第六話「いらっしゃいませから始まる異世界コンビニ営業スタート!」①
そんな風に、お互い自己紹介をしながら、続いて床でお菓子を広げたりしつつ談笑タイム。
まぁ、自分たちの売ってる商品がどんなのか知る……これは物を売る側としては、必須と言える。
食べ物売る以上、オススメは何? とか、これは美味しいの? なんてよく聞かれる話だよ。
まぁ、本来はどの商品も自信を持って、美味いぞー! と応えるのが理想なんだけど……。
メーカーもたまに冒険したり、これ試食したの? と聞きたくなるような地雷を送り込んでくるから、この手の試食、試飲は欠かせないイベントなんである。
特に、ドリンク系は地雷原だからなぁ……。
つい最近も海外発の栄養ドリンク風炭酸飲料とか出してきたけど、生姜風味の、強炭酸0カロリーと言う……一見まともそうな組み合わせ。
けれど、実際にはピリッと辛めの生姜と、ゼロカロリーの人工甘味料のみの甘さ、そして、栄養ドリンク風味……三つ巴の真っ向勝負は、想像以上にヤバイ代物だった。
一口飲んで思わず、リバース。
生姜風味の炭酸ジュースで、ジンジャーエールってあるけど、それとは全くの別物。
すりおろし生姜そのものって感じのベースに、無糖強炭酸水に人工甘味料の不自然な甘さ、栄養ドリンク系の薬品風味……それらが不協和音を奏でて、それぞれが強烈にアピールしてくる。
炭酸コーヒーとか、どう考えてもヤバイ組み合わせ……そんな前例ですら、耐えきって飲み干したような僕でも、これは無理だった。
なんで、これがまかり通ったんだろう? 僕が知る限りでは、キューカンバーコーラ、炭酸コーヒーと余裕で肩を並べるくらいの代物だった。
とは言え、この手の地雷ドリンクも物珍しさで、最初の数日は売れる。
でも、大抵がかなり早い段階で、さっぱり売れなくなって不良在庫になるのが常。
最近はネットのせいで、情報伝達が早いから、地雷ドリンクの消滅も早くなった……まぁ、きゅうり味のコーラとかないわな。
とにかく、うちでは、新製品が出ると、バイトの皆で品評会と称して、こんな風に広げて、皆で摘んでみたり、メーカーから回ってくる販促サンプルを配ったりしていたものだ。
このバイトの意見とか、生の反応ってのも馬鹿にできるものではなく、バイトの間で不評なのは大抵、売れない。
本部は、新製品が出ると原価率を下げたり、色々販促キャンペーンを組んで、プッシュしてくるのだけど、バイトが微妙な反応をしてくるようなのは、発注数も控えめにする……それで概ね正解だったりする。
……まぁ、あったりまえだよね。
発注を控えたりすると、SVとかは大抵、文句言ってくるけど、だったらお前が飲んでみろって言って、飲ませたりすると、絶句して、これはないとかなったりする。
……まぁ、そんなでも、引取お願いしますって頭下げられたら、頷くしか無いってのが悲しき定め。
売れない商品ってのは、それなりの売れない理由があるのだよ……にも関わらず、いつになっても、この手の地雷商品ってのは、絶えることがない。
そう言うのもあるから、ひとまず皆の反応を見て、この世界の売れ線を少しでも把握できるように努めて見る。
それに、こう言う交流を通して、皆とワイワイやりながら、意見を出し合ったりして、皆仲良くなると、自然と効率も良くなるし、何より皆、笑顔で仕事をしてくれる。
笑顔の従業員がいると、店の雰囲気も明るくなって、お客さんも笑顔……そんなもんなんだ。
異世界の食べ物と言うことで、皆興味津々……あれが美味しいこれも美味しいと、賑やかなもんだ。
とりあえず、僕以外は全員女の子だから、なんともまぁ姦しい。
ミミとモモも、どうもこれまで同族以外と、まともにコミュニケーション出来てなかったみたいで、テンチョーやキリカさんを質問攻めにしてる。
テンチョーの着てるメイド服にも興味津々のようだし、例のペロペロスキンシップにも余念がない。
と言うか、ネコ耳族ってなんかやたら、スキンシップを好むみたいで、何かと言うとお互い身体を擦り付け合ったりしてる……。
まぁ、猫って意外とそんなもんだしね。
うん? なんだったら、僕にもペロペロしたって良いんだよ? 僕は拒んだりしないからさ。
別にやましい気持ちはないぞ? 僕だって、ネコ耳流のスキンシップをだな……。
「ご主人様っ! それ美味しいんだよねっ! 一口いただきま~すにゃー!」
そう言って、テンチョーが僕が片手に持っていたイレブンチキンをパクっと齧る。
思い切り食べかけだったんだけど……お構いなし。
うーん、これって間接キス?
