第四十八話「宝具開放! 決戦は今ッ!」①
そうこう言ってる間に、儀式魔術が容赦なく進んでいるようで、一人また一人と隊員達が力尽きたように倒れていく。
「くっ! お、各方……お見事なりっ! セルマ様……我らが魔力の全て、貴女に捧げます! シャッテルン公爵家に勝利と栄光をっ!」
アンナさんが叫びながら、拳を地面に打ち付けると、同時に凝縮された魔法陣の膨大な魔力が、セルマちゃんの手にした宝剣に集中していく。
「アンナさん、そして、皆さん! ありがとうございました! これならば、第二開放まで行けそうです! 皆の思いに報いるため、私……勝ちます! そして、旦那様っ! 私、がんばります! この戦いに勝った暁には、きっと女神様の御使いが可愛い赤ちゃんを連れてきてくれる……そんな気がしますっ!」
なんか、カッコいいこと言ってるんだけど。
最後にまたなんかメルヘンなこと言ってる……。
アンナさんがあれー? みたいな顔して、こっち見ながら、セルマちゃんを指差してるんだけど、とりあえずコクコクと頷いとく。
まぁ、アンナさん……一応、セルマちゃんの側近みたいな感じだし、非メルヘンな話のひとつやふたつしてたんだろうな。
だがしかしっ! セルマちゃんは……人の話を聞きゃしない子。
どんな説明したんだか知らないけど、多分、中途半端にメルヘン変換して、全然理解してなかったんだろうな……。
他の会場の皆様も揃って、ん? みたいな顔してるけど、いーのっ! もう、そっとして差し上げてっ!
魔力カラッケツになって、力尽きたらしいアンナさんがよれよれーとぶっ倒れる。
他の子達も地面に突っ伏してて、もう死屍累々って感じになってる。
まぁ、この様子だと、魔力枯渇の虚脱症状だね……お疲れ様でした!
そして、凝縮した魔力が実体化すると、鎧のようにセルマちゃんの身体にガシンガシンと音を立てて、張り付いていく。
……なるほど、宝剣を軸に膨大な魔力を物質変換するそんなところか。
それは見る見るうちにセルマちゃんの全身を覆い尽くすと、見る間に巨大化していって、三メートル位のフルプレートアーマーの兵士のような姿になる。
「……さぁ、参りますよ。当家に伝わる宝具「護庭の神兵」……神々の戦士の着ていたと言われる鎧です。未熟な私では、第一開放がやっとでしたが、アンナさん達の尊い犠牲でさらなる段階、第二開放に到れるようになりました。しかしながら、この力は誰かを護る力、旦那様は私がお守りしますっ! リスティスさん、ラトリエさん、旦那様に挑むのであれば、まずはこの私を倒してからにしてくださいね」
こ、これって、アレかな?
テンチョーが使ってたファイアーアーマー「白炎の魔装」と同じ系列っぽいな。
どことなくSFチックな雰囲気とか、アレに通じるものがある。
武器は巨大ハンマーとバカでかい盾……あんな巨人がハンマーとか持ったら、僕とかプチっとイカれて終わりだ。
つまり、勝てる気がしないっ!
この子、解った。
基本的に自重ってもんを知らないんだ。
初手、全裸朝チュン、初手、最終兵器投入。
少しは出し惜しみしなさいってーのっ!
