第四十七話「愛という名の戦場!」②
「お、お飾り軍隊って……こ、この私が、この栄えあるマルステラ家の私が、そんな……」
なんか、思ったよりもダメージ受けてるみたいで、それどころじゃないって感じのリスティスちゃん。
ある意味、こっちは大丈夫そうだった。
「ええっ! セルマちゃん……まさか、もう隊長さんに求婚して受け入れられたんですか! 半日程度早かっただけなのに……なんて手が早いんですの……」
「うふふ、そうですよお……。お二人共、一足遅かったですね。私もハードな行程でそりゃもう、くたびれてましたけどぉ、隊員の皆が頑張って、私の体力を温存すべく、馬に乗せてくれたり、カゴ作って、運んでくれたりしてたのですよ。おかげで、昨夜は旦那様と無事初夜を済ませられました。北方貴族の団結力の勝利ってところですね!」
どうしよう……この子。
思った通りの暴走系だった。
何もここでぶちまけなくてもいいのに……せっかく、このままクロイエ様ワープで残りの子達を迎えに行って、めでたしめでたし、宴会エンドーってなると思ったのに……。
なんか、面倒くさい事になる予感しかしない。
……変な汗出てきたよ。
なお、第一小隊の面々は一斉にセルマちゃんに駆け寄って、やったね! おめでとーとか言って、胴上げとか始めてる……。
アージュさんがとぼとぼとこっちにやってきて、ぽんと両肩に手を乗せると、グイグイと部屋の隅に押し込んでいく……。
なんだかとっても怖い顔……壁にあたってそれ以上下がれなくなると、今度はグイグイと下に押し込んで……これは、良いからそこに座れと。
されるがままに座り込むと、壁に勢いよく手を突かれる。
おお、むりやり壁ドン! アージュさんも考えたね!
「はぁ……あまり、言いたくないが。貴様、自分が何をしでかしたか解るか?」
「セルマイル嬢を受け入れた以上、大貴族のバランスが崩壊する……でしょ? それ位わかるよ……このままだと、ロメオ王国の危機……そう言うことでしょ?」
「そこまで解ってて、何故アヤツに手を出したのじゃ……このうつけがっ! この我ですら、我が懐妊して戦線離脱などしたら、一大事であるからこそ、我慢しておるのじゃぞ? それを貴様ときたら手当たり次第、欲望に身を任せ、ケダモノの如く……」
「いえいえ! 誤解ですー! 僕は確かに、ケダモノですが、誓って言います……僕、何もしてないですっ! あの子、性知識ってもんが全然ないから、一晩裸で抱き合えば、子供出来るとかそんなメルヘンな世界に生きてるんですよ! 昨夜だって、僕が寝てるところに勝手に忍び込んで、隣で裸で寝てただけだったんですって!」
「……そ、それは誠か? 人族で15と言えば、嫁に行くものも珍しくない年じゃぞ? いくらなんでもそこまで無知なものなぞおるまい。何より、彼女は王立上級学院卒であり大貴族の娘なのだぞ? あの学院はリョウスケ殿が作り上げた教育カリュキュラムを愚直に受け継ぎ、我が国のエリート層とも言うべき者達を恐ろしい勢いで量産し続ける……我が国の強さの源泉……そう言う学院なのだぞ?」
「そ、その辺はよく知らないけど、そうだったんだ。やっぱ、リョウスケさんって凄かったんだね。けど、その王立上級学院って、性教育とかそんなのまでやってるの? リョウスケさん確かにすごい人だけど、そんな子供らに性教育とかそこまで考えるような人だったのかなぁ……。確かに大事なことだと思うし、そこまで考えてたなら、ある意味すごいと思うけどさ。どうなの? そもそも、アージュさんはどうな訳?」
薄々思ってたんだけど、アージュさん……経験ないだけじゃなくて、ものすごくいい加減な性知識しか無いんじゃないかって気がしてたんだよね。
紋次郎くんのエロ漫画も、我はそんな汚らわしいもの見たくないのじゃーとか言って、見ようともしなかったし……。
レベルとしては、恐らくセルマちゃんといい勝負……のような気もするんだよね。
「う、うむ……? 人間の、それも貴族の……その……性うんぬんなんぞ、我が知っているとでも思っているのか? わ、我か? そうじゃのう……う、うむ、まず男女向き合って、お互い服を脱ぐのじゃろ?」
めっちゃ目が泳いでて、早速怪しいんだけど、容赦なんかしないぞ。
つか、それくらいなら、一緒に温泉入ったりした仲なんだし、もうやってるよね。
「うん、それが基本だよね……それから?」
「……わ、我は目をつぶって横になっておるので、後は殿方におまかせなのじゃーっ!」
恥ずかしそうに真っ赤になって、両手で顔を覆い隠すアージュさん。
……ごめん、そんなもんだと思ってた。
聞いた僕が悪かった。
1000年喪女は伊達じゃなかった!
