第六話「いらっしゃいませから始まる異世界コンビニ営業スタート!」②
「弁当と飲み物とセットで10人分となると……いくらがええかな? マスターはん」
値付けは任せるってか?
とりあえず、キリカさんから教わった限りでは、この世界の貨幣は、金貨と銀貨、銅貨の三種類。
それぞれに、大と小の二種類がある。
現物を見せてもらって、実際に触った感じだと、貨幣一枚の重量は、大きい方はどれも30g前後とデカくて分厚い……なんかもう、銀メダルとかそんな感じ。
貴金属相場ってのは、結構派手に変動しているように見えて、実は為替相場とほぼ比例している。
……要するに、おおよその国際相場は決まっていて、殆ど動かない。
昔は、金本位制と言って、金が価格相場の基準とされていたくらい、金と言うものの価値は安定しているんだ。
今のグラム相場だと、金1gあたり4000-5000円くらいが相場。
もっとも、それは混じりっけなしの純金24Kの話で、混ざり物ありの18Kとかだと3000円台くらい。
実物を見せてもらった感じだと、さすがに24Kには程遠い18Kくらいの鋳造金貨ってところだった。
まぁ、冶金技術が未熟なんだろな。
ちなみに、銀はグラム5-60円くらい、銅になるとグラム換算だと0.6-0.8円程度ってのが現代の世界相場平均だったりする。
この辺はkg単位での取引が基本となるので、金やプラチナと違って、グラム単位ではまず取引されないんだけど、概ねそんなもんだ。
とりあえず、この日本の貴金属相場で大雑把に日本円換算すると、大金貨は約10万円相当。
銀貨は1500円、銅貨は20円くらいが相場なんだけど。
キリカさんの話だと、銀貨と金貨の交換比率は銀貨20枚で金貨1枚相当と言う話で、大銀貨3枚もあれば一ヶ月は優に生活できて、大金貨2枚もあれば一年は遊んで暮らせるんだとか。
むむむ……そうなると、貴金属相場自体が日本と全然違うって事か。
確かに、金の価値ってむしろ、この半世紀くらいでどーんと跳ね上がってるから、むしろ、江戸時代とか中世ヨーロッパくらいの基準で考えるべきなのか。
となると、大銀貨一枚5万円相当くらいで、金貨は100万円相当?
年収200万で遊んで暮らせるって言うけど、まぁ、日本の年金生活者やフリーターなら収入としてはそんなもんだから、確かに贅沢しなきゃ生活できる数字じゃある。
と言うか、この世界の贅沢な暮らしって基準が解らん……日本でカツカツ、何とか三食食えるってのがこっちでは、贅沢ってなるのかもしれないし……。
しっかし、メープルリーフ金貨の一オンスコインだって、20万くらいって事を考えると、こっちに向こうの金とか持ち込んだら、大儲けが出来そうだな。
でもまぁ、このメダルみたいなドでかい通貨……あんまり流通させる気も無さそうな感じだから、本来の用途としては、所蔵用や商取引用って感じなんだろうな。
小さい方は、重さにして6gくらい……100円玉くらいの大きさと重さ。
どちらかと言うと、この小さい方が取引上のメインで、基軸通貨と言えるものだと思っていいだろう。
それぞれ、単純計算で1/5で計算すると、20万円、1万円、100円相当ってとこか。
大小とあるのは痒いところに手が届くようにと言うこと……わかる。
でも、小銀貨とかって、ひと昔前の百円玉と同じくらいの大きさなんだけど、これで一万円相当って……。
換算レートもキリカさんによると、小貨幣5枚で大貨幣1枚相当……さすが僕、ばっちり合ってた。
手に持っただけで、おおよその重さが解る。
金勘定してるうちに身についた特技なんだがね。
金銀銅は、資源量やレアリティから換算すると、それぞれ100倍近い価値の差があるってのが、地球世界の常識なんだけど……。