「……まさか、宝具とは……。さすがに私もこれは始めて見ましたね……! セルマイル嬢、いきなり、こんなものを投入するとは! あ、ちょっと失礼します……あー、あー、本部より業務連絡。医療班出動願います。戦闘フィールドから倒れてる子達を速やかに収容、医療措置を願います。えっと、アージュ様、彼女達は大丈夫でしょうか? まがりなりに貴族令嬢……万が一があれば、大変なことになるのですが……」
「心配いらんよ。単なる虚脱じゃな……文字通り、己が全魔力を捧げおったのじゃ。しかしまぁ、なんとも北方貴族共らしいな。主家のために我が身をも省みぬ……か。誠にあっぱれな奴らじゃ」
聖光教会の羽模様マークのマントを羽織った人達が戦闘フィールドに駆け込むと、速やかに倒れた第一小隊の面々を担ぎ上げていく。
ああ、確かにイザリオ司教も、聖光教会の治癒術士達を集めて、医療チーム作るとか言ってたけど、こんなだったんだ。
なんと言うか……用意がいいね。
多少怪我人とか出ても、心配要らないって事だ。
メガネのイザリオ司教が、医療チームの手際の良さに満足そうにうなずきながら、ちらっとレインちゃんを見てドヤ顔してるけど。
レインちゃんは、ビールどうぞーっ! とかやってて、これっぽっちも関心ない様子。
楽しそうだね……君は!
「まさか、シャッテルン家の家宝を持ち出してくるなんて……。ちょっと、これ、洒落になってませんよ? さすがのわたくしもこれは予想外でしたわ。リスティスさん、どうやら、お腰の物を使う他ないみたいですね?」
「そうね……。この子って、使えるものは最大限目一杯使うとか、そんなんだったわね……。ラトリエも宝具開帳……そのつもりで?」
「さすがに宝具なしで、どうこうできる相手じゃありませんからね。ひとまず、ここは手を組むべきかと。奇遇にも先程と同じ図式ですが、今度は裏切ったりしませんから、ご安心を」
「……誰が信用すると思ってるの? あの子を倒したら、次は貴女の番、その後でタカクラ閣下に挑戦させていただきます」
「あらあら……実は、結構やる気でしたのね。けれど、真っ先にセルマ嬢にご退場頂くべきという所では一致しているようですので、暫定同盟ってところでどうですか?」
「謹んでお断りするわ。タカクラ閣下……いかがでしょう? 私も二人がかりで一人を相手等と言う卑怯な真似はしたくありません。セルマ……お前も私に立ちふさがるというのならば、斬るっ! ラトリエ、貴様もだ! 別にお前達二人がかりでも、私は一向に構わないっ!」
……君等、アレ相手にやるの? 正気? って言いたい。
やっべぇ、このセルマちゃん改め大巨人……僕の「鋼の如く我が豪腕」のフェイズ3ですら、おもちゃって感じだよ。
僕むしろ、パーラムさんたちの所に行きたいっ!
そこで、知っているのかアージュさんっ! って驚く役やりたいなーっ!
「いくらリスティスさんが強くても、「護庭の神兵」には為す術無いと思います! この鎧はあらゆる魔術を無効化し、いかなる斬撃や打撃も効果ありません。である以上、いくら私が弱くても絶対に負けませんっ!」
なんか、見るからに防御特化って感じだもんなぁ……。
防御結界もこれでもかって位、張られてるのが解るし……。
少なくとも僕の手持ちの能力じゃ、どれもキッツいなぁ……。
大きくて重たいって時点で、強いのは明白だよ。
アレに対抗出来るとしたら、鬼形態のウルスラさんくらいかもかな。
幸い僕を守ってくれるって言ってるから……味方だって事が救いなんだけど。
そう考えると、セルマちゃんっていい子だよな。
「確かに、宝具相手に生身では、勝ち目はない……良いでしょう。我が宝剣「エーテリオン」……第一開放ッ! 蒼き風よ! 時の狭間より吹き荒まん! 万年氷の鎧よ、我が身を包め! 『武鎧化』ッ!」
リスティスちゃんがコマンドワードを唱えつつ、サーベルを抜くとサーベルから冷気が吹き出し、リスティスちゃんの身体を覆っていき、真っ白い優美な雰囲気の甲冑姿になる。
「……まさかの複合属性持ちなのか。風と水……てっきり、風の術士だと思ってたよ」
鎧を覆う魔力の光は水の青……うーむ、放水攻撃はやるだけ無駄だろうな。
アージュさんのアイスシールドとか言う氷の盾とか、放水当ててても凍るだけで、全然意味なかったしなぁ。
「なんとっ! これは、まさかあの剣……「エーテリオン」だったとは……」
「し、知っているのですか? アージュ様っ!」
パーラムさん、その役、僕やりたーいっ! 僕が言いたかったセリフだよっ! それっ!
