第四十八話「宝具開放! 決戦は今ッ!」④
「おっとーっ! 高倉オーナー! たまらずダウン! リスティス嬢もセルマ嬢も動けないかっ! まさか、このまま全員まとめて終わってしまうのかーっ! ラトリエ嬢、圧倒的だーっ!」
「まぁ、やつは我が弟子でもあるからな。こうなるのは目に見えておった。闇魔法なんぞ、扱いの難しさに定評があると言うのに……さすがであるのう……」
なぜか、アージュさんがドヤってる……。
いや、このダークスーパーボール……あなたの魔術違うしーっ!
解説席のクロイエ様と目が合う。
まったく、無様な姿を晒してしまって、さぞがっかりされているだろう。
そう思っていたのだけど、その眼には失望なんて欠片もなかった。
むしろ、期待に満ちたような笑みを浮かべているではないか!
……陛下はこう言っている。
『立ち上がれ、お前の力はそんなものではあるまい?』
その上、陛下モードではなく、10歳の美少女の表情に一瞬戻ってのニコッと天使のような笑顔!
……おおおっ! 美少女の微笑みとか、これで立ち上がらないとか男じゃねぇしっ!
「……確かに、君の愛は重い……物理的にね! けど、僕も男だ! この程度の重みに屈してなるものかよーっ! ふぉおおおおっ!」
さすが、魔猫の尻尾……まっさきにこの加重魔法の重力から開放され! 地面をビッタンと一撃!
周辺10mくらいに渡って、青の魔力が開放され、まとめて飛んできていたダークスーパーボールが一斉に消滅する……!
魔術攻撃の一番シンプルな防御方法。
それは、より高密度の濃い魔力により、かき消す事……身もふたもないけど、それが一番確実だったりする。
よし……やっぱり、読み通りだ。
いくつか魔力フィールドの近くで、ダークハートが弾けているのだけど、僕自身には全く影響は出ていない……やっぱり、これは空間制御系だ。
要するに効果範囲があって、限られた空間にいる間しか効果が及ばないんだ。
今の時点で、ダークハート攻撃も無力化出来ている。
あのダークハート……一発一発に込められた魔力は微々たるもの。
それは低コスト運用と言うメリットを生むのだけど、対魔術戦では簡単に迎撃されてしまうと言う欠点にもなる。
もちろん、ラトリエちゃんはそれも織り込み済みで、それを圧倒的な手数で補う飽和攻撃と、効果範囲の広大化と言う仕掛けでその欠点をクリアしている。
なにせ、防御結界と言うものはなるべく狭く厚くってのが基本……広く薄くなんて、やっても通常ほとんど意味がない。
飽和攻撃により、迎撃を無効化し、離れた所の至近弾でも効果が出るようにすることで、防御結界を事実上、無効化する……重力なんて目に見えない上に遮蔽も出来ない以上、これを防ぐ手立てはない。
実に、巧妙な仕掛けとしか言いようがない……これを防ぐとなると、並の魔術師では話にならないし、脳筋物理職なんかじゃ、論外。
シュタイン何とかってのが、魔王の再来とか言われ、アージュさんと互角以上に戦ったってのも納得できる。
けど、攻略不可のハメ技って程でもない。
要するに、ダークハートの重力増加効果範囲より、広い結界を作れば、防御出来るのだよ。
当然ながら、こんな純魔力のフィールドを広範囲に張れば、コストがバカ高くなるんだけど。
幸い僕の魔力はまだまだたっぷりある! 何度も言うが魔術戦とは物量戦なのだっ!
「……アージュ様、アレは一体……?」
「あれは、単純な純魔力を無作為に放射しているだけなのじゃが……アヤツもなかなか考えおったな。確かに、重力弾の飽和無差別攻撃などと言う無茶な代物に対抗するのであれば、あれが最適解じゃよ。さすがに、やりおるようのう……これぞ、まさに頭脳戦。魔術師の戦いとはまさにこう言うものなのじゃ」
この二人、実況と解説役ハマりすぎだよなぁ……。
まぁ、後は、この隙に僕周りに何重に重ねがけされた加重魔法を打ち消すのみ……動けるようになれば、やりようはあるっ!
重力自体は見えないし、干渉も出来ないけど……重力を制御している黒の魔力と術式は、この場に存在している。
なるほどね……魔猫の眼で見ればよく解る……これは黒い微粒子状の魔力で、生物や物に染み込むようになって、重力増加効果を発生させるらしい……。
あれだけ直撃食らったのに、身体が潰れるほどに、加重が加わってないのは、ラトリエちゃんが手加減してくれたとばかり思ってたんだけど、効果時間がそもそも短い上に、何度も重ねがけすると加重増加が薄れるらしく、限度ってもんがある……そう言う事のようだ。
いずれにせよ、浸透系の魔術なら、ランシアさんやリーシアさんの傀儡の法を解除した時との同じ要領でやれば……!
