第四十七話「愛という名の戦場!」③
感覚的には一歩踏み出した……それだけだった。
にも関わらず、次の瞬間、僕は10m近い距離を一瞬で詰めて、リスティスちゃんの目の前にいた!
またしてもやってしまった……新技をひらめいた! ピキコーン!
これは……多分「瞬歩」とか「無拍子」とか、そんな技だ。
何が起きたのか理解できず、ポカーンとしてるリスティスちゃん。
僕が彼女を害するつもりだったら、もうこの間合に入った時点で、彼女の運命は尽きていただろう。
けど、僕はそんな酷いことはしないのだ!
「君の……その気高き魂を称賛するッッ! この高倉健太郎ッ! 我が最大限の愛を込めてッ! 受けるがいい! この熱きベーゼをッ!」
ズキューンと言う擬音すら聞こえてきそうな勢いで、僕は跪くとリスティスちゃんの腰に手を回し、抱き寄せながら、口づけしようとする。
ツンデレちゃん攻略とか、もう面倒くさいから、いきなりチューして終わりっすよ。
ボンジョルノーでも、リリカさん、単なる通りすがりのボンジョルノーさんにチューされて、一発で落とされてたじゃないですか。
つまり、紋次郎くんがあの話で言いたかった事はだね……。
「女子なんて、ちょっとダメージ受けてる所に、カッコイイセリフと共にムチューすれば落ちるっすよー」
そう言うことさっ!
けど、次の瞬間。
顎に衝撃が走って、ぎゅるンって感じで、視界が回転し、床に後頭部を強打する!
続いて、浮遊感と共に視界が派手にぐるぐる回って、ガシャパリーンとか言って、今度は青空が見える。
「ぽわーっ!」
間抜けな叫び声が喉から溢れ、ズゴシャァッって派手な音がして、テーブルが吹っ飛んで、空から降ってきたラーメンの丼を頭から被る!
「ほわっ? ッチャーアアアアアッ!」
思わず、顔を押さえてのたうち回る。
豚骨スープが目にィッ! アッツアツのナルトがァ! メ、メンマが背中に! 背中にィッ!
「オッ! オッ! オッ! チャアアアアアアッ!」
……リスティスちゃん。
多分、反射的にやっちゃったんだろうけど、なかなかの攻撃力だったよっ!
よもや、ここまで派手にぶっ飛ばされるとは、なにそれっ! しかも、攻撃を見きれなかった……この僕がっ!
ラーメンの主だったぽいウォルフ族の人が大慌てで、グラスの水を顔にぶっかけてくれて、コンビニの外で掃き掃除してた、モモちゃんが駆け寄ってくると、尻尾水をちゃーっと頭からかけてくれる……。
今日も相変わらず、お股の間に尻尾通しての立ちションスタイル。
もう顔中ジョビジョバだぜ……シュタッと正座して、その聖水を浴びる。
……文字通り癒やされるね……。
火傷の痛みがすぅーっと引いていくし、よく冷えてて、ウメェッ!
これって、癒やしの水? なんかキラキラしてるし、モモちゃんマジック、ちょっと進化した?
「モモちゃん聖水」とでも呼ぼうかな? いいね……絵面はギリギリアウトな感じだけど。
けど、なんか視界が緑色になっていって、ふわーとその場に前のめりに倒れ込む。
「お、おーなーさん! しっかりしてくださぁあい! レインさん、レインさん! 大変ですっ! 気を確かにーっ!」
おぅ、どうやら思いっきり脳が揺さぶられたな……これぁ、効いたぁよ。
だから、モモちゃんもガックンガックンと頭を揺さぶらないで……。
けど、食堂の中からすっごい勢いでリスティスちゃんが駆け寄ってきて、モモちゃんから、奪い取るように抱き寄せられる。
「ひぇええええっ! す、すみません、いきなり目の前にワープしてきたんで、うっかり、本気で殴ってしまいました! まさか、あんな派手に飛んでいくなんてっ!」
あーたしかに。
なんか紙人形みたいに軽々と飛んでったし。
ガラスぶち抜いたときに、あちこち切ってたらしく、腕とか足とかあっちこっち痛いし、もうボッコボコのザックザクだぜっ!
なんか、どんどんあちこち血まみれになっていく……リスティスちゃんがあわわわって感じで、メディーック! 応急兵っ! だれかーとか叫んでる。
ごめん、どっちも居ないと思うけど、レインちゃんが救急箱持って、走ってきてる。
まぁ、これくらいなら、レインちゃんなら、なんとかしてくれるかなー。
うん、たぶん「無拍子」の欠点って、体重が一時的にやたら軽くなるとかそんな感じみたい。
これは使い所が難しいかも。
「ふっ、あ、案ずる事なかれ……。この程度、大したこと無いから。リスティスちゃん、ちょっと確認なんだけど。ラトリエちゃんもセルマちゃんも僕の嫁って前提で来てるらしいんだけど、君もそうなの?」
「っ! た、確かにそうです……あまり認めたくありませんが、あの二人が政略結婚として、閣下の元へ送り込まれてきたのなら、私も同様……そう言うことです! けど、言っときますけど、これはあくまでお家とロメオの安泰のためっ! 私が閣下に嫁いだという名分が大事なんです! である以上、そんな簡単に媚びたり、純潔をささげるとか……そんな風に思わないでください! 私の心は誰の自由にもなりません! 閣下を私の夫と認めるかどうかは、私が決めることです!」
何気に膝枕状態だったりもするんだけど。
良いな……まさに気高き魂、汚れなきピュアハートの持ち主!