「今は滅びし氷河の民の伝説の鍛冶師「ワスタル」が遺作、決して溶けることのない永久氷雪……その結晶を鍛え、剣とした伝説の剣じゃよ。あれを扱える程の魔力の持ち主とは……何より、アヤツ……風と水の二重属性持ちとはな。まったく才能の塊のような娘ではないか。だが、才能だけではないな……。あの年であのレベルとなると、幼い頃から、一日たりとも欠かさず鍛錬を続けねば、ああはならぬよ。リスティス・マルステラ……マルステラの名に恥じぬ、本物の剣士じゃな……これは実に楽しみよのう」
「なるほど……私も人族の二重属性持ちなんて初めて見ましたよ。確かに、亜人を始め、複合属性の才能を持つものは、珍しくもないという話ですが、それを活用できるものはほとんど居ないと言われていますね」
まぁ、そりゃそうだろうな。
魔力器官って、各魔力属性に応じて最適化、成長していくから、複数属性を扱える才能があっても、結局長年使い込んだ属性ばっかりがレベルアップしていくことになる。
エルフやドワーフみたいに、生まれつき二重属性持ってても、結局、エルフだと風か水、ドワーフだと土か火のどっちか一つに偏るのが普通。
両方とも実用レベルにまで鍛えるとなると、普通の倍、枯渇地獄を味合わないと……ってなるんだよなぁ。
それ考えると、リスティスちゃんは……やっぱ、すっげぇ努力家だよな。
ちなみに、魔猫の尻尾は何気にどの属性も扱えるみたいなんだけど、特に相性がいいのは水属性みたいなんで、僕は水の魔力に特化してる。
筋肉魔法だけは、どうも土系統らしいんだけど……コイツはコイツで燃費抜群だからなぁ。
「タカクラ閣下……これが私の本気です。もっとも二重属性持ちと言っても、水の魔力は「エーテリオン」を開放させるためだけに鍛えてましたからね。高純度魔石一つを使い潰して、水属性魔力をほぼ使い切って、ようやっと第一開放まで持っていける……これが、今の私の目いっぱいと言ったところです」
「うん、君がそこに至るまで、どれほどの鍛錬を積んだか……僕には解るよ。もっとも僕は、戦いは得意じゃないからねぇ……。むしろ、胸を借りるって感じかな? まぁ、腕利きの治癒術士もいるし、僕のこの筋肉魔法は再生能力付きだから、即死しない限りはまず大丈夫だろう。本気でかかってきてくれてもいいけど、一応、相手が死なない程度にはお互い加減くらいはしよう……これは、一種の余興だからさ」
「いいでしょう。ここは命を賭ける場面ではないと言うのは、同感です。けど、私に閣下の本気を見せてくれるんですよね? 私ならば、大丈夫……兄上達やお父様に散々っぱら鍛えられてますから、そんなヤワではありません! いざ尋常に……勝負っ!」
そう言って、上段に剣を構えるリスティスちゃん。
これは……強い。
隙ってもんが、まったくない……まだまだ間合いは10m以上離れてるんだけど、彼女ならこの程度の距離、一瞬で詰め寄ってくるだろう。
けど、その声には明らかに喜びの色が混ざってるのが解る。
強い相手と本気で戦える……武人ってヤツの本懐なんだろう……。
うん、これこれ……。
ここはやっぱり、カッコいい所を見せないといけないね。
……むしろ、これは燃える場面だ!
ここは、僕も本気を出さざるを得ないな……!