尻尾の魔力を全身に行き渡らせつつ、異質な魔力を飲み込むイメージで……よしっ! 行けたッ!
あれほどまでに重く身体を抑え込んでいた重力が消えて、開放される!
うつ伏せの体勢から腕力と背筋力で、背筋の要領で、無理やり飛び起きるとそのまま、バク転を決めて、立ち上がる!
「フンッ! パワァアアアッ! リフレーッシューッ!」
サイドチェストのポージングを決めると、周囲に残っていた黒い魔力の残滓が完全に吹き飛ばされる!
ついでに、パッツンパッツンだったTシャツが更なるビルドアップされた筋肉に負けて、ビリビリに弾け飛んだっ!
もはやこれは、「魔力粉砕」……力技で闇の魔力すらもかき消す、「解呪」を超えた筋肉魔法の一つだ!
「す、すごいですわ……あれほど、わたくしの『重量級の私の愛』を浴びていたのに、一瞬で解除するとは! そ、それにその逞しい筋肉……素敵ですわぁ……」
おお、ラトリエちゃん……完全にメスの目で小指の先をかじりながら、腰をもじもじしながら、潤んだ熱い瞳で僕を見つめてる。
まいったな……この筋肉美……美少女を一発で虜にしてしまうなんて……。
やっぱ、男は筋肉っしょっ!
「健全なる筋肉には、健全なる魂が宿る……それは、自明の理! 我が筋肉は無敵なりィイイイイッ!」
人差し指と小指を立てながら、頭上に高く掲げる!
更にそこから、フロント・ダブル・バイセップスからのぉ……渾身のスマイルッ! だぁああああっ!
空中に居たラトリエちゃんが一瞬ビクンと震えたと思ったら、ヨレヨレと地面に降り立つと、そのまま腰が抜けたように、倒れ込む。
やってしまったよ……これは「シャイニング・スマイル」とでも名付けよう。
「……はぁはぁ……わ、わたくし……。危うくイッてしまうところでしたわ……」
……駄目だ。
やっぱ、この子、色んな意味で危ない。
言っておくが、僕は指一本たりとも触れていないっ!
だから、事案じゃない……多分。
あ、そっか、コンビニ行きたくなっちゃったのかな? そう言う事にしとこうっ!
でもまぁ、ここできっちりトドメ刺すっ! この子だけは無力化しないといけない。
「『スライマリーウォーター』!! 悪いけど、君はもう退場してくれ! 君をほっとくと色んな意味で危険だからさっ!!」
腕組みをしたまま尻尾の先から、ドバーッと水をぶち撒ける。
そして、それは、地面でくたっと横たわってたラトリエちゃんに直撃する。
「ああんっ! こ、これは……な、なんですか……この生ぬるくて、ぬるぬるベタベタする液体はぁ?」
スライマリーウォーターを浴びた衝撃で、尻もちをついた格好になって、思いっきりスカート全開、かつヌルヌルになってるラトリエちゃん。
お、おうっ! す、すっげぇ下着履いてるのね……っ! ひ、紐ティーバック?
「ふっふっふ……相手を傷つけずに無力化させるべく、僕が自力で開発した魔術なんだ。とりあえず、人体には無害だし、ヌルヌルベタベタするだけで、大人しくしてれば無害だけど、それで戦えると思う?」
そう言うと、ラトリエちゃんもぬるぬる塗れで、フッと笑う。
どうやら、おパンツ全開なのは気付いてないらしい。
うーん、僕も男の子なので……つい、チラっ……チラって、目線が行っちゃう。
それにスラリと伸びた脚線美……ゴクリ。
「微妙に重たい上に、これ……魔力の塊みたいなものですから。これを何とかしないと、魔力制御の難度が格段に跳ね上がりますね……。なにより、こんなヌルヌルの状態で戦闘なんて、とても無理ですわ。滑って転んで、おパンツ全開とか恥ずかしい事になるのが関の山です。あ、もちろん、旦那様が望むのであれば、下着くらい見せても……って、み、見えましたっ?」
ラトリエちゃん……やっと気付いみたいで、大慌てで足を閉じるとスカートを押さえて、顔真っ赤になる。
うん……思った以上に、凄い下着だった。
布面積めっちゃ少ない……この子、普段からそんな勝負下着みたいなの履いてるのね……。
ちなみに、このスライマリーウォーター……対魔術師戦での有用性は、ランシアさんで実証済みだったりする。
異質な魔力を含んだ液体が身体に纏わり付いた状態では、魔術ってまともに使えないのだ。
ランシアさんも似たような有様になって、尽く魔術が不発に終わって、白旗を上げたくらい。
もちろん、その後は水場で綺麗にしてあげましたけどね! ぬるぬるプレイ楽しかったです!
