第四十七話「愛という名の戦場!」④
「うむうむ、とにかく、一度本気でぶつかってみればいいぞ。アヤツは敵として相対したものですら、戦いを通じて、いつの間にか取り込んでしまう。そう言うところがある。実際、戦の権化、狂戦士のような女神の使徒、サトルですら、アヤツと敵対しとったはずなのに、今やすっかり十年来の友のようになってしまった。かく言う我も元はウルスラ共々、コヤツを捕縛する側であったし、クロイエも挨拶にも来ないような無礼モノだから、しょっぴいて来い……などと命じたくらいじゃからのう」
うん? そんなもんなのかなぁ。
僕は僕なりに、話せば人は解り合える……そう思ってるだけなんだけど。
けどまぁ、僕の取った選択肢のひとつ、ひとつが今に繋がってるってのも事実ではある。
中には、間違った選択や愚かな選択もあったかもしれないし、これからも正しい選択が出来るなんて保証は出来ないんだけどね。
「なるほど、実に面白い展開ですわ。なら、わたくしも旦那様に挑戦してもよろしいでしょうか? いえ、この戦い……いっそ第七夫人の称号を賭けた勝負としましょう。戦いを通じて一番、旦那様が見どころがあると、高く評価したものこそが、栄えある最上級ナンバーを受ける資格があると、わたくしも思います。当然ながら、夜伽の優先権はナンバーの高いものが優先……ですからね。下位ナンバーに甘んじた者は、一人寝の寂しい夜が増えてしまうかもしれませんが……格下ってのは、そんなものですよね」
……ラトリエちゃん、勝手に割り込んできた上に、変なこと言い出した。
「ラトリエちゃん! 第七夫人は私だって、旦那様はおっしゃってましたー! 私が先に唾つけたんですから、貴女は私より格下なんですーっ!」
セルマちゃんも負けじと乱入。
でも、順当ならって言ったよね?
そんな格付けとか……ああ、でも重要な事なんだよな。
そんなのお互いで話合うなり、僕の見えない所で拳で語り合うなりして、決めて欲しいんだけど……。
ぶっちゃけ、関わりたくないでーすっ!
「甘いですっ! そんな早いもの勝ちみたいな感じで決めないでくださいっ! そもそも、先程の御前試合も勝者はわたくしでーすっ! 学院でも学科総合トップを誇ったわたくしの知識っ! 容赦なく他人を出し抜ける狡猾さ、国の代表として外国勢と日々やりあってる閣下の助成として、このわたくしの価値は十分認められているはずです!」
まぁね、海外戦略アドバイザーとして側に置きたいと思うよ。
ぶっちゃけ外国の外交官なんて、どいつもこいつも魑魅魍魎……日本勢なんて、全然可愛いって思い知らされてるからねー。
それに、正直、さっきの性知識豊富とか言う話も興味はあるのだよ。
ひんにゅーっぽいけど、如何にも真面目そうな君が、夜になると一体どんな凄いテクを使ってくるのか……?
これは、僕でなくとも前のめりにもなるさっ!
