第三十九話「神去りしあとには」③
「ぐぬぬ、キッモイ動きすんじゃねーっ! ああっ、キモい! キモい! キモーいっ! もういい、とりあえず、これでも食らって死ねっ!」
レイン司教が喚き散らしながら、テーブルの上のビール瓶をロケット弾みたいな勢いで投げてくるのだけど、華麗なるマトリクス避けで、回避余裕っ!
目前を通過するビール瓶をハッシハッシと軽く掴み取ると、脚の筋力だけで起き上がる。
そして、王冠を歯で引き抜いて、ペッと吐き捨てて、グイッと飲む!
うーん! これぞまさに男飲みっ! 前に映画でやってて、カッコいいとか思ってたけど、マジでカッコいい!
それに、やっぱ赤ラベルは美味いぜーっ! さすがアカヒ、スゥパァ、ダァアアアイッ!
「……はははっ! 悪いねぇ! ちょうど喉が乾いてたんだ、あんがとさん! うん? 三人がかりで挑むとか、僕もモテモテだぁ……良いだろうまとめて、全ロリでかかってこい! 」
そう言い放つと、レイン司教が冷たい目で僕の股間を見ていた……。
おっと、僕とした事が……戦に及んだ獣人あるあるなのだよ。
身も心もケダモノだからなっ!
しっかし、視界がブレブレだなぁ……思ったより、酔いが回ってるぞ……これ。
だがいいぞ、丁度いいハンデってとこだな! それにしても、意外とこう言う冷たい目で見られるのも、それはそれで悪くないな。
「ハッハーッ! ロリっ子ちゃんも少しはこういうのに興味あるのかね?」
「汚らわしいっ! そんなものを見せつけるなんて……この汚れッ!」
「……ガン見してたの君だよ? なぁに? 興味津々のお年頃だつたりする? いやぁ、まだ早いっしょ!」
「うっ! うるさい……真面目にやる気あるのか! ちゃんと戦えーっ!」
もはや、余裕って感じなのだが、実際余裕なのだ!
なにせ、今の一連の攻防で解った……僕とこのロリっ子では圧倒的な戦力差がある。
魔力封印の首輪をオーバーロードさせて、破壊するほどの魔力保持者。
強化魔法で動きが早くなってるし、この細腕でなかなかの攻撃力。
実戦経験もそれなりにありそうだ……並の人間相手なら、大の大人が苦もなくノックアウトされるくらいには強いだろう。
だがしかし、『世界を見通す猫の瞳』に加え、筋肉増強パワーアップ魔法『鋼の如く我が豪腕』を発動した僕の敵ではない。
しかも、地味に改良を加えたフェイズ2だ。
その効果は全身に及び、鉄の棒をアメのように捻じ曲げる超パワーに加え、鋼の筋肉は大抵の物理的打撃を軽く受け止める。
かつて、発動した究極筋肉魔法『マ神招来』の限定版だ。
攻防一体のチートレベルの身体強化! パワーだけならラドクリフさんどころか、オーガー族のウルスラさん(ノーマルモード)と張り合える程なのだ!
そして、『世界を見通す猫の瞳』によって得られた圧倒的な動体視力と、猫獣人ならではの柔軟な身体……素手での戦いと言う事なら、この僕の戦力は、おそらく32万は硬い!
むしろ、レインちゃんの攻撃の全てを圧倒的な腹筋で受けきった方がカッコよかったか……そんな事を考える余裕すらある。
要するに、僕が本気出せば、余裕で泣かせる……その程度の相手だ。
と言うかヒーラーなんだから、むしろ守られ系なんでしょ? どんぐりの背比べかも知れんが、少なくとも僕の方が強いっ!
「そろそろイクぜーっ! ニャオーンッ!」
いつまでも避けてても何だから、壁や天井の梁を蹴って、瞬時に目の前に迫るっ!
「なっ! なにそれっ! きゃああああっ!」
「ヒャホォオオオオッ! 戦利品ゲーツッ!」
すれ違いざまに、彼女の髪を止めてたリボンをゲット!
「くっ……コイツ……。いきなり、動きが良くなったし、その手足のムキムキな筋肉……キモいっ! なんなの! つか、返せっ! ソレはサトル様から頂いた大切な……」
うん、リボンからは甘酸っぱいような匂いがする。
美少女臭ってか? うーん、これは……漲るねっ!
