第四十話「萌える月夜にニャオーンと吠える」
「そっか……要するにこの子はお咎め無しってことね。良かった良かった! なら、これで一件落着ね。まぁ、一応私も上で話聞いてたけど、同情には値するって思ってたんだ……寛大な沙汰ってヤツだね。さすが高倉オーナー……偉くなっても、そう言う甘いところは変わってないって事ね!」
「それ、褒めてるの?」
「一応……褒めてるつもりよ? さすがに裸にひん剥いて、エッチな拷問とか言ってた時は、どうしよって思ってたけど。そこまではしなかったしね。ところで、その子……簀巻きにして、鍵のかかる地下室にでも放り込んどく? そっちのおっかないアンちゃんは……その気になれば、鍵とか関係ないだろうから、扱いに困るね……どうしようか? と言うか、なんか妙に、幸せそうな顔で寝てるみたいだけど、何をやったの?」
「サトル君とは、単に旨い酒を飲み交わしたってだけかな……少なくとも僕はもう、彼のマブダチのつもりさ。まぁ……いつも通りだよ……少なくとももう害はないと思う。幸せな夢でも見てるような感じだから、このまま寝かせておいてやってくれ。この娘は……そうだね。とりあえず、コンビニの二階のベッドにでも、運んでおいてくれ……。テンチョーに預けとけば、絶対逃げられないだろうからね。一応、これでも怪我させないように、手加減はしたつもりだよ。本当は、彼女を辱めるつもりもなかったんだ」
一応、無力化狙っただけで、パンツ脱がせようとか思ってなかったしー。
エッチな拷問云々は、この子が勝手に邪推して吠えてただけだしねぇ。
そもそも、拷問って何を聞き出すんだっての。
さすがに毛も生えてないようなガキンチョなんて、ストライクゾーンどころか、大暴投ってくらいには、僕の好みからは外れてるのだよ。
うん、実物見て、びっくりするくらい萎えた。
アージュさんだって、少しくらいは生えてるし、ミミモモなんかは、どっちもハタチなんて言うだけあって、割とみっしりだったりする……と言うか、ミャウ族の子達って割と毛深い。
本来は、服なんか着る習慣なんて、なかったらしいんだけど、他の種族は服着てるからって理由で服着てるだけらしい。
ちなみに、身近な女性の最年少、クロイエ陛下もああ見えて、すでにつるペタは卒業なされているのだ。
不敬かも知れないが、僕が一人温泉でくつろいでたら、たまたまご一緒する機会があって、その時嫌が応にでも視界に入ってしまって、その事を知ったのだよ。
何ていうんだろう……あの裸体は、もう芸術作品も同然だった。
美しい……美の女神ってのがいるとしたら、まさにあんな感じだろう。
クロイエ様くらいの立場の人になると、別に野郎に裸見られるとか全く気にならないらしく、終始堂々たるものだった。
おまけに、お背中流したら、僕の背中を洗ってくれたのだ……もはや、感動っ!
その一件で、僕の彼女への忠義はますますもって、不動のものとなったんだがね。
クロイエ陛下……やっぱ最高です! 陛下バンザイ! もう、自分、死ぬまでお仕えいたします!
それに引き換え、この駄ロリ……下品な口調も、勘違いっぷりも駄目だし、いいトコってもんがまるで無い。
……まぁ、レインちゃんは、僕的にはアウトオブ眼中だ。
あまりに雑魚過ぎる! あんな理由で戦意喪失してたら、この先生きのこることなんて出来やしない。
キリカさんとランシアさんのガチ喧嘩とか、終わる頃には大抵、どっちも全裸になってるからねぇ。
どっちもお互い怪我とかさせないように配慮してるらしく、攻撃対象が着てるものになるから、そうなるんだけど……。
そばで見てる分にはとっても、眼福です。
つるペタロリなら大好物な紋次郎くんあたりだと、あの恥じらいの表情だけで、ありがとうございますとか言って、モロに食らったりしてそうだけど……。
僕は、あの境地には程遠いし、あの性癖は別に見習いたくもないし、憧れません。
でも……うーん、なんと言うか……ちょっと欲求不満な感じだなぁ……。
ちょっと、今夜は獣人の血が騒いでる感じだ……無性にムラムラする。
有名な台詞だとあれだ。
「性欲を持て余す」
……ちょっと久々に悶々崎先生のお世話にでもなっちゃおうかなー。
「さすがオーナーさん、ですねー。けど、この娘……同じ女子としては、あんなズロース脱げたくらいで、戦意喪失とかどんだけヌルいんだって、言いたい所ですけどね。ただ、ああ言うやり方で、戦意を刈り取る……なかなか巧みですね。もっとも、私やキリカには通用しませんけどね……なんでしたら、ちょっと試してみます?」
……なんか、話の論点が一気にずれたって気がするよ? ランシアさん。
確かに、ランシアさんは組手とかの時、スカート姿でハイキックとかやってくるし、組み合って、ポロリとかチラリとか、稀によくある。
僕の水魔法の直撃を食らって、スッケスケとかも日常茶飯事だ。
今だって、そんな事を言いながら、スカートめくりあげて、太ももチラ見せとかやってて……うぉうお……これはっ! もう、間違いなく誘ってる……。
思わず、その白い太ももに視線が釘付けになって、喉がゴクリとかなってる……。
シオシオだったアレも、ムクムクバキーンッとパワーアップ!