「あんなのズルいですっ! 私は認めませーん! そもそも、シャッテルン家は公爵家、貴女の家は侯爵……格が違います!」
「そうですわね……。そう来られると、わたくしも不利は否めません。ですが、そんな家格を持ち出すとなると、貴女は家の名が無いと何も残らない雑魚っぱちだと、宣言するようなものなのですよ? その時点で第七夫人を名乗るなどおこがましいっ! まさに笑止千万、片腹痛いわっ! もう、笑ってしまいますわー! オーホホホッ! 違いますかぁ?」
なんと言うか……ホント、したたかとしか言いようがない。
ああ言えばこう言うの見本市って感じ。
こんなのと口喧嘩したら、僕泣いちゃうよ。
実際、セルマちゃんも見る間に涙目に……うう、なんか可哀想になってきた。
でもさー。
僕はリスティスちゃんとの一騎打ちを所望してたんであって、二人とも今はお呼びじゃないんですけど……。
「あ、相変わらず、ああ言えばこう言う……。ラトリエちゃんのいじわるーっ! 私は第七夫人なんですーっ! って言うか、人を雑魚っぱち呼ばわりするなんてーっ! もう許せないっ! 私だって、たまには怒るんですよーっ! もう絶対、許しませんからーっ!」
「ホーッホッホ! 許さなければ、何だと言うのです? この勝負、受けるの? 受けないの? わたくしが問うているのは、その一点のみですわっ!」
「ううっ! その驕り高ぶった高慢ちきな性格、旦那さまの伴侶としてはあまりに似つかわしくありません。先の一戦では恥をかかされましたが、あの程度で私のことを侮られたのなら、大間違い……今の私の持てる全てで、お相手し、そのネジ曲がった性根を叩き直してさしあげますわっ! アンナさん……ごめんなさい、あれを使います……解ってますね?」
「……はい。お嬢様へのこのような暴言、隊員一同共々、憤懣やるかたなしです。我々も微力ながら力をお貸しいたします……お嬢様の本気、ラトリエ様とリスティス様、何よりタカクラ閣下にも見てもらいましょう。第一小隊総員に告ぐ、この一戦は、我々北方貴族連の名誉を賭けた戦いに他なりません。各々の家名に恥じぬよう……我らセルマ様供回り九騎、見事、華と散ってみせようぞ!」
アンナさんの声かけに、第一小隊の子達は寸分たがわず「応っ!」という返事を返す。
えっと……とりあえず、散らないでくださいね?
セルマちゃんが地面に例の装飾過多な感じの剣を突き立てると、黄色の魔力……地の魔力がその剣に、集中していく。
「総員、儀式魔術「百花繚乱」発動準備! 陣形は散華の陣……皆、いいな? 全てを使い切り、後のことは我らがセルマお嬢様に託す、それが我らの役目……文字通りの花道とならんっ! 散っ!」
アンナさんを囲むように、隊員たちがバッバッと一定間隔に散っていって、地面に手を付き、一斉に魔術を発動させ、呪文の詠唱を始める。
……今朝のグダグダ隊列が嘘みたいに、統率の取れた動き。
それに、何を始めるつもりなんだか……儀式魔術とか言ってたけど。
黄色い魔力のラインが隊員たちを複雑に取り巻いていき、地面にセルマちゃんを中心に巨大な魔法陣が形作られていく……。
ちなみに、村の人達もこの騒ぎを何事かと遠巻きに見守っていたのだけど。
警備隊の人達が、危ないからロープの外側まで下がってーなんて言いながら、手際よくコンビニ前の広場をロープで囲って空けていく。
広場の隅っこの方に、パーラムさんが大勢の商人ギルドのスタッフを引き連れてやってきて、机を並べて、アージュさんとクロイエ様を手招きしてる。
「あーあー、コンビニ村の皆様、こんにちわ! 私、商人ギルドサブマスター、パーラム・ラムゼフォン男爵でございます。さぁ、突然ですが、この場にて、高倉オーナーと麗しき大貴族の令嬢達による、一戦が始まりました。誠に勝手ではありますが、私、今回のこの戦いの見届人として、解説なども交えて、大いに盛り上げていきたいと思います! クロイエ陛下、アージュ閣下、本日は主賓と解説役と言うことで、よろしくお願いいたしますね」
……なんか、始まったよ?
パーラムさん、何してくれてるの?
三人の前に、手際よく飲み物やお菓子やらが並ばれていき、花束とかが飾られて、豪華な雰囲気となっていく。
解説席の上に天幕が張られ、マイクも並べられていく。
周辺にも手際よくスピーカーが設置されていき、調整されていく。
商人ギルドの皆さん、どれだけ手際良いの? なんでこんなの用意してたの?