「ふむ、芳しいかほりとは、まさにこのことなり……つか、オシャレな模様じゃん、ちょっと借りるよ!」
リボンを広げて、ターバンみたいに頭に巻いた上での完璧なフロント・ダブル・バイセップスが決まった! 見たかぁああアッ!
「なにそれっ! 最低っ! んなキモいポーズで上書きされちゃったら、それ二度と使えないじゃない……」
「イイねコレっ! ちょっと当社比120%ってとこだよ……ああ、満足した。悪かったね……返すよ……! いやぁ、さすが美少女と言うだけあって匂いも堪らなかったよ」
レインちゃんの足元へリボンを投げよこす。
ああ、満足した。
「い、いらねぇえええっ! 許せないッ! お前だけは許さないっ! ……お前にだけはッ! 絶対にッ! 負けないッ!」
ヒステリー気味な感じて、リボンを拾うどころか、入念に踏みにじって、ストンピングをしてる。
リボンで縛って纏めてた髪も崩れて、酷いことになってる……。
むぅ、大事って言ってた割には、随分な扱いだった。
もしかして、潔癖症なのかな? そりゃまた、難儀なことで。
「むふふーん、許せなきゃなんなんだい? 軽く返り討ちにした上で、ひん剥いてお楽しみタイムにでも持ち込んでやるわっ!」
サイド・チェストをムキーンと決めながら、中指でビシィっと指差すと、胸ガード体勢でゴミでも見るような目で見返される。
「こ、こいつ……解った! さては、勝ったら、脱がした上でエッチな拷問でもするつもりね! い、いくら私が可憐な美少女だからって、最低過ぎて反吐が出る……! もういい、殺す……殺した上で浄化の炎で、その魂までも焼き尽くしてやるっ!」
なんで、そこまで恨まれるのか良く解らないけど……凄い恨まれっぷりだった。
もっとも恨みと言うより、要するに八つ当りなんだろなーなんてことを思う。
そもそも、間違ってるのは、このロリ娘だ。
そして、多分、本人もその事に気付いているんだ。
けど、認めてしまったら、これまでの自分の行いのすべてを否定するようなもの。
間違ってるのを認めるくらいなら、間違いを気付かせた諸悪の根源たる僕をブチのめす!
何の解決にもならないのは明白なのだけど、その気持ちは解らんでもない。
……八つ当りでもしなきゃ、やってられない……解るっ!
だがしかしっ! この高倉健太郎っ!
……ロリっ子の八つ当りなんぞを甘んじて受けてやるほど、優しくないのだよっ!
そんなもん、踏み潰して蹂躙して、泣かせてやるわ!
ああ、でも泣かせるのは、可哀想だから、泣いたら、くすぐり地獄の刑くらいで勘弁してやるかなぁ。
……僕ってば優しいなぁ。
「ブハハハハっ! 理不尽なヤツ当たり上等……だが、もっとだ! もっと圧倒的な暴力で僕を屈服させてみろ! この駄ロリっ子風情がっ! いいか、世の中ってのは弱肉強食なのだ! 弱いやつは泣き、強いやつが笑うのだ! お前は一体どっち側なんだい?」
「弱きは救われ、強きは挫かれるべきなのです! あなたは間違ってます! その穢れた魂こそ、今すぐ清められるべきです!」
「んんんー? 御託は要らんよ! お前が弱者かそれとも強者なのかは、この僕が判定してやるよ! くッくっく、泣け、喚け、そして絶望しろっ! もっとも、さすがにお子様に泣かれたら、僕にも良心ってものがあるからね。その時点ですべてを許そうじゃないか……」
「ふざけるな! お前のような奴に良心なんぞあるものか! この邪悪の化身! 正義を歪め、この世の悪を煮詰めた存在……それが貴様だっ!」
「クックック……なんでもいいよ。いいから、さっさとかかってこいよ! なぁに、手加減くらいはしてやるから、安心して散れっ!」
手首をクイクイッと曲げて、かかってこいのジェスチャーを決める!
口の端からブシュルルルと、音を立てて漏れる息がアルコール臭いけど、身体のキレはむしろ、いつも以上……もう絶好調だぜ!
所詮は、ロリっ子……ランシアさんみたいに、足の指先一つで精神崩壊しそうになる激痛を与えてくるとか、そんなレベルには程遠い。
もう、舐めプ状態だけど、容赦などしてやらん……こうなったら、徹底的に泣かす!