この世界の貨幣交換レートは、銀貨20枚で金貨1枚と交換ってのが相場らしい。
この辺は、商人ギルドの仕切りで、国と国が話し合って、混乱しないようにって事で取り決めがなされて、随分長いことこの相場で安定してるらしい。
ちなみに、銅貨は100枚で銀貨1枚……まぁ、そんなもんか。
物品のやり取りは、小銅貨が最低単位となるらしい……コンビニの商品とか、銅貨一枚二枚って感じになるんだろうな。
こりゃ、小銅貨を山盛り用意しないといけないな……。
なお、相場については、金銀銅の交換レートが固定となってる以上、金本位固定相場制といえる。
まぁ、これはむしろ当然と言える。
日々変動するような変動相場が成り立つためには、情報の即時共有が出来るだけの高速通信網が実現していないと絶対に成り立たない。
であるからこそ、ファンタジー世界の貨幣の交換レートは固定相場となる……むしろ、それ以外では、経済が成り立たないと言える。
地球上でも、変動相場制になったのは割と最近で、1971年の事だ。
それは……ニクソン・ショックとも言われ、世界史に残るような大騒ぎになった。
それまで、1ドル=360円と固定だったのが、日々ドルと、円やマルクやフランと言った各国通貨の相対価値から、相場が変わる変動相場制へ移行したのだ。
当然、経済的なインパクトは強烈で、日本では続くオイルショックとのダプルパンチで、物価の乱高下っぷりがどえらい事になったと言う話。
まぁ、僕の生まれるの前の話だから、そのへんは聞きかじりなんだがね。
トイレットペーパーが店頭から消えて、新聞紙をクシャクシャにしたのを代用に使ったとか、ガソリン代がドバーンと上がったとか、割と切実な話を親父らから聞いた覚えがある……。
さて、話は戻るけど……銀行での両替手数料は、扱った金額の一割くらい持っていかれるらしい……思ったより高い。
銀行ってのは、元々は両替が商売……そこで儲けなければどこで儲ける? って話なんだろう。
それに、手数料も銀、銅の交換は格安にして、金貨とその他の貨幣との交換は高めに設定しているらしい。
金貨を扱うような金持ちなら、手数料が多少高くても気にもとめないからな。
なるほど、それなりに考えているな。
そうなると、両替して手数料取られるくらいならと、銀行にお金を預ける……預金していくものも増えるだろう。
とにかく、金貨はそんな感じの扱いなので、一般庶民の間での取引の主流としては、銀貨、銅貨が主流。
むしろ、普通の買い物で大金貨なんて出すと、銀行行って両替してこいとか言われて、突き返されたりするらしい。
確かに、コンビニでも10万円の記念金貨なんて出されたら、普通に困る。
釣り銭もだけど、万券って防犯上の理由もあって、最低限しか置かないようにしてるからね。
実際にそんな事があって、たまたまワンオペ中だったバイト君が、独断で110番しちゃって、大騒ぎになった事もあったからな……。
商品の価格設定も、銀貨を基準に値付けするのが普通で、値札なんかも銀貨何枚って感じで記載するらしい。
小銅貨なんかは穴が空いてて、10枚、20枚くらいの束で使うのが普通。
大銅貨は滅多にでないレア通貨らしい……確かに無駄にでかいから、これならむしろ小銅貨を束ねた方が使い勝手としては良いだろう。
なんせ、銅貨と銀貨で100倍も差があるんじゃ、そうなるよ。
……扱いとしては、まんま一文銭みたいな感じだけど、是非も無し。
ちなみに、各種貨幣は、様々な国や商人ギルド、冒険者ギルド、教会などが独自に貨幣を発行していて、それぞれの信用度に応じて、プレミアが付くんだとか。
釣り銭は同じ銘柄の通貨で返す慣習があるそうで、変な国の通貨を出すと、これもやっぱり、突っ返されるらしい。
ちなみに、トップクラスの信用度と流通量を誇るのは、商人ギルド鋳造の貨幣らしい。
