第四十八話「宝具開放! 決戦は今ッ!」②
「ああ、上出来だ! 行くぞ! 『月下水鳥剣』ッ! セルマちゃん、悪いけど、ラトリエちゃんを牽制しててくれ! この勝負……元々、リスティスちゃんと僕の戦いなんだからね!」
斬撃補助の「水鳥剣」を発動。
両手の先から、30cmほどの青い疑似物質による薄い刃が展開される。
何気に二刀流って感じで、カッコいいぜ! シャオウッ!
「あ、はいっ! 旦那様の仰せのままに……けど、私は旦那様の盾ですっ! むしろ、二人まとめてお相手します! リスティスさん、かかってきなさいっ!」
だーかーらーっ! 話がややこしくなるから、君はラトリエちゃんの相手でもしててーっ!
って言うか、相変わらず微妙にこの子、人の話聞いてないっ!
「セルマさん、あまり旦那様を困らせないでくださいね。要するに、各々の勝利条件が違う……そう言うことなのですわ。いいでしょう、ここは敢えてわたくしから皆様の勝利条件をお伝えしますわっ! セルマさんは、旦那様の背中を守りきったら、勝利。リスティスさんは、旦那様に己の実力を見てもらい、戦いを通じて、互いを理解し合う事……つまりわたくし達、おじゃま虫を蹴散らして、五分の戦いに持ち込んでこそ、勝利と言えるでしょう。そして……このわたくしは……旦那様の愛っ! これさえ、いただければ、もう何もいりませんっ! 愛があれば、自動的に最上級ナンバーもわたくしのものっ! ぶっちゃけ勝負だの勝ち負けとかどうでもいいのですわーっ!」
ラトリエちゃんがなんか言い出した。
けどまぁ、一応間違ったことは言ってない。
ぶっちゃけ、この子が台風の目って気がするんだよね……マジで、頭もキレるから、何しでかすか全然読めない!
実際、二人に勝利条件の提示とか言ってるけど、この時点で完全にこの場を仕切っちゃってるし……。
ニコニコと笑顔のまま、ラトリエちゃんも黒い水晶のハマった魔杖を構える。
「この戦い、つまるところ、4つ巴の戦いに他なりませんわ。わたくしの勝利条件は、わたくしの愛を証明する……つまり、この場で最強であることをわたくし自身で証明すること! 旦那様を撃つなんてわたくしには、とても出来ませんので、わたくしは、身も心も旦那様に捧げる……そう誓います。その上で、旦那様から、ご褒美として、あ、愛のく、口づけをですね……そ、そんな感じでどうでしょうか?」
あれ? ラトリエちゃん、意外と要求が可愛い。
なんだか、めっちゃ照れてるし……もっと、スゴい要求してくるかと思ってた。
「ん? そんなんでいいの? 割と経験豊富とかそんな事言ってなかった?」
「イヤですわ……。わたくし、確かに知識は豊富ですが、男性経験はゼロですから。まず手を繋ぐ所はクリア済みなので、次はキス……ですわよね? ボディータッチとか、せ……とかは……その……ま、まだ早いんじゃないでしょうか?」
……耳年増の子にありがちな話なんだけど。
知識の割には、奥手……なんだこりゃ? 意外と可愛い。
さっきまで、夜伽が何とか言ってたくせに、いきなりトーンダウン。
耳まで真っ赤にして、顔も隠して……めっちゃ照れてるっ!
手を繋ぐって……さっきのアレか。
本人的には、あれで第一ステップクリアとか、そんなんだったんだ。
って、小学生レベルかよっ!
