第四十八話「宝具開放! 決戦は今ッ!」③
「うふふ、届きました? わたくしの愛っ!」
ウィンクとかしながら、片足上げてぶりっ子ポーズをキメるラトリエちゃん。
「ああ、ばっちり届いたよ。めっちゃヘビーだよ……おかげで、僕はこの有様だよ」
むしろ、ワンパンKOって感じ。
カッコよく返しちゃいるけど、頭は石畳に突き刺さったまま。
腕組みだけは解かないけどなっ! この余裕のポーズこそが、僕がワンパンKOされてないと言うアピールになるのだっ!
と言うか、僕も僕だ。
搦手が得意って言ってたんだから、当たって衝撃が来るだけとか、そんな直球な攻撃の訳がなかった。
それを真正面から、物理ガードとかない。
これは確かにアージュさんの言う通り、一発たりとももらってはいけなかった。
「ラトリエ……いきなり、そのような卑怯な手っ! 騎士の風上にも置けないっ! セルマ……一時休戦! こうなったら、二人でラトリエを叩くぞ!」
「そ、そうです! そんなの愛じゃないですっ! どこの世界に旦那様をはっ倒す愛があるんですかーっ!」
ですよねー? まぁ、調子乗って余裕受けとかやってた僕がアホなんですが。
「うふふ、ありますわ。この世界のこの場所に……わたくしの愛はヘビー級なのですわっ! けど、リスティスさん、二人がかりは卑怯ではなかったので?」
「黙れ! お前のような卑怯者相手に正々堂々と戦う意味など無いっ! やはり、お前は危険……最優先でこの場より、排除すべきだ!」
「そうですっ! ズルいです! 旦那様は撃たないって言ってたのに……!」
「今のは攻撃ではありませんわっ! わたくしの愛ですっ! 愛とは重く切ないもの……人呼んで『重量級の私の愛』! 旦那様は真正面からわたくしの愛を受け止めてくれた……まさに、二人の愛が通じ合った瞬間っ! 見てください、あのタカクラ閣下のあのポーズを……今すぐ、俺の上に跨がれ! 思う存分、メチャメチャにしてやる! そうおっしゃっていらっしゃるわ……。ああ、でもこんな衆人環視のなかで……恥ずかしいですわーっ!」
なんだか、勝手に盛り上がってるラトリエちゃん。
今のが攻撃じゃないなら、なんなんだろ?
これ……一発一発は超ローコストだろから、100発だの200発くらい楽勝なんだよね?
たぶん、軍勢規模の相手でも一瞬で死屍累々にするとか、都市一個を瓦礫の山に変えるとか、そんなだ……これ。
あと、なんかとっても人聞きが悪いです。
確かに頭が地面にめり込んでるせいで、ブリッジみたいな体勢になってますけどね!
こんなエクソシスト状態で上に跨ってーとか、いくらなんでもマニアックすぎると思います。
多分、クロイエ様とかアージュさん、耳まで赤くして、プルプルしてらっしゃいますよ?
お願いだから、18禁展開はやめてくださいっ!
「くっ! そんな破廉恥な真似! この私が許さないっ! って言うか、昼間っから何言ってるのよっ! この変態女っ! そんな恥ずかしい事を臆面もなく……!」
「そ、そうですっ! と言うか、旦那様の上に跨って何するんです? 旦那様はお馬さんじゃないですよね?」
セルマちゃんは、余計なこと言わない。
リスティスちゃん、とっても困ってるっぽい。
「なぁに、揃いも揃って、カマトトぶってるんですか? まぁ、セルマさんにはまだ早いのかもしれませんけど、リスティスさんは違いますわよね? 二人で野営しながらした女子トーク……わたくしの語る殿方との初夜の心得、すっごく真剣に聞いてらっしゃったじゃないですか? 耳元で愛を囁かれながら、力づくで組み伏せられて……とか、そんなのが憧れなんですわよね? 自分で自分をいじめ抜く修行とか大好きだからって、殿方にイジメられるが好きってそれって、ドMさんって言うんですのよ?」
あ、うん……リスティスちゃん、生真面目っぽいけど、やっぱそう言うのに興味あるんだね。
良かった良かった……リスティスちゃんもセルマちゃんみたいなメルヘン脳だったら、どうしようって思ってたけど!
