第四十三話「出撃! 親衛第一小隊!」①
そして、話は戻るっ!
要するに、「クロイエ様は俺の嫁! 俺の嫁はクロイエ様! クロイエ様、バンザイっ!」
いやぁ……今でさえ、美少女なのに15歳とか成長したら、もっと美少女になって、究極美少女になってまうんでは?
僕としてはもう、将来が楽しみでなりません……そんな訳で、リアルタイムの問題っ!
そう、目の前には一糸纏わぬ全裸美少女がっ!
なんと言うかすでに、この子の中では僕の嫁ってなってるみたいだけど、そこは別にいいんだ。
どのみち、この子を拒絶するような愚行は、僕の立場上、あり得ない。
素性が割れて、何処の誰か解った以上、もはや選択の余地など無い。
なぁに、少しくらい頭がメルヘンだって、構わない。
……まぁ、健全で、良いじゃないですか。
毎晩だって、こんな風に裸で同衾してくれるって言ってるんだから。
おまけに、キリカさんやランシアさんには、いまいち欠けている羞恥心ってものを持ってる上に、むしろ、この子……正統派ヒロイン?
ただまぁ、順番が気になるってのは解る。
一夫多妻の一家では、この嫁さん同士の序列ってのは、ものすごく重要な意味がある。
まぁ、うちではクロイエ様がトップなのは問答無用なんだが……そこら辺は、なかなかにデリケートな問題ではあるのだよ。
「……今は、六番目まで埋まってるから、順当に行って第七夫人? 言っとくけど、君の嫁入りについては、他の嫁さんから異論が出たら、駄目だから、今は仮予約くらいに思ってくれ……そこら辺の事情は解るよね?」
「はいっ! 我が家もお母様はたくさんいるから、解ります! けど、嬉しいですぅ! そう言う事でしたら、旦那様は私を受け入れていただけると……! いやはや、断られたら、お父様の所に泣きながら帰るしか無いって思ってたんですけど……ありがとうございますぅっ!」
「まぁ、公爵にも前に君のことを頼まれてたからねぇ……立場上、僕は君を断れない。妻として受け入れるのは、当然だと思ってくれ」
そう言うと流石に察したのか、ハッとしたような顔をすると、ショボーンと申し訳なさそうにする。
しまった……これは余計だったかな。
「で、ですよね……。お父様も宰相は物が解る男だから、拒絶だけはしないだろうって言ってましたが。……やっと意味が解りました……ゴメンナサイっ!」
ベッドの上で正座した上で、深々と頭を下げられる。
ちなみにやっと下着着てくれたんだけど、上はキャミソールみたいなのを着てるだけなので、前屈みになられると色々見える。
うわっ、この子……こうして見ると、やっぱ胸スッゴ! たわわって感じ!
頭を上げたところで、思いっ切り目があってワタワタしてしまう。
「どうかされました? あ、もしかして私の胸、見えちゃいました? 皆からも形が良いって、言われるんですよー。よかったらもっと見ますぅ? もう、旦那様にだったらいくらでもお見せしますし、昨夜も頬ずりとかしてくれて……嬉しかったですぅ!」
そう言って、キャミソールみたいなのの襟ぐりを引っ張りながら、グイって、にじり寄られる……近いっ! 近いーっ! モロ見えたっ! そりゃあもう、至近距離でガッツリと!
って言うか、頬ずりって……やっぱりやってたのかーっ! 良く覚えてないのが惜しまれるゥっ!