大陸中どこへ行っても商人ギルドがあれば、格安の手数料で換金出来るので、はっきり言って信用が段違い。
冒険者ギルド発行の貨幣も、商人ギルドと等価交換協定を結んでいるので、同様に扱われ、これら国際組織が発行する貨幣はギルドコインとも呼ばれている。
あまり信用がない貨幣は、同量のインゴットなどと等価扱いされるのに対し、ギルドコインは3割増しくらいで他の貨幣と換金出来るんだとか。
偽造対策に、金の純度を上げたり、細かい装飾を入れたりしており、他の貨幣とはクオリティが違うと言う話だった。
色々すげぇな商人ギルド……。
ちなみに、他にプレミア付いてるのは、帝国と法国の貨幣で、それぞれ2割増し、他にも聖光教会と言う法国と別口の大規模宗教団体とか、商業の国でもあるロメオ王国の通貨も1割のプレミア付き。
そのへんでも、力関係みたいなのが垣間見える……ちなみに、帝国の貨幣は獣人王国との決戦で敗退したことで、一時期、交換レートがだだ下がりしてプレミアがゼロになってしまい、エライことになったらしい。
そりゃそうだろう……国民含めた一国の財産が、問答無用で二割減とかなってみろ。
財政破綻まっしぐらだ。
もっとも、商人ギルドが帝国通貨の交換レートは、今まで通りに扱うという声明を発表したことで、混乱は収束して、帝国は軍事、経済両面からの窮地を乗り切ったらしかった。
ろくでもない国だけど、帝国が潰れたら、法国一強体制なんてのになってしまう。
それはそれで、ろくでもない事になるから、阻止した……そう言う事なのだろう。
人類世界の均衡を維持するためなら、善悪すらも超越した判断を下す。
……ホント、商人ギルドって怖い……商人ギルドだけは絶対に敵に回しちゃいけないね。
さて、すっかり余談と解説が長くなったが……。
弁当一個と飲み物の値付けか。
弁当一個4-500円くらいで、飲み物付けるとなると……1人700円位が適当かな?
となると、大雑把なレートだけど、小銅貨六枚……十人分なら、7000円小銅貨70枚ってとこだな。
いまいち、食べ物の価格相場が解らないけど、その辺は犬耳ダンディーさんの顔色をうかがって、考えよう。
渋い顔なら、高すぎるから、ディスカウント。
嬉しそうなら、もうちょっと高くしても良いって事なんだけど、初回サービスってことで、ここは欲張らない。
こんなところで、まずは、レッツ異世界商談ターイムッ!
「そうだな……全部で小銅貨ななじゅ……」
「せやな! 一人分小銀貨1枚の所を、大サービスで半額! 二人分で1枚にまけておいたるで!」
それなりに熟考の末に告げようとしていた僕の言葉は、キリカさんに遮られるのだった。
キリカさん……君、なにしてくれてんの?
僕が告げようとしたところに、思い切り被せてきたけど……。
弁当とお茶で10000円とか、あんた……どんな接待高級仕出し弁当だよ。
もはや、ボッタクリもいいとこだけど、ディスカウントで5000円と言われたら、そんなもんかなって気もしてくるから不思議……。
そして、キリカさんがこっちをちら見して、ニヤリと笑う。
「商売ってのは、こうするもんやでー」と、そのドヤ顔が物語っているようだった。
すみません、この人いきなり身内相手に、ふっかけてるんですがーっ!
貴金属相場とか、丸暗記してて、手に持っただけでコインの重さが解って、金の純度すら見抜く鑑定眼。
地味に、オーナーの本領発揮中です。
このオーナー、経済に関しては普通にチートです。
19/09/01
現代日本の貴金属相場と、中世ヨーロッパや日本の貴金属相場は全然違うと言うと言う事実が判明したので、
ファンタジー世界貨幣相場と言うべきものを計算して、作中に反映させることにしました。




