第四十一話「新しい朝が来たら、朝チュンだった件について」③
さすがに、親衛隊の発足については、様々な人達の思惑が絡み、人選とかは、王都の軍監部とか、送り込む側の貴族達などが主体となって進めてくれたので、僕自身はほとんど関わってない。
なお、親衛隊の指揮官……隊長は僕ということで内定している。
本来、新規編成の部隊指揮官ともなれば、他の部隊からベテランの兵員や士官を引き抜いたり、縁故採用とかもバリバリやっても許されるとか、そんな調子なんだけど。
さすがに、貴族に深く関わっているわけでもなく、王都もクロイエ様と一緒に日帰りで行った事がある程度で、もう誰が何やら状態なので、完全におまかせとした!
ちなみに、親衛隊の駐屯地は目下クロイエ様が入り浸ってる、コンビニ村……って事になった。
元々、軍事的空白地だし、王都には従来からの近衛騎士団なんてのがいるから、一緒に置くのは問題ってのもあるし、なにより親衛隊の初の本格任務は、クロイエ様の初めての外交交渉、その随伴員となる予定だった。
そう、近々行われるオルメキアとルメリアの和平交渉会議にて、クロイエ様は泥沼の戦乱を調停し、平和をもたらした調停者として、その名を世界に轟かせる……そう言う筋書きですでに水面下の予備交渉が遠話水晶を使って、毎日のように行われているのだよ。
もちろん、その筋書き通りに事が運ぶように、絶賛暗躍中なのがこの僕なんだがね……。
今夜も深夜遅くに、帝国のロメオ交渉担当との秘密会談が行われる予定だった。
そして、親衛隊の子達も、その和平交渉の随伴員として、クロイエ様と遠征の途に旅立つ事になる。
初っ端からそんな大役とも言える任務への投入という事で、当人達も大いに盛り上がっているらしいし、その親御さん達も、色めき立ってるらしい。
なにせ、戦争ではなく、和平調停のお伴なんだからね。
その旅程はオルメキアを端から端まで横断する2ヶ月以上に及ぶ長旅で、相応の困難も予想されている。
もっともクロイエ様本人は、毎日御寝処にとんぼ返り……そんな感じで行く予定だった。
親衛隊の子達は、むしろクロイエ様はここにいますよーと他国の間諜や通り道となるオルメキアの諸侯にアピールするためのプロパガンダ部隊のような役割だったりもする。
とは言え、この役割は思われている以上に、重要な役目だった。
なにせ、クロイエ様の能力は国外には絶対に漏らせない最高機密であり。
その最高機密を共有するとなると、彼女達のような忠義篤い者達を使うのは、むしろ当然とも言えた。
この世界でもトップクラス同士が直接顔を突き合わせて、交渉……トップ会談ってのは、割とよく行われているので、案外各国トップってのは、しょっちゅう外征みたいな感じで、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しかったりもする。
それだけに、各国の諜報関係者は、その動向をつぶさに追っているし、親征なんてなると、遠巻きに数十人くらいは諜報関係者が随伴する……まぁ、そんな調子らしい。
そいつらの牽制や、機密保持の為の各種工作……影武者なんかもやってもらうことになるだろうし、恐らく親衛隊の任務はそんな感じになるだろう。
もっとも、そんな重要任務で長旅をさせるのが、貴族のお嬢様達なんかで大丈夫かとも思うのだけど。
怪我人や急病人は、クロイエ様に後方へ戻してもらえば済む話だし、半分くらいは後方で休養させて、ローテーションさせれば、そこまで負荷もかからない。
運用としては、そんな風に考えている。
何より、今回の和平交渉の仲介を皮切りにクロイエ様は、世界の調停者として、世界中を飛び回って、争いの種を一つ一つ潰して回る……そのようにお考えなのだ。
これは、リョウスケさんの示した筋道でもなんでもないのだけど。
正真正銘、クロイエ様が自分に出来ることを考えた上で、そんな構想を示してくれたのだ。
そして、その上で、僕にそれが可能かどうかを問うてきた。
僕自身の判断は、やってやろうじゃないか……この一言に尽きる。
一見絵空事のようで、クロイエ様一人では、とても叶わぬ夢物語だと言えた。