いや……でも、テンチョーには猫だった頃は、よく顔をペロペロ舐められて、起こされたりした事もあったし、今更気にするものでもないのかな?
「うにゃあ……思ったとおり、とっても美味しいにゃんっ! やっぱ、トリさんは美味しいにゃっ! テンチョー大好物なのだっ!」
幸せそうに、更にもう一口……ホントに美味しそうに食べるんだな……。
髪の毛を払いながら、小さな口でハムっと……その姿になんとも言えない、エロティックさを感じでドキッとする。
と言うか、こんなんでドキマギしてるなんて……小中学生かよっ! 僕はっ!
とまぁ、そんな調子で、皆で、和気あいあいと談笑していると、唐突に入り口の自動ドアが開いた。
そして、ぴんぽろぱーんと来客を告げるチャイムが鳴る。
そこには、生真面目そうな顔をした髭面のおじさんがポカーンと突っ立っていた。
ただし、このおじさんもやっぱり犬耳と犬尻尾が付いていらっしゃった!
「……勝手に開く扉とかホンマ凄いなぁ……。いらっしゃいませー? これでええんやったっけ?」
「あってるよっ! いらっしゃいませーっ! イレブンマートへようこそだにゃー!」
キリカさんとテンチョーが立ち上がると、そのおじさんへ、ペコリと頭を下げて、両手を広げて歓待を示す。
犬耳おじさんもハッとしたようにこっちへ向き直る。
お、おう……いらっしゃいませをやってしまったからには、もうなし崩し的に営業スタートじゃないかっ!
「……うぉっ! だ、誰だっ! って、なんだキリカじゃねぇか……な、何やってんだ、お前……」
「なんや、誰かと思ったら、ラドクリフのおっちゃんやないけ! こんな夜も明けきっとらん、朝っぱらからご苦労さんやね! 巡回でもしとったんか?」
……どうやら、キリカさんの顔見知りのようだった。
「そりゃ、俺達獣人族は、夜も昼も無い……そんなもんだろ? 実は、さっきの地揺れの被害調査で、ギルドから緊急の街道巡回を命じられてな。急遽野営地を引き払って、街道の巡回をしてたところなんだが……」
「えっと、キリカさん、そちらの方は知り合い?」
顔見知り同士のトークを聞きながら、黙って情報収集でも良かったのだけど。
ここは自己PRでもしてみるべきだった。
「このおっちゃんはラドクリフって言ってな。この街道の巡回警備隊の隊長の一人なんや! 一応、うちの同族……思い切り身内やでー! 言っとくけど、戦士としてはゴッツイで! 人族の兵隊なんぞ、束になっても敵わんくらいなんや!」
犬耳ダンディ戦士……小太りネコミミの僕が言うのもなんだけど、新しいな。
「まぁ、確かに……こいつがガキの頃からよく知ってるんだが……。一応はねえだろ? ところでキリカ、この建物は一体なんなんだ? こんなもんいつの間に……それに君達は何者だ? ちょっと見慣れない顔だな……少し話を聞かせてもらっていいかな?」
うーん、渋い声だなぁ……蛇のコードネームを持つ伝説の傭兵みたいに眼帯付けてて、かっこいい。
……でも、短く刈り込んだ銀髪に、同じ色の犬耳、犬尻尾……ちょっと斬新だな。
でも、さすがに治安関係者……。
この建物も僕らも、揃って怪しいと言外に言っているようなもんだった……それに、背中に背負ったデカい大剣。
凄いな……2mくらい優にあるぞ。
黒く染めた革鎧もキマってるし……うん、強い。(確信)
