第四十四話「三大貴族令嬢達の対決!」②
実際、セルマちゃんの腰から下げてる装飾剣を魔猫の目で見ると、黄色のオーラに包まれた地系統の魔剣だってことが解る。
能力的には、正直なんとも言えない……。
あの大きさだと、実戦向けじゃないだろうから、何らかの特殊能力とか、召喚媒体とか……。
まぁ、あとで聞いてみよう。
この子とにかく、素直な子だしねー。
ちなみに、壁際の二人の服装についても、見覚えがあるものだ……。
なにせ、紋次郎先生に隊服デザインの相談したら、快諾してくれた上に、なんかやたらハッスルしてくれて、色違いやデザイン違いで10パターンくらいもの隊服をデザインしてくれたんだ。
まさか、こんなに頑張ってくれるとは思わなかったし、どれも甲乙付け難かったから、もう着る側に任せるってことで、隊服デザイン候補として、全部まとめてグリフィン便で王都の服飾商に送っといたんだけど。
どうもこの様子だと、小隊ごとに好きなのを選んだらしい。
それも相まって、なんとも対照的な雰囲気の娘達だった。
白メイドの方は、ちらっとこっちを一瞥してすぐに視線を逸らすのだけど、もうひとりの真面目そうな感じの子は、ニコリと微笑むと、気安そうな感じで手なんか振ってる。
ちらっと後ろを見るとセルマちゃんがニコニコと手を振ってた。
うーむ、この二人……お友達っぽいけど、こんな場で、よくやるなぁ……。
意外と肝が座ってるんだな……さすが大貴族の娘さんだ。
「そうか、二人共タカクラ卿とは初対面だったか。では私から、二人を紹介しよう。マルステラ公爵令嬢と、ロキシウス侯爵令嬢の二人だ……二人とは、私も付き合いも長い。リスティスなぞ、私のお付きの警護官や剣術指南役を勤めてくれた事もあるからな。剣の腕なら、大人顔負けの猛者なのだぞ?」
なるほど、紺色ツインテールの方が公爵令嬢かな。
それまで無表情だったのに、陛下に褒められてまんざらでもないのか、微妙にドヤ顔入ってるのが解る。
部下は褒めて伸ばせと、陛下にアドバイスした事もあるんだけど、ちゃんと聞いてくれてるらしい。
「二人共、その猫獣人がそなた達の上官となる親衛隊長のタルカシアス辺境伯だ。我が宰相も兼務してもらっているし、我が婚約者でもあるのは、すでにそなた達も周知の事であろう。……良い機会なので、自己紹介でもするが良いぞ」
婚約者というところを強調するあたり、クロイエ様も女の子なんだねーと。
実にご機嫌そうな様子でなによりだ。
順番的に……恐らく公爵令嬢の方が先だろうな。
紺色ツインテールのリスティス嬢が前に一歩出て、僕に向き直るとビシッと敬礼!
「……自分はマルステラ公爵が末子、リスティス・フォル・マルステラ二等親衛武官補です。タカクラ宰相閣下、お初にお目にかかります!」
ハキハキとした口調、挑戦的な目つき……思わず、圧倒されそうになる。
むぅ、あれだ……体育会系部活とかやってる女の子みたいな雰囲気だなぁ……。
「やあ、君がリスティス君だね……公爵閣下から、君の話は聞いてるよ。王都近衛騎士団に内定していたのを蹴って、親衛隊に志願してくれたらしいね。我が親衛隊は、武力と言う点ではあまり褒められたモノではないだけに、君のような剣技に秀でた人材が参加してくれたのは、実に頼もしい話だと思っている……ひとまず、よろしく頼むよ」
一応、プロフィールに書いてあった話なんだけど、その話をしたにも関わらず、なんとも露骨に嫌そうな顔をされ、敬礼のまま、なにか言いたげにじっと見つめてくる。
ひとまず、こちらも敬礼を返すと速やかに直る。
そいや、敬礼されたら、こっちも答礼しないと、向こうが敬礼しっぱなしになるんだった。
上官に敬礼する時は、上官が答礼し手を下げ終わるまで、決して勝手に下げてはいけない……だったかな。
危ない危ないすっかり忘れるところだった。
こりゃ、遠回しに注意されてた様な感じだな……げ、厳格な子なんだな。
この辺の軍人特有のマナーは、一応アージュさんから教えてもらってた。
この人も軍勢率いたり、軍師みたいなことやってたり、色々やってるし、伊達に1000年とか長生きしてない……。
もっとも、ここらでは正規の軍人なんて見たこと無いんだけどね。
元々、保護領時代から、完全に守備範囲外……なんだとか。
ラドクリフさんも、もうすっかり、ここらの警備総隊長って感じなんだけど、あの人も元を正せば、商人ギルド雇われの街道警備隊の隊長さんなんだよね……要するに、お金で雇われた商人ギルドの私兵に過ぎなかったという。
一番帝国に近いエリアなんだから、いっそ正規の一個軍くらい配置しても良いんじゃないかって思うんだけど。
ロメオの有力な部隊って王都周りに集中配備されてるし、他の領土も基本は軽装備の警備隊、あとは各領主達の私兵とかそんなもん。
どこも、ここらとそう変わりないとも聞いてるので、そこら辺はそんなに不満でもない。
おかげで、我が辺境伯領の軍事力は僕やギルドの私兵集団やら、ゼロワン達機械兵団頼み。
と言っても、それでも十分強烈だったりするので、各地の領主達や軍部から、義勇兵の派遣の話も来てるんだけど、基本断っている。
この辺も親衛隊設立の理由の一つなんだよなぁ……正式な領土となって、クロイエ様が入り浸ってるにも関わらず、正規軍が居ないとなると軍としては、立場がないって。
いっそ、僕の私兵集団を束ねて「辺境伯領軍」を名乗らせるのも手だったのだけど。
どこも私的な色合いが強い領軍なんて編成するような事はやってなくて、妙な前例を作るべきではないとクロイエ様からもやんわりと止められていたのだ。
マルステラ公の令嬢が来てくれたのは、ある意味助かる……向こうもこれで正規軍関係者を置いたって事で名分は立っただろうし、こっちも正規軍関係者を、無闇に排斥してる訳ではないと、示すことが出来る。
リスティスちゃんは……プロフィール読んだ感じだと……。
剣技に関しては、クロイエ様の言う通り、結構な腕前らしく、学院の剣術大会で優勝とかもしてるらしい。
魔術についても高い適性を持つ、冒険者たちの間で「魔剣士」と呼ばれるクラスだ。
冒険者の間でも、「魔剣士」なんて、上級職とか言われるような代物で、ド新人だろうがいきなり、Cクラス相当の冒険者として認められるとか、それくらいの扱いを受けるのだ。
……実戦経験は、さすがにないみたいだけど、腕は立つのは確からしかった。
クロイエ様の臨時警護官とか、嗜み程度の剣術指南役とかやってたのも事実で、元々陛下の側近、側仕えとして、育てられてたマルステラ家の秘蔵っ子……そんな感じがする。
元々、近衛騎士団入りが内定してたんだけど、本人の是非にと言う希望で親衛隊に志願。
名目上は近衛騎士団からの出向扱いの上で、親衛隊に配属……そんな話になってる。
でも、事実を言っただけなのに、不機嫌そうになるとか、なんで?