これ、ちょっと本気でこの子を惚れさせたい! そう思っちゃいましたー!
ボンジョルノーのやり方は……リアルにやると殴られオチになるに決まってんじゃんっ! ちょっとは考えろよ自分。
ふふっ、こっから先は自分で考える……そういうことさっ!
ダンッと地面に両足を付けて、腹筋と足の力だけでぐぐっと、膝枕状態から復帰する。
「ま、まだ動かないほうが……せ、せめて、応急処置だけでも……!」
心配そうなリスティスちゃんを他所に、制服の上着を脱ぎ捨てると、ぐぐっとサイドチェストのポーズをキメながら「鋼の如く我が豪腕」を発動。
「ふんぬらばっ!」
たちまち、手足もムキムキになって、あちこちに出来ていたガラスの切り傷も、熱々のラーメンを被って出来た顔の火傷の痛みも消えていき、Tシャツもパッツンパッツンになる。
ほほぅ、いよいよ、回復効果も付いたか。
さっきモモちゃんから浴びた聖水の回復効果でも取り込んだのかな?
……レインちゃんがすごく嫌そうな顔して、立ち止まるとUターンしていった。
彼女は、どうも僕のこの筋肉美は好ましく思ってないらしい……こないだイジメすぎたせいかな?
まったく、お詫びにフリフリの魔法少女変身ドレスセットとアニキャラパンツをアマゾニアで買ってプレゼントしてやったのに。
ちなみに、やっぱり頼んでも居ないのに、一式着込んで、たくし上げーってやって、アニキャラパンツ履いてるのまで、見せてくれたんだけど。
ちょっとテレテレな感じで、ポイント高かったぜ? うっかりロリコンに目覚めるかと思った。
レインちゃんって、サービス精神旺盛な子なんですわっ!
だが、まぁいい……どのみち、治癒など、今の僕には必要ない!
我ながら、この所レベルアップが著しいな。
殺人事件でもあったんじゃないかって感じの血溜まりが出来るような重傷も、キラリーンと筋肉の力で回復だ。
すばらしいっ! 名付けて「鋼の如く我が豪腕」フェイズ3だ!
あれ、なんかこれ……。
ピローンと一気に回復するんじゃなくて、一定時間ごとにゴリッゴリッって感じ回復してね?
と言うか、これ……持続系回復、リジェネレーションってヤツか! つええぞ、これっ!
訂正っ! 「鋼の如く我が豪腕 RE:LIVE」DAZE!
「リスティスちゃん! 悪いが、先程までの軟弱な僕はもういないっ! どうだろう、ひとつ今の120%な僕と一戦交えてみないかい? 君の誇り高き思い……しかと、受け取った。いいだろう……そう言う事なら、まず君の戦士として強さ……この僕に存分に見せてみろっ! そして、僕の戦士としての強さ、たくましさを存分に見るが良い! きっと君の僕の見る目が変わる……いや、変えてみせるさっ!」
まぁね。
当然ながら、もう自信満々っすよ!
リジェネ付きとかズタボロになっても、回復ーっ! って戦線復帰出来ちゃう訳よ。
まさに、ザ・不死身! 刹那を見切る目、純然たるパワーに、鋼の筋肉の防御、挙げ句に無限の再生力ッ!
これはもはや、怪物君ッ! 愉快痛快ッ! さぁっ! 始まるザマスよっ!
「はい? え……これって、どう言う展開なんです? タカクラ閣下……お、お気を確かに……」
リスティスちゃんがポカーンって感じで、戸惑ってる。
「まぁ、あれじゃな。アヤツにしては珍しいが。てっとり早くお主相手に戦って勝てば、少しは素直になってくれるんじゃないかとか、そんなところじゃろ? 実際、どうなんじゃ……そんなツンケンしとっても何も始まらんじゃろ? アヤツほどのいい男は早々おらんぞ? クロイエ陛下とて、打算と政治的な都合だけで伴侶としてアヤツを選んだわけではないのだぞ? 当然ながら、我もじゃ……」
外に出て来たアージュさんが冷静に語る。
うーん、ナイスフォローっすよ! アージュ先生っ!
「……わ、解ってるわよっ! ……じゃなくて、それ位解ります。でも、人を好きになるってそんな簡単じゃないと思います。そりゃ、さっきは酷いことしたって思いましたけど。なにせ、私もタカクラ閣下の事は良く知らない……いい人だって事も解るし、色んな人に好かれてるのだって解りますし、偉大な人なのは認めます。けど、それとこれとは話は別ですから!」
くっ、要するに彼女はこれまで人を好きになったことも恋のひとつもしてなかった……。
多分、そう言うことなんだろう……不器用なんだろうな。
いや、マジでイイね! まさに攻略難易度ベリーハードの難関ヒロイン!
こう言う子を攻略するなら、権力や力づくなんかじゃなく、本気でぶつかりあう!
きっとそれがスタートライン……そんな風に思うのだ。
タカクラオーナー大暴走中。




