第三十九話「神去りしあとには」①
それから……。
エロトラップダンジョン前でってのも何だったんで、モンジロー先生と一緒に、三人もコンビニ村までご同行願ったのだけど。
三人共、一気にお通夜モードになって、おとなしくなったので、問題なく、同行してくれた。
ミリアさんは、遅い時間だったけど、クロイエ様が来ているのを知ると、取り次ぎを頼んで来て、今も国家レベルの代表交渉って事で必死の交渉中。
どうも色々ありながらも、自分が今、優先すべき事はなにかってことを思い出したらしく、自分の本来の役目に徹することにしたらしい。
……偉いっ! さすが僕も認めるほどの逸材なだけな事はあった。
クロイエ様もおネムの時間だったけど、ミリアさんの真剣な様子に付き合ってくれたようだった。
まぁ、オルメキアへの対応方針については、前々からちゃんとクロイエ様とも話し合ってたから、話し合いについては、クロイエ様とその補佐官たちにお任せした。
曲がりなりにも国のトップが相手なのだから、無礼どころか最高レベルの対応って奴だろう。
ひとまず、こっちはこれで問題なし。
レイン司教は、イザリオ司教の所に連れて行って、お話し合い中。
さすがに、今回の件は彼女の暴走を止められなかった教会側にも問題ありって事で、教会側での相応の処分を検討するって事で、身柄を引き取ってもらった。
これまで教会側が被った迷惑や筋違いの苦情などや、立て替える羽目になった被害額請求など、諸々を精算した上で、正式に破門を言い渡す……なんてことを言ってた。
なんと言うか……あんまり追い詰めると、爆発するタイプっぽいので、程々に……とは言っておいたけど。
レイン司教は、イザリオ司教が神学校教官だった頃の教え子の一人って事で、まんざら知らない仲でもないそうなので、お任せすることにした。
なお、月の萌え絵については、もう誤魔化しようがないので、女神の奇跡だと言い張るつもりらしい。
ちなみに、紋次郎君いわく、モデルはテンチョーなんだとか。
ふふふ、まいったね。
テンチョー、とうとうこの世界の月の模様になっちゃったよ……。
きっと、1000年先の世の中でも、おもしろワールド誕生の発端となった最強の女神の使徒として、神話のように語り継がれるのだろう……。
猫耳は世界を救うっ! まぁ、そう考えて良いんじゃないかなぁ……。
これにて、一件落着! めでたしーめでたしーだ。
もっとも、レイン司教派のテロリスト神父が身柄奪還に動いてるようなので、その点だけは予断は許されない。
現在、ウォルフ族の夜間戦闘部隊がゼロワン達と組んで、広域探索を実施中。
案の定、不審人物の発見と交戦の報告が次々届いてる。
それと、僕らが留守をしてる間の出来事として、黒塗りの国籍不明の飛行船とゼロワンが空中戦を行い飛行船を撃墜した……なんて、報告もあった。
この世界に飛行船なんてものがあったなんて、驚きなのだけど……レイン司教がその話を耳にして、露骨に動揺してたので、どうも関係者っぽかった。
乗員は、奇跡的に無事だったので、地上部隊を墜落現場に派遣して、現地で治療後、拘束、連行するとの事だった。
空を自在に飛ぶ飛行船とか、まともにやりあったら、かなり厄介な相手だったんだろうけど。
対空ミサイル装備の空戦ドローンの相手になる訳がない。
相手も魔法攻撃とか、弓矢なんかで反撃してきたらしいけど、ゼロワンには日本側が試作した対魔術装甲とやらが装備されていて、一方的に蜂の巣にして、トドメにミサイルブチ込んで、あっけなく撃墜したらしかった。
ひっでぇオーバーキル……。
なんだか知らん間に日々アップグレードしてるんだよな……ゼロワン達って。
対魔術装甲なんて、どう考えてもこっちの魔術師との戦いを意識してるって事だよなぁ……。