どう説明しようか……なんて、考えているとキリカさんが片目をつぶって、目配せを送ってくる。
ここは任せろって事かな? ひとまず、お任せすると言う意を込めて、頷いてみせる。
「このあんさんは、ちびネコ共を仕切って、ここで旅人が食べ物や飲み水を買えたりする交易所を作ってくれる言うとるんや、うちも一口カマせてもらうことになっとるんやでー!」
キリカさんは、この犬耳ダンディーさんと同族だけに、信用もされているようだった。
犬耳さんの表情があからさまに緩くなる。
「ほぉ、そりゃ良いな。ここはジャングルの最深部だしな……。確かに、俺達もここらに中継拠点を作るべく色々頑張ってたしな! そう言う事なら、渡りに船ってやつだな……それにしても、なかなか立派な内装の建物……と言うか、これ普通じゃないぞ?」
「さすが、ラドクリフのおっちゃん。この建物……なんかに似とらんか?」
「……待て、みなまで言うな。この材質……例の使徒の作った迷宮の外壁と似てるな。まさか……ダンジョンの地上部……なのか?」
「まぁ、そんなとことやな……。ここだけの話、この人は、流れモンなんや……。ここまで言えば、解るやろ?」
「……流れモノだと? いや、そうだな……ここまでの建築技術、王都でも見ないからな……異界由来と言うことか。俺もこんなのは始めて見るぞ……。そ、それにしても、この並んでる物はなんだ? 店主殿、悪いが少し拝見させてもらってもいいかな?」
そう言って、犬ダンディーさんは、まっさきに弁当コーナーへと向かう。
「……これは、食べ物のようだな……やけに、美味そうな匂いがしていた訳だ」
幕の内弁当を手にとってまじまじと見つめる犬耳ダンディー……なんか新しいなこれ。
「せやで! どれもとびっきり美味いでっ! せっかくやから、何か買っていかんか? 今なら身内割引で安くしとくでー!」
「そ、そうだなっ! 俺も部下達も野営中に叩き起こされての出立でな……。飯を食う余裕もなかったんだ! なんか、食べ物の匂い嗅いだら、急に腹が減ってきてしまってなぁ……。なぁ、店主殿……売ってくれるなら、外の連中の分もまとめて買うぞ? 10人分となるといくらだ?」
よく見ると、外にはずらりと似たような感じの革鎧を着込んだ犬耳のおっさんやお兄さんって感じのが整列していた。
この犬耳系の人達って、戦闘職向けなのだろうか?
うーん、この犬耳ダンディーさんもだけど、皆強そうだな……。
味方になってくれたらすごく頼もしそうだ。
ラドクリフ CV:大塚明夫氏
この世界の獣人は、あんま獣獣してなくて、犬耳とか尻尾生えてたり、手足だけ毛皮とかそんな調子です。
おっさんも、それに準拠してます。
※ちょっとした補足追記。
感想にて、指摘があったので、軽く説明すると。
SVと言うのは、コンビニ業界では地域単位で複数のコンビニの営業指導などを行う、コンビニ本社の担当営業ってところです。
SuperVisorの略なんですが、SVと呼ぶのが通例なので、スーパーバイザーなんて呼ぶ人は誰もいません。
コルセン業界やコンピューター用語でも使われてるので、知ってる人は知ってますが、
どうも、一般的ではないようです……。
ちなみに、コールセンターでは、朝礼とかで訓示を述べたり、勤怠管理でハゲそうになったり、クレ電で責任者出せって言われたら「私が責任者でーす!」って拾ってくれる人で、要は苦労人ポジです。(笑)