「いやいやいやっ! け、けど、どうなの? 君が僕の嫁さんに……なんて話になると、他の三大貴族、ロキシウス侯爵とマルステラ公爵あたりが黙ってないと思うんだけどさ! ちょっとマズいことになるんじゃないの?」
半ば押し掛け嫁入りみたいなんだけど、それとこれは全くの別問題。
この三大貴族は、お互いをライバル視してて、クロイエ様もこの三人を平等に扱う事で、バランスを取ってたらしいんだけど。
この子を僕の嫁に……なんてやったら、確実にそのバランスが崩れる。
当然ながら、シャッテルン公爵が大幅リードとなる。
そうなると、僕が具体的に何か口添えしたり、えこ贔屓とかしなくても、下の官僚やら各地の領主、下級貴族達は勝手に忖度し始めるだろうし、商人達やギルドも北方に投資を始めるだろう。
なにより、シャッテルン公爵家とその一族は、陛下の婿殿にして、宰相たる僕の親族と言うこととなり、議会などでも大幅に発言権が上がり、北方の人々は、大いに富み栄えることになるだろう。
実際、ランシアさんの嫁入りで、エルフの地位向上が確実となった事で、ロメオの各エルフ居住地に資本流入が始まり、北の山エルフの集落も結構みずほらしかったのに、あちこちに湧いてる温泉を活用したリゾート地開発とか、そんな話が行ってて、盛り上がってるらしい。
森エルフも……もういっそ、集落全員で何かと便利なコンビニ村に移住しようとか言ってるらしいし、アージュさんのせいで国内各所でエルフの公職進出がガンガン始まって、国外からのエルフの移民達の受け入れが始まってるみたいだし……。
この辺は、アージュさんが多忙さを理由に、世界中のエルフ達に「我もとへ集い、我が助勢となるのじゃ!」なんてやらかしたからなんだけど。
エルフ達にとっては、生き神様からの啓示なら、しょうがないよね? ってノリであっちこっちから民族大移動みたいな感じで、押し寄せて来てる。
もっとも、エルフはそんなに人数居ないから、移民爆発……みたいにはなってないんだけど。
他国では、一体何事? みたいな感じで、僕の所に直接他国の外務担当者がご指名で問い合わせてきて、その対応も割とバカになってない。
エルフ自体は、他国でも、山奥とか森の奥に引き篭もってる排他的な種族で、アンタッチャブルな空気扱いってところが多いんだけど、それがいきなり大挙して、人里に現れて、集団でロメオを目指す……なんて始まったので、困惑してる所が多いらしい。
とりあえず、他所には迷惑かけないから、黙ってお通ししてあげてくださいつって、各所に鼻薬を嗅がせるなどして、フォローはしてる。
まったく、黒子役は辛いぜー。
なんにせよ……僕の嫁になるってのは、関係者各位に絶大なる利益をもたらせる……これはもう、ロメオの各方面では、半ば共通認識となりつつある。
キリカさんやランシアさんも僕の側近のくせに何グズグズやってんだと、何気に周囲から猛プッシュ食らってて、その辺もあって、ゴリゴリに押してきたらしい。
聞いた話だと、あの夜、ラドクリフさんは、道端で寝コケてたキリカさんを叩き起こし、ランシアさんを追い掛けるように焚き付けて……。
もしも、僕が村に戻ってきたら、直ちに捕縛するように密かに同族に指示出ししてたらしい。
まぁ、僕の推理は当たってたわけだ。
どうもラドクリフさんも親衛隊という枷がなくなったロメオの貴族達が、パッと出の僕にここぞとばかりに、嫁攻勢を仕掛けてくるという情報を商人ギルドから入手してて、先手を打って、キリカさんと僕をくっつける……そんなつもりだったらしい。
ランシアさんとこも似たようなもんで、族長のイルハドさん肝いりで、まずリーシアさんが何かロクでもない目的のために開発してた惚れ薬のようなもの「魅了香」の調合書がランシアさんの手に渡るように工作し、あの時もランシア隊の子達が食堂周辺をガッツリ封鎖して、誰も入ってこれないように周囲を固めてたらしい。
当然ながら、あの夜の追いかけっこの最中も、ランシア隊は付かず離れずって感じで、ランシアさんのフォローに回ってたし、ラドクリフさんがキリカさんをフォローすべく送り込んだウォルフ族の一隊と連携して、あの一帯に包囲陣を敷いてたらしいんだけど……。
まぁ、僕は……と言うと、迷走しまくった挙げ句、ランシアさんの手のひらで踊らされてたような感じで、まんまと捕獲。
その様子を見て、彼らはミッション・コンプリート、お邪魔虫は退散だぜとばかりに、固く握手を交わし合って引き上げていったとか何とか。
後から知った割と壮絶な政治闘争の舞台裏ってとこだった。
なんと言うか、多分どう転んでもああなってたんだなぁ……と思う。
関係者の皆様、大変お疲れさまでした!
まぁ、とにかく……今考えるべきは、このセルマちゃんについてどうするか!
本人はお気楽っぽいけど、これは極めて政治的な問題なんだよなー。
さすがに、聡明なクロイエ陛下のことだから、貴族達のバランス崩壊が、マズいことになるってのは解ってくれるだろうから、この子も上手く説得してくれると思うんだけど。
第一夫人が難色示したら駄目だって事は、この子も良く解ってるみたいだし……。
実際、まだ何もしてないから、お手付き扱いにはならないだろう。
なにより、変な前例作ったら、お歳暮感覚で嫁が来るとか、そんな事にすらなりかねない。
他力本願と言うのもあれだけど、ここは第一夫人の聡明さに期待!
……なんだけど、まぁ、その前に自力で少しでも説得くらいしてみますかね……。




