第五話「キリカさんの異世界講座、はっじまるーよー!」③
「とにかく……この世界で、まっとうな商売やる以上、商人ギルドに加入するってのが基本なんやでー。もちろん、加入しなくても商売出来なくもないけど、面倒事ばかり増えるから、あまりお勧め出来んよ」
「なるほどね……商人ギルドか。キリカさんが加入してるとは言え、やっぱり僕も加入すべきかな?」
「せやな、奴隷のうちがライセンス持っとるとは言え、マスターはんも加入しといた方がええと思うで! モグリの商売人や闇商人共と、同類扱いされても困るやろ?」
「そうだねぇ……でも、ライセンスってやっぱ、一国限定みたいな感じなのかい?」
「違うでー。商人ギルドは冒険者ギルド同様、原則中立の大陸規模の組織なんや。AやSランクにもなれば、国境はフリーパスやし、どこ行っても色々優遇されるでー! 国によっては、兵隊が護衛してくれたりもするんやで!」
……すげぇな商人ギルド。
国家の枠を超えた超国家相互互助組織とか、そんなもん地球にすら無いぞ?
冒険者ギルドってのも、相当な規模だろうけど……多分、その商人ギルドは、国家にも匹敵する一大勢力なのだろう。
……なにそれ怖い。
「……それって、どの国も例外なし? 帝国ってのは、獣人を目の敵にしてるって話だけど、ライセンス持ってれば、僕らが近づいても平気なのかい?」
「んー、うちら獣人はなぁー。どう言う訳か、昔から帝国に、やたら目の敵にされとるんや……。帝国だけは、例えS級ライセンス持っとっても、うちら獣人がうかつに近付こうもんなら、色々難癖つけられて、良くて財産没収されて、国外追放。最悪、その場で殺されかねんらしいからな。ギルドからも獣人の商人は、帝国とその勢力圏内には、なるべく近づかんように通達が出とるくらいなんや……」
……酷い差別だな。
英雄王をだまし討した挙げ句、グダグダに終わった侵略戦争……。
獣人を目の敵にしてるようなその国是……帝国ってのが碌でも無い国だってのは、僕にだって解る。
自分らの国よりデカい国土の国を侵略して……とか、普通に考えて無理ゲーだろうに……。
殲滅戦争とか、やられる側だって、追い詰められたら死に物狂いの抵抗をしてみせるなんて、常識だっての……。
結果的に、安定してた世界に、混乱と混沌をばら撒いてって……どんな悪の帝国だよ。
こう言う利害関係を突き抜けて、訳の解らんことをする独裁国家とか、考えうる限り最悪の国だよな……。
もうひとつの法国ってのは、宗教国家らしいし……宗教ってのも、大概クレイジーだからな……。
帝国が弱った隙に、これ幸いと聖戦とか言って、戦争仕掛けたりしてるあたり、思いっきりクレイジーだと見ていいだろう。
この世界の人族の国……まともな国の方が少数派だとは……酷い話だな。
「……なるほど、僕ら獣人にとっては、帝国が厄介な存在なのはよく解ったよ。ところで、商人ギルドの加入となると……やっぱ、街まで出向かないといけないのかい? それと加入試験とかあったりするのかな?」
……正直、街には行ってみたい。
異世界の街とか、どんなのが売ってるのかとか……どんな人達が住んでるのかとか。
そりゃあ、興味も湧く……魔法とかも、使えるなら使ってみたい!
魔法学園とかあったりしないのかな?
従業員だって、5人は少ない……。
どうも何かと物騒なところみたいだから、専任の警備要員だって欲しいし、仕入れ専門の輸送要員やその護衛だって必要になるだろう。
この付近のことだって、自分の足で歩き回ってみれば、色々発見があるかもしれない。
ミャウ族っても、ミミとモモはいい子みたいだけど……いかんせん身体が小さいから、戦力としては微妙だ。
それに、多種多様な人種がいるなら、普通の人族とかもスタッフに入れた方が良いのは間違いない。
でも、歩いて一週間となると遠いな……往復で二週間。
僕が店を空けることが出来るまで、皆の熟練度を上げて、留守を任せられるようにする。
可能なら、さらなるスタッフの増員も……バイト募集の張り紙貼っといたら、誰か来てくれるかな?