「んだとっ! コラァッ! って言うか、ロリっ子舐めんなっ! こんにゃろーっ! ムキーッ!」
どう仕掛けてくるかと思ったら、全然腰の入ってないどストレートからの、駄々っ子パンチ乱舞……。
ストレートを軽くバックステップで避けて、そのデコに手をやって、目一杯突き放すとそれは尽く空振りする。
なんだこれ? 全然駄目じゃん。
ええっ……これだけ盛り上げて、こんな?
思わず、小馬鹿にしたようなため息が漏れる。
これじゃ、まるで僕が一方的にいじめてるみたいじゃないか。
それなりの使い手のはずなのに、頭に血が上りすぎてるらしく……この有様。
リーチの差……文字通り、大人と子供の喧嘩……これじゃ、話にもならない。
と言うか、これがお子様の限界ってとこか。
天才だの司教様とか言われてても、所詮はこんなもんだ。
向こうも、リーチの差が絶望的だと悟ったらしく。
一歩下がって飛び上がっての上段回し蹴り……けど、そんな見え見えのケリっ!
「あまーいっ! 当たるものかよっ!」
僕も意味もなく空中に飛び上がると、一度両手を交差させてカッコいいポーズをキメつつ、クロスガードッ!
だが、相手もさるものっ!
勢いに任せて、回し蹴りを蹴りぬくと更に空中で、それを踵落としに変化させてきたっ!
「消し飛べーッ! ギロチンセイバーッ!」
魔力を乗せた重い一撃……思った以上の威力っ!
思わず、クロスガードが外れ、そのまま空中で吹き飛ばされる!
「ムゥッ! やるな……だが、この程度っ!」
頭からの落下コースにも関わらず、軽く片手を床に付いて、ニャンパラリンと身体を一回転させて、華麗に着地!
いいぞっ! ダメージはないっ!
うむ! やっぱり僕も確実に強くなってる……かつての僕なら、あんな魔力を凝縮させた一撃、とても耐えられなかっただろう!
これもひとえに、努力、友情……そして、愛!
僕をここまで鍛え上げてくれたランシアさん、キリカさん、それにアージュさん!
皆の思いが僕を支えてくれている! 負ける気になんて、これっぽっちもないっ!
だが、着地の隙を逃さず、ロリっ子の更に加速させた回し蹴りが迫る!
早いっ! 明らかに最初のよりも倍近い速度が出てる……加速魔法か! このロリ娘……やるっ! 実際、すげぇドヤ顔してるしっ!
けど、加速魔法なら、ランシアさんがよく使ってるから、こちとら食らい慣れてるんだよっ!
このいきなり攻撃速度や動きがギュンッと上がるヤツなら、すでに見切ってる……ランシアさん、ありがとうっ! あの時のパンチラ、最高でしたっ!
僕は迫りくるそのアンヨの軌道を読むと、正確にそれをハッシと掴んで、余裕受け……必然的にロリっ子シスターおパンツ全開! まぁ、お下品っ!
ふっ、いつかのランシアさんの再現フィルムのようだな。
「ば、馬鹿な……私のギロチンセイバーを正面からうけとめた挙げ句、続くバーストトルネードスピンキックですら、見切るのか! なんてやつだ!」
なんか、技名あったらしい。
しっかし、ガードル付きニーハイソックスに、フリフリいっぱいの白ズロースとはまた……。
けど、こんな全開パンチラ……全然、萌えないなぁ。
と言うか、ズロースってなんだ! パンツじゃないから恥ずかしくないってか?
許せん! 美少女相手のバトル展開での、パンチラ描写やお色気展開を期待してた読者だって、ガッカリだ!
ガッカリ感の挙げ句、思わず怒りがこみ上げてきて、アンヨを握る手に力がこもる。
「い、痛っ! くっそーっ! 離せっ! こんにゃろーっ! つか、どこガン見してるのよっ! このクソネコ野郎っ!」
「まったく、つくづく萌えという物が解っとらん残念ロリだな……ええい、こうしてやるわっ! おー仕ー置きーだぁっ!」
ちょいと手を伸ばして、ズロースの腰紐を引っ張っると、スルッと抜けた……一瞬の早業、相手は全く気付いてない。
まぁ、どうなるかは仕上げはご覧じろってヤツだな……ふひひ、サーセン。
やっちまいましたわ。
大丈夫、まだ健全だ。