ルメリアとオルメキアの争いも、ルメリアも帝国に亡命した亡命政権と称するルメリア貴族が徹底抗戦を叫んでおり、どちらも引っ込みがつかない状況なのだ。
世の中の争いってのは、どれもそんな調子で、絡まった糸のようにこんがらがって、どこもかしこも手に負えない状況になってしまっている……だからこそ、この世界からは争いの種ってものがいつまで経っても無くならない。
そんなもつれた糸を解く……それは、根気が居るし、並大抵のことではたやすく出来ない。
けど、容易く出来ないというだけで、決して不可能ではないのだ。
こじれた利害関係を調整して、誰もが納得できるラインを示し、調停する……僕なら、そんな真似を出来るような気がするんだ。
……クロイエ様の往く道を、黒子として、暗躍し切り開くことで、その道を示す。
大いにやりがいがあるし、決して不可能ではない。
であるからこそ、僕は僕自身の進む道を決めた……これはもう不退転の決意なのだ。
僕はクロイエ様とともに、この世界を平和にする! これはもう決定事項だ。
そして、そんなクロイエ様には、僕のような裏で暗躍する胡散臭い味方だけでなく、共に日の当たる花道を進む、絶対なる味方が必要なのだ。
要するに、僕が親衛隊の子達にに期待してるのは、そう言う役どころ。
僕には決して出来ない役だ。
彼女達は、クロイエ様に貴族女性の社会進出という夢を見て、自分から進んでその一助になりたいと志願してきた子達なのだ……その時点で、クロイエ様の絶大なる支持者、味方と言える。
なにより、クロイエ様も厳つい野郎どもに囲まれるより、自分のファンクラブみたいな女の子たちに囲まれた方が気楽に決まってる。
この辺はアージュさんも賛同してくれたし、ウルスラさんも同様だった。
ウルスラさんも、以前クロイエ様に、威圧感ありすぎだし、悪目立ちすると言われて、結構気にしてたらしい……。
そう言う事なら、自分も裏方に回って、親衛隊の子達をガードする側に回るとまで言ってくれている。
なんと言うか……クロイエ様の理想に感化された者ってのは、意外と多いのだよ……まぁ、その筆頭はこの僕だと言う自信はあるのだけどね。
ひとまず、親衛隊の子達については、最初の段階としての、部隊編成や基礎訓練は完了し、王都から、馬車乗り継いでラキソム経由でここまで直接来るって話だったんだけど、一ヶ月くらい音沙汰なくて、ようやっと昨夜、このセルマちゃん達、第一陣の十人ほどが到着したところだった。
ちなみに、基礎訓練担当の軍人さん達からは「剣なんかも最軽量のオモチャを支給して、やっとサマになったけど、いいとこ学芸会レベルかなー」なんて言う投げやりなコメントやら、「お願いだからこの子達を戦場に送るような馬鹿な真似はしないで欲しい」と言う、切な気な嘆願で満ちていた。
第一期メンバーみたいな感じで、全部で50人ほど揃ったみたいなんだけど、全員集まったら、せいれーつ! とかやって、演説とかする予定。
なんにせよ、上級学院を卒業したばかりとなると、十五歳、十六歳とかそんなもん。
思いっきり子供ですがな……。
けど、士気とやる気だけは、めっちゃあるって、軍人さん達もそこだけは高く評価してた。
貴族女性が政治の道具扱いされているロメオ貴族の風潮に風穴を空ける……その為なら、多少の労苦は厭わない。
それが彼女達の共通した思いらしい。
そういう背景も知ってるだけに、僕もその思いを無下には出来ず、貧乏クジを承知の上で、隊長役も引き受けたのだよ。
ちなみに、目の前にいらっしゃる公爵令嬢の嫁入りの件も、ストレートに断るのも何だったから、前向きに考えておきますと言う、政治家答弁で逃げたんだけどね。
けど、相手もさすがに海千山千。
明確に断られなかったからって、しれっと親衛隊のメンバーとして紛れ込ませた……なるほど、シャッテルン公爵、そう来たか。
多分、上手くお近づきになって、嫁の座ゲットとか、そんな感じに吹き込まれてたんだと思うんだけど……。
実際は、夜這いして裸で隣で寝て、それでオッケーとか……せめて、まともな性知識くらい教えとけよ!