もっとも、今回はあくまで魔術主体のラトリエちゃんの無力化が目的。
それを念頭に置いた上での、ぬるぬるウォーター!
別に卑猥な目的では断じて無いっ!
「ま、まぁ、いいから、しばらくそこで大人しくしててくれよ」
「はぁい……。うふふ、これぞまさに、旦那様の愛の液体……そう思うと、もうわたくし、たまりませんわ」
そう言いながら、チロリとヌルヌルを舐め取るラトリエちゃん。
なんと言うか、その仕草は超エロい……男性観客の何人かが思わず股間を押さえてかがみ込んでる。
当然ながら、僕もだよ? さっきのパンチラもあれだったけど、その表情と仕草の破壊力は強烈過ぎる……。
ラトリエちゃん、レッドカードだと思います。
もう一度言おう! 僕に卑猥な意図なんてなかったんだっ! 僕じゃないっ!
「……あ、あのさ。そう言う卑猥な言い方止めてくれる?」
なんか、やっちまった感がスゴい。
ニチャアって感じで、糸とか引いてて、ところどころ泡立ってるし……ラトリエちゃん、全身ヌルヌルで服とかぴったり肌に張り付いて、なんかすっごい卑猥な感じになってるよっ!
「ええっ! だって、こんなヌルヌルしてて、熱い液体をうら若い乙女の全身に……。きっと旦那様のアレもこんな感じなんでしょうね……。でも、キスより先にこんな……もうっ! 旦那様、こう言う事するなら、二人っきりのときにしてくださいな……」
ちらっと横目で見ると、やっぱエロいし、いちいち何なの? その薄い本みたいなセリフ。
どうみても事後……これ、一応非殺傷系の攻撃魔法のつもりだったんだけど。
女性に向かって使って良いもんじゃないかも……。
「せ、責任取るも何も、もうそう言うことでいいんでしょ? まったく、君がやり手なのは解ったよ! これからも、僕を支えて欲しい……これで満足かい?」
「プロポーズの言葉としては、悪くないですわ。さすがに、こうなるとわたくしでは、抵抗する術もありませんわ……。さすがわたくしの旦那様です……うふふ、わたくしこそ……末永く、よろしくお願いしますね」
ヌルヌルだけど、正座して三指ついて、頭を下げるラトリエちゃん。
どうやら、終わったらしい。
ちらっと後ろを振り返ると、何故かリスティスちゃんとセルマちゃんの怪獣大決戦みたいなのが始まってた。
「ちょっと! セルマっ! 私は閣下を援護しようと……だーからっ! 人の話聞けーっ! なんで、私に向かってくるのよっ!」
「私は旦那様の背中を守りますっ! そう言いながら、油断してる所を背中から斬りつけるつもりなんですよねっ! やらせませんっ!」
「誰がそんな卑怯な真似をっ! もう良いっ! お前のような大きいだけの力押しなど、私の敵じゃないっ! こうなったら、存分に相手してやるまでよっ!」
どうもリスティスちゃんとしては、僕の援護に回るつもりだったみたいだけど、セルマちゃん、人の話聞かないで、とにかくリスティスちゃんの足止めーってなったらしく、バトル発生……みたいになってる。
いや、そこは二人で、大人しく見守るって手もあったと思うんだけど……。
割とリスティスちゃんも猪武者みたいなところがあるみたい。
セルマちゃんは……もうしょうがない。
複雑な命令与えちゃ駄目なんだろな……諦めよう。
巨大ハンマーを軽々とぶん回すセルマちゃんと、超スピードで空中を飛び回りながら、多彩な攻撃魔法で猛攻を仕掛けるリスティスちゃん。
いずれも劣らぬチートアイテム宝具持ち。
あれに、割って入る勇気はないなぁ……。
「あ、あのぉ……旦那様は、耳年増とかってお嫌いですか? わたくし、実は男の人って怖くって、家族以外とは、手をつないだことすらなくて……。実は旦那様が始めての相手だったんですよ?」
そう言いながら、立ち上がって僕の手をニギニギとするラトリエちゃん。
また、要らない誤解を生むような事を……この子は……。
と言うか、むしろお風呂でも行ってきなさいって言いたい……。
手とかめっちゃヌルヌルだし、二の腕にニュルプニと胸とか擦り寄せて、ビクンッとかやってるしっ!
ちょっ! まっ! この子、素でエロいんですけどーっ!
コレのどこが頭脳戦だっつのー。
ちなみに、ラトリエちゃんは知識と口だけで、イザ本番ってなるとダメダメなコです。
可愛い。