隊員名簿を見た感じだと、第二小隊のメンバーは、有力将校の娘や武門の家の娘とかも入ってるみたいだし、マルステラ公の息がかかってるメンツだってのは、間違いないだろう。
シャッテルン公爵ですら、非公式のボディーガードを送り込んでるくらいなんだから、多分、この調子だと、軍の特務部隊の一つくらい送り込んでそうだけど……その辺は、どっか適当なところで挨拶に位来るだろ。
まぁ、武張ってるだけで、きっちり筋道も通してくれるし、悪い人じゃないんだよな。
……純粋に国を思い、人々を守る事だけを考えて、政治には無闇に口出ししない軍人の鏡……みたいな人じゃあるんだ。
ちなみに、二等親衛武官補という役職名は、既存の軍のどの指揮系統にも属さない独立部隊であるということを示すために、新設された役職名だったりする。
この辺についても、実はマルステラ公が直々にアドバイスしてくれた。
ぶっちゃけ、親衛隊の設立は、近衛騎士団辺りが割と頑迷に反対してて、軍人達はあまりいい顔をしてなかったんだけど、マルステラ公が鶴の一声で反対意見を黙らせてくれた。
僕自身は借りだと思ってるんだけど、軍内部で独自にクロイエ様の護衛騎士団を……とか言ってて、じゃあ、誰が出るとか言って、派手に迷走してた上に、軍内部の妙な対立を生んだり、気に食わなかったらしく、貸し借りとしては、プラマイゼロだから、気にするなと軽く流してくれた。
こう言う恩着せがましさが一切無いストイックさや欲の無さが、マルステラ公のいいところなんだよなぁ……。
なお、ヒラ隊員は三等親衛武官。
小隊長クラスは、その上の二等親衛武官の間として、とりあえず二等親衛武官見習い、二等親衛武官補と言う役職で統一してある。
日本の警察の階級の警部と警部補みたいな感じかな。
もっとも、軍の階級との比較では、ヒラの三等親衛武官ですら、下士官と同等の権限を持つとされているので、有事では、彼女達一人一人が兵を指揮下に置いて、統率……そんな運用も想定されているらしい。
なお、この小隊長の三人も全小隊が集結して、部隊としての最終編成が終わった段階で、補が取れて、正式に二等親衛武官に任ぜられる事が内定してる。
同時に見どころのある子達を二等親衛武官補に昇進させて、小隊長補佐にでも当てるつもりだった。
セルマイル隊だと、そこのアンナさん辺りが昇進候補だろうな。
信賞必罰は、組織全体の士気向上に必要不可欠だからね。
全員集まった上で行う事になっている閲兵式では、昇進式典も行い盛り上がってもらおう……そんな感じに考えている。
ちなみに、僕は隊長として、一等親衛武官なんて階級を授けられているけど、これが現時点では最高階級。
権限となると、何気に軍の将軍クラスと同格の権限があるらしい……なんとも言えないけど、旧軍で言うところの大将、中将とかそれくらい?
この上はクロイエ様がいるのみ……もっとも、人が増えて階級増やさないとってなったら、頭に特でも付けて三段階にしようかとか言ってるくらいなので、割といい加減と言えばいい加減だった。
「……かしこまりました。こちらこそ、よろしくお願いします。お話は以上でよろしいでしょうか?」
「ん……まぁ、一応は……」
ボリボリと頭をかきながら、ちらっとアージュさんの方を見ると、苦笑してる。
何だこりゃ、一言挨拶交わしただけで、問答無用でぶった切り。
上官への挨拶で、こんなんカマすとは中々いい度胸をしてる。
とは言え、実際問題、何か罰とか与えられるかと言うと、そんな訳でもないんだが……。
普通、シンプルに損得勘定して、こう言う時は、まずはご機嫌伺いでもしとこうってなると思うんだがなぁ。
僕だって、タバコ吸わないのに喫煙室に付き合って、上司のタバコに火を付けるとか、酒の席でお酌したりとかやってたもんだぞ?
この子、基本誰だろうがこんな調子なのかも……こりゃ、ある意味問題児だな。