……うん、お金儲けもだけど、そこはやっぱ優先しないとだね。
商売ってのは、一人じゃ出来ることなんてたかが知れてる。
如何に、信頼できる有能な従業員を多く揃えるか、それがキモと言っても過言じゃない。
……人は大事、大事……ホントに。
「せやな……試験っても、最低限の読み書き計算が出来るかどうかの確認とか、そんなもんやで。あとは加入料を納める……それくらいかなぁ……。ホントは、商人ギルドの支部くらいまで、出向かないとアカンのやけど。この街道は、モグリの商人の取締でギルドのモンが巡回してたりもするからな。うちもいることやし、そいつにギルドに入りたいって言って、現場で加入手続きってのでも、構わんらしいで!」
なんだ、その……漁協の鑑札みたいなのは……。
まぁ、そうなるとそこまで厳格なものじゃないってことか。
この世界の文字は……どう見ても、ミミズがのたくったような暗号にしか見えないんだけど。
何故か、その意味は手に取るように解った……なんか、僕にもマルチコミュニケーションスキルってのが持たされてるのかもしれない。
……要するに、あんま深く考えなくても良いのかもね。
とにかく、今ある商品だけでも売り切って、この世界で活動するための、軍資金を手に入れる。
そして、商人ライセンスを手に入れて、大手を振って商売人ライフを始める!
まずはそれだな……いやはや、キリカさん情報のおかげで、やることがしっかり見えてきたね。
「んじゃ、世界情勢は大体解ったから、次は自己紹介でもさせてもらおうかな。僕は高倉健太郎……年は37歳……おっさんだよね。種族はご覧のようにネコ耳族だね。このコンビニのオーナー、要するに一番偉い経営者ってとこだな……これで解るかな?」
元は普通の人間だったって事は、テンチョー以外には伏せといた方が良さそうだった。
この世界の情勢を聞く限り、人間と獣人の間ではそれなりの溝があると思っていいだろう。
まぁ、ネコミミと尻尾が生えた以上、この世界では、僕は人間ではなく獣人扱いされるのは間違いない。
立ち位置としては、問答無用で獣人側。
キリカさん達もこんな風に最初からフレンドリーだったのは、自分達と同じ獣人だからってのが大きいんだと思う。
普通の人間……人族からはどうせ、人間扱いされなさそうだし、うん、きっぱり人間やめます!
僕は、ケモミミの為に、ケモミミを友として生きるケモミミフレンズ……これでいいや。
そういや、考えてみれば、もし日本に帰れるあてがあっても、これじゃ帰れないよな。
……ネコ耳猫尻尾おっさん。
誰得な上に、いいとこテレビのバラエティ番組に出してもらえるとか、そんなんだろう。
珍獣扱いとか御免こうむりたい。
元々、帰れるなんて思っちゃいないし……。
テンチョーはネコ耳少女になって、ベタベタだし……大事なコンビニもここにある。
……なんだ、僕の大切なものは、ほとんど全部、ここにあるじゃないか。
親父達は……東京23区の一等地のマンションもあるし、年金もらってるし……。
別に心配はしちゃいない……異世界で元気にやってるって、伝えるくらい出来たらいいんだけど。
まぁ、そこまで望むのは贅沢ってもんか。
前向きに……この世界で生きていくことを考えよう。
「要するに、マスターがボスって事なんやろ? その辺は解るでー! ミミ、モモ……この人がお前らのマスターさんやで! ちゅうか、いつまでも食っとらんで、自己紹介くらいせいや! せっかくマスターはんが人語話せるようにしてくれたのに、お前ら美味い美味いとしか喋っとらんやんけ!」
「は、はいっ! わ、私……モモです……。あ、あの……い、いじめないでくださぃっ!」
ロングヘアのおチビさん。
最初の返事だけは勢いあったけど、右肩下がりで小さな声になってしまい、最後の方は蚊の鳴くような声。
おまけに、じんわりと目尻に涙を浮かべてる……。
……な、なんかキュンってなった。
守ってやりたい……思わず、そんな衝動に駆られる小動物系ロリ。
……思った以上に、破壊力あるな。
おじさん、思わずドキッとしちゃったよ。
「い、いじめないよ……大丈夫だからっ! ねっ! 泣かないでっ!」
なんか、僕が悪いような気がしてきた……実際、悪いのは確かなんだけど……。
とりあえず、笑いかけると安心したように、はにかんだ笑顔をみせてくれる。
「は、はい……あ、あの……美味しいご飯……ありがとう……ございました」
かわいいっ! 衝動的に、ギュッとしたくなったけど。
それやったら、事案です! パワハラですっ!
「そ、そんな恐縮しなくてもいいよっ! ちゃんとお仕事してくれるなら、毎日ご飯もちゃんと食べさせてあげるから!」
「……ホ、ホントですか! それに私、皆さんと言葉……通じてるんですね……。なんだか、嬉しいですっ!」
うん、すでに採用済みだけど、改めて採用決定!
なんかステータス見た感じだと、治癒術とか元素魔術とか書いてあったし、この娘って魔法使いなのかも。
いいぞ! いいぞ! 逸材ゲット! 強制雇用バンザイッ!
MITT作品恒例のロリキャラ、モモちゃんです。
特徴:かわいい。




