第四十三話「出撃! 親衛第一小隊!」④
……とかカッコつけてみたものの、普通にテクテク歩くんだけどね。
ザッザッザ……みたいな足音立てて、背筋を伸ばして歩くとか、小学校の運動会の時以来やってないしなぁ。
僕もだけど、旗印とか持っての行進の訓練とか、カッコいい歩き方とか、そんなから始めないとだなぁ。
多分、実戦はともかく、ハッタリが必要な儀仗兵みたいな感じになるだろうから、恥をかかない程度には、隊列組んで行進ーとかは出来るようにならないと……それに野営とかも慣れてもらわないといけないし、うーむ、課題多いな。
けど、僕も赤い隊長服を着ているし、セルマちゃん達も赤い隊服。
なんともおあつらえたような感じで、瞬間だけを切り取れば、意外とサマになってるようだった。
うーむ、図らずも仲間意識みたいなのが自然に芽生えてくるなぁ。
こんなで、先遣隊に紛れ込んで、さっさと消えるとかそりゃ無いような気がしてきた……。
まぁ、小難しく考えなくてもいいかなぁ……なるようにしかならんさ!
振り返ってみると、ガッツリ隊列組んで……なんてこともなく、皆、割とてんでバラバラで、はぐれないように歩くのがやっとって感じ。
……セルマちゃんは頑張って、僕の歩調と合わせようとしてるんだけど、手と足が一緒に出てたり、ヨタヨタしてて、危なっかしい。
「今は、そんな無理しなくていいよ。けど、これだと、ちょっとカッコ悪いなぁって思ってるなら、それで上出来かな。なにせ、それは僕も一緒だからね」
そう言って微笑みかけると、嬉しそうに頷いて、背筋を伸ばして歩き出す、僕も猫背で歩くのは止めて、ビシッと背中を伸ばす……!
後ろの子達もまるで、我が事のように嬉しがって、自分たちも頑張って、歩調を揃える努力をし始めてる。
うん、なんと言うか……いい子達だ。
しょうがないっ! いつものことだけど、皆、まとめて面倒見てやらァ! そんな気分になってきたぞ!
「何奴かっ! 貴様ら、そこでとまれっ!」
御寝処前に着くなり、玄関の前に控えていた長身の黒っぽいメイド二人が手にした鉄の棒を交差させて、誰何の声を上げる。
「ウルスラさん、任務ご苦労様っ!」
そう言って、赤い髪の方に向かって、シュタッと片手を挙げる。
「おお、タカクラ卿、見慣れない姿だから誰かと思ったが、それは例の親衛隊長の制服か……なかなかサマになっているな! となると、なるほど、彼女達が昨夜到着した親衛隊の者達か。報告は受けているぞ」
燃えるような赤い髪と赤い瞳の長身メイドさん。
すっかり御寝処の護衛主任みたいになってるウルスラさんだった。
値踏みするような感じで見られてるのに気づくと、セルマイル隊の子達も慌てて、整列して姿勢を正す。
「ああ、親衛隊就任のご挨拶をしたいってことで、ここまで引率してきたんだ。陛下にお目通りを願えるかな?」
「なるほどな、それは問題ないのだが、実はすでに先客が来ているのだ。親衛隊の第二陣、第二小隊と第三小隊の隊長達が先行して、今朝方ここに到着してな。ちょうど、クロイエ陛下と面談中なのだが……卿は聞いていないのか?」
「いや、そんな話聞いてないけど……。セルマイルくんは、聞いてる?」
「わ、私は……いえ、しょ、小官はそのような話、聞いてませんです! って言うか、リスティスもラトリエも自分の部下をほっといて先行とか……何考えてるのぉ……そんなの駄目じゃない……」
最後の方はブツブツと独り言みたいに呟いてるけど、要するに聞いてないらしい。
王都出立の時点で、部隊編成と最低限の訓練くらいはやってたらしいので、知らない仲じゃないみたいだった。
確かにいくらなんでも、部下をほっといて、自分たちだけ先行して、陛下にご挨拶とか……点数稼ぎにしては、あんまりだろ。
むしろ、それって減点対象なんじゃないかなぁ……大体、第二陣の子達なんて、まだしばらく先の到着って聞いてたのに……別に強行軍で、出来る限り早く来いとかそんな事、誰も言ってなかったはずなんだがなぁ。
あれかな……小隊同士でのライバル意識、点数稼ぎ、優秀なんですよアピールとか、そんな感じじゃなかろうか。
案の定というか……早速ながら、困った話ですこと……。
「なるほど、どうやら行き違いがあったみたいだな。まぁ、その様子だと割り込んでいっても問題はなさそうだし、その方が話も早いだろう。すまないな……時間を取らせて。よし、全員通っていいぞ! 武装しているようだか、貴様らはいずれも身分は保証されているからな、そのままで構わんぞ」
こう言うのも、この子らが使いやすい理由のひとつなんだよね。
全員、身分が保証されてる上に、お互い顔見知りともなると、間者やら諜報員が紛れ込む心配がない。
無条件で、信頼できる味方ってのは、それだけで色々と重宝するのだよ。
「ああ、ウルスラさんもご苦労様。ああ、えっと……セルマイル隊の皆、聞いての通り、護衛隊長のウルスラさんから面会許可は降りてるから、このまま直ちにクロイエ陛下とのお目通りとなる。くれぐれも粗相のないように……服装や髪の毛の乱れはないか、お互いチェックして、乱れてるようなら、整えてあげるといい。君たちはこれから生死を共にする戦友と言える間柄になるんだからね。戦友の恥は自分の恥……常に、それくらいの心づもりでいるように!」
なんか、皆、感動したような面持ちで一斉に返事を返してくれて、早速お互いの身だしなみチェックを始めだしてる。
うんうん、ちょっとばかり指揮官気取りのセリフを吐いてみたんだけど、それっぽくはなったかな?