以前は、大したもんじゃないって認識だったみたいだけど。
多分、アージュさんのチート魔術を目の当たりにして、魔術の脅威を思い知って対策を用意した……そんなところだろう。
おまけに、案の定容赦ってもんが無かった……。
最初、ラドクリフさん達にも、訳の判らん飛行船が領空侵犯してたから、撃ち落としましたとかしれっと事後報告してきたらしい。
一応、警告とかしたらしいんだけど、相手からは返事の代わりにファイアボールが飛んできたらしく、それを以って宣戦布告と判断したそうな。
ただ、状況的に考えるとシュバイク派テロリスト達の移動拠点か何かっぽい。
それを撃墜した以上は、指導者なども失った可能性が高く、もはや組織的な抵抗もできないと見てよかった。
ゼロワン……ファインプレイ。
シュバイク派の逆襲は密かに懸念していたのだけど、この調子だと、各個撃破で処理できそうな様子だった。
いつの時代も狂信者やら、テロリストってのは扱いに困るものなのだけど……ほっとく訳にもいかない。
もっとも、テロリストなんぞに人権なんぞ無いと僕も思ってる。
可能な限り生け捕りにする様、厳命はしてるものの、危うくなったら、容赦はするなとも各員に命じてある。
もっとも、割と先手必勝で見も蓋もなく無力化してるそうで、相手も分散潜伏したのが仇になって、各個撃破の掃討戦になってるようだった。
まぁ、時間の問題ってところだ。
紋次郎くんには、すっかりお世話になったので、温泉でゆっくりしてきてと言ってから、コンビニ前で涼んでたミャウ族の子達がいたので、お金握らせて、温泉行って汗流してくるように言い含めておいた。
彼女たちはサービス精神旺盛なので、温泉とか水浴びで誰かと一緒になると、嬉々として背中流してくれたりするのだ。
リアル猫耳合法ロリっ子と混浴状態で、背中を流してもらえるとか、彼にとっては素晴らしい接待となる……まぁ、そう言うことだ。
別に、エッチな接待をしろとか一言も言ってないから、何の問題もない。
お金もコンビニ前のお掃除とかしてくれてたみたいだったから、そのご褒美だ。
ちらっと様子見に行ったら、紋次郎先生……合法ロリ娘達との混浴状態になりながらも、隅っこの方で鼻と目だけお湯から出した、ワニみたいなカッコで、彼女たちの裸体へ熱い視線を送っていた……どうも、それで満足してるっぽかった。
さすがは、ヘタレな変態さんだ……。
目があったら、サムズアップとかやってたので、どうやら僕はいい仕事をしたらしい。
残る問題は……精神的にフルボッコにしてしまったサトルくんなんだが。
正直、どうしよう……こいつ。
とりあえず、食堂につれてきたのは良いものの……どう切り出すべきか、考えあぐねているところだった。
「……サトル君、とりあえず、君も一杯飲むかい?」
そう言って、缶ビールを差し出す。
喉乾いたから、一杯やるかって思って、食堂の冷蔵庫から失敬してきたんだけど、自分だけ飲むとかなんだったから、勧めてみた。
サトル君も憑き物が取れたような感じで、キョトンとすると缶ビールを受け取って一口。
相変わらず、髪の毛は真っ白なので雰囲気的には、もう別人。
どうかな……と思っていると、死んだ魚みたいだった目に光が戻ってきて、その表情が和らぐのが解った。
「どうよ? 元日本人なら、この味、懐かしいんじゃないかな……?」
「あ、ああ……確かに、美味いな。久しぶりにビールなんて飲んだ。これは……まさか! に、日本のビールなのか……。確かに懐かしいな……。昔、良く飲んでたんだ……うん、この味だ! ああ……すっかり忘れてた」
久方ぶりの故郷の味……琴線に触れるものがあったようで、噛みしめるようにビールを飲むと、しきりに目をこすってる。
