして肋が砕けるほどの重傷を負いながら、それを日常茶飯事と片付け、全く意に介さない閣下の男気っ! しかと拝見しましたっ! 率直に言って、尊敬に値しますっ! 私は……素晴らしい方に巡り会えたのかもしれません……。では、我が奥義……『虚空一閃』! とくと、ご照覧あれっ!」
ああああああっ!
なんとなく、リスティスちゃんの好感度が上がったような気がするんだけど……。
な、なんか、やっべぇのが来るよっ!
誰かーッ! 助けてぇーっ!
せ、『世界を見通す猫の瞳』発動ッ! そして、世界はコマ送りになるっ!
リスティスちゃんが剣を鞘に戻して、斜め下に構えながら、右足を後ろに下げて溜めを作る。
い、居合抜き……? うっわーっ! 達人っぽいっ!
そんなガチにならんでも……アーッ!
猛烈な魔力が剣に集中し、リスティスちゃん自身もいくつもの強化魔法を発動する。
よ、四倍加速くらいかな? ちょっ! 自重してっ!
ぞぞぞわって、背筋が凍る様な感覚……?
こ、これに近いのは、本気モードのテンチョーや紋次郎くんと相対した時……。
正面に立ったら死ぬ予感……アレだ! アレだよっ! これっ!
しかも、視界がコマ送りになったからって何も解決してないっ!
僕、雄々しく受けきるとか言っちゃったしっ!
と、とにかく、ガード! ガードだ! フルガードっ!
僕がそう念じると、猫尻尾が反応して、尻尾を起点に六角形が連なったガラスのドームみたいなのが周囲を覆う……アージュさん達の反射結界をコピーしたのかな?
名付けて『不動結界陣』! こ、これなら、受けきれるかな?
うん、性質はやっぱり、アージュさん達が貼ったのとおんなじヤツだ……魔術攻撃や衝撃をそのまま相手に反射する防御シールド。
でもさぁ……これって研究所とか覆うのはいいけど、いつもパリーンって割られちゃうヤツと違う?
いつぞやのドラゴンスレイヤーさんも、これとおんなじようなの展開してたけど、地面にビッタンビッタンやられて、30秒くらいでパリーンって逝っちゃってたよ?
多分コレ……反射しきれないほどの過負荷がかかるとあっさり逝くっぽい。
なんか、リスティスちゃんの奥義で、さっくりパリーンって割られるって気しかしないよ?
もはや、絶体絶命のピーンチッ!
思わず、周囲を見渡すと、ドドドドドッ! と轟音を立てて、セルマちゃんが両手を前に向けながら、こっちに突っ込んできてるのが見えた。
「え? ちょっ……まさか!」
「旦那様っ! あぶなーいっ! それはもらってはいけませーん! 死んじゃいますっ! それだけは、だーめーっ!」
壁にでもなってくれるのかと思ったら、違った。
3mの巨人の全力体当たり……!
ガシャパリーンと案の定、僕の『不動結界陣』は一瞬で粉々に粉砕され、僕自身もドーンと突き飛ばされる。
なるほど、ダンプに撥ねられるってこんな感じか……。
そんな感想を懐きつつ、かるーく、僕の身体は錐揉みしながら宙を舞って、空中でアージュさん達の結界にぶつかって、カキーンと跳ね返って、地面に叩きつけられ、何度も何度もバウンドする。
最後にズシャーと地面を転がって、20mは軽く転がり続けやっと止まる。
辺りはシーンと静まり返ってる……。
「……おおっと! これはまさかの番狂わせっ! 高倉オーナー、セルマ嬢の体当たりでボロ雑巾のようにふっとばされたーっ! こ、これはさすがに動けないかーっ! 勝負あり、勝負ありです! 決まり手はセルマ嬢のブチかましっ! まさに物理こそ最強を証明したかのような一撃でしたね……アージュ様!」
「言っとる場合かっ! こ、こりゃあ、いかんぞ……。手足や首が曲がってはいけない方向に曲がっとるぞ! ヤツ自身の治癒魔法も発動しとるようだが、あの程度では間尺に合わん! レイン、急げっ! 我も手伝うっ! 今のはヤバいぞ……健太郎っ! 死ぬなーっ! 我らを未亡人にするでないぞーっ!」
「は、はいっ! タカクラオーナーさん、気をしっかりーっ!」
「あーあー。本部より業務連絡。医療班緊急出動願いますっ! ああっ、クロイエ陛下は大人しくしててくださいっ! な、泣かないでくださいっ! だ、大丈夫ですってばっ! そ、それでは皆さん、さようならーっ!」
……へへっ。
さすが僕だ……ボロッボロでもう、指一つ動かせないけど、まだ死んじゃいないぞっ!
い、生き残った……ゾーッ!
リスティスちゃん、ごめんね……決着も何もって感じになっちゃって……。
でも、この戦いは、これでもう終わりにしよう。
……犠牲者なんて、僕ひとりで十分だと思うんだ。
うん、セルマちゃん……。
あぶなーいって、僕を突き飛ばして、身代わりにってやろうとしたんだよね?
解ってる、解ってる……我が身を省みない、まさに献身の極み!
迫りくる致死の一撃、動けない主人公を庇って……。
……命捨てる覚悟を決めた、ヒロインの心意気ってモンを見せてもらったよ!
でもさっ! そんな大巨人モードでそれやったら、ただのひき逃げアタックだからっ!
君のドーンッ! たぶん、城壁崩すとかそんなだからっ!
へへっ! このドジっ子ちゃんめっ! どうせ、うっかりしてたんだろ?
君ってば、スカート前後ろ逆に履いちゃうような子なんだからねっ!
だから……僕は、君を許すよ。
多分、あのままリスティスちゃんの奥義もらってたら、半分コになってたよ。
ある意味、君は僕の命の恩人だよ。
状況ややこしくしまくった挙げ句、そこでヌルヌル塗れで、一足早く逃げようとして、すっ転んでるラトリエちゃんも、本気で殺る気満々の奥義とかブチかまそうとしてたリスティスちゃんも、皆まとめて許すっ!
何故ならば、君達はもう僕の家族なのだからっ!
全身、痛すぎてもう訳が解らないけど、なんか変なとこから、変な方向に曲がってる腕を高々と掲げる。
最後の力を振り絞って、僕はサムズアップを決めると、声を振り絞る。
「I'll be back!」
やっぱ、男の最期はこうでないとな!
ああ、我が人生に一片の悔いな……いやいや、ありまくりだよっ!
高倉健太郎のこれからの活躍にご期待くださーいっ!
タカクラオーナー、無残に散るっ!
えっと、一応押し掛け三人娘編は、一応これで終わりです。
いわゆる、爆発オチです。
すんません!
まぁ、オーナーもこの程度じゃ、死にゃしませんので、ご安心を。
次回からは、以前リクエストのあった、ちょっとした外伝「密着テンチョー24時」の予定ですが。
ストック枯渇なので、明日アップできるかは微妙です。
震えて待てっ!
続報:ストック1万5千ほど確保できたので、デイリー続行っす!(笑)
モンジロー視点で、テンチョーを追っかける日常回の予定です。
ダイジョブかなぁ……。