僕のマントに糸くずでも付いてたのか、セルマちゃんがちょいっとつまみ上げて、ニコッと笑ってくれる。
なんとも、気の利く子なんだな……。
さっきも黙ってても、半歩後ろを付かず離れずって感じで着いてきてたし……。
ウルスラさんもこっち見ながら、微笑ましそうにうんうんと言った感じで頷いている。
まぁ、僕も成り行きとは言え、この子らの面倒を見る隊長さんなんだしなぁ。
それっぽく振る舞わないとがっかりされてしまうからね!
さて、クロイエ陛下御寝処……二階建てのログハウスって感じだけど。
二階が御寝処、一階は十畳一間くらいの執務室と六畳くらいの待合室兼通路、それとお湯が出る給湯室とウォッシュレット付きの洋式水洗トイレがある。
とりあえず、電気だけは、コンビニから延々引っ張ってきてるんだけど。
水は井戸水と電動ポンプ、下水道は自前の物を使うことで、水洗トイレが利用可能になった。
下水道なんかも、セメントとかコンクリブロックとか使って、割とちゃんとしたのを作ってくれた……ドランさん達すげー。
おかげで、水洗トイレなんて贅沢なものが使えるようになって、クロイエ様や来訪者にはすこぶる好評らしい。
こんな南方のジャングルみたいなところだと、下水や汚物処理とかきっちりやらないと、疫病の蔓延とかヤバい問題に発展するんだけど。
そこら辺は、森エルフさん達が魔術を使った高度な下水処理の技術を持っていて、村から少し離れた所に下水処理の浄化槽みたいな浄水池を作って、そこに浄化の魔法陣を埋め込んだ魔石を惜しみなくドバドバぶっ込むことで、浄化魔法が常時発動するようになっていて、汚水を飲めるくらいまで浄化して、川に流す……そんな風にして処理している。
トイレなんかも、そこら辺に穴掘ってーなアウトドアトイレとか、ボットントイレとか、そっちの方が、ハエだの匂いだので却って不衛生になるので、簡易水洗式の公衆トイレをあっちこっちに設置して、なるべくそれを使ってもらうようにしてるから、結構な人数が生活しているにも関わらず、かなり高いレベルの衛生状態を維持できてる。
この辺は、エルフさん達は自然に優しく自然と共生する生活様式って感じで、その手の事に関しては、一日の長があって、色々アドバイスもらって、こんな風にしてみたんだけど、実に上手く行ってる。
魔石に極小魔法陣を直接彫り込む『彫石』……なんてのも本来、森エルフ秘蔵の技術らしいんだけど、もう親族でもあるからってことで、その辺は一切惜しみなしって感じで、提供してもらえた。
クロイエ様の話だと、王都なんかでも、人口集中とそれに伴う、し尿処理の問題は結構な問題になってて、ちょっと雨が降らなかったりすると、街中にアンモニア臭が漂いだしたりと、あまりよろしくない状況なんだとか。
中世ヨーロッパの大都市とか、そのへんが原因でペストの大流行とか疫病の蔓延につながって、洒落にならない人死が出てるからねぇ……こっちの世界も都市部の衛生環境問題は、魔法の存在で多少マシとは言え、深刻な問題には違いなかった。
このコンビニ村では、そんな問題、最初は色々あったけど、最近ではもうほとんど起きなくなってるので、ロメオの各都市でも同じ仕組みを採用しようか……なんて話になってる。
と言うか、エルフさんの汚水浄化システムがめちゃくちゃ出来が良いんだよ。
浄化の魔石は水につけとくだけで、水自身が持つ魔力の源……マナを使って半永久的に稼働し続けるから、メンテすら要らない。
長い間ほっとくと浄水池に周囲から泥が流れ込んだり、浄化しきれずに残ったヘドロが積もって浄化の魔石が埋まったり、水深が浅くなって浄化効率が悪化してくるから、定期的に池を浚渫して掘り返すなり、新しい浄水池を作る必要があるんだけど。