「んじゃ……もう、そう言うことでいいよ。とにかく、これで二対一対一の構図だね。けど、セルマちゃん……多分、ラトリエちゃんと君は相性が悪い。だから、この場はひとまずリスティスちゃんの足止めを頼む」
うん、この中で一番ほっとくとヤバそうなのはこのラトリエちゃんだ。
あの魔杖も間違いなく宝具とかそう言うレベルの代物だろう……道具が互角となると、セルマちゃんの勝ち目は薄い。
搦め手タイプって、この手のパワー系の天敵って相場が決まってるからなぁ……。
むしろ、僕の方がこの手の搦め手系の術士の相手は慣れてる。
最強を証明とか言ってるけど、要するにそれって僕も含めて、この場の全員を倒すって意味だよね……?
「畏まりました! 旦那様の背中……私が守りきってみせます!」
うん、やっと納得してくれた。
背中を預ける……そう考えると、なかなか頼もしい子だよね。
「やっぱりそうなりますか。ラトリエは知恵が回りますからね。フリーにしておくとロクな事にならないでしょう。あれに背中を向けるなんて、後ろから撃ってくださいと言うようなものです。最優先で排除するというのは、当然かと。閣下は戦術家としてもなかなかだと聞き及んでいましたが、悪くない判断です。いいでしょう、これは余興。ライバルにも華を持たせる……その程度の余裕を見せるべきでしょう。私はセルマの相手をしながら、閣下の戦いぶりでも拝見させてもらうとしますので、簡単に倒されたりしないでくださいね」
「あら、リスティスさん、余裕なんですのね。そうなるとまずは、わたくしと旦那様の一騎討ち……ああ、これも一種の愛の形かもしれません……燃えてきましたわよっ! では、わたくしも本気出しますっ! 宝具、第一開放参りますわっ! 宝杖「漆黒のエクスターナ」……翼持つ黒の天使の力の片鱗よ! 我が身に宿れっ! 来たれ、禍々しき黒の翼よ!」
ラトリエちゃんが、魔杖を構えると、黒い水晶が震え膨大な黒い魔力を開放する!
黒い魔力? なにそれ……。
「なんとっ! 「漆黒のエクスターナ」じゃと? あれは……重力使いと呼ばれた大魔術師イングヴェットの持ち物だったのじゃが……。アヤツ亡き後行方不明になっとったはずでは……」
「聞いたことはありますね……。魔王の再来と呼ばれたイングヴェット・シュタインスレイガー……確か、かの者は、アージュ様と戦い打ち倒されたと聞き及んでおりますが……」
「そうじゃ、魔王の残した遺産、暗黒魔術を自在に操る恐るべき魔術師だった……我もヤツの奸計にハマり、危うい所だったのだがな。リョウスケ殿の助太刀のおかげで、仕留めることが出来た。懐かしいな……あれがリョウスケ殿と我の馴れ初めであったな」
「その様な曰く付きの代物が……流れ流れて、ラトリエ嬢の手に……ということですか」
「……であるな。あの娘、恐らく魔族の血を引いておるのだろう。ロキシウス侯……やはり、アヤツも侮れんな」
……女神に遥か遠くへと追いやられた「黒き月」由来の力。
かつて災厄と呼ばれた魔王とその眷属、魔族が奮った「闇の魔術」と呼ばれる恐るべき力。
僕も初めて見る……。
ラトリエちゃんがビクビクと悶えるような仕草をすると、その背中からコウモリの羽のような翼が生えてくる。
もっとも、生えてきたという表現は違うな……魔力から物質を生み出す、具現化魔術。
僕の筋肉増強と同じ理屈で、羽を生やした……そう言うことなんだろう。
まさか、空飛べるとか……?
そして、薄紫色の髪の色が真っ黒に染まっていき、青く澄んだ色だった瞳も赤く輝く瞳となっていく。
「はぁ……はぁ……。いつもながら、堪えますね……。けど、これがわたくしの本気、黒の月の眷属の姿ですの。さぁ、わたくしの愛っ! 旦那様に届けっ! えーいっ!」
僕を撃たないとか何とか言ってたのに、両手にいきなり黒いソフトボール大のハート型の玉っころが山盛り出現して、可愛らしい仕草で、ポイポイと投げ付けてきた!
……で?