パーラムさんの言葉を聞いて、なんか突発イベントでも始まったと、皆、思ったらしく、一気に大歓声が上がる。
サントスさんとククリカちゃんが食堂の脇に、巨大鍋やら竈を引っ張り出してきて、串焼き肉やらを焼き出すと、早速行列ができてる。
コンビニ前でも、ホットスナック屋台をサトルくんが手際よく組んで、レインちゃんと並んで、「いらっしゃいませー、ビールに焼き鳥いかがっすかー」とか始めてる。
そうだね、目の前でこう言うイベントなんて始まったら、そうなるよね? ナイスだよ、二人共。
目が合ったら、二カッとイケメンスマイルをキメてくれるので、僕もニヤリと微笑んで、サムズアップ!
もういいや、開き直るか。
「さぁて、衆人環視の中、突如始まったこの戦い……申し訳ない、私、詳しい事情は良く解らないのですが……。クロイエ陛下の御前試合のようなものですかね?」
「う、うむ! さすがパーラム卿、手際が良いのだな。であるにっ! 皆の者、静まるのだ……この戦いは私闘にあらず、我が御前試合と心せよ。アージュよ、此度の戦いの趣旨を皆に伝えるのだ……」
……クロイエ様のお墨付きが出てしまったよ。
なんか、思いっきり流された感じだけど……もうしょうがないか。
「どこからツッコむべきやら……なんじゃが、まぁいいわ。まず、あの三人は此度、タカクラ卿に嫁入りを希望したロメオ三大貴族の娘達だ。三大貴族の当主達としては、将来的にこの国の王同然の立場となるタカクラ卿に娘を嫁に出す……これは当然と言えるだろう」
「なるほど、解りますね。一人ではなく三人とも示し合わせたように……と言うのがミソですね。さすが御三家ですね。それにしてもタカクラオーナー、当然のようにそれを受け入れたと言うことですね? やはり並外れた度量の持ち主としか言いようがありませんね。さすがです。となると、この戦い……もしや、タカクラ卿を倒したものが勝ち、そう言うルールですか?」
「いやいや、倒してどうするのじゃ。嫁入りともなると、嫁としての格と言う話が出るであろうが。我々とて、序列はあるのだ。当然、新参の者たちは格が下となるが、同時に嫁入りともなれば、話は別じゃ。我らが決めてやってもよいが、要らぬ禍根が残るかもしれんでな。故に奴らに任せることにした。この争いは言わば、あの三人の序列争いよの。もちろん、最終的にその序列を決めるのは、ケントゥリ殿である以上、単純に勝てば済む……そのようなものではない。これはなかなかに見ものであるぞ」
はいっ! 異議あり……僕はそんな事ひとっコトも言ってません!
ぶっちゃけ、じゃんけんなり、くじ引きでもして決めればーくらいに思ってます!
「なるほど、それは実に面白い。ロメオ三大貴族の令嬢同士の序列決定戦……そう言うことですか。この序列は御三家の力関係にも影響する……となると、これは誰もが譲れないでしょう。アージュ様、どうやらセルマイル嬢が先手を打って何やら仕掛けるようですか、親衛隊第一小隊の面々は一体何を始めるつもりなのでしょう? 儀式魔術のようですが……これはいったい?」
「ふむ……シャッテルン公め、まさか娘に宝具を持たせるとは思い切りよった。……あれは、宝具開放の儀式魔術じゃよ。かつて、シャッテルン公がリョウスケ殿の傍らで奮った力、かの家が「北壁」の異名を取るに至った代物。「護庭の神兵」……聞いたことはないかな?」
あい? な、なんか鼻水出たよ。
宝具とかって、そんなもん出ちゃってどうすんの?
エクスカリバーッ! つって、地面とか抉れちゃったりする?
う、うん……これ、もう僕引っ込んでようかな。
僕は、自分の命は惜しむ主義なのだぁーっ!