なんか、ドM呼ばわりされてるけど、それは違うっ!
やっぱ、強い男が好きとかそんななんだよ。
……どのみち、こんな風にいつまでもブリッジとかしてられるかっ!
筋肉増量パワーアップ! なぁに、身体もたかが三割程度重くなった程度!
この程度の加重……筋肉の力を持ってすれば、余裕っすよっ!
腕組みのまま、力技で起き上がる!
ふふふ……リスティスちゃんも少しは見直してくれたかな?
「ラ、ラ、ラ、ラトリエーっ! やっぱり、お前だけは許さないっ! か、覚悟しろーっ!」
……せっかくの僕の見せ場だったんだけど。
リスティスちゃん、頭に血が上って見ちゃいなかった……。
リスティスちゃんが、剣を構えて溜めを作り出す……風の魔力が凝縮していって、如何にも大技を放つ前兆……そんな感じになってる!
けど……隙の多い大技をここで放つのは、どうかと思うよ?
ラトリエちゃん、ピンポイントでリスティスちゃんの恥ずかしい秘密を暴露して、思いっきり挑発してるんだから、ここは乗ったら駄目な局面だ。
ラトリエちゃん、ノーガードに見せて、不可視化したダークボールを周囲にいくつも展開させてる。
うーむ、不可視の空中地雷みたいな使い方とか……これ魔力見えないと詰みじゃん。
ここで、突っ込んでいったら、ダークボールの餌食になるのは間違いない。
やっぱ、ラトリエちゃん……厄介な相手だな。
今の所、見えた彼女のカードは、重力弾と不可視化の魔術。
これだけでも、真っ当な力押しでは余裕で返り討ちに合う……攻防一体、遠近自在。
アージュさんも手こずったと言う暗黒魔術……これをタイマンで下すのは、至難の業だぞ?
「あらいやだ、熱くなったら、負けですわよ? けど、そう言う事なら、お二人もわたくしの愛の餌食になるといいですわーっ!」
そう言ってラトリエちゃんが空中に飛び上がる。
案の定、黒い翼は飛行器官か何からしい……空中戦も自在とか、どうしろと?
「そーれっ! フィーバーですわーッ! まだまだいくらでもいけますわよー!」
彼女の頭上に真っ黒い渦みたいなのが出現すると、ドバチャッて感じで、さっきのダークハートが滝のように降ってくる。
そして、嬉しそうに両手にダークハートを抱え込むと、ポイポイポイと四方八方に向かってバラ撒き出す。
渦からは、ダークハートが次々と湧き出して、あったりまえのようにじゃんじゃか取りこぼしてるんだけど、その量はもはや尋常じゃない……大盤振る舞いどころか、ぶち撒きに近い……ちょっ! まてぃっ!
「おおっと! ラトリエ嬢、ここで物量作戦かーっ! タカクラオーナーを一撃で打ち倒したダークハートがあんなにっ!」
「何というヤツじゃっ! アヤツ、イングヴェットよりよほど、エクスターナを使いこなしとるぞ? 亜空間魔術まで使いこなすとは……。おそらくアヤツ、常日頃からアレをせっせと亜空間にストックとして、溜め込んでおったのじゃな……。こうなってくると、アヤツの魔力量も何も関係ない。我が弟子ながら、とんでもない奴じゃな……洒落抜きでアヤツ、万の軍勢ですら軽く蹴散らすであろうな」
ちょっ! アージュさんもたまげるほどって、どんだけー?
おまけに、地面に当たるとスーパーボールみたいに、ポコーンと高々と跳ね上がって、それがいくつもいくつも……どえらい事になってる!