その程度の手間で事足りてしまう。
今まで、コンビニの下水なんかも日本に戻すような感じにしてたけど、この技術のおかげで、そこまでしなくても良いようになってきてるんだよねぇ……。
水も泥混じり川の水ですら、浄化の魔石で浄化することで、日本の水道水並に安全な水が文字通り、湯水のように提供できる上水道が完備されてきてるから、ライフラインに関しても、もう電気とネット回線くらいしか頼らなくて良くなってきてるんだ。
電気も水力発電を試してるところだし、そっちも時間の問題って感じだし……。
水だけはやたらと豊富な土地柄だから、むしろ絶賛、有効活用中って感じ。
ただ流石にネットは僕も色々便利使いしてるし、何よりゼロワン達は本国との常時ネットワーク接続が前提なので、割と必須だと言ってる。
まぁ、勝手にWifiネットワーク網とか作っちゃってるくらいだしねー。
なんだかんだ言って、日本とのつながりは美味しすぎて、簡単には手放させそうもなかった。
御寝処についても、ガスはプロパンのボンベを余計に送ってもらって設置した。
ガス工事なんて本来、免許持った専門家の仕事だけど、とりあえずドランさん達に配管とか組んでもらって、Webカメラを使って、日本の専門家に最終チェックを頼んで、お墨付きはもらってる。
お茶飲んだり、カップラーメンくらいなら、いつでも食べられるようになって、二階に設置したシャワーもお湯が出るようになって、これも好評だった。
全室クーラーがバッチリ効いてるから、それもクロイエ様がここに入り浸ってる理由にもなってる。
王都の人達も、クロイエ様が不在のことがすっかり増えてしまって、困惑してるらしいんだけど。
こっちにいながらでも、書類仕事や政務はきっちりこなしてるし、遠話水晶で呼び出せば、そっこー戻ってきてくれるので、文句も言えないらしい……。
その辺は陛下の意志が最優先されるのだから、仕方ないって思って欲しいところだった。
と言うか、王都サクラバのお城は無駄に広くて、四六時中誰かがつきまとって、厳つい軍人や大人ばかりで、元々あんまり居心地よくなかったらしい。
そんな訳で、この御寝処はすっかりクロイエ様の第二の我が家……みたいな感じで、夜はこのふかふかベッドでないと寝れないーとか、そんな調子。
女王補佐官にして、ナンバーツーの一人、アージュさんもこっちに居ることがほとんどなので、その辺もクロイエ様入り浸りの一因になってるのだよね……困ったもんだ。
警備についても、ウルスラさん達オーガ族の女性陣が24時間体制で周辺警備してくれてるから、これを突破するのは普通に無理だと思うし……狭いながらも、この御寝処、何気にロメオの政治中枢みたいになってるんだよなぁ……。
ちなみに本来、御寝処の出入りについては、僕に関しては顔パスなんだけど、ウルスラさんも初めて訪れるセルマちゃん達の為に、わざわざ大仰な誰何なんかまでしてくれたようだった。
職務上、親衛隊の子達とも交流が出来そうだから、自己紹介も兼ねてこんな感じの仕事なんだぞーと、実演してくれたんだろう。
ウルスラさんも何だかんだで、気遣いが出来る人だからね。
と言うか、この人意外と子供好きだったりもする……強面の武闘派に見えて意外な一面。
数少ない旧親衛隊からの残留組だけど、長年クロイエ様のお姉さんみたいな感じで側仕えをして来ていて、腕っぷしも確かだから、信頼できるメンツの一人ではあるのだ。
まぁ、唯一の難点は……飲むと脱ぎだすことなんだがねー。
この人と一緒に飲むと、高確率で18禁な感じの大人な飲み会になってしまう……亜人ってなんで皆、こんななんだろ? そこだけは、未だによく解りません。