「あ、あれ? オーナーさん、今日はちょっとケダモノな気分だったりする? ふふっ……実は私も……なんてっ! 今夜は満月……亜人も獣人も燃え上がっちゃう夜なのよね。ねぇねぇ、ちょっと一緒に森のパトロールとかどう?」
ランシアさんが僕の下の方をチラ見しながら、妖艶な笑みを浮かべる。
やっべぇ、ランシアさんにパワーアップ状態なのが、バレた!
つか、僕らって、そんなんだったんだ! どおりで……納得だ。
嬉しそうに、ランシアさんが僕の耳元に熱い吐息を吹きかけながら、僕の手を取ると、太ももに導く。
ふごぉっ! ラ、ランシアさーんっ! 今日も太もも、しっとり、やわやわっすねーっ!
その細身の体も、ほんのり漂う森の香と甘い香りをミックスしたみたいな体臭も……たまらんっ! ランシアさんって、こんな素敵な女性だっけ?
気がつけば、レインちゃんはランシア隊の人達が運んで行ってしまったし、サトルくんは肩に毛布かけてもらって、高いびき。
ランシア隊のメンツ……考えてみれば、ランシアさんは隊長さんだ。
そりゃ、当たり前のように忖度くらいするだろ。
最後の一人がランシアさんに、隊長頑張ってと言わんばかりに、サムズアップして、ささーっと出て行く。
かくして、ランシアさんと、二人きり。
絶賛、お誘われ中で、僕も性欲を持て余す状態で、バッキバキにステンバイ、ステンバーイ……。
ランシアさんの魅力度もなんか、通常比5割増しくらいに感じる……。
普段、中学生とか、むしろ子供っぽく見えるのに、ここにいるのは間違いなく大人の色香漂うイケてる女性……ああ、ランシアさぁん、もう好き好きです……。
じゃなくてっ! これは……なんかやられたような気もする。
いつも以上に素敵に見えるのは……何かの魔術? っぽいな……ランシアさん、こう言う精神系も得意……。
考えみりゃ、「魅了」とかそんなのも魔法としては、定番だしー。
いずれにせよ、このまま頷こうものなら、人気のない森の暗がりに連れて行かれて、大人の野外プレーイが始まるのが目に見えてる。
うぉおおおっ! 今のこの僕に、この誘惑を耐えきる自信はないっ!
むしろ、今すぐ押し倒して、このヤワヤワな太ももに頬ずりとかして、スカートの中の秘密の花園に手ぇ突っ込みてぇっ!
ふぬごぉっ! 想像しただけで、もはや、弾けんばかりにギンギンに漲ってきた……だがしかしっ!
……僕は、あくまでストイック……優柔不断の紳士でないといけないんだーっ!
「ラ、ランシアさん! ぼ、僕と一緒にランニングしよう! 軽くフルマラソンコース! 42.195キロ行ってみようっ!」
「え? ちょっ! この流れで何言ってんの? そんなに走ったら、ヤル元気なくなっちゃうって! ほ、ほら、私……良い感じの所、知ってるんだ……歩いて、すぐだし、膝枕だってしてあげるから! ねっ! おっかしいなぁ……「魅了の香」効いてないのかな? せっかく、お姉ちゃんの部屋から調合書盗んでまでして作ったのに……失敗だったのかなぁ……」
ランシアさんが焦ってる……どうやら、僕のこの反応は予想外だったらしい。
つか、やっぱり……。
「魅了の香」ってこのランシアさんから、香るイイ匂いか……。
……自分からバラすなんて、このおちゃめさんめっ! 失敗どころか、しっかりがっつり効いてるよっ!
だがしかしっ! 健全な精神は、健全な肉体に宿るのだっ!
怪しげな魅了の香水も、この邪な欲望も……健全パワーでもみ消すのだっ!
こうなったら、今夜はもう……力尽きるまで、ランシアさんと走り続けよう!
そして、鏡の前で渾身のマストモスキュラーでもキメて! 水シャワーでも浴びて、プロテイン食って、牛乳飲んで寝よう!
健全バンザイっ! 18禁展開なんて、断固阻止っ!
ごめんよっ! 僕は……僕は……健全でないとイケない定めなんだーっ!(血涙)
ああ、もうグダってきたから、締めるよ! 締めっ!
そんな訳で、モンジローくん来訪から始まった、一つの戦いが終わったのだ。
終わりなき戦乱を続けようとしたオルメキア。
そして、その背後に潜んでいた平和を拒む、女神の使徒とのいざこざは、こうして片付いたのだった。
――終わってみれば、悪人なんて誰も居なかった。
彼らもまた女神の犠牲者と言えるのだけど、女神様も単に無軌道なだけで、別に悪いやつじゃないんだ。
けれど、誰もが自分たちの正義と理想の為に戦い続け、戦いの虚しさを知ることとなった。
そして、誰も傷つかず、皆が笑顔になれたんだ。
この結果は……その事に誰もが気付いたからこそ、得られたもの。
世界平和への道。
……その第一歩が、こんな森の片隅で、それは確実になされたのだったーっ!