やっぱ、これ対軍勢用の鎮圧兵器じゃないかっ! じ、自重してーっ!
「こ、これは……アージュさん、むしろ流れ弾が……か、観客の皆さん! 急いで避難をっ!」
「案ずるなっ! 『反射結界』! レイン、貴様も手伝えっ!」
アージュさんが解説席から飛び出すと、両手を掲げる。
アージュさんのところから、半透明の六角形の板のようなものが次々と現れ、ロープの張られた戦闘フィールドを包み込んでいく。
面倒くさそうに、レインちゃんが屋台から出て来て、十字のペンダントを掲げると、同じ様なフィールドが広がっていうき、あっという間に周囲がドーム状の結界に包まれる。
「もうっ! いきなり、こんな大技やらせないでくださいよっ!」
「そう言うな……。アレを食らうと一般人じゃとほぼ一発で動けなくなるからのう。観客に怪我人続出なんぞなったら、貴様の手間もこの程度では収まらんぞ? パーラムよ、こんな派手な魔術戦になるなら、もっと観客の安全に気を使わんといかんじゃろ? 教訓にするとええぞ」
「仰るとおりです。さすが、アージュ様っ! レインちゃんもさすが『聖女』と呼ばれるだけのことはありますね。皆様、お二人に惜しみない拍手をっ!」
……ぶっつけで、こんな広大な結界を張り巡らせるなんて……。
レインちゃん、さらっとやったけど、アージュさんの術を見て、一瞬でそっくり同じ防御結界を連携して貼るとか信じらんない真似をやってのけてる……。
観客の人達、めっちゃ湧いてるし! レインちゃんも満更じゃない感じでドヤってる。
けど、結果的に閉鎖フィールドになったことで、ラトリエちゃんのばらまいたスーパーダークボールは、もはやカオスって感じで、もはや四方八方から襲いかかってくるような有様にっ!
反射結界とか言ってたけど、これ……術をそのまま跳ね返すヤツじゃん。
なんで、ここでそんな嫌がらせみたいな結界貼るかな?
「へぶっ! あばっ! どぅふっ!」
あっという間に、3発、4発……次々ダークハートがヒットしてしまう。
立ち上がろうとしていた所にそんなもんを食らってはひとたまりもなく、再び、正面から潰れたカエルみたいに地面にうつ伏せに横たわる。
なんかもう、サンドバックになった気分……一発一発の打撃が地味に重いっ!
ノーガードでもらうと、さすがにキッツい!
おまけに……まるで、巨人にでものしかかられてるような重量感。
最初の一発で3割増しって体感だったけど、もはや僕の体重は軽く3倍位になった感じになってる。
どうも一発食らう度に加重が増していくらしい……こ、これ、ドラゴンだって余裕で制圧されるぞ?
地味なように見えて、めちゃくちゃ凶悪だ……。
無様に倒れ伏した状態で、もはや指先一つ動かせない……タ、タチ悪っ!
さらに、ポコポコと当たって、ますます重くなる……つ、潰れるぅ……。
リスティスちゃんやセルマちゃんも、さすがにこの量は防ぎきれず、いくつかもらったみたいで、どちらも膝をついてる。
セルマちゃんとか、鎧の結界で直撃してないのにこの加重効果は効いてるようだった。
多分、弾けた時点で周囲の重力を増加させるとかそんな感じなんだろう。
さすが、チート宝具……ラトリエちゃん、とんでもなかった!
「あらあら、わたくしとした事がうっかり、初っ端から全員、軽く蹴散らしてしまうなんて……さすが、わたくしですわーっ! オーホッホッホ!」
確かに、当たってもそこまでダメージは無いんだけど。
この重力増加の副次効果がキッツい!
おまけに、ここまでの量をばら撒かれると、どうしょうもない……なんと言うか、ハメ技食らってる気分だった。
けど……認めざるを得ない。
この子……強いっ!