つか、なんだろうな……このツメの甘さ。
さすがおもしろワールドの住民だぜ……って思う僕も順当に感化されてるのかなぁ……。
「あ、あのー。旦那様ぁ? どうかぁ……されましたかぁ?」
色々考え中になってたけど、ホンワカ口調で現実に引き戻される。
「あ、ああ……色々考え事をだね……」
言いながら、改めて彼女を見つめてみる。
まぁ、普通に可愛い子だし、すらっと細身ながら、お胸さんはご立派で……こう言うのも悪くない。
ほんわかタイプって言うと、リーシアさんがいるけど、あれは真綿で棘を隠したヤンデレさんだ。
おまけに、ロメオ国内でも、軽くトップ5とか入るくらいの武闘派最高ランクの強豪だと証明されてしまった。
なお、余談ながら、リーシアさんも僕の嫁の一人だ。
ランシアさんの上、第五夫人という事で、そう言う事になった。
だって、ランシアさんのご両親に報告に行ったら、一緒に話聞いてるうちに、なんかヤンデレスイッチ入っちゃったんだもん!
ご両親の前では割と平静っぽくって、ランシアちゃん、おめでとうーなんて調子だったんだけど。
お見送りーって言って、村の外に出るなり豹変して、スイッチオン!
鋼草がにょきにょき生えてきて、地面をバッシバッシとえぐり出して、リーシアさんニコニコ笑顔のまま。
そう……あの隻眼ドラゴンスレイヤーさんを葬った時とまるっきり一緒!
マジでその場の全員の命の危険を感じたので「僕は、リーシアさんも愛してるんだーっ!」ってその場で告って、抱きしめながらズキューンとチューしたら、一気にデレて事なきを得た。
……ランシアさんやキリカさんは、とっても不満そうだったけど、あの人止める自信ある? って聞いたら、「無理」って答えが即座に返ってきた。
ですよねー。
武闘派筆頭、オーガー族、千人無双のウルスラさんですら「アレと戦うとか冗談じゃない」なんて、言わしめるほどなんだからね……僕では……どうあがいても無理。
幸いエルフ女子の言うところの「あの日」は、どうも初めて会った時がちょうど「あの日」だったみたいで、しばらくは賢者モードらしいので、至って健全な関係が続いてる。
ヤンデレスイッチが切れてる限りは、おしとやかで面倒見の良い、森の賢者様みたいなもんだからね。
「あの日」が来たら、色々覚悟完了せねばなるまいが、それも一年くらいは先だし……今は、大丈夫問題ない。
なんにせよ、リーシアさんの件は解決済みなのだ……解決済みなのだ!
とにかく、この子はこの感じだと、芯までふわふわのユルユル系だ……なんと言うか癒やし系。
身体は……ぶっちゃけ、とにかくエロい! この一言に尽きる!
なにこの、タユンタユンな感じの胸……それに、安産体型でご立派なお尻。
まさに、ボン・キュッ・ボン! 僕のような中年オジサンマインドの野郎にとっては、たまらん!
それでいて、気品もあって、絵に描いたようなお嬢様系。
ぶっちゃけ、いいなって思う……むしろ、ぽんこつなところも含めて、保護欲をくすぐる系だよな、これ。
今も着替えてる所をじっと見てたら、目が合ってすっげぇ恥ずかしそうにしてるし……。
こう言う反応、はっきり言ってイイッ! うっかり悶そうになったくらいっ!
萌ってもんを解ってるとしか思えない……あざとい!
裸で同衾とか、多分本人的にはすっげぇ、思い切ったんだろうな。
考えてみたら、隣が妙に暖かくて、思わずギュッと抱きしめとかやった記憶もあるし……本人的には、何されるんだろうってドキドキだったのかもしれない。
あのご立派さんの間に、顔埋めたりとかしてた……ような気がする。
シャツなんかもすっかり、甘ったるいような女の子の匂いが移っちゃってるし……これはヤバい。
朝っぱらから、脳天に血が上りそうになる……自制、自制、そ、素数数えるんだったかな?
いずれにせよ、向こうも相応に思い切った上での行動なんだし、それなりの事情もあるのは解る。
それを身も蓋もなく一刀両断ってのも考えものだ。
なにより、相手が悪い……公爵クラスの大貴族ともなると、僕の立場でもそれなりに顔を立てないといけない相手なのだから。