まぁ、見てみないふりをするってのが、大人の対応だよな。
「そそ、日本製の直輸入、飲み屋定番の赤ラベル……なんだかんだで、これが一番美味いし、こっちでも一番人気なんだ」
「そうか、やっぱりか……僕も昔、会社帰りに一杯とかやるのが、楽しみでね。ああ、懐かしいなぁ……この味。やたら気に入ってて、いつも、こればっかり飲んでたんだよな……」
そう言って、俯くと静かに肩を震わせるサトルくん。
さっきまでのクレイジーさが嘘みたいに大人しくなってる……。
なんとなく、彼のこれまでの生き様みたいなのが垣間見えたような気がした。
訳も分からず、異世界に転移して、一人使命に忠実に生きてきて、人外の身体で血みどろの戦いの日々を送り……。
挙げ句、彼は女神から見捨てられたと言う、現実を突き付けられて、何もかも失ったのだ……すべてを否定されて……。
「……」
無言で、肩を軽く叩いてやると、ビールの残りを手近にあったコップに注いでやる。
「なぁ、高倉……さん……。僕の……やってきた事は、なんだったんだろう?」
力なく呟くサトル君。
そりゃショックだろう。
あれから、紋次郎くんが直接、女神様に問い合わせてくれて、彼の使命について、僕も知ることになったのだけど。
帝国のスライムを狩るための存在。
女神の気まぐれで生まれてしまった異世界のガン……スライム大帝を消せる可能性を追求した実験的な使徒。
それが彼……と言うことだった。
要するに体のいいモルモット……。
結果的に彼の力では、スライム大帝の配下、レベル4にも苦戦した上に、レベル5とか言う最上位種に返り討ちに合う始末……この辺が限界かと言うことで、女神様もそれっきり彼に対する興味を失って、そんな事、すっかり忘れてたって言うから、酷い話だった。
要らないことばっかりする上に、とにかく気まぐれなポンコツ駄女神様。
彼もその犠牲者……そう言うことだった。
そんな駄女神様が作った世界なんて、結局どう転んでもおもしろワールドになるのは、避けられないのではないか?
……そんな風に僕も思うのだ……。
特に、そこに浮かんでる月ッ! どうすんだよっ! これ……。
こんなんが背景に入っちゃったら、どんなカッコいい英雄譚の1シーンとかでも、台無しだっつの!
もう駄目だな……この世界は戦乱続く修羅の国から、笑顔と笑いの絶えないおもしろワールドに生まれ変わったのだ。
けど、シリアス一辺倒で生きてきた彼にとって、真実を知った今、この世界は一体どんな風に見えているのだろうか?
……いかん、掛ける言葉が見つからないぞ。
いたたまれない……あまりに酷過ぎて、まじで、いたたまれない。
誰が悪いっちゃ訳じゃないけど、お気の毒すぎる……。
強いて言えば、女神様が悪い……アンタ鬼かよって心底思うのだけど……。
相手が悪い……どうしょうもない。
ああ、僕、もう帰りたぁい……。
他の連中も空気を読んだのか、いつもは頼んでも居ないのに、タダ酒飲ませろと、たかりに来るくせに、今日に限っては、付き合い酒すらしてくれなかった。
いっそ、和歌子さんでもいればなーと思うんだけど、今日はどこか他の時空を回ってるみたいで、連絡がつかなかった。
サントスさんもいつも厨房で寝泊まりするくらいの勢いの食堂のヌシなのに、適当にツマミを軽く用意すると早々にどっか行った……逃げやがった……あのヒゲ!
気持ちはわかる……このサトル君の放つ負のオーラ。
……こんな場に長居とかしたくもない。
かと言って、放置するとか、曲がりなりにも不法滞在ってことで連行してきた以上、ありえない。
どうしてくれようぞ? これ。
悩んだ末にまぁ、ちょっと酒でも飲もうぜと……相成った。
結局、いつものパターンなんだけど、もういい……こうなったら、いつもどおりやるだけだ!