「も、もう無理しなくていいから、ねっ! やれやれ、この場で知ってそうな人……。あの、ラトリエちゃん、君、ちょっといいかな?」
辺りを見渡して、最初に目が合ったので、ラトリエちゃんに声をかけると、そそくさと寄ってくる。
僕は完全に座り込んでるんだけど、目の前にシュタッて感じで正座待機……流れるような動作だった。
「あ、はい……あの……旦那様とお呼びしてよろしいでしょうか? 早速ですが、セルマちゃんがそう言う事なら、わたくしも当然、閣下の妻として名乗りを上げます。そうなると、リスティスちゃんも受け入れていただかないと、三大貴族のバランスが取れません。もしも、このままマルステラ公爵令嬢だけがハブられた……なんてなったら、公爵の面目が立たない。そうなると、最悪軍部のクーデターの可能性も……」
「う、うむ! 貴様は頭もキレるのだな……さすが我が弟子! そうだな……我の懸念はまさにそれよ。まさに考えられる最悪の事態じゃ! いいであろう……貴様のことは第三夫人たる我が名に於いて、正式にコヤツの妻と認めてやろうではないか! 貴様の冴え渡る頭脳、我が魔術を容易く使いこなした技量……十分認めるに値しようぞっ! であれば、あとは、あの公爵令嬢をなんとかすれば済む話じゃ!」
あーうん、今更だけど、そう言うことなんです。
どうも、アージュさんの中では、例の誓いの言葉を口にした時点で、正妻ポジゲット!
……そんな認識だったようで、ランシアさんとキリカさんを娶りますって話をしたら、今と同じ感じのお返事をいただきました訳でしてー。
……実は、僕って知らない間に妻帯者になってました。
キリカさんとランシアさんの件で、独身貴族もおしまいかーって思ってたんですけど、それよりもっと早い段階で、僕にはアージュさんと言う奥さんがいたんですね。
いやぁ、全然知らなかったよ。
何を言ってるか解らねーと思うけど、実際そんなんだから、どうしょうもない。
もうねっ! この世界ってさ、嫁とかなんとか要するに言ったもん勝ちなんすよ!
男尊女卑文化かと思ってたけど、どうも、そこら辺はとにかく女が強くて、周囲が納得するような既成事実や、解りやすい誓いの言葉の一つでもありゃ、そこでゲームセット!
そりゃ、婚姻届とか結婚式とかなにそれって時点で、薄々そんなんじゃないかなぁとか思ってましたがー!
結婚とか嫁とかねー、限りなく気分なんスよ……それも割と女子側のっ!
アージュさんの場合、伴侶としての誓いの言葉を口にして、僕が拒絶しなかったから、オッケー! そんな理屈だそうで……。
確かに酒飲んでて目が覚めたら、一緒の布団で抱き合って寝てたとか、温泉で流しっこ位したけどさー。
なお、アージュさんが第三夫人なのは、第一はクロイエ様のために空けておくべきだと思ったらしいんだけど……。
第二はテンチョーが昔から妻の座をゲットしていたから……本人からそんな話を聞いたので、そう言うことにしたらしい。
テンチョー、僕そんな話知らないのだけど、どうなってんの? アージュさん、ちゃんと本人と話し合ったって言ってたけど、僕はテンチョーとそんな話した覚えないし、覚えてる限りそんなエッチなイベントなんてなかったよね?
最近は、なんだかトンデモなく遠くまで遠出して、二、三日帰ってこないとかそんな調子なんスけど。
どうなの? 色々と紳士としてーとかやってた僕って馬鹿なの? 死ぬの?