ボヨーンボヨーンって感じで飛び跳ねてくる黒いハートの群れ。
なんか、すっごい禍々しい前フリの割に、技自体は案外プリティーだった。
まぁ……余裕で見切れる速さだし、魔力自体も一発一発は大したもんじゃない。
別に避けても良いんだけど、当たったらどうなるか……?
小手調べってとこで、ここはカッコよく、一発だけ受けてみよう!
だって、その方が男らしいじゃんっ!
「『鉄十字の筋肉壁』」
両腕をX字状に交差させて、筋肉に魔力を集中……レインちゃんの必殺技「ギロチンセイバー」を受けきった鉄壁の防御技だ!
まったく、攻撃は最大の防御とか言うけどね。
紙装甲で攻撃特化とかってむしろ馬鹿なの? って思うよ。
一発のラッキーヒットで轟沈とか、そんなもん実戦じゃすぐ死んじゃうのがオチ。
その点、僕は、鉄壁の防御に無限の回復とか、もはや、ちょっとやそっとの攻撃とか意に介さないからね……。
なんと言うか、強者の余裕ってヤツ?
一個だけ僕に向かって、飛んできてたのをわざと受けると、バスン! そんな音を立てて、黒いハートが弾け飛ぶっ!
地面にバウンドしてゆるーくヒットしたって調子だったのに、思ったよりも重たい一撃……思いっきりぶん殴られたような衝撃で、一瞬よろめいて、クロスガードも崩れてしまう。
けど、そこまでだった! 平然と耐えきれた。
よしっ! 初撃は難なく凌ぎ切った! この程度ならいくらでも耐えられる! なんだ大したことないじゃん!
「旦那様っ! 次が来てます!」
「タカクラ閣下……それは受けちゃ駄目ですっ! 避けるか撃ち落とすべきですっ!」
二人からの警告……更にポイポイと遠慮の無いダークハート攻撃!
今度は3つくらいがこっちに向かってる……。
なんか、不自然に飛び跳ねる方向が変わった様子から、ラトリエちゃんの意志である程度、コントロールできるみたい……けど。
「ラトリエちゃん、甘いよっ! 僕がこんなものに当たるものよかよーっ!」
そう言って、両腕を組んで、膝を曲げて、身体を後ろに逸しながらのマトリックス避け!
ギリギリまで引きつけて、倒れ込みながら、脚力と腹筋の力で倒れるのを止める!
まさに力技っ! 一瞬で正面投影面積も最小化するから、まさに飛び道具の回避としては、合理的っ!
ヌハハハハッ! こんなもん、余裕回避っすよーっ!
と思ったら、むしろ一人バックドロップ状態で、勢いよく地面に頭が突き刺さった!
「な、何故だぁーっ! ぐっはぁっ!」
ドゴンってった! 地面の石畳がっ! バカーンッって割れたよっ!
ぼ、防御強化してなかったら、頭割れてたよっ!
おおおっ……なんだこれ? むしろ、自爆みたいじゃん……カッコ悪っ!
って言うか、身体がめっちゃ重い……頭が地面に刺さったブリッジ状態のまま、起き上がれないしっ! なにこれー?
「おーっと! 高倉オーナー! まさかの自爆だっ! こ、これは何が起こったのでしょう?」
「……漆黒のエクスターナであれば、当然ながら、あれは重力操作魔術「重力弾」と呼ばれるモノであろうな。要は当たるだけで、自分の体重が激しく増えるようなものじゃ……我もアレに散々苦渋を舐めさせられた……。まったく、馬鹿者め……。様子見のつもりで、わざと受けよったようじゃが、絶対にもらってはならん一撃というものもある。あれは、ヤツならば放水あたりで、はたき落とせばよかったのじゃ。全く少しは使えるようになったと思っていたが、やはり未熟者であるのう」
アージュさん、解説ありがとうございますっ!
調子乗って、余裕ぶっこいてましたぁああああっ!
って言うか、先に言って! そう言う大事なことはぁあああああっ!