まぁ……そうですね。
総合的に考えて、もう僕としてはそう言うことでいいかなって思ってました。
はい、つまり、ラトリエちゃんも好きにしていいよっ!
「ありがとうございます! アージュ様……第三夫人たるアージュ様の公認が得られたという事なら、わたくしも堂々とタカクラ閣下の妻を名乗れます……えっと、そうなるとわたくしは何番目でしょうか? あ、旦那様、今夜辺り褥を共にさせていただいてよろしいでしょうか? 大方、セルマちゃんとかって無知そうですから、目を瞑って泣き喚くとかそんなだったんですよね? その点、わたくしはひと味違いますよ……色々、性的な知識だけは豊富なのでっ! この日のために色々、書物で勉強したり、一人で練習したりしてましたからね!」
……だめだこりゃ。
ラトリエちゃん、何の解決にもならなかった。
ファッ? 何を読んで、何を何で練習したって? なんかもう一発で僕の理解を超えたよっ?
「あ、旦那様っ! 一応、言っておきますけど。わたくし、当然ながら処女ですから! そこら辺はちゃんと考慮の上で、出来れば痛くないようにゆっくり優しく、お願いしたいところですが、激しいってのがどんなのか、興味はありますね。治癒魔法くらいは使えますが、最初は、出番がない程度には……と言ったところですね。とにかく、わたくしもがんばります!」
こんな可愛い大人しげな顔して、性知識たっぷりの耳年増処女とか、別に知りたくなかったよっ!
そうか……また一人増えたのだね。
言ったもん勝ち、おまけに正妻の誰かが認めたってなったら、もう僕の意志なんて関係ありませんから!
ラトリエちゃんやるねっ! 僕の返事なんか聞きゃしないで、はやくも嫁ポジゲットだぜ!
はいはーいっ! 8人目の奥さんゲットですよー! もうどんどん来いよ!
皆、まとめて面倒見てやらァっ!
要するに、そこで放心してるリスティスちゃんをズキューンとモノにしてやればいいんだろ!
9人目か……後二人で嫁さんだけで、サッカーチーム作れるな。
任せろ……こうなったら、紋次郎大先生の叡智を借りるまでっ!
怪傑紳士ボンジョルノーッ! てーれってっれーっ!
第38話「さすが俺達のボンジョルノー! 誰にも真似できないことを平然とやってのけるぅ! そこに痺れまくるし、憧れるぅ! ビクンビクンッ!」
まさに、こう言う時のためのシチェーション!
第38話あらすじ。
『ツンツンアイドル、萌華リリカ……夜道、突如現れた悪漢にその唇をズキューンと奪われながらも、倒れ込んだ先にあった水溜まりに溜まった泥水で口すすぐ事で、悪漢にその気高き魂を見せつけるッ! そして、偶然そんな現場に出くわした紳士の中の紳士ボンジョルノーの取った行動とはッ!』
まったく、さすが我が人生のバイブル……。
いつも、迷ったときには必ずと言っていいくらいに、正しい道を指し示してくれる。
偉大すぎるよ紋次郎大先生……貴方こそ、神ですぞっ!
逆壁ドンと言う情けない状態から、すっくと立ち上がると、大げさな仕草で髪の毛をかき上げる。
そして、猫尻尾ピーン! いいぞ……気合、十分っ! 魔力充填120%!!
「……悲しい運命、悲劇……そして数々の悲哀。ああ、世の中……悲しいことばかりが増えていく! されど、僕は敢えて、その運命に立ち向かうと宣言しよう! 今宵の悲劇のヒロインはまさに君だ! だからこそ、僕は君に、希望と喜び……そして愛を与えようっ!」
ああ、ボンジョルノーのセリフがスラスラと口をついて出てくる。
やっべぇ、やっぱコレ鳥肌モノの名セリフだわっ!
そして、アージュさんにドンドンされちゃったせいで、テーブルの島一個挟んで向こう側にいるリスティスちゃんをまっすぐに見つめつつ、ドンッと指差してみたりする。
茫然自失から立ち直ったみたいで、なんか自分を指差してるけど、とりあえず、コクリと頷いとく。
そう、もはや僕のターゲットは君なんだ! 行くぞっ!
紋次郎先生のボンジョルノーって、基本的にどの話もこんな感じ。
そりゃ、発禁食らうわなーと。




